第二百四十二話 祝賀会とキャセラ

「エルレイ様、優勝賞金をご返還させて頂きたいのですが…」

「それは以前に断った事だろう?」

「ですが…」

「エルレイ様、私からもお願いいたします」

俺の執務席の前にはカリナとアドルフの二人が立ち、カリナの武闘大会での優勝賞金を俺に返すと言って来ている。

一度目は武闘大会が終わった直後に持ってきたのだが、カリナが戦って得た賞金なので俺は受け取らなかった。

ちなみに、ルリアの準優勝の賞金は、賞金の入った包みごと部屋に飾ってある。

飾るならトロフィーを渡せば良かったなと、後になって思った。

次回からは、トロフィーを渡す事も考えようと思っている所だ。

そして今回が二度目なのだが、アドルフも一緒にお願いして来ている…。

頑なに受け取らないと言えば、アドルフが俺に気付かれない様に返還しそうな気がするんだよな…。

俺としては、カリナが頑張って勝ち取った優勝賞金なので、カリナの好きなように使ってもらいたいと思う。

カリナとしては、一緒に参加した四人の事を気にしているのだろう。

彼女たちも、アドルフが本戦に上がっていて当然だと言っていたし賞金も得ていただろう。


「武闘大会に参加してくれた五人で山分けすると言うのは?」

「参加できなかった者達から不満が出ます」

「そうだな…」

かと言って、メイド全員で分けるのも違うだろうしな…。

「カリナ、本当に不要なのだな?」

「はい、私には不要なお金です」

「僕が自由に使っていいのだな?」

「はい、お願いします」

「分かった。預かる事にしよう」

「「ありがとうございます」」

俺はカリナから優勝賞金を受け取った。

お金を貰って感謝されるのは気持ちが悪いが、カリナとアドルフが心底安堵した表情を見せているので、余程受け取りがたかったのは分かる。

しかし、このお金をどうしよう…。

一番簡単なのは、このお金を使ってカリナに贈り物をする事だろうが、アドルフを差し置いて贈り物をするのは不味い。

それに何か与えようとしても、賞金を受け取らないくらいだから、受け取っては貰えないはずだ。

そうか!

