第二百四十一話 反省会

アルフィーナをリアネ城で隔離した翌日、俺は家に帰りついたばかりの父の所に行き、アルフィーナの事を話した。

父はあまりいい顔をしなかったが、マデラン兄さんとセシル姉さんが会ってくれると言ってくれた。

俺の事を気遣ってくれた事は嬉しく思うが、気に入らなければ遠慮無く断るよう言っておいた。

俺がアルフィーナと話した時の印象では、マデラン兄さんとは合わないと思ったからだ。

どちらかと言えば、ヴァルト兄さんの方が合うのではないかと思う。

アルフィーナは武闘大会で本戦に上がってきたほどの腕前の持ち主だし、イアンナ姉さんとも上手く行きそうな気がする。

ではなぜ、最初にヴァルト兄さんの方に行かなかったかと言うと、アドルフから順番を守らないと失礼に当たると言われたからだ…。

愛人を家族に紹介するのも気を使う必要があるのかとも思ったが、貴族の常識には疎い俺としては素直に従うしかない。

一日置いた翌日、アルフィーナを連れて父の屋敷へとやって来たのだが…。

アルフィーナの態度が、俺に会った時と全く違ってしおらしい…。

猫をかぶっているのか、こちらが素なのかは分からないが、これならマデラン兄さんが気に入ってくれるかもしれないな。

俺はアルフィーナの紹介をした後は席を外し、父と二人っきりで話をする事となった。


「エルレイ、彼女がアイロス王国の王女なのは間違いないのか?」

「はい、元アイロス王国軍軍団長だった警備隊長に確認済みです」

「そうか、エルレイとしては罪滅ぼしをしたいと言う事だな?」

「それが無いとは言いませんが、アルフィーナは武闘大会の本戦に勝ち残っていましたし、旧アイロス王国軍の兵士だった警備隊員が保護しておりました…」

「なるほど、反乱を起こす事態にはならないだろうが、しこりを残す事になってしまうか…」

「はい…」

「マデランが気に入ればいいが、目に届くところに置く必要があるのは理解した」

「父親を殺した僕の傍にはおけませんので…兄さん達のどちらかに置いて貰えれば、警備隊員達も安心してくれると思います」

「分かった」

父の説得できたので、後はマデラン兄さんかヴァルト兄さんが気に入ってくれればいいだけだ…。

結果としては、アルフィーナはマデラン兄さんとセシル姉さんに受け入れられ、マデラン兄さんの愛人になる事があっさりと決まった。

これで、アルフィーナの処遇を気にしていたトリステン達を安心させることが出来るな。


アルフィーナの処遇が決まったので、俺はリアネ城に戻ってアルフィーネの荷物を運んだ。

荷物と言っても、そんなに多くなかった事から逃亡生活の苦労がうかがえるな…。

父から言われた「罪滅ぼし」と言う言葉が胸に刺さる…。

アルフィーナの件は、ソートマス王国には伝え無い事にしている。

伝えれば間違いなく捕まえに来るだろうからな…。

アルフィーナ一人守った所で俺の罪が消える事は無いが、一度守った以上最後まで責任を持とうと思う。


アルフィーナの件が解決した翌日、俺はゆっくりする間もなく会議室に来ていた。

来ていたと言うより、来てもらったと言う方が正しいだろう。

円卓の席には、多くの人が集まって来てくれて座っている。

今日は武闘大会の反省会を行う事になっているからだ。

円卓の各席の前には、各所から報告されて来た内容が記された書類が置かれていて、これを踏まえて次回の武闘大会をよりよくしていくための会議となる。


参加者は、武闘大会に参加したルリア、カリナ達メイド五人、ニーナ、エリオット達。

警備隊からはトリステンとその部下達。

武闘大会で司会進行役のキャセラ。

リアネ城で全体の指揮を執っていたアドルフ達となる。


「会議を始めます」

アドルフの司会で会議が始まり、最初に俺が挨拶する事になった。

「武闘大会が成功のうちに終わったのは、ここに集まってくれた皆のお陰で感謝を伝えたい。

ありがとう!」

俺は円卓に集まった一人一人を見ながら感謝を伝えた。

お金を使うために作った闘技場だったが、俺の想像以上の人達の努力の元に作られ、そして武闘大会が成功したのは皆が一丸となって努力してくれた結果だ。

一人一人に感謝を伝えたいところだが、時間も無いので次に進んでもらおうと思う。


先ずは、実際に参加したルリア達からの意見を求めた。

「そうね。報告書として提出した以外だと、ゆっくりと入れるお風呂が欲しかったわね。

それと、試合後に汗を拭える個室が欲しかったわ。

汗を拭えないから、次の試合までに体が冷えてしまったのよね…」

「なるほど、女性の控室の方には個室を作るようにしよう。

