第二百四十六話 難民問題 その二
「エルレイ様、ヴィヴィス男爵様より難民が三千人強との報告がありました」
「予想より多かったな…」
「はい、難民は一か所にまとめているとの事です」
「分かった。俺は現地に向かい、難民を受け入れる場所と家を作りに行く。
アドルフは食料の搬送と職人の手配を頼む」
「承知しました。護衛はトリステン達に準備させておりますので、一緒に連れて行ってください」
「分かった」
俺だけなら護衛は要らなかったのだが、ルリア達も連れて行く事になっているので必要だ。
ラウニスカ王国からの難民の中に、能力者が紛れ込んでいないとも限らない。
だから、ルリア達を連れて行きたくはなかったのだが、日替わりで誰かが俺の側に付いているから、隠し事が出来なくなっているんだよな…。
今日はユーティアが俺の側にいてくれているが、ユーティアは基本的に自室でしか話をしないので静かなだけだ。
俺は一度自室に戻り、ルリア達に集まって貰った。
「今からヴィヴィス男爵領に向かい、難民を受け入れる為の場所と家を作る事になる。
難民の数が三千人を超えていると言う事なので、かなりの日数を要するだろう。
そこで、皆には協力して貰う事になるが、アルティナ姉さんとユーティアは留守番をお願いする」
「お姉ちゃんも着いて行きたいけれど、邪魔になりたくないから大人しくしておくね」
「分かりました」
アルティナ姉さんの使う魔法はリアネ城に来てからかなり上達して来ていて、戦力として数えられるくらいにはなっている。
でも、アルティナ姉さんは戦うのが苦手だし、外出するのも好きではない。
無理をさせたくはないので、ユーティアと一緒に留守番をして貰う事にした。
「私は着いて行ってもいいのだな!」
「うん、ヘルミーネには頑張って貰うからな!」
ヘルミーネは連れて行って貰えると知り、おもいっきり喜んでいる。
危険があるかも知れない場所にヘルミーネを連れて行く事には抵抗があるが、今回はヘルミーネにも手伝って貰わない事には厳しいと思ったからだ。
俺はルリア達を連れて玄関へと行き、そこでトリステン達と合流した。
「トリステン、今回はかなり危険かもしれないので十分注意しておいてくれ」
「分かってます。ニーナも連れて行きますので、お嬢様方は何としてもお守りします」
「任せるさね」
「うん、それはお願いしたいが、ニーナも無理をする必要は無いからな。
ロゼとリゼもいるのだから、三人で協力して事に当たってくれ」
「了解さね」
三人には能力を使わせたくは無いが、相手に能力者がいた場合は使わせない訳にはいかない。
禁止しては殺される事になってしまうからな…。
トリステンとしては、ニーナを連れては行きたくはなかったはずだ。
もし能力者がいた場合は、ニーナの事も全力で守ってやらなくてはならないな。
トリステン達を先にヴィヴィス男爵家の屋敷の前へと連れて行き、その後にルリア達を連れて行った。
「ようこそお越しくださいました!」
俺達が到着すると、屋敷の中から執事が慌てて飛び出して来て、俺達を屋敷の中に案内してくれた。
応接室に案内されると、そこには既にヴィヴィス男爵夫妻が待ち構えていて挨拶して来た。
「アリクレット侯爵様、この様な
「あ~うん、そこまで畏まらなくてもいいよ。
それより、状況の説明をお願いする」
「は、はい、お掛け下さい!」
俺を中心として右にルリアとリリーが座り、左にヘルミーネとロレーナが座った。
その後で正面にヴィヴィス男爵夫妻が座った。
うん…ヴィヴィス夫人の揺れる胸に視線を奪われそうになるが、ルリア達が側にいるので見ない様にしなくてはならないな…。
俺達の前に紅茶が出されるのを待ってから、ヴィヴィス男爵がテーブルの上に用意してあった地図を指しながら状況の説明を始めてくれた。
「現在難民は、村から少し離れた平原にテントを張り、そこで生活しております。
最初は三千人強いたのですが、今は二千五百人程度に減っています。
減った者達は領民になる事を拒み、ラウニスカ王国へと戻って行きました。
