第二百四十五話 難民問題 その一

「エル、今日は私が担当だ!」

「う、うん、よろしく…」

武闘大会が終わって落ち着いた頃から、俺の側に日替わりでルリア達が一日中付き添ってくれる事になっていた。

「エルレイ、私達も色々な事を勉強しておいて、エルレイが出かけている時にエルレイの代わりを務められるくらいにはなっておきたいわ!」

ルリア達の気持ちは非常に嬉しく思うが、ルリア達も別に毎日遊んで暮らしている訳では無いので無理する必要はないと思ったのだが…。

それは、日替わりだから問題無いらしい…。

一日中と言う事で、執務室の俺の隣に新しくルリア達用の机が一個設置され、その机で俺の仕事を覚えながら手伝ってくれる。


ルリアは真面目に俺の仕事を手伝ってくれた。

まだ始めたばかりで分からない所を質問して来る事が多く、俺の作業が止まってしまう事もあるが、真面目に手伝ってくれているので非常にありがたい。

ルリアは頭がいいので、直ぐに俺の代わりになるくらいには仕事が出来るようになると思う。


リリーとロレーナは計算が苦手らしく、椅子を俺の隣に持って来て座り、俺の仕事を横で眺めているだけだった。

たまに気になる書類を見かけたときに質問して来るくらいで、大人しくしてくれているから仕事の邪魔にはならない。

むしろ、二人が横にいるだけで頑張らないと言う気持ちになり、仕事がはかどる程だ。


アルティナ姉さんも、俺の横に椅子を持って来て座っているのだが…。

リリーとロレーナとは違い、俺に体をくっつけて甘えて来るので仕事の邪魔だ…。

しかし、無理に離そうとすると機嫌が悪くなるので、諦めてそのまま仕事をするしかない。


ユーティアは机の椅子に座って書き物をしていたので、気になって覗こうとしたら、腕で隠された上に睨まれてしまった。

最初から俺の仕事の手伝いでは無く、自分の仕事をしていたと言う事だ。

ユーティアの仕事は大変なので、俺の仕事よりそっちの方を優先して貰った方がいいのだが、俺の隣でやる必要はないだろうと思ったが黙っておく。


そして、今日俺の傍にいるのはヘルミーネで、ラウラが用意した紅茶とお菓子を美味しそうに食べながら俺に話しかけて来ている…。

正直に言って邪魔だ…。

しかし、他を受け入れたためヘルミーネだけ追い出す訳にはいかない。

執務室には他にも沢山働いている者達がいるので、邪魔にならないように俺は仕事を途中で止めて、ヘルミーナと共に執務室から出て行った。

ヘルミーネと魔法の訓練や話をしながら過ごした一日は楽しく、気分転換になったのは間違い無いが、仕事が残っている事を考えると微妙だな…。


俺の周りは平和な日々が続いていたのだが、お隣の戦争は激しさを増している。

戦況は、攻め込んだキュロクバーラ王国が優勢に進めており、ラウニスカ王国は劣勢を強いられている状況だと、ラノフェリア公爵側から知らされて来ている。

俺の領地とはまだ遠い場所での戦闘だし、キュロクバーラ王国がラウニスカ王国の王都を陥落させれば、直接的な被害はないだろうと予想している。

ただし、ラウニスカ王国の王都を守る軍は能力者で構成されていて、キュロクバーラ王国も簡単には落とせないだろうと言う話だった。


お隣の戦争が始まってから二か月が過ぎた頃、国境を守っているソートマス王国軍から難民が押し寄せて来ていると連絡が届いた。

「エルレイ様、どの様に致しますか?」

アドルフが俺に難民に対する対応を求めて来ている。

対応を求められても、俺にもどうしたらいいのか分かるはずもない…。


「軍に追い返して貰う事は出来ないのか?」

「難民が武装していれば、それも可能でしょうが、非武装の難民を軍で追い返すのは難しいと思われます。

仮に追い返せたとしても難民には行き場が無く、再びこちらを目指してくるでしょう。

その際には、ばらばらに入って来る事が予想され、難民の把握が難しくなると思います」

「なるほど、難民がお金を持っていればいいが、そうでは無かったら犯罪を犯す可能性があるか…」

「はい…」

難民は受け入れるしか無いみたいだ…。

しかし、受け入れるとしてもあまり余裕が無いのも事実。

俺が土地を切り開いて家を作り、住む場所を提供する事は可能だろう。

