第二百二十八話 ルリアとカリナの帰宅

≪ルリア視点≫

舞台を下り、救護室で魔法の治療を受けて水を一杯飲んだ事で、落ち着くことが出来たわ。

カリナも魔法の治療を受けて目を覚まし、体を起こしていたわ。


「カリナ、もう大丈夫かしら?」

「はい、心配かけてしまいました」

意識を失ったから心配していたのだけれど、大丈夫みたいで安心したわ。

私はリリーの様に相手の魔力を見ることが出来ないので、カリナの状態が本当に良くなったのか判断できないわ。

でも、顔色は悪くないし、いざとなったらエルレイにリリーを連れて来て貰えばいい事よね。

それに、これ以上待たせるのは悪いし、さっさと用事を済ませてカリナを休ませてあげたいわ。


「いいのよ。それより立てるわよね?」

「はい、問題ありません」

「それなら行くわよ!」

「ルーティア、行くってどこに?」

「舞台に決まっているでしょう!」

私はカリナの手を握り、カリナを支えながら舞台に連れて行ったわ。


「カリナ選手とルーティア選手が、元気に戻って来てくれました!」

「ほらカリナ、貴方も手を振って観客に応えてあげなさい!」

「はい…」

私とカリナが観客席に向けて手を振ると、拍手と共に盛大な歓声を送ってくれたわ。

こういうのも悪くは無いわね…。

エルレイが民衆からこのような形で受け入れられるのが一番なのだけれど、今日だけは私とカリナに譲ってもらうわね。

拍手が鳴りやまぬ中、キャセラが私達の所に来て話しかけて来たわ。


「優勝したカリナ選手に、今の気持ちをお聞きしたいと思います!」

「えっ!?私が優勝したのですか?ルーティアでは無く?」

「そうよ!カリナが優勝したのよ!だから胸を張って答えなさい!」

私がそう言うとカリナは一つ大きなため息を吐き、覚悟を決めたのかキャセラに話しかけていたわ。


「私が優勝したと言う事ですが、最後の一撃を放った後気を失いましたので、信じられない気持ちでいっぱいです。

ですが、リアネ闘技場で行われた記念すべき第一回目の武闘大会で優勝できたことは光栄に思います。

リアネ闘技場を作り、武闘大会を開催してくださいました領主様、そして、戦いを観戦してくださいました皆様に感謝申し上げます」

カリナは見事な挨拶をして、貴賓席の方にお辞儀をしていたわ。

私もカリナを見習い、貴賓席に向けてお辞儀をしたわ。

ルリアとしては正しくない行動だけれど、ルーティアとしては正しい行動よね。


「優勝したカリナ選手には、優勝賞金として金貨一枚が贈られます。

準優勝したルーティア選手には、準優勝賞金として小金貨七枚が贈られます。

なお、本戦に出場した選手には、それぞれの順位に応じた賞金が贈られます」

綺麗なドレス姿の女性が舞台に上がって来て、カリナと私にお金の入った包みを手渡してくれたわ。

賞金は必要無いのだけれど、受け取らない訳にはいかないのよね。

帰ったらエルレイに渡す事にするわ。

私とカリナは鳴りやまない拍手の中を、手を振りながら舞台から下りて行ったわ…。


他のメイド達と合流し、宿泊施設に戻って汗を流した後、荷物を纏めて帰る事になったわ。

宿泊施設の受付に部屋の鍵を返す際に、馬車が用意されていると教えて貰えたわ。

エルレイが手配してくれたのかと思ったのだけれど、馬車を手配したのは警備隊の方だったわ。

賞金を狙って来る者がいないとも限らないので、本戦に出場した選手はリアネの街まで送る事になっているそうよ。

カリナとの戦いで疲れていたし、歩いて帰る事にならずに済んで助かったわね。

警備隊の方には私がルリアだと知らせているので、私達が乗り込んだ馬車はリアネ城まで行ってくれたわ。


「ルリア、お帰りなさい!」

「リリー、ただいま」

リアネ城に着くと、玄関でエルレイを除いた家族が出迎えてくれたわ。

ルーティアとして五日間過ごした日々は、とても充実していて楽しかったわ。

でも、皆に出迎えられた事で、私が住む場所はここなのだと改めて思い嬉しくなったわ。

「ルリア、まずはお風呂に入って髪を綺麗にしないといけません」

「そうした方が良いわね…」

「はい、一緒に入りましょう!」

リリーと一緒にお風呂に入り、黒に染めていた髪は元の赤い髪に戻ったわ…。

ルーティアではなくなったことに少し寂しさを感じなかったと言えば嘘になるのだけれど、これが私なのには変わりは無いわ。

お風呂から上がって着替えたら、お父様とお母様に報告に行かなくてはならないわね。

優勝は出来なかったけれど、ラノフェリア公爵家の娘として恥ずかしくない戦いが出来たと思うわ。

胸を張って報告に行こうと思うわ!


