第二百四十八話 難民問題の解決に向けて
「ユーティア、少し遅くなったけれど婚約指輪を受け取っては貰えないだろうか?」
俺はユーティアの前に跪くと、ユーティアは突然の出来事に多少驚きつつも、頬を赤くしながら恥ずかしそうにして、ゆっくりと手を差し伸べてくれた。
皆が見ている前なので俺も非常に恥ずかしいが、ここは男らしく真剣にユーティアの瞳を見つめながら、ユーティアが差し伸べた手を取り指輪を婚約指輪をはめてあげた…。
「ありがとう、嬉しいです!」
ユーティアは俺を抱きしめ、俺にぎりぎり聞こえるくらいの小さな声でささやいて来た。
「エルレイ、エルミーヌの婚約指輪もあるのですよね?」
「うん…」
俺がユーティアの問いに答えると、ユーティアはさらに強く俺を抱きしめてくれた。
ユーティアにとって、エルミーヌはとても大切な存在だと言う事が良く分かった。
いや、ユーティアだけではないな…ルリア、リリー、ヘルミーネも自身に仕えるメイドを大切にしている。
身の回りのお世話だけではなく、心の支えにもなっているのだなと思った…。
ロレーナはその事が分かっていたから、エルミーヌの婚約指輪も買うように言ってくれたのか。
ロレーナには後で感謝を伝えなければならないが、今はエルミーヌに婚約指輪を渡すのが先だ。
ユーティアは安心した表情を浮かべながら俺から離れて行ったので、俺はそのままエルミーヌの前に行って跪いた。
「エルミーヌ、僕の事が嫌いでは無かったら、婚約指輪を受け取っては貰えないだろうか?」
エルミーヌは男性が苦手だとユーティアから教えられていたので、移動するとき以外は出来る限り接触しないよう心掛けて来た。
一緒のベッドで寝る際も手を繋ぐのを我慢したくらいだ。
だから、もしかして婚約指輪を受け取っては貰えないのかもと思っていた。
しかしエルミーヌは、一度ユーティアに視線を向けた後に手を差し伸べてくれた。
俺はエルミーヌの手を出来る限り優しく握り、婚約指輪をはめてあげた…。
「エルレイ様、よろしくお願いします」
「うん、エルミーヌの嫌だと思う事はしたくないので、嫌な事は遠慮無く言ってくれくれて構わないからな」
「はい、分かりました」
エルミーヌは、にこやかに微笑みながら頷いてくれた。
しかし、俺に対して本当に嫌な事を言ってくれるかは分からない。
後で、ユーティアからもエルミーヌに対して、嫌な事があれば遠慮無く言うようにと、お願いした方が良いのかもしれないな…。
二人に婚約指輪を贈った事で、皆が二人を祝福してくれていた。
俺はその幸せな光景を見ながら、皆の笑顔を無くさない様にしなくてはと思った…。
しかし現実は、笑顔を浮かべられている状況とは違っている。
難民の数は二万人を超えていて、なおも増え続けている…。
村も三カ所目を整備中で、四カ所目は隣のインラット男爵領に作らないといけない状況だ。
皆も作業は慣れてきて、かなり早めに村の整備を出来るようになってきているが、いつ終わるかも知れない作業にうんざりしていた…。
ヘルミーネが飽きたと文句を言うのも仕方ない事だと思う。
しかし、冬にテント生活をさせる訳にもいかず、家を作るのを止める訳にはいかない。
こうした忙しい日々を送っている所に、アドルフが国王陛下から呼び出しがあったと伝えられた。
国王からの呼び出しなら行かない訳にはいかないが、この忙しい時に呼び出されれば苛立ちを覚えても仕方が無いだろう。
要件を手紙で寄こして欲しいと思ったほどだ…。
「エルレイ、私も着いて行くわ!」
俺が城に行こうとしていると、ルリアが着いて来ると言って来た。
ルリアには、俺がいない間の守りをお願いしたかったのだが…。
「わ、私とソルが守っているから、あ、安心して行って来るのじゃ!」
ロレーナがルリアの代わりに皆を守ってくれると言う事なので、俺はルリアを連れて城に行く事にした。
俺一人で行っても良かったのだが、断る理由も無いんだよな…。
国王の前に出るのに、ルリアを同席させてはいけないと言う事は無いだろう。
一応その辺りは、城に行く途中で合流したラノフェリア公爵に確認したが問題無いと言う事だった。
俺とラノフェリア公爵とルリアは、城の謁見の間へとやって来た。
謁見の間には多くの貴族や役人達が横に並んでいて、ざわざわと騒々しかった。
聞こえてくる話の内容は、隣国の戦争についてだな。
分かっていた事ではあるが、今日呼び出されたのもその事についてだろう。
とは言え、国王からラウニスカ王国に攻め込めと言われても、俺は断るつもりだ。
戦争を行えるだけの食料があるのであれば、難民の為に譲ってくれと言いたい!
