第二百三十話 武闘大会本戦 男性部門 その二
≪トーマ視点≫
男性部門は六回勝てば優勝っす。
二日前のくじ引きで対戦相手は決まっているっす。
ラルフは運良く、一回戦目は不戦勝で羨ましいっす。
「「「キャー、エルマイア様!」」」
おれの一回戦の相手は高身長の色男で、観客席の方から黄色い声援送られていて、羨ましすぎるっす。
絶対に勝ってやると心に決めたっす!
そして戦った結果は、あっさりと勝つことが出来たっす…。
意外と弱かったことに驚きっす。
予戦の時に一緒に戦ってくれたおじさんの方が強かったっすね…。
「トーマ、自分達は意外と強いのかもしれないぞ?」
「そうなんっすか?」
「あぁ、予選は大勢と戦って大変だったが、本戦は一対一だ。
アドルフさん達に比べれば、強そうに見える人は少ないと思わないか?」
「そう言えばそうっすね…」
「だろう」
体格だけを見ると、本戦に出場している選手の方が強そうに見えるっすけど、対峙した時の怖さはアドルフさん達の方が上っす。
勝って行けそうな気がして来たっす!
実際に、ラルフも二回戦目を難なく勝ち上がり、おれも順調に二回戦を勝ち抜くことが出来たっす。
しかし、三回戦ともなれば強者しか残っていないっす。
「イドリオ様が相手をしてやるぜ!」
「よろしくお願いするっす」
危険な目をした男との対戦となったっす。
こいつは確か、予選でフリストを倒したやつっすね。
二回戦目でこいつの戦いを見ていたっすけど、明らかに実力差がある相手を必要以上にいたぶって倒していたっす。
フリストも、こいつと戦う時は注意した方が良いと教えてくれたいたっす。
おれは用心しながら、攻撃を仕掛けて行ったっす…。
「なかなかやるじゃねーか!」
「どうもっす」
褒められても、ちっとも嬉しくないっすね。
相手の鋭い攻撃は容赦なく急所を狙って来ていて、おれは避けるので精一杯っす…。
でも、アドルフさん達に比べれば大したことないっすね。
フリストも、予選で大勢と戦っていなければ、こいつには勝てたと思うっす。
フリストのお返しをしないといけないっすね!
おれは相手の攻撃を受け止め、反撃に移ったっす!
「そこまで!」
「えっ!?」
おれの攻撃はあっさりと相手に当たり、相手は吹き飛んで仰向けに倒れたまま動かなくなったっす。
攻撃は鋭かったっすけれど、打たれ弱かったっすね…。
次は準々決勝っすけど…相手はラルフっすね…。
ラルフはおれ達の中で一番強いし、アドルフさんにも認められているっす。
勝てる気が全然しないっすね…。
でも、最後まであきらめずに戦うしかないっす。
「トーマ、どちらが勝っても恨みっこなしだぞ」
「分かってるっす!」
ラルフとの戦いが始まり、一進一退の攻防が続いているっす。
攻撃の速さはおれの方が上っすけど、耐久力はトーマの方が上っす。
と言うより、あの痛みを我慢する厳しい訓練を通過したラルフに、いくら攻撃を与えても無駄では?と思えて来たっす!
このまま戦いを続けて行けば、最後はおれが痛みに耐えきれないか、疲れ切って動けなくなるに決まっているっす。
ラルフは気絶するまで戦い続けると思うっす。
おれがそこまでラルフを痛めつけられるかと言えば、実力的にも感情的にも無理っす…。
となれば、早めに負けを認めた方が、お互い痛い目を見ずに済んでいいと思うっす。
準々決勝まで勝ち進んできたっすから、アドルフさんも優秀だと認めてくれるっすよね?
そうと決まれば、さっそく負けようと思うっす!
おれは半歩間合いを詰めて、ラルフに斬りかかったっす。
おれの剣は、どすっと鈍い音を立ててラルフの左腕に当たったっす。
だけど、ラルフは表情を変える事無く、俺の左脇腹に力一杯剣を撃ち込んできたっす!
