第二百四十七話 難民問題 その三

難民達用の村作りは、急ピッチで行われた。

林の木を斬り倒した後は、俺が木を回収して切り株とかはルリアに燃やして貰った。

二日かけて土地を平坦にした後は、丘の土を利用してロゼとヘルミーネに家作りを始めてもらっている。

ヘルミーネも闘技場に飾った竜の石像を作った事で魔法はかなり上達していて、魔力量が少ないのを除けば立派な戦力となっていた。

俺は井戸、下水路、道路の整備を行い、それが終わったら家作りを手伝う予定だ。

アドルフが手配してくれた職人達も到着していて、出来上がった家の内装作業をしてくれている。

そろそろヴィヴィス男爵に頼んで、小さな子供のいる家庭から入居して貰った方が良いのかも知れないな。


作業を始めてから十日ほど経ち、出来上がった家に入居が開始された頃に、ヴィヴィス男爵から悪い知らせが届いて来た…。

「アリクレット侯爵様、別の難民の集団が来ているとの知らせが届きました!」

「やはり来たか…」

難民から聞いた話によると、ラウニスカ王国軍は砦では無く、街や村に籠ってキュロクバーラ王国軍と戦っているとの事だった。

つまり、そこに住んでいる人達を盾に使っていると言う事だ。

キュロクバーラ王国軍は、出来るだけ住民に被害が出ないようにしているらしいが、限界はあるだろう。

危険を感じた住民達は、やむなく他の村や街に避難して行ったが、全員を受け入れて貰う事は出来ずに隣国へと逃げ出したと言う事だ。

キュロクバーラ王国が優勢に戦えば戦うだけ、街や村から逃げ出す住民が増え、俺の領地に難民として逃げ込んで来ると言う事になる。

難民を受け入れるのにも限界があるので、早めに戦争を終わらせて貰いたいものだ。


ヴィヴィス男爵に難民を受け入れるように指示を出し、俺はロレーナを連れてルフトル王国へとやって来ていた。

今の所、一万人くらいまでならこの冬を越せるだけの食料を用意できるとアドルフが言っていた。

その食料も十分な量では無く、飢え死にしない程度の量でしかない。

戦争はまだ続いているため、今後も難民が押し寄せてくると考え、食料が足りなくなる前にルフトル王国から食料を売って貰えないかお願いしに来た。

「ソフィアさん、お久しぶりです。突然押しかけてしまい申し訳ございません」

「エルレイさん、お気になさらず、いつでも来てよろしいのです。ロレーナも元気にしていましたか?」

「う、うむ、元気にしていたのじゃ」

結界の前でソフィアさんに出迎えられ、俺とロレーナは結界内部に入り、中で待ち構えていてキャローネによってお城まで運ばれて行った。

そして、セシリア女王がいる樹の根が張り出している広間へとやって来て、セシリア女王の前で膝を付いた。


「セシリア女王様、急な訪問にも関わらずお会いして頂き感謝申し上げます」

「いいのです。それより今日は私に頼みたいことがあって来たのでしょう?」

セシリア女王は、優しい笑みを浮かべながら俺に尋ねて来た。

こちらの状況は既に把握済みと言う事なのだろう。

「はい、ラウニスカ王国より戦火を逃れた者達が押し寄せてきていて、その人達を救済するべく行動しているのですが、食料が足りずに困っています。

今日お伺いしたのは、余剰の食料がございましたら、売っていただけないかとお願いに来た次第です」

俺は頭を下げてお願いした。

セシリア女王に断られれば、難民を武力によって追い返さなくてはならなくなる。

アドルフが指摘した通り、それでも難民はバラバラになって入ってくるはずだ。

そうなってしまえば、各地に散らばった難民を把握することが出来ずに、当然支援も不可能となる。

難民が各地で住居と仕事を確保できればいいが、それが出来ない者達は犯罪を犯す事になりかねない。

難民を犯罪者にしない為にも食料を売って貰いたい!その想いで頭を下げ続けていた。


「エルレイ、頭を上げてください」

セシリア女王の美しい声を聞き、頭をゆっくりと上げると、相変わらず優しい笑みを浮かべながら俺を見てくれていた。

「エルレイの願い通り、十分な食料を用意いたしましょう」

「ありがとうございます!」

「ただし、この食料はエルレイの為に用意するものであって、決してラウニスカ王国に侵攻する為の食料では無い事を理解してください」

「はい、肝に銘じておきます!」

俺としても、ラウニスカ王国に侵攻するつもりなど無い!

