第二百四十四話 婚約者会議 その二

≪エルミーヌ視点≫

「ルリア、もう一人いるのよ…」

私が皆様からエルレイ様の愛人として認められ、ルリア様が次の話題に移ろうとしていた時、アルティナ様が困った表情をしながら発言しました。

「それは誰なのかしら?」

「ルリアも知っていると思うけれど、エルレイが助けた中にいたマリーと言う子よ」

「あぁ…あれは失敗だったわね…。リリーに治療させるべきだったと後悔しているわ…」

ルリア様は顔をしかめながら、ため息を吐いていました。

エルレイ様が孤児を助けられたと言う話は聞いておりますし、その子達がリアネ城で働いている姿を毎日のように見ています。

ユーティア様に助けられたのとは比べ物にならないかもしれませんが、私がユーティア様に向ける感情と似たような物をあの子達に感じます。

だから私が気付けた…いいえ、女性であれば誰でも気付くはずです。

マリーと言う女の子が、エルレイ様に恋心を抱いているのは…。

ルリア様もお気付きになっていたはずですが、わざと気付かないふりをしていたのでしょう。


「それで、マリーをどうするかよね?」

「えぇ、正式採用されたら話をしようと思ったのだけれど、ロレーナの専属メイドにして様子を見るのはどうかしら?」

「わ、わ、私にメイドなど、ふ、不要なのじゃ!」

「そうは言っても、ドレスを着るのも化粧も一人では出来ないでしょう?」

「そ、そ、それは…が、がんばっておるのじゃが…」

「それに、ルフトル王国の王女様にメイドが付いていないのは、色々と不味いと思うのよね…」

「それもそうね…。

分かったわ。マリーが正式採用されたらロレーナの専属メイドにするわ!

カリナもそれでいいわよね?」

「はい、承知しました」

ルリア様とカリナさんが了承した事で、マリーがロレーナ様のメイドになる事が決定しました。

「これ以外はいないわよね?」

全員が頷いたところで、ルリア様は次の話題に切り替えました。


「今後は、何処に行くにしてもエルレイを一人にさせない様にしたいと思っているわ!」

「ルリア、今までもそうでしたのでは?」

「いいえ、お父様に会いに行く時や、ミエリヴァラ・アノス城に行く時など、エルレイが一人で行く事もあったわ。

それを今後は無くしていこうと言う事よ!」

ルリア様の仰りたい事はよく分かりました。

私は王城に行った事はありませんが、貴族が集まる場所と言うのはお見合いの場でもあるのです。

貴族の方々は普段は領地で忙しく働いておりますので、他の方と会う機会が少ないのです。

私の父も王城に出かける際に、婚約者の決まっていない私の姉達を連れて行っていました。


「そうね…王城に私が着いて行っても意味が無いでしょうから、着いて行くならヘルミーネが一番いいのでしょうけれど…」

「むっ、私は嫌だぞ!」

「えぇ、ヘルミーネに着いて行けとは言わないわ!

私が着いて行く事になると思うけれど、私が行けない場合はリリーかユーティアにお願いするわ」

「ルリア、私では断ることは出来ないと思いますけれど…」

「リリーはエルレイの側にいてくれるだけでいいわ!」

「それならできますが…」

リリー様が側にいるだけで、エルレイ様の抑止になるのは間違いありません。

エルレイ様は女好きであると同時に、皆様の事を一番大事にしておりますので、皆様の前で他の女性に手を出すような事はなさらないはずです。

そう言った意味では、ルリア様の提案したようにエルレイ様をお一人にさせなければ、婚約者が増える事にはならないのかもしれません。


「ルリア、エルレイがリアネ城のいる時は、私が一日中付き添ってもいいって事よね?」

「むっ、アルティナ、それはずるいぞ!」

「そ、その通り、わ、私もエルレイの側にいたいのじゃ!」

アルティナ様、ヘルミーネ様、ロレーナ様が言い争いを始めてしまいました…。

リリー様が止めに入りましたが、三対一では敵うはずもありません。

「そこまでよ!ちゃんと日替わりにしてるから喧嘩は止めなさい!」

ですが、ルリア様の一言で三人は静まり返りました…。

この中で、一番怒らせてはいけないのがルリア様ですから…。

ユーティア様も、ルリア様を怒らせない様にと気を使っているほどです。

立場的にはルリア様より、ヘルミーネ様、ロレーナ様、ユーティア様の方が上になるのですが、魔法も剣術もエルレイ様の次に優れていますので誰も逆らえません。

勝てない相手と喧嘩する愚かな人は、この中にいません…。

「エルレイの付き添いは、日替わりで良いわね?」

皆様も同意され、エルレイ様の付き添いは日替わりでする事が決定しました。


「エルレイに関しての話はこれで終わりよ!

最後に魔法に関してだけれど、ユーティア姉様とエルミーヌ!」

「なんでしょう?」

「はい!」

「忙しいのは分かりますが、自分の身を守れる程度には魔法を使えるようになって頂戴」

「努力します…」

「はい、頑張ります!」

ルリア様に言われて、ユーティア様は渋々返事をなさっていました。

ユーティア様と私は、ルリア様が見ていない所でアルティナ様に教えて貰いながら魔法の訓練を続けています。

アルティナ様は、ルリア様とリリー様に教わった方が早いと言ってくれるのですが…。

「妹から教わるのって、なんだか恥ずかしと思いません?」

「気持ちは良く分かるけれど…」

ユーティア様も皆様と同じように、魔法を自由に使いたいのです。

姉として、妹にいい所だけ見せたいのだと言う気持ちが、魔法の上達を妨げているのです…。

ユーティア様を守る私としては、魔法の上達を急ぐ必要があります。

なんとかユーティア様を説得して、ルリア様とリリー様から魔法を教えて貰うようにしなくてはなりません。


「他に何かあるかしら?」

ルリア様が皆様に意見を聞いて来ました。

リリー様とアルティナ様は、話す事があるかと考えている様子です。

ヘルミーネ様は話が終わったのならと、お菓子を食べ始めています。

ロレーナ様は、精霊のソルにお菓子を上げています…。

ソルは、私もたまに撫でさせてもらいますが、とても愛らしいです。

出来れば私にも、愛らしい精霊が欲しいと思う程です…。


「ルリアには、私からも話があります」

私がソルの愛らしい仕草に見惚れていると、ユーティア様がルリア様に意見を言っていました。

私は慌てて正面を向き、姿勢を正します!

「なにかしら?」

「ルリアは、いつになったらエルレイとキスをしてくれるのですか?」

「なっ!そ、それは、あ、あ、あ、あれよ!」

ルリア様は顔を真っ赤にされて慌て始めました…。


「そうよね。ルリアがいつまでもエルレイとキスをしてくれないから、私達も出来ないでいるのよ」

「そ、そ、その通りじゃ!」

「うむ、キスは甘いと言うしな!私もエルレイとキスがしたいぞ!」

「ルリア…あの…私もエルレイさんとキスがしたいです…」

皆様も女の子ですから、エルレイ様とキスしたくてたまらないみたいです。

ユーティア様は、お茶会などでもそのような話題がよく出ますし、興味がわかないはずもありません。

エルレイ様の婚約者になったのですから、キスくらいしていて当然だと、お茶会に集まった皆様からも言われています…。

婚前に子供を作ってしまうと周囲から非難を受けてしまう事になりますが、キスくらいは皆さんやっているみたいです。

と言うより、婚約者になったのですから、今の内から相手の心をしっかりとつかんでおく必要があると考えて行っているみたいです。

エルレイ様の様に、婚約した時点で一緒に生活する事はほとんどありませんので、他の方との状況は違うのですが…。

いいえ、身近にいて婚約者も多いですので、少しでもエルレイ様の心が自分の方に向けて貰おうと皆様必死なのだと思います。

ただし…皆様はとても仲がいいですので、我慢しているだけの事です。

それに、エルレイ様が何をするにしてもルリア様を優先しております。

エルレイ様がルリア様を一番愛している…かは分かりませんが、婚約者になった順番を非常に気にしております。

ユーティア様はその事に対して不満を持っている訳では無く、むしろ好意的にとらえています。

エルレイ様が順番を気にされていなかったとしたら、皆様の仲は悪くなっていたと思います。


「あれってなによ?」

「あれは…あれよ!そう、雰囲気!初めてするのだから、雰囲気は重要よね!」

「それは分かるけれど…ルリアとエルレイの雰囲気が良くなる事ってあるの?」

「あるわよ!多分…」

ルリア様とアルティナ様のやり取りを聞いて、皆様意気消沈してしまいました…。

ルリア様もあまり自信がないみたいです…。


「ルリアの気持ちは分かります。ですが、皆待っているのですから、出来る限り努力してください」

「分かったわ…」

ユーティア様がルリア様に釘を刺して、会議は終わりました。

ルリア様がエルレイ様とキスが出来るのかは、私には分かりません…。

ですが、私もエルレイ様の愛人になったのです…。

男性が苦手なのは治っていませんが、エルレイ様と移動の際に手を繋いでも嫌な感じはしません。

エルレイ様と添い寝した時なんかは、むしろ安心して熟睡できるほどです…。

エルレイ様とキスできれば、私の苦手意識も克服できるのでしょうか?

私も少しだけ興味が湧いてきた気がします…。

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