第二百二十六話 武闘大会本戦 女性部門 その五
≪エルレイ視点≫
「エルレイさん、いよいよ決勝です!」
「うん、ルリアとカリナの身内同士の決勝戦になってしまったけれど、仕方のない事だな。
今後の大会では、今回の話を聞いた強者が集まってくれることを期待するしかない」
「そうなると良いです」
カリナは、もう二度と大会に出場する事は無いだろう。
いや、俺が要請すれば出てくれるだろうけれど、アドルフが許可を出さないような気もする…。
それに、アンジェリカの様にカリナが妊娠しないとも限らないし、そうなってしまえば絶対に出場させることは出来ない。
ん?
そう言えば、メイド達が妊娠したと言う話を聞いたことが無いな…。
新しく雇ったメイド達以外は、執事と結婚していると言う話だったのだが…。
子供が産まれれば育児施設とかも必要になるだろうし、アドルフに…いや、カリナに確認して、必要な物は事前に用意するようにしなくてはならないな…。
やらなければならない事が次々と出て来るが、今の所は気付いた時にその都度対処してくしか方法は無いな…。
「エル、二人が出て来たぞ!」
「あ、うん…」
今は考え事をしている時ではない。
ルリアとカリナの応援をしなくてはならないな!
「ル、ルーティア、カリナ、ど、どちらも頑張るのじゃ!」
「そうよね、どっちも頑張って欲しいわね!」
「はい、ルリアとカリナ、悔いの残らない戦いをして貰いたいです」
二人が舞台に姿を見せた事で、観客席から割れんばかりの歓声が響いている。
俺達の応援が二人に届く事は無いだろうが、精一杯応援したいと思う。
≪カリナ視点≫
私とルリア様は順調に勝ち上がり、決勝で戦う事になりました。
ルリア様との戦いは、私が全力を出し切って勝てるかどうか?と言った所です。
私の立場からすると、ルリア様を勝たせてあげなければなりませんが、ルリア様とエルレイ様もそれを望んではいませんでしょう。
ですが、貴賓席にはラノフェリア公爵様もいらっしゃっております。
私の主はエルレイ様ですが、ラノフェリア公爵様には育てて貰った恩義がございます。
恩を仇で返す様な真似をしたくはありません…。
夫はどう思っているのでしょう?
エルレイ様から魔法を教えて頂きましたので、念話を使って夫に確認することは出来ます。
夫に聞けば、間違いなく私に負けろと言うはずですので…聞くだけ無駄です…。
私としても、負けた方が全て上手く行くのは分かっております。
ルリア様の優勝で、エルレイ様もラノフェリア公爵様も大変喜ばれる事でしょう。
逆に私が優勝した場合は…誰も喜んではくれません…。
やはり、ルリア様や観客達に気付かれない様に敗北するしかありません。
かなり難しい事かも知れませんが、出来ない事は無いでしょう。
私は覚悟を決め、決戦の舞台へと上がって行きました。
≪ルリア視点≫
決勝でカリナと戦う事になったわ。
予想出来ていた事なので、特に驚きは無いわね。
私はこの刃を潰した剣にも慣れて来た事だし、準備は万端よ。
さぁ、ラノフェリア公爵家を守っていた使用人の実力を見せて貰うわよ!
私とカリナが戦いの舞台に上がると、今まで以上の歓声を受けたわ…。
正直、うるさくてたまらないけれど、戦いが始まれば集中して周りの雑音は聞こえなくなるので問題では無いわね。
「皆様お待ちかねの、決勝戦を開始します!」
キャセラの美しい声が響き渡ると、観客席はさらに盛り上がりを見せていたわ。
キャセラは観客を盛り上げるのが上手だわ。
継続的に雇って行くようにと、エルレイに言っておかなくてはならないわね。
「決勝戦を前に選手の紹介を致します!
正統な剣術を使い、ここまで相手を正面から打ち破って来た黒髪の美少女剣士!ルーティア!!」
キャセラから紹介されたので、観客席に手を振ってあげたわ。
これはキャセラからそうするようにと言われたからであって、私が目立ちたいからと言う事では無いわよ…。
それに美少女剣士とか言われても、兜で顔を隠しているので誰にも分からないはずよね…。
武闘大会を盛り上げるために必要な事だとは理解しているのだけれど、恥ずかしいにもほどがあるわ!
でも、恥ずかしいのも最後だから、我慢しなくてはならないわね…。
「対するは、武闘大会では不利だと思われたナイフを使い、ギリギリのせめぎ合いを制して来た麗しの美女!カリナ!!」
カリナは恥ずかしくないのか、いつも通りの無表情で観客席にお辞儀をしていたわ。
まぁ、カリナであれば、何を言われても表情を崩す事は無いわね…。
「女性部門の決勝戦!試合開始です!」
カリナとの決勝戦が始まったわ!
カリナとの戦いには出し惜しみなく、全力で戦うと決めていたわ!
だから、最初から私の今持っている技を全て使って行くわ。
カリナとも間合いを詰め、素早く剣を突いて行くわ!
カリナは間合いの短いナイフを使っているので、剣を振り回せば私の懐に踏み込んで来られるわ。
なので、突きで何とか出来ないかと思ったのだけれど、浅はかな考えだったわ…。
カリナは私の突きをナイフで受け流しつつ、少しづつ間合いを詰めて来ているわ。
はやり、この程度でカリナの防御を崩すことは難しく、次の手段を取る事にしたわ。
カリナを中心として、右手に回り込みながら剣を振って行くわ。
単調な攻撃になってしまい、先読みされてしまうのだけれど、それが狙いよ。
カリナは私の攻撃を予測して躱し、素早い動きで間合いを詰めようとして来たわ!
私は剣を引き戻して、間合いを詰めて来るカリナに突きを放ったわ!
カリナは予測に反した攻撃に戸惑いを見せつつも、後ろに飛び去って私の突きを躱したわ。
横の動きから縦の動きに変わる攻撃だったのだけれど、こんな小手先の手には引っかかってはくれないわね…。
でも、間合いを離すことには成功したわ。
私は一呼吸置いて、次の攻撃を仕掛ける事にしたわ。
キャセラの紹介では正統な剣術と言われていたのだけれど、ここからの戦いは正統とは言えない戦いになるわ。
なにせ、卑怯なエルレイから教わった剣術を使うからよ!
手足はもちろんのこと、体当たりや頭突きも使って相手を倒す事に集中するわ。
お父様達にはあまり見られたくは無かったのだけれど、カリナに勝つためには手段を選んではいられないわ!
私はカリナに連撃を放ち、その隙を突いてナイフを突き出してきたカリナの攻撃をしゃがんで躱しつつ、一歩前に踏み込んだカリナの足を払ったわ!
流石のカリナも、私が足払いしてくるとは予想していなかったみたいで、見事に引っかかってくれたわ!
でも、私がエルレイからやられたように転んではくれなかったわね…。
カリナは前に倒れこみながら、くるっと空中で一回転して見事に着地し、地面に手をついて後ろに足を回して私の足を払って来たわ!
私は咄嗟に前に飛んで地面で一回転をしながら立ち上がり、向きを変えて剣を構えたわ。
しかし、目の前にはすでにカリナがいて、私にナイフと突き出して来ている所だったわ!
私はカリナの繰り出すナイフを必死に躱しながら、何とか距離を離そうと努力したのだけれど、一度得た機会をみすみす逃すような真似はしないわね。
ならば、私から体を密着させてカリナを押し倒そうとしたのだけれど、ニーナの時の様に投げ飛ばされてしまったわ。
投げられる際に、カリナの顔面を左手で殴ったので、追撃を受ける事は避けられたわ。
それに、間合いを離す事も出来たわ…。
近距離での攻防はカリナの方が有利なのは間違いないのだけれど、そこを何とか制しない事には私に勝ち目は無いわ!
私は剣を握り直し、カリナとの決着をつけるべく斬りかかって行ったわ!
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