第二百四十三話 婚約者会議 その一
祝賀会は非常に好評だったと、アドルフとカリナとトリステンから報告を受けた。
と言うのも、俺とルリア達は挨拶をした後、すぐに退出したから祝賀会の様子は見ていない。
貴族の俺達がいては気を使って楽しめないだろうし、闘技場で働いてくれた様々な人達を呼んだので、暗殺者が紛れ込んでいる可能性も無いとは言えなかった。
その心配は杞憂に終わったが、今度同様の事を行う際には、貴族街にある屋敷を使うようにとアドルフに強く言われた…。
使われていない屋敷を有効活用する分には一向にかまわないので、次回からはそうしたいと思う。
貴族街と言えば、闘技場で継続的に働いてくれる者達には、孤児院近くの屋敷を宿泊施設として使わせることにした。
理由は人材確保のための福利厚生だな。
特にキャセラの様な魔法使いや、読み書き計算が出来る人材は貴重なので、他に取られない様にしなくてはならないからな。
これにはアドルフも賛同してくれたし、孤児院の様に改装する必要は無かったので、お金があまりかからなかったのも良かったと思う。
「エルレイ様、キュロクバーラ王国がラウニスカ王国に攻め込んだ模様です」
「そうか、ついに始まってしまったか…」
武闘大会が無事に終わって、ゆっくり出来ると思っていたのにな…。
ソートマス王国軍の一部が国境付近の砦に到着しているので、俺が直接行く必要は今の所は無い。
だが、いつでも駆けつけられるように準備をしておかなくてはならないな。
俺はアドルフと相談しながら、領地を守る為に動く事にした…。
≪エルミーヌ視点≫
「婚約者会議をするわよ!」
ルリア様の指示により、婚約者の皆様がリアネ城の会議室に集められました。
会議室にはルリア様、ユーティア様、リリー様、ヘルミーネ様、ロレーナ様、アルティナ様は勿論の事ですが、ロゼ、リゼ、ラウラ、私まで席に座っていていいのでしょうか?
メイド長のカリナさんとエイリエッタさんが、紅茶とお菓子の準備をしてくれています。
私が座っていて、メイドで一番目と二番目に偉い二人に仕事をさせているのが、非常に心苦しく思います…。
「窓も無い部屋でやらなくともいいだろ!」
「そうよね…いつもみたいにバルコニーにしない?」
「他の人に聞かれたく無いから駄目よ!」
ヘルミーネ様とアルティナ様がルリア様に文句を言っております。
私も飾り気も何もない会議室では、少し息が詰まるような気がします。
「それに、ここならユーティア姉様も遠慮なく話せるわよね?」
「はい、問題ありません」
そうでした。
ユーティア様は他人の秘密を多く握っておりますので、表立った所では話をしません。
ルリア様が言う通り、この場所でならユーティア様も遠慮なく発言出来ていいと思います。
ルリア様のお気遣いに感謝しなくてはなりません。
「では、会議を始めるわよ!」
全員の所に紅茶とお菓子が行き渡った所で、ルリア様が会議を始められました。
当然私の前にも、皆様と同じものが用意されております。
ここに来た頃は抵抗がありましたが、今は抵抗なく紅茶を頂くことが出来ます。
美味しい…エイリエッタさんが淹れる紅茶は最高に美味しいです。
私が淹れる紅茶とは比べ物になりません…。
この紅茶に少しでも近づけるよう、努力をしなくてはなりません。
「皆も知っての通り、キュロクバーラ王国とラウニスカ王国が戦争を始めたわ!
間違いなく、エルレイも巻き込まれる事になると思うわ!」
「ふむ、私達もその戦争に備えて魔法を鍛えておくと言う事だな!」
「わ、私も戦いと言うのなら、ソ、ソルと共に戦うのじゃ!」
「ワン!」
戦争と聞いてヘルミーネ様とロレーナ様、二人の王女様が張り切っていらっしゃいますが、立場上戦争に参加することは出来ないかと思われます…。
「戦争に参加するかどうかは今の所不明だから、魔法の訓練だけしていればいいと思うわ!
