第二百二十七話 武闘大会本戦 女性部門 その六

≪カリナ視点≫

ルリア様の攻撃は、私の想像をはるかに超える激しいものでした。

全身から繰り出されてくる攻撃は剣士とは程遠く、どちらかと言えば、私が習った体術に近いでしょうか?

見た事も無い戦い方に翻弄されつつも、反撃を試みます。

最終的には私が負けないといけない戦いですが、簡単に終わってしまっては盛り上がりに欠けてしまいます。

それに、ルリア様との戦いは、とても楽しいと感じております。

仕事から離れたこの四日間は、私にとって貴重な体験となっておりました。

ルリア様のお世話をしていましたが、ルリア様との会話のやり取りが変わっただけで、歳の離れた妹の世話をしているかのように感じておりました。

不敬ではありますが、ルリア様から他人の前でぼろを出さない様にと、気楽に話しかけて構わないと仰られましたし、限られた期間の事ですので許していただけるでしょう。

この試合が終わればリアネ城に帰宅予定ですので、少しでも長くこの楽しい時間を過ごしていたいものです…。


暫くルリア様との激しい攻防を続けておりましたが、お互いの息も上がって来ましたので、非常に残念ですが終わりにしなくてはなりません。

タイミングを見計らい、ルリア様に気付かれない様に敗北する必要があります。

ルリア様の癖も読めてまいりましたので、上手く行くはずです。

ルリア様が剣の連撃を繰り出し、私の体勢を崩してきます。

私が体勢を立て直そうとした軸足に足払いが来るので飛んで躱すと、空中で避けられない横なぎの剣が私を襲ってきます。

ここです!

私はルリア様の力のこもった剣をナイフで受け止め、そのナイフを手放しました!

空中で剣を受け止めた衝撃で後ろに飛ばされ、そのまま地面に倒れこみました!

後は、ルリア様が私に剣を突きたててくれればお終いです…。


「立ってナイフを拾いなさい!」

ルリア様は私に剣を突きつけず、仁王立ちで私を睨みつけていました…。

どうやら私の演技は見抜かれていたみたいです。

審判もルリア様の勝利を告げず、戦いの継続を待っているみたいです。

仕方ありません。

私は立ち上がって、遠くまで飛んだナイフを拾いに向かいました。

その間も、ルリア様は私を攻撃せずに待っていてくださいました。


『カリナ、次同じことをやったら許さないわよ!』

『ルリア様、申し訳ございませんでした…』

魔法は禁止されておりますが、ルリア様は気にせず私に念話を送ってきました。

ルリア様は呪文を唱える事はありませんので、魔法を使った事に審判は気付く事はありませんし、私も指摘する事は致しません。

これ以上ルリア様を怒らせる訳にはまいりませんので、速やかに試合を再開する事にしました。


「遠慮なくいきます」

「えぇ、私も遠慮はしないわ!」

そこからは死闘と言ってしまっても間違いは無いでしょう。

お互いの武器は刃を潰していますし、防具を装着しておりますので、一撃を受けた所で死ぬことはありません。

ですが、ルリア様の殺気のこもった一撃一撃は、私の寿命が縮まるのではないかと思う程です。

反撃する私の攻撃も、ルリア様の攻撃に合わせるように鋭くなるのは仕方のない事です。

お互いに一瞬の気も抜けないほどの攻防が続いて行き、呼吸をするのも苦しくなってきました…。

そんな状況ですが、ルリア様は笑みを浮かべています。

恐らく私も同じような笑みを浮かべている事でしょう。

ラノフェリア公爵家で訓練を受けている際には、戦う事がこんなに楽しい物だと思った事は一度たりともありませんでした。

どちらかと言えば、訓練は嫌いな方でした。

毎日毎日地面に叩きつけられていれば、そう思わない方がおかしいと思います。

私に戦う事の楽しさを教えてくださったルリア様に感謝いたします。

ですが、もう二度と私が楽しい戦いをする事は無いと思うと寂しくもあります。

ルリア様との一瞬一瞬を記憶に焼き付けながらも、最後の時を迎えようとしていました…。


「ここまで苦戦…するとは…思っても…みなかったわ…」

「私も…です…」

お互い息も切れ…まっすぐ立っているのかも分からない状態になってしまいました。

ルリア様もふらふらしており、剣を持っているのも辛そうです。

次がお互い、最後の力を振り絞った一撃となるでしょう。

ルリア様が息を止め、鋭い突きを放ってきました!