≪カリナ視点≫

はぁ~。

私の最後の一撃はルリア様に届いてはいなかったのですし、気を失ったのですから私が負けなのは明白です。

私の勝利は、ルールに助けられたにすぎません。

私が目を覚ました時には優勝が決定しており、賭けのお金も支払われていた事でしょう。

ですので、否定する事も出来ずに受け入れました…。

帰って夫から何を言われるかと思うと帰りたくはありませんが…私には仕事があるので帰らない訳にはいきません。


ルリア様とリアネ城に戻り、お風呂に入って体を清潔にしてからメイド服に着替えました。

幼い頃より着なれたメイド服に身を包むと、非常に落ち着きます…。

「ふぅ~」

気持ちを切り替え、メイド長としての仕事に戻らなければなりません!

私の代わりを務めていたエイリエッタの所に行き、私が不在の間に変わった事は無かったかと尋ねました。

「こちらに纏めて置きました」

「ありがとう」

エイリエッタは几帳面で、とても優しい性格の持ち主です。

口頭で済むような事も、きちんと書面に纏めてくれていました。

綺麗な文字で書かれていて読みやすいです。

お客様が多くいらっしゃっていますので、その関係の問題が色々生じています。

ある程度予想はしておりましたが、リアネ城でお客をお迎えしたのは初めての事です。

問題にも適切に対処した事が書かれてありますし、初めにしては上々と言った所でしょう。

エイリエッタが纏めてくれていたおかげで、次には同じ失態を繰り返す事は無くなるでしょう。

念のために城内を回り、問題が無いか確認して行きます…。

城内は美しく保たれていますし、メイド達もしかっりと働いているので、怒らずに済んでよかったと安心しました。


その夜、私が疲れているだろうとメイド達が気遣ってくれて、いつもより早く自室に戻ることが出来ました。

出来れば今日は遅くまで仕事をしていたかったのですが、疲れているのは事実です…。

恐る恐る部屋の扉を開けて中に入りましたが、まだ夫は戻ってきていませんでした…。

ほっと息を吐き、メイド服を脱がずにそのままベッドに倒れこみました。

メイド服がしわになるので着替えなくてはいけないのですが、ルリア様との戦いで相当疲れていました。

ちょっとだけ…ちょっとだけ目を瞑って眠ろうと思いました…。

その時、部屋の扉が開く音が聞こえてきました。

私は慌てて起き上がり、ベッドから降り立ちました。

部屋に入って来たのは私の夫、アドルフです。


「ずいぶんと早いお帰りですね?」

「部下に気を使われて仕方なくな…」

「あなたもでしたか…」

武闘大会は明日もありますので、夫が戻ってくるのは深夜になると思っていたのですが、私と同じく気を使って貰えたようです。

夫は私をベッドに座るように促し、そして夫も私の隣に座ってきました。

怒られる事は間違いありませんし、先に謝ってしまった方が良いでしょう。


「あなた…」

「私から先に話させてくれ」

「はい…」

私は覚悟を決めて夫に話しかけようとしたのですが、夫に止められてしまいました。

部屋に明かりは灯しておりませんので薄暗く、隣に座る夫がどの様な表情を浮かべているのかは分かりません。

夫の声からも、怒っているのか判断できませんので、ドキドキしながら夫の話を聞く事にしました。


「優勝おめでとう」

「えっ!?」

夫からの意外な言葉に驚いてしまいました…。

「私はあなたの命令を無視して本戦に進み、ルリア様を差し置いて優勝したのですから、てっきり怒られるものかと覚悟をしておりました」

「そうだな…私の命令を無視した事に関しては怒りたい所だが、その命令をした事をエルレイ様に怒られてしまった。

だから、その事に関して怒っていはいないし、ルリア様に勝利した事も怒ってはいない」

「そうなのですか?」

「エルレイ様とラノフェリア公爵様も、カリナの優勝をとても喜んでくださっていました。

今更、怒る理由などありません。

見事な戦いぶりでした、改めて優勝おめでとう」

「あなた、ありがとうございます…」

夫は私をそっと抱きしめ、私の優勝を称賛してくれました。

抱きしめたまま横になりたかったのですが、着替えていなかった事を思い出しました。

替えのメイド服はあるので、しわになっても良かったのですが、上に立つ者としてその様な訳にはまいりません。

着替えて二人でベッドに横になり、二人の時間をゆっくりと過ごしました…。

夫婦としてゆっくりと過ごせたのは、結婚し、リアネ城に来てから初めての事でした。

形だけの夫婦でしたが、今回の事で夫と親密な関係になれたのだと思います…。

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