国王が入室すると近衛騎士が伝えると一斉に静まり返り、俺達は片膝を付いて国王の入室を待った…。
「面を上げよ」
顔を上ると、国王はいつもの優しい表情では無く、眉間にしわを寄せた厳しい表情をしていた…。
「エルレイ、忙しい中呼びつけてすまぬ」
「いいえ、国王陛下がお呼びとあれば、何を差し置いても参らせて頂きます」
「それはとても喜ばしい事だ」
国王は、少しだけ笑顔を見せていた…。
俺の本音としては全く逆だが、国王から爵位を頂いている以上こう答えないといけないよな。
国王は再び厳しい表情に戻り、俺に語り掛けて来た…。
「エルレイ、
話し合った結果、我が王国としてはキュロクバーラ王国に協力しないことを決めた。
しかし、隣国の戦争が長引けば我が王国にも被害を
今現在エルレイの活躍により、ラウニスカ王国からの難民の侵入を抑え込めておる。
だが、それにも限度があるだろう。
エルレイが抑えきれなくなった時点で、難民は我が王国中に広がるのは目に見えておる。
我が王国としては、王国民の安全を優先せねばならず、苦渋の決断をせねばならぬやもしれぬ。
それを回避する方法は、隣国の戦争を早期に終わらせるしかない!
エルレイ、お主にばかり苦労を掛ける事になるが、我が王国の為にキュロクバーラ王国に赴きラウニスカ王国との戦争に終止符をうってきてはくれぬか?」
「…少し考えさせてください」
その場で国王に考える時間を貰い、両隣にいるラノフェリア公爵とルリアに視線を向けた。
「エルレイ君、よく考えて結論を出してくれ。私としては断っても良いと考えている。
キュロクバーラ王国に行く事自体が危険な事だからな」
「エルレイ、私はエルレイの考えに従うわよ!」
ラノフェリア公爵の表情から、本気で俺の心配をしてくれるのだと思う。
ルリアからは、キュロクバーラ王国に協力してラウニスカ王国を叩き潰すと言う気持ちが伝わってくる…。
国王を待たせているので、あまり時間は無いが、しっかりと考えて結論を出したいと思う。
ラノフェリア公爵が言った通り、キュロクバーラ王国で俺が襲われないと言う保証は何もない。
戦争に協力するのだから最初は大事に扱われるかもしれないが、ラウニスカ王国を滅べば用なしとみなされ殺される可能性はあるだろう。
それか、より危険な場所、つまり、ラウニスカ王国の能力者と直接戦うように言われるかもしれない。
ニーナの様に、魔法が使えない能力者だと俺も戦えはするだろう。
逆に、ロゼとリゼの様に、魔法が使える能力者を相手にした場合、俺は
俺はまだ死にたくは無いので、断るのが一番良い事だろう。
しかし、難民が押し寄せてきている現状を打開するには、戦争を早く終わらせる必要がある。
それに、リリー、ロゼ、リゼ、ニーナの事もあるので、俺もルリアと同じようにラウニスカ王国を叩き潰したい気持ちは大きい。
最後に国王が言った「苦渋の決断」も気になっていた…。
あの言葉は、王国民を救うために難民を殺すと言っているのではないだろうか?
国王としては正しい判断なのだろうが、俺としては甘いと言われようとも容認する事はできない。
くそっ!
断ることが出来ないな…。
俺は覚悟を決め、国王に返事をすることにした。
「国王陛下、僕はキュロクバーラ王国に行き、戦争を終わらせてきます!」
「うむ、それでこそ英雄の生まれ変わりよの!私はエルレイを信じておったぞ!」
国王は俺の返事に大変満足したのか、厳しい表情が和らぎ笑顔を見せていた。
戦争に行くと自身で決めたのだから、全力で戦争を終わらせて来ようと思った。
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