難民の監視は軍の方で行って頂いており、今の所大人しく従っています。
難民には私の所から食料提供をしておりますが、長くは持たない状況です。
以上となります」
「そうか、食料は二、三日中に届くはずだから安心してくれ」
「はい、ありがとうございます」
ヴィヴィス男爵は食料が届けられると知ると、ほっと息を吐いて安堵した表情を見せていた。
アドルフの方から食料を送るとは伝えていたはずだが、届いていない状況を不安に思っていたのだろう。
送ると言っても、食料と馬車の確保をしなくてはならないので、直ぐには送れなかった。
リアネ城に備蓄している分なら直ぐに送れたのだが、アドルフから領民の為の備蓄ですと言って出さなかったんだよな…。
まぁ、何時災害が起こって必要になるかは分からないのだし、アドルフの言う事は理解出来る。
でも、難民も領民となるのだし、ヴィヴィス男爵を不安にさせない為にも、早く出した方が良かったと思う。
「新な村を作る場所は何処になるか?」
「はい、西側のこの辺りなら山からの川も流れて来ていますし、十分な広さも確保できるかと思います。
ですが、林や丘などもあり…大変だと思われますが…」
「うん、それは何とかするから気にしなくてもいい。
では早速作業に当たりたいと思う。
ヴィヴィス男爵は、危険だから村人達を近づけさせないようにしてくれ。
それから、身寄りのない子供達がいればリアネの街にある孤児院で保護をするので、難民達に説明をしてから連れて来てくれ」
「分かりました!」
ヴィヴィス男爵との話を終え、俺達は屋敷の外に出て行った。
「ルリア達はここで待っていてくれ」
「分かったわ」
俺はリゼを抱きかかえて飛び立ち、新たな村を作る場所へと向かって行った。
リゼを連れて行く必要はなかったのだが、ルリアから一人で行動するなと強く言われているからな…。
それと、リゼを抱きかかえて飛ぶのは俺なりのささやかな抵抗だ。
俺はいまだに、ラウラが作った新しい魔法を教えて貰っていない…。
リゼを抱きかかえて飛ぶのは、リゼの柔らかさと温かさを感じる事が出来るので、俺としては非常に気に入っている。
新しい魔法を教えて貰えれば、リゼを抱きかかえて飛ぶ必要は無くなり寂しくなるが、それでも複数人同時に飛べる魔法は魅力的だ。
それに、その魔法であれば、男を運ぶのにも抵抗が無くなるからな…。
リゼを抱きかかえて飛ぶのは、ルリアが嫉妬してくれて魔法を教えてくれるのではないか?と言う期待もあるが、今の所効果は出ていないみたいだ。
そもそも、ルリアが嫉妬してくれるかも疑問だがな…。
「エルレイ様、あの場所では無いでしょうか?」
「あぁ、そうだな」
考え事をしているうちに、現場上空に到着していたみたいだ。
俺は空き地に下り立ち、その場にリゼを残して、ルリア達と護衛のトリステン達を連れて来た。
「トリステンは周囲の警戒と、誰も近づけさせないように頼む」
「承知しました」
「ルリアとロゼは木の伐採を行ってくれ」
「分かったわ」
「承知しました」
「ロレーナはソルと共に雑草を燃やしてくれ」
「わ、分かったのじゃ」
「ワン」
「ヘルミーネとラウラは暫く待機だ」
「うむ、早く私の出番が来るようにしてくれ!」
「承知しました」
俺は家を取り出し、空いている場所に設置した。
「リリーとリゼは家にいて、疲れた者の介抱や食事の準備を頼む」
「はい、分かりました」
「はい、承知しました」
俺は皆に指示を出した後、土地を平坦にする作業に移った。
今はまだテント生活でも何とか凌げるだろうが、もう少し寒くなって来ると耐えられなくなるはずだ。
そうなる前に、家を用意してあげなくてはならない。
難民が更に増えるようであれば、家を用意するのは間に合わなくなるだろう。
その時は体育館みたいな大きな建物を作って、家を作り終えるまで、そこで生活して貰う様にしなくてはならないだろう。
一日でも早く終わるように頑張らなくてはならないな!
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