私はナイフで受け止める事をせず、体をひねりつつナイフを突きだしました!

私はルリア様の剣を躱し切れず、右胸から左胸にかけて、ルリア様の剣が当たった痛みを感じます…。

私のナイフはと言うと、ルリア様の首元前で止まり、ルリア様には届きませんでした…。


「そこまで!」

審判の声で、勝敗が決まりました。

全力を出し、それでも負けてしまった事は悔しいですが、結果的には私の狙い通りになった事はよかったと思います。

私とルリア様は、お互い胸を合わせるような形になりました。

そのおかげで倒れずに済んでいたのですが、もう限界のようです…。


「ルーティア…ごめん…なさい…」

私はそこで意識を失ってしまいました。

ルリア様を守らなくてはならない立場でありながら、ルリア様の前で意識を失う事などあってはならない事ですが、武闘大会と言う安全が守られている場所なので、許してほしいと思います…。


≪エルレイ視点≫

「エル!どっちが勝ったのだ!」

「分からない、審判の発表を待つしかないな…」

ルリアとカリナの長い戦いの幕を閉じたが、上から見ていた限りではどちらが勝ったのか判断がつかない。

審判も決めかねているのか、他の審判を呼んで協議しているな…。

カリナは意識を失いルリアに支えられているが、ルリアも立っているのがやっとと言う感じだ。

担架を担いだ者達が二人に駆け寄り、カリナとルリアを担架に乗せて舞台から救護室の方に運んで行った。

ルリアが担架に乗せられる際に審判に声を掛けていたように見えたが、ルリアの声が聞こえるはずも無い…。


「エルレイさん、二人は大丈夫でしょうか?私が行って治療した方が良いのではないでしょうか?」

「大丈夫だと思う。治癒魔法が使える人達が待機しているし、危険な状態だったら僕に連絡が来るようになっているからね」

「そう…ですね…」

リリーが二人を心配しているので、俺はリリーを心配させない様に笑顔で答えた。

そう言いつつも、俺も心配はしている。

あれだけ激しい戦いを長時間続けたのだから、脱水症状になっている可能性もある。

でも今は、治療に当たってくれている魔法使いを信じて報告を待つしかないな。


「エルレイ、勝者の発表があるみたいよ!」

アルティナ姉さんに言われて舞台の方を見ると、キャセラが舞台に上がっていた。


「皆さん、お待たせしました。女性部門の優勝者を発表します!

素晴らしい戦いを見せてくれた勝者は……カリナ選手です!」

勝者の発表を受け、観客席からは歓喜と絶望の声が聞こえて来た。

勝敗に納得いかない者が大声で文句を言っているな。

壁越しにラノフェリア公爵の声も聞こえて来ているが、あえて聞こえないふりをしよう…。

一方、賭けに勝ったのか、イクセル第二王子の方は歓喜しているな…。

俺も判断できなかったし、納得いかない者が多いのも分かる。

そこで、審判はキャセラに理由を説明して貰う事にした様だ。


「皆さん、これより審判の判断を説明しますので、お静かにお願いします。

ルーティア選手の最後の一撃は、カリナ選手の胸をかすめましたが、致命傷とは言えません。

カリナ選手の最後の一撃は、ルーティア選手の首元で寸止めされており、これを致命傷だと判断しました。

それに、ルーティア選手自身も負けを認めていましたので、カリナ選手の勝利となりました!」

なるほど、ルリアが審判に声を掛けていたのは、負けを認めての事だったのだな。

ルリアらしいと思うと同時に、後で相当悔しがることは目に見えている。

どうやって慰めればいいのか、今から考えておいた方がよさそうだな…。

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