使用人全員の為に使えば、カリナとアドルフも納得してくれるだろう。

でも、直前まで黙っておいた方が良いな…。

時間は限られている事だし、さっそく行動に移す事にした。


そして翌日、アドルフに頼んで朝からリアネ城まで来てもらった商人と会い、俺の要望を伝えた。

「畏まりました。それでは午後に商品を持ってお伺いさせて頂きます」

「よろしく頼む」

さて、俺も午後に向けて準備を進める事にした。


「エルレイ様、これは?」

「カリナ達に、武闘大会の祝賀会で着て貰うために用意したドレスだ」

商人に用意させたのは、メイド達に着て貰うためのドレスだ。

それを、リアネ城の広間に展示して貰っている。

勿論、着用するにはメイド達の寸法に合わせて新しくドレスを作って貰うので、展示したドレスは見本となる。

新しく作ると言っても期間が限られているので、今回は展示してあるドレスと同じデザインとなるが、次の機会には好みのドレスを作って貰おうと思う。

「カリナには悪いが、優勝賞金を使わせて貰う事にした。

なので、交代しながら全員ドレスを選ぶよう指示を出してくれ」

「…承知しました」

カリナは諦めた表情を見せながらも、広間にメイド達を集めてくれた。

メイド達だけドレスで着飾らせても変なので、執事達にもドレスに会う服を別の広間に用意させていた。

アドルフは何か文句を言いたそうな表情をしていたが、黙って俺の指示に従い執事達にも服を選ばせていた。


二週間後、急いで作らせたドレスが届き、少し遅れたが武闘大会の成功を祝う祝賀会を行う事となった。

祝賀会に参加して貰うのは、リアネ城で働く使用人達、警備隊員達、闘技場で運営に関わった様々な人達となる。

警備隊員達を一度に全員呼ぶことは出来ないので、二日間に分けて開催する。

リアネ城の広間は、午後から開かれる祝勝会に向けての準備が進んでいる。

俺の役目は祝勝会での挨拶だけだが、リゼが作って飾る氷像の見学に来ていた。


「エルレイ様、こんな感じでどうでしょうか?」

「駄目だ、作り直し!」

「いいじゃない!リゼ、作り直す必要は無いわ!」

「はい!承知しました!」

俺は駄目だししたのだが、ルリアに止められてしまった…。

リゼが作った氷像は、俺が格好良く剣を振るう姿が再現されていた。

しかしだ…あまりにも美化されすぎていて、俺に全く似てないと思うのだがな…。

リゼも喜んでいるし、恥ずかしいが我慢するしかないみたいだ…。


≪キャセラ視点≫

私は今お城に来ていて、お酒を片手に美味しい料理を食べています…。

どうしてこのような事になったのでしょう…。


私は農家に生まれて、貧乏ながらも精一杯生きて来ました。

私に転機が訪れたのは、私の村に貴族様の使者が訪れ、村の子供達を集めて魔法の適性を調べてくれた時でした。

私は運良く魔法を使う事が出来たので、そのまま貴族様の屋敷に連れて行かれて、魔法使いとしての訓練を受ける事が出来たのです。

しかし、私には魔法使いとしての才能は乏しく、初級魔法しか使う事が出来なかったので、一年も経たずに貴族様の屋敷から追い出されてしまいました。

一度出た貧しい家に帰る気にはなれず、大きな街に行って酒場の従業員として働いていました。

お給料は安いけれど、食事は無料で出して貰えるので満足しています。

お店で働いていると、お客さんからいろんな話が聞けて楽しいです。

今の話題の多くが、近々開催されると言う武闘大会についてです。

お店にも出店の話が来ていましたので、私も無関係ではありません。

店長も出店には前向きで、臨時に従業員を雇うか、武闘大会の間だけ店を閉めて闘技場で営業するか迷っているみたいです。

どちらにしても、私のお給料が増えるのでは無いので聞き流していました。


そんな中、いつもの様にお店に出勤していると、魔法使い募集の立て札を見かけました。

立て札の文字が読めるのは、貴族の屋敷で魔法を覚えるのに必要だと言うので、無理やり読み書きを教えられたからです。

その時は大変でしたが、今は読み書きが出来てよかったと思います。

募集内容は風属性魔法の初級魔法が使える若い女性で、仕事は武闘大会の司会進行役でした。

私が使える属性は風と土ですので大丈夫ですし、若い女性でもあります!

さらに、給料が今の五倍貰える上に、食事と宿泊施設も無料で使えるとの事でした!

今日の仕事は休めませんので、明日にでも行ってみる事にしました。

翌日話を聞きに行ってみると、あっさりと雇って貰える事になり、少しだけ驚いてしまいました。

私がそうであったように、殆どの魔法使いは貴族様に雇われてしまいます。

なので、街中で暮らしている魔法使いは少なく、更に風属性と指定しているので誰も集まって来なかったそうです。

私は運が良かったのでしょう。

酒場の店長には、辞められては困ると言われたのですが、お給料の話をしたら渋々諦めてくれました。


武闘大会でのお仕事は、私にとって非常に簡単な事でした。

簡単すぎて、お給料を減らされるのではと思ったくらいでした…。

私が話す内容は他の人が考えてくれますし、酒場の従業員として働いていたので、人前で話すのは得意になっていました。

武闘大会が終わった後は、私の仕事が無くなってしまいました。

ですが、宿泊施設はそのまま使える上に、食事も朝昼晩と無料で食べさせて貰えます。

その上お給料も貰えます!

このまま次の武闘大会まで遊んで暮らせるのかと思ってしまいましたが、そんな美味しい話はありませんでした…。


私は朝から、何処に行くかも知らされぬまま馬車に乗せられ、気が付いたらお城に連れて来られていました…。

毎日何もせずに過ごしていたのが行けなかったのでしょう。

私は罰せられるのだと恐怖しながらも、逆らえずに案内された部屋の円卓の席に座らされました。

領主様!

円卓の席には様々な人達が来て座って行きましたが、最後に領主様が現れて席につきました。

領主様とは武闘大会の場でお会いしたので忘れもしません!

平民の私が貴族様と一緒の席につくなど許されるはずもなく、私は慌てて立ち上がろうとしました。

その時、隣に座っていた人に肩を掴まれて、座っている様にと言われました。

そして、意見を求められたら遠慮なく発言する様にとも付け加えられました。

すぐには信じられませんでしたが、領主様は私が座っている事など気にせずに会議を始めました。

そして、私は意見を求められたので、頑張って話したと思います…。

その後は頭が真っ白になってよく覚えていませんが、気付いた時には馬車に乗って宿泊施設に戻って来ていました。


それから数日後、宿泊施設を次の武闘大会まで閉鎖すると言われて、また馬車に乗せられました。

私を乗せた馬車は、街にある大きな屋敷へと到着し、ここが新たな宿泊施設だと教えられました。

間違いなく貴族様のお屋敷です…。

遠慮するなと言われても、無理な事です…。

ですが、三日もすれば慣れてしまいました…。

もう二度と、街の生活には戻れません…。

私は今の仕事を辞めさせられないように、必死に頑張って行こうと思いました。

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