痛い、痛い、痛いっす!
覚悟を決めて受けた剣だったっすけど、痛いものは痛いっす!
おれは地面に倒れこんで、舞台の上にいる審判の所まで転げ回っていって手を上げたっす!
「そ、そこまで!」
おれが降参した事で、ラルフの勝利が決まったっす…。
「トーマ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないっす!めちゃくちゃ痛いっす!」
「それだけ文句を言えるなら、大丈夫みたいだな…」
ラルフが心配して駆けつけれくれた事は嬉しいっすけれど、もう少し手加減して欲しかったっす…。
おれは担架に乗せられて救護室まで運んで貰い、治癒魔法をかけて貰ったっす。
おかげで痛みは消えて元気になったっす。
日々の訓練でも治癒魔法をかけて貰っているっすから、痛みが無くなる事は分かっているっす。
だからと言って、痛めつけられたくはないっす。
これで、痛い目を見ずに済むっすから、ラルフに負けてよかったと思うっす。
後は、ラルフを応援すればいいだけっすから、気も楽になってきたっす。
ラルフが優勝してくれれば、おれは優勝者に負けた事になるっすから、頑張って貰いたいと思うっす!
≪エルレイ視点≫
「エルレイ、今のは良いのかしら?」
「う、うん、いいんじゃないのかな?」
ルリアが、眉をひそめながら俺に聞いて来た…。
ラルフとトーマが戦っていて、トーマの奴がわざと負けた様に見えた。
しかし、審判が何も言ってないし、ラルフも気付いていないだろう。
トーマの演技力は見事なものだったし、気付いたのは極少数だと思いたい…。
「エル、ルリア、今の戦いに何か問題があったのか?」
「いや、何も問題は無いが、トーマの怪我が大丈夫だったかと思ってね」
「そうよ。担架で運ばれて行ったからちょっと心配しただけよ!」
「うむ、確かに心配だな…」
「でも、中で治癒魔法をかけて貰えるだろうし、危険な状態だったら僕に連絡が来るようになっているので、心配する事は無いよ」
「そうか!」
ヘルミーネが俺とルリアの会話が気になり声を掛けて来たが、何とか誤魔化すことは出来た…。
しかし、それを聞いていたアルティナ姉さんは誤魔化せなかったみたいだ。
でも、アルティナ姉さんは追及してくることはせず、ヘルミーネと今の試合について楽しく話してくれている。
アルティナ姉さんの気遣いに感謝しつつ、ルリアと念話でトーマの気持ちを弁明してみる事にした。
『ルリア、あのまま戦い続ければ、トーマが勝てる可能性は少なかったんだと思う。
それなら早めに負けて、ラルフの戦い方を他の対戦者に見せないようにしたんじゃないのかな?』
『そうかもしれないけれど、わざと負けるのはちょっと許せないわね!』
ルリアにしてみれば、全力を出さずに負けるのは許せない事なのだろう。
俺も同じ気持ちだが、戦いが嫌いな者からすれば、そう言う気持ちにはならないだろう。
『ルリアはそう思うかもしれないけれど、トーマとしては仲間同士で傷つけ合いたくなかったんじゃないのかな?』
『魔法で治療して貰えるのに?』
『魔法で治療して貰えてもさ…。
トーマ達は僕やルリアと違って、戦う事が好きでは無いんじゃないかな?
リリーは戦うのが嫌いだし、仮にルリアとリリーが戦うような事になったら、リリーはトーマの様にわざと負けるんじゃないかな?』
『確かにそうね…良く分かったわ…』
トーマがそう考えたのかは分からないが、ルリアは納得してくれたみたいだ。
エリオット達がラルフの勝利に賭けていて、トーマがわざと負けたのであれば許される事ではないが、エリオット達が賭けに使える様なお金を持っているはずも無いだろう。
正式採用になれば給料を支払う事になるが、今はまだエリオット達には給料を支払ってはいないからな。
でも、今後その様な不正を働いて稼ぐ者が現れないとも限らない。
その辺りは、審判達がしっかり見極められるようになる事を信じるしかないな…。
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