第二百二十五話 武闘大会本戦 女性部門 その四

≪ニーナ視点≫

カリナとの戦いは、あたいの予想していた以上に苦戦を強いられたのさね…。

あたいと当たるまでは、実力を隠していたと言う事さね。

カリナの防御は硬いけれど、崩せない事は無いのさね!

あたいは攻撃速度を一段階上げ、カリナの急所を次々と攻撃して行ったのさね。

それでも、カリナの防御が崩れることは無かったのさね…。

ここまで守り切られるとは、あたいも思っても見なかったのさね。

くっ!カリナが、また足を蹴って来たのさね。

どうやら、あたいの足に狙いを定めて来たみたいなのさね。

暗殺者として足の自由を奪われるのは、何よりも避けなければならなかった事さね。

目標を倒す時の事は勿論の事、逃げる際にも足が動かなくては逃げきれないのさね。

しかし、あたいもカリナを攻撃している以上は、カリナの蹴りを避けるのは難しいのさね…。

決勝まで使いたくはなかったのだけれど、切り札を使うしか無さそうなのさね!

あたいは間合いを離し、呼吸を整えたのさね。

カリナも同じ様に呼吸を整え、あたいの攻撃に備えているのさね。

あたいは足に力を込め、一気に加速してカリナとの間合いを詰めながら素早くナイフを突き出したのさね!

その攻撃も、カリナは器用にナイフで受け止めていたのさね。

あたいの加速に加え、突き出したナイフにも全力を込めた重い一撃だったにもかかわらず、ナイフで受け止めたのは流石としか言いようが無いのさね。

あたいには真似できないし、真似しようとも思わないのさね。

あたいのナイフを受け止めたカリナは、またあたいの足を蹴ろうとしていたのさね。

あたいは飛びあがり、カリナの頭上で一回転しながら、カリナの背後に降り立ったのさね。

カリナは蹴りを出していたので片足の状態、そのままでは振り返れない筈さね!

あたはカリナの首に腕を回して締め上げ、カリナの動きを封じたのさね。

このまま首を絞め続けるか、ナイフを突き立てればあたいの勝ちさね!

あたいが勝利を確信した瞬間、あたいの体は宙に舞い、背中から地面にたたきつけられたのさね!

叩きつけられた衝撃で背中に痛みが走るけれど、気にしている暇は無いのさね!

あたいは横に転がりながらカリナが振り下ろしてくるナイフを躱し、そのまま立ち上がって構えなおしたのさね。


「背後に回られたのは驚きましたが、無手での対処は慣れております」

言われてみれば納得さね…。

カリナはメイド、武器を所持していない時の方が多いのさね。

だからと言って、あたいの優位は変わらないのさね!

あたいは足を使い、高速で動き回りながら、ナイフで切り付けて行ったのさね。

一撃で仕留めるのは難しと分かったので、あたいもカリナと同じように体力を削っていく方向に変えたのさね。

「それを待っていました!」

っ!!

カリナはあたいのナイフを体で受け止め、伸び切った腕を捕まえられて、また地面に背中から叩きつけられたのさね!