スラム街の件もあったし、俺が作った家の内装作業をしてくれる職人たちも慣れているだろうからな。

しかし、食料が問題だ。

数千人程度なら受け入れ可能だが、戦争が悪化し、難民の数が増え続けて行けば食料が足りなくなっていくだろう。


「アドルフ、ソートマス王国から食糧支援を受けられるか?」

「可能でしょうが、多くは望めないかと思われます」

「そうか…」

ラノフェリア公爵からも食料援助して貰っているので、これ以上望む事は難しいのだろう。

お金はあるから、何処からか購入する事は可能だ。

売ってくれる所があればの話だがな…。

「エ、エルレイ、しょ、食料が足りのじゃな?」

「うん、そうだけれど?」

俺の隣で話を聞いていたロレーナが遠慮がちに聞いて来た。

「た、たぶんじゃが、セ、セシリア女王様なら何とかしてくれると思うのじゃ!」

「それは助かるが、ルフトル王国は食料に余裕があったりするのだろうか?」

「き、聞いて見ない事には分からないのじゃ…」

「あ~うん、まだ難民の数も分かってないので、どれくらい食料が足りないかも不明だ。

だから、必要な量が分かってから聞いて貰えるかな?」

「う、うむ、わ、分かったのじゃ」

俺は意見を言ってくれたロレーナの頭を撫でてあげた…。


「アドルフ、難民は受け入れる方向で考える事にしようと思う」

「畏まりました」

「それと、ロレーナ。食料がどうしても足りない事態になりそうなら、俺がセシリア女王様にお願しに行こうと思う。

その時は一緒に着いて来てくれると助かる」

「わ、分かったのじゃ!」

ロレーナに聞いて貰えれば楽だと考えて発言したが、やはり、セシリア女王には俺が直接行って食料を売って貰えるように頼むのが筋だろう。

それに、ロレーナの母カミーユの所に行って、ロレーナが元気に暮らしている事を報告しなくてはならない。

ロレーナが俺の所で上手くやって行けているか心配しているだろうし、丁度いい機会だったと言えるだろう。

まずは難民の数を正確に把握し、食料がどのくらい必要なのかをしっかり確認しなくてはならないな。


「エルレイ様、難民はどの様な形で受け入れるのでしょうか?」

「どの様な形とは?」

「はい、領民として受け入れるのか、それとも、戦争が終わるまでの一時的な物にするのかと言う事です」

「それは難民が決める事では無いのか?」

「いいえ、受け入れる際にしっかりと伝えて置かなくては、後で問題になります」

「そうなのか…」

俺は戦争が終われば、難民は元の場所に帰って行くものだと思っていたが、領民として受け入れる選択肢もあるのか…。

領民として受け入れた場合、仕事も与えなくてはならないだろう。

しかし、働いて貰った分は、将来的に俺に帰って来る事になる。

戦後に帰ららた場合は、単に犯罪抑止の為に食料を無料で配っただけになる。


「アドルフ、戦後に難民を受け入れた賠償を請求する事は可能なのだろうか?」

「難しいかと思われます。

仮に、賠償を請求したとしても支払ってくれるかは分かりませんし、その事が原因で戦争に発展する可能性もあります」

「それは避けたい所だな…」

「はい、ですので、難民は領民になる事を条件にして受け入れる事をお勧めします」

「分かった。その様にしよう」

「承知しました。ヴィヴィス男爵にその様にお伝えします」

「頼んだ」

ヴィヴィス男爵家は、ラウニスカ王国との国境沿いの領地を治める貴族で、以前の父と同じような感じだ。

ラウニスカ王国との戦争になれば、真っ先に攻め込まれる危険な領地を任せられるだけあって責任感の強い貴族だと、アドルフから教えられていた。

俺もヴィヴィス男爵とは武闘大会の時に会っているが、その時は連れていたヴィヴィス男爵の妻に目を奪われてしまっていて本人の事はよく覚えていない…。

周囲の貴族達も、ヴィヴィス男爵の妻の巨乳に目を奪われていたからな…。

そのお陰で、ヴィヴィス男爵の名前はしっかりと覚えていた。

俺は難民の数が分かり次第、現地に向かって対応する事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る