第二百二十三話 武闘大会本戦 女性部門 その二

≪ルリア視点≫

「相席してもよろしいかしら?」

「構わないわよ」

「ありがとう」

私達が食事をしている所に、礼儀正しい女性が相席して来たわ。

席も限られているので、相席する事は珍しくはないし、初日に慣れたわ。

まぁ、私達の席に相席して来るのは無神経な人達ばかりだったのだけれど、彼女はそうでは無いみたいね。

席に座る時から食事をする姿まで、リリーの様な礼儀正しさを感じるわ。

貴族としての礼儀作法を学んでいるのは間違いないわね。

私と同じ様に、身分を隠して武闘大会に出る人がいたのが嬉しくなり、思わず笑ってしまったわ。


「どこか可笑しかったのかしら?」

「いいえ、ごめんなさい。貴方の事を笑ったので無いわ」

「そうでしたか、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はホルフィーナと申します」

「私はルーティアよ」

お互い自己紹介を終えた所で、カリナが耳打ちして来たわ。


「ルーティア、今日一回戦で当たる相手です」

「そうだったのね」

「はい、お手柔らかにお願い致します」

ホルフィーナは、私が対戦相手だと知った上で相席して来たのね。

私も昨日貰った対戦表は見ていたのだけれど、相手の名前までは覚えていなかったわ。

全員