第二百二十四話 武闘大会本戦 女性部門 その三

≪エルレイ視点≫

「エルレイさん、ルリアが勝ちました!」

「うん、でも…いつもの戦い方では無かったような気がしたな…」

「私もそう思います…」

ルリアの訓練を一番近くで見続けていたリリーでも、ルリアの戦い方に違和感を覚えたみたいだ。

ルリアが普通に戦えば、苦戦する相手では無かったと思うのだがな…。

「隣がうるさかったから、あれを気にしたのでは無いのか?」

「あぁ~、ヘルミーネの言う通りなのかもしれない…」

俺達の壁を隔てた右隣の席にラノフェリア公爵家の方々が座っていて、皆でルーティア《ルリア》の応援をしていたからな。

手段を選ばず勝つような戦い方は出来ないか…。

応援自体は、他の貴賓席に座る貴族もやっているので、ラノフェリア公爵家がルーティア《ルリア》の応援しても問題は無い。

その応援が、賭けの対象としての応援か、家族に向けての応援かの違いでしか無い。

応援と言えば、左隣の席にいるイクセル第二王子の声も大きい…。

晩餐会で話していた通り、配当率の高い方に賭けていて負け続けているみたいだな…。

イクセル第二王子は幾ら負けたとしても、お金に困っている訳ではないので気にはしないだろうが、不機嫌にはなるだろう。

八つ当たりをされたくは無いので、イクセル第二王子と出来るだけ会わない様にしようと思う…。


≪ニーナ視点≫

あたいも本戦で戦える事になったのさね。

予選で強い奴に当たらなかったのが幸いだったさね。

しかし、予選でリアネ城のメイドと戦った時は危なかったのさね…。

メイドがわざと吹き飛んで場外に落ちてくれなかったら、負けてたのはあたいだったのさね。

トリステンから、人数合わせの為にメイドが五人出場していると聞いてはいたのだけれど、あんなに強いとは聞いていなかったのさね。

メイドからは一人だけ本戦に残ったので、本戦で当たる時は気合を入れて戦わないといけないのさね。


本戦の戦いが始まる前、あたいは目だけを出して顔を布で覆い、その上から兜をかぶったのさね。

顔を布で覆うのは、暗殺者をやってた時のように気持ちを集中させるためさね。

トリステンとの結婚生活で忘れていた感覚が、徐々に戻って来たのさね…。

気持を落ち着かせ…気配を消して行き…あたいがこの場に存在していないかのように、全ての音を消し去るのさね…。

よし、元の感覚に戻ったのさね。

トリステンと結婚してから、二度とこの感覚を取り戻す事は無いと思っていたのさね。

それだけトリステンとの結婚生活が幸せで、あたいが何かしなくてもトリステンが守ってくれるからさね。

トリステンは貴賓席の隣にある、警備と審判の詰め所から見てくれているのさね。

トリステンがあたいを見つけてくれたので、手を振ってこたえたのさね。

勝ち上がって、トリステンに良い所を見せないといけないのさね!


あたいは何事も無く勝ち上がり、いよいよカリナと戦う事になったのさね。

「悪いけど、勝たせて貰うのさね!」

「私も負ける訳にはいきませんので、全力を出させて頂きます」

カリナは礼儀正しくお辞儀をし、あたいと同じようにナイフを構えて対峙した。

隙が無いのさね…。

暗殺者の時も、この様な強者とは何度も対峙したのさね。

その時は能力を使って始末するか、目標だけを倒して逃げたのさね。

今日は能力を使えず、逃げ出す事も出来ないのさね。

あたいは能力だけでは無い所を、見せてやるのさね!