ただ…ポメライム公爵辺りは、この好機を逃さず侵攻しろと言ったりする可能性は否定できない。

しかし、ラウニスカ王国と隣接しているのは俺の領地だし、ソートマス王国軍が動かない限り、貴族だけで侵攻する事は不可能だと思う。

仮にどこかの貴族が動こうとしていたら、俺が止めなくてはセシリア女王を裏切る事になってしまうからな。

俺はその覚悟を決めて、セシリア女王に返事をした。


実際にルフトル王国から売って貰う食料の量は、後日ソフィアさんと話し合って決める事になった。

こちらとしても、どれだけの食料が必要なのか把握できていないし、ルフトル王国側も準備に時間が掛かると言う事だった。

セシリア女王に改めてお礼を言い、ロレーナと共にカミーユに挨拶をしに行った。

カミーユはロレーナと俺を抱きしめながら、帰って来てくれた事を非常に喜んでくれていた…。

やはり、定期的にロレーナを連れ帰ってきてあげるべきだと改めて思った。

俺は直ぐに戻らなくてはならないので、ロレーナだけ置いて帰ろうとしたのだが…。

「わ、私も帰るのじゃ!」

ロレーナが頑なに帰ると主張し、カミーユも俺にロレーナを連れ帰ってくれと言ったので、仕方なくロレーナと帰る事になった。


「ロレーナ、本当に良かったのか?」

「は、母とは長く暮らしていたし…エ、エルレイと一緒にいたいのじゃ!」

「そ、そうか…それはとても嬉しいな」

一緒にいたいと言われては、俺も悪い気はしないな…。

帰りにエルフの町の木工細工店に寄り、ユーティアに贈る指輪を買う事にした。

「エ、エルレイ、二個買わないと駄目なのじゃ、あ、いや、さ、三個じゃ!」

「えっ!?」

ロレーナが言うには、一個目はユーティア、二個目はエルミーヌの分だと言う事だった。

そして三個目だが、まだ名前は教えられないとの事だった…。

非常に気になるが、この場でロレーナを追及する訳にはいかないので、その時が来るのを楽しみに待つ事にしようと思う。

エルミーヌはユーティアの専属だから、ラウラの時と同じ理由なのは理解できた。

エルミーヌにも添い寝して貰っているし、巨乳のエルミーヌが俺の婚約者になってくれるのは非常に嬉しい事だからな!


「ロレーナ、エルミーヌに贈らなければならないのは分かったが、誰か分からない人に贈る指輪を買うことは出来ないぞ」

「そ、そうなのか?」

「うん、指輪は贈る人を想いながら選ばないといけないから、指輪を買っておいて後で好きになった人に渡すとかは出来ない。

ロレーナも、そんな指輪を貰いたくは無いだろう?」

「そ、そうじゃな…」

ロレーナも納得してくれたので、俺はユーティアとエルミーヌの為に指輪を選んで買った。


ルフトル王国から戻り、ルリア達と合流して難民を受け入れる作業に取り掛かった。

数日後、ヴィヴィス男爵から難民の数が新たに五千人と伝えられ、軽く眩暈を覚えた…。

戦争が続けば、難民の数も増えると予想してはいたが…。

このまま戦争が長引くようであれば、更に人数が増えていくのは確実だ。

幸いな事に、ルフトル王国の食料が豊富だと言う事だ。

結界の中の気温は一定に保たれていて、一年中作物が取れると言う事だった。

しかも、精霊魔法で収穫量を増やす事が可能らしい。

ただし、術者の魔力に限界があるから、無限に収穫出来る訳では無いと言う事だった。

それでも、非常に助かってはいる。

食料を買うお金も、ソートマス王国から支援して貰う事が出来たし、何とかやって行けそうではある。

セシリア女王に釘を刺されたが、ラウニスカ王国に攻め込んで一気に戦争を終わらせたいと思わなくもない…。

そんな事はしないが、今は一刻も早く戦争が終わる事を願いつつ、難民を受け入れる為に頑張るだけだ!

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