しかし、お風呂を作るのは難しいな…。

大人数が入る風呂ともなれば、お湯を沸かすのが大変だ。

桶にお湯を用意するだけでも、結構な手間がかかっている」

「そう、お風呂だけの施設を別に作ることは出来ないのかしら?」

「それは可能かもしれないが、後で検討して見るよ」

「お願いね」

ルリアから言われたお風呂に関しては、俺も最初作ろうとしたんだよな。

でも、大量の水を沸かすのが大変で、お金もかかると言う事で断念していた。

アドルフと相談しなければならないが、戦いで疲れた体を癒すにはお風呂が一番だよな。

作る方向で検討していきたいと思う。


「あの…おれからもいいっすか?」

トーマが遠慮気味に手を上げてくれた。

「うん、出来るだけ皆から意見を聞いて行きたいから、遠慮する必要はないぞ」

「はいっす。えっと、おれもそうだったっすけど、男子の予選では誰かと組めた人が有利に戦えるっす。

逆に、おれより強いエリオットは誰とも組めずに、あっさりと負けてしまったっす。

予選では、組むことを禁止にした方がいいかと思ったっす」

「なるほど、今後の大会で意図的に組む奴らが出てくる可能性は高いな。

トリステン、ルールとして禁止にし、審判が反則として判定する事は可能か?」

「そうですね…出来ない事はないでしょうが、完全に見抜くのは難しいかと思われます」

「分かった。トーマの意見を踏まえて、次回までにルールに明記できるようになるか検討しよう」

バトルロイヤルだから、組む相手がいるだけで有利になるのは間違いない。

そこで勝ち残れれば本戦出場が決まり賞金貰えるのだから、出来るだけトーマの意見に沿えるような形にしていこうと思う。


次に、警備隊から上がって来ていた報告を見ながら、トリステンに質問した。

「トリステン、リアネの街で発生した盗難事件の犯人は捕まったのか?」

「いいえ、残念ながら捕まっておりません。

武闘大会が始まる前から懸念されていた留守宅を狙った犯行なのですが、盗まれた物が一、二個と少なく、被害者が盗まれた事に気付くのが遅れたのが原因で、犯人を捕まえる事は出来ませんでした。

武闘大会が終わってから盗難事件は発生していない事から、リアネの街から出て行った可能性があります」

「そうか…また次回に狙われる可能性が高いが、増員しないと厳しそうだな…」

「はい…」

武闘大会でお金が入って来ているので、警備隊員を増やす事は可能だろう。

しかし、募集したからと言って直ぐに集まるはずもなく、次の武闘大会に向けてすぐにでも募集を開始しないといけないだろう。

武闘大会が開催されるたびに泥棒に入られては、観戦に来てくれなくなってしまうからな。

次回は対策をきっちりとして、被害が出ない様にしなくてはならないな。


「キャセラ」

「ひゃ、ひゃい!」

俺が、武闘大会で司会進行役を一人でやってくれたキャセラに声を掛けると、キャセラは慌てて立ち上がって返事をしてくれた。

俺はキャセラに座る様に言ってから、話を聞く事にした。

「一人で司会進行役を行うのは大変だったと思うが、最後まで良くやってくれて感謝する」

「ひゃい、ありがとうございましゅ」

武闘大会では元気よく堂々と話していたのに、キャセラはかなり緊張している様子だ。

よく考えて見れば平民のキャセラにとって、リアネ城に入る事は無いだろうし、貴族と話す機会もほぼ無いだろう。

だから緊張して上手く話せないのも理解できた…。

俺が最初に、ラノフェリア公爵や国王と話した時と同じようなものだと思う。

会議はこれ一回では無いので、そのうち慣れてくれると思う。

「すぐに見つかるかは分からないが、キャセラの負担を減らせるようにもう一人募集しようと思うがどうだろう?」

「えっ…えっと…私のお給料が半分になっちゃいましゅか?」

「いや、そんな事は無い。今までと同じ給料を支払うよ」

「しょ、しょれならかまいましぇん…」

仕事が半分になれば、給料も減ると考えるよな…。

キャセラの給料は、武闘大会が開催されない間も支払う事になっている。

魔法使いは少し多めに給料を払っておかないと、他に取られるとアドルフに言われたからな。

あれだけ人気が出ていたキャセラを手放したくは無いので、他に取られないようにアドルフと相談する事にしようと思う。


次の武闘大会は半年後の予定だ。

それまでに会議を重ねて、今回より楽しんでもらえる武闘大会にしていきたいと思う。

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