≪カリナ視点≫

はぁ~。

ルリア様の要請で本戦に出場する事になりましたが、夫から怒られる事は間違いありません。

念話で定時連絡した際には何も言われませんでしたが、怒っているような気配は伝わってくる言葉から感じ取れました。

執事長の命令に背いたのですから、怒られるのは当然だと理解はしております。

ですが、ルリア様の要請が無くとも、本戦に出場するつもりでした。

理由はニーナさんです。

ニーナさんは、元ラウニスカ王国の暗殺者です。

エルレイ様の領地とラウニスカ王国は隣接しており、私達は常に暗殺者の襲撃に警戒しております。

勿論、ラウニスカ王国の暗殺者に能力を使われてしまえば、私達では太刀打ちするのは難しいでしょう。

ですが、ロゼ、リゼ、ニーナさんの三人から能力に関した話を聞いた限りでは、能力も万能では無い事が分かっています。

エルレイ様を暗殺しようとしても、近くまで接近してから能力を使う必要があります。

当然、私達は暗殺者をエルレイ様に近づかせない様に行動いたします。

その際には、暗殺者も私達に対して能力を使う可能性は低いでしょう。

ニーナさんに聞いた話によると、暗殺者の殆どがナイフしか使えないそうです。

能力を使い、高速で動くのですから、重い武器を振り回すのには相当の筋力が必要となるからです。

それと、暗殺者の訓練を教える人は剣術を使えなかったと言う事ですので、ニーナさんの戦い方を知っていれば、他の暗殺者の戦い方も分かると言う事です。

夫には理由を説明しても、武闘大会でやる必要はないとか言われそうです。

ニーナさんに頼めば、普通に戦ってくれそうなのは分かります。

ですが、武闘大会を盛り上げる必要もあるでしょう。

それに、私…いいえ、私達メイドの実力が強者の集まる武闘大会で通用するのか興味がありました。

優勝してしまえば更に夫から怒られそうですが、手を抜いて戦えばルリア様とエルレイ様からも怒られそうな気がします。

はぁ~。

メイド長になってまで怒られる事になるとは思っても見ませんでしたので、ため息もつきたくなると言うものです。

ラノフェリア公爵家に仕えていた際には、毎日怒られながら仕事をしておりました。

エルレイ様に仕えるようになってからは、怒る立場になったのですが…今後は怒るのをなるべく控えようかと思う次第です…。


武闘大会は順調に勝ち上がり…と言うより、本戦に上がって来ても強い人はいません。

あっさりと勝つ事は可能ですが、武闘大会を盛り上げるために時間をかけて苦戦しているように戦い、勝利を得なければなりません。

はっきり言えば面倒です。

これならば、甘味を毎日いっぱい食べて、少し太ったと心配しているシンシアを本戦に出場させればよかったのかも知れません。

シンシアには帰ったら痩せる様にと、仕事の量を増やさなければなりません。


やっと、ニーナさんと戦えるところまで勝ち上がりました。

私と違い、ニーナさんは対戦相手を秒殺しておりましたので、ニーナさんの方が配当率は低いみたいです。

逆に私の配当率が上がり、私の勝ちに賭けた人は大儲けするでしょう。

賭けに関しては、一応夫から説明を受けておりますが、私には関係ない事でしたので聞き流しておりました。

記憶を思い返してみましたが、私が勝って配当金が跳ね上がったとしても、エルレイ様に入って来るお金には変化はなかったと思います。

気にしても仕方ありません。

私は全力を出して、ニーナさんと戦うのみです!


お互いにナイフを使った戦い方ですが、私は主を守るメイドで、ニーナさんは暗殺者。

戦い方に大きな違いが出ることは当然です。

ニーナさんの攻撃は一撃一撃が必殺なのに対して、私は自身の身を守りつつ敵を後ろに通さない様な戦い方となります。

なので、私の防戦一方となる戦いが続きます。

今は守るべき主がいませんので、ニーナさんの攻撃を後ろに逸らしても一向に構わないのですが、これは仮想ラウニスカ王国の暗殺者戦です。

他のメイド達にも、この一戦はそれを想定して観戦しているようにと厳命しております。

ですので、私もその様な戦いをしなくてはなりません。

後ろに下がらず、ニーナさんの鋭い一撃を右手に握るナイフで受け止め、残っている左手と両足を使って攻撃し、ニーナさんを後退させます。

このままでは、私が勝利する事は難しいです…。

ニーナさんを下がらせた時点で、仮想暗殺者戦としては合格です。

主が逃げる時間を作れたのですから。

エルレイ様は逃げずに暗殺者と戦いそうですが…それでも戦う準備のための時間は稼げたのではないかと思います。

ここからは、私が勝つための戦い方をしなくてはなりません。

ニーナさんに勝つためには、ニーナさんの足を止めさせないといけないでしょう。

かなり難しい事ですが、勝利の為に頑張らなくてはなりません!

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