でも、今日の話し合いは戦争の事では無いのよ!」
「むっ、そうなのか?」
「えぇ、今日の話し合いは、エルレイの婚約者をこれ以上増やさない為には、どうしたら良いのかと言う事よ!」
ルリア様の発言を受けて、皆様静まり返ってしまいました…。
私もそうですが、エルレイ様の婚約者を増やさないと言うのは無理な事だと理解しているからです…。
発言したルリア様も、そう思っているはず…。
ユーティア様の事を思えば、エルレイ様の婚約者が増えない事は良い事だと思います。
ですが、周囲がそれを許してくれるとは思えません…。
私はユーティア様に付き添いで、お茶会やパーティー等によく行っています。
そこでユーティア様に集まってきた親や本人から、愛人かメイドでも構わないからエルレイ様に紹介してくれと言われています。
ユーティア様も断っていますし、ラノフェリア公爵様も動いてくださっておりますが、ラノフェリア公爵様の力の及ばない方からの申し込みは非常に断り辛くなっているのは間違いありません。
それに加えて、エルレイ様はロレーナ様を婚約者にしたように、王国外からも注目を集めていらっしゃいます。
今回の戦争にエルレイ様が参加なされた場合、ロレーナ様の様に王女様を頂いて来るかも知れません。
ルリア様が阻止しようと動いたところで、どうしようもない事だと思われます…。
「無理なんじゃない?」
「うむ、私も無理だと思うぞ!」
「私もルリアの意見には賛成ですが…厳しいかと思います…」
「わ、私は、家族が増える事には賛成じゃ!」
「ルリア、それは無理」
ロレーナ様以外の意見はまとまっています。
「はぁ~、それは分かっているけれど、まったく努力をしなければ増えすぎると思うのよ…」
「そうね…」
ルリア様の言う通り、努力をしなければ増えすぎるのは目に見えています。
エルレイ様は女性が大好きのようですし、特に私の様な胸が大きな女性には視線を奪われています。
胸が大きな女性から迫られれば、優しいエルレイ様は断れないと思います。
「ルリア、具体的にどうすると言うのです?」
「まず初めに、身内からこれ以上増やさない様にしたいわ!」
「身内と言うと、リアネ城で働くメイドと言う事かしら?」
「そうよ!新しく雇ったメイドには結婚していない人もいるわ。
私が見ている範囲でエルレイが気にしているようなメイドはいないけれど、皆は心当たりがあったりするのかしら?」
ルリア様は私達を見渡していました。
私の知る限りでも、エルレイ様と懇意にしているメイドはいなかったと思います。
「ルリア、エルミーヌがこの席に座っていると言う事は、数に含めていると考えて間違いない?」
「そうよ。エルミーヌ以外にいなければ次の話に移るわ」
「!?」
ユーティア様の発言に驚愕してしまいました!
思わず声を上げてしまいそうになりましたが、何とかこらえることが出来ました…。
どうやら私もエルレイ様の婚約者の一人…いいえ、愛人の一人として数えられていたみたいです。
そんな私を気遣い、ユーティア様が声を掛けてくれました。
「エルミーヌはエルレイと結婚するのは嫌ですか?」
「嫌ではありませんが…ユーティア様はそれでよろしいのでしょうか?」
「エルミーヌとは一生を共にするつもりでしたので、喜ばしいくらいです」
「はい、私も嬉しいです!」
私が父に連れられて行ったパーティーで、年老いた貴族に気に入られ愛人にされそうになった所をユーティア様に助けて貰いました。
エルレイ様の愛人になれるのであれば、私の発言力も多少は良くなるはずです。
ユーティア様をお支えする為に、これから一層頑張って行こうと思いました!
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