「そこまで!」

カリナはあたいを地面にたたきつけると同時に、あたいの首にナイフを突きつけていたのさね…。

審判がカリナの勝利を下し、あたいの敗北が決まったのさね…。

「急所を狙った攻撃は受け止めるしかありませんでしたが、その他の場所は受け止める必要がありません。

防具を着こみ、怪我をしないと分かっているから取れた手段で、実戦では使えません」

「確かにそのとうりさね…」

武闘大会のルールでは、急所さえ守れば幾ら攻撃を食らったとしても、倒れなければ負けにはならないのさね。

暗殺者として戦いに臨んでいたので、忘れていた事なのさね…。

カリナはあたいに手を差し伸べて来たので、あたいはその手を握って起こして貰ったのさね。


「いい戦いでした」

「あたいもカリナと戦えて楽しかったのさね」

全力を出し、それでも負けたのだから悔いは無いのさね。

試合中歓声が響く中、トリステンの声だけはしっかりと聞こえていたのさね。

あたいは舞台から降りる前にトリステンの方を向き、応援してくれたトリステンに手を振って感謝を伝えたのさね…。

あたいは舞台から降り、後の試合を見届ける事にしたのさね。


≪エルレイ視点≫

「カリナが勝ちました!」

「うん、良かった!」

カリナとニーナの試合は、見ているこちらも冷や汗が出てくるほど激しい試合だった。

一瞬でも気を許せば、ニーナのナイフがカリナの急所に突き刺さっていただろう。

それをナイフ一つで防ぎきり、反撃を加えているカリナは見事だったとしか言いようがない。

アドルフも気が気ではなかったのかと思い振り返ってみると、いつも通りの平静を保った表情をしていた。

まるで、カリナが勝って当然と思っていた様子だ。

まぁ、アドルフがどう思っているかは聞いて見ないと分からないが、内心はカリナを心配していたに違いない。

ロゼとリゼは、複雑な表情を見せているな…。

メイド長が勝った事は嬉しいが、親友のニーナが負けた事は残念に思っているに違いない。

後日、ロゼとリゼをニーナの所に連れて行ってあげようと思う。

今までの試合を見ていた限りだと、カリナは決勝まで上がる事が出来るだろう。

ルリアの方も問題は無いとは思うが、一試合目の様子を見た後だと少し心配になって来た。

武闘大会が始まっているので、念話でアドバイスを送る事は出来ない。

ルリアを信じて試合を見届けるしかないな…。


≪ルリア視点≫

カリナとニーナの試合は見事な物だったわね。

どちらが勝っても不思議では無かったのだけれど、武闘大会のルールに沿った戦いをしたカリナに軍配が上がったと言う事よ。

私も、そこは見習って行かなくてはいけないわね。

恐らくカリナは、この後も負けないでしょうね。

私が決勝まで勝ち進めれば、カリナと戦う事になるわ。

カリナとは戦って見たいから、頑張って勝ち進まなければならないわね。

次の対戦相手は誰だったかしら?

後ろに貼ってある対戦表を見に行けば分かるのだけれど、試合を見逃したくは無いわ。

誰が来ようと関係無いわね。

全力で叩き潰すまでよ!


「予選での借りを返させて貰うよ!」

舞台に上がると、私を待ち構えていたのは、予選で私が倒した相手だったわ…。

名前は覚えていないのだけれど、盛大に吐いていたのを思い出したわ…。

「今日も食事をいっぱい食べて来たのかしら?」

「力を出すために食って来たさ!今回はあんたが吐き出す番だ、覚悟しな!」

確かに、あの棍棒でお腹を殴られれば、私でも吐き出すでしょうね…。

醜態をさらす訳にはいかないので、さっさと倒してしまおうと思うわ。


「どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

恰幅の良い女性は、性懲りもなく棍棒を振り上げた状態で突っ込んで来たわ。

でもそれは罠よね?

棍棒を振り下ろす代わりに、私に蹴りを放って来たわ。

私の予想通りの行動をしてくれたお礼にと、蹴りを回転しながら躱し、遠心力をのせた剣を軸足に叩きこんでやったわ。

恰幅の良い女性は、その体重に棍棒の重さも加わり、ドスンと音を立てながら倒れたわ…。

流石に二度も吐かせるのは可哀そうだし、私も匂いを嗅ぎたくは無いわ。

剣を倒れた女性に突きつけて、審判に視線を向けたわ。


「そこまで!」

試合を長引かせた方が観客も喜ぶのでしょうけれど、力まかせに戦う相手とは長く戦いたくは無いのよね…。

あっさりと試合が終わったので、観客席からは勝利した私と、負けた女性の両方に文句が飛んで来ているわ。

文句を言われ、泣きながら舞台を降りて行く姿には、私も同情せざるを得なかったわね…。

お金が掛っているから仕方のない事なのでしょうけれど、戦った女性に文句を言うのを許す事は出来ないわ!

魔法を一発撃ち込めば黙らせる事は可能でしょうけれど、流石にそんな事は出来ないわよね…。

今後の課題として、エルレイに改善するよう要求するしか無いわね。

私は舞台を降りながら、エルレイに伝える改善点を色々と考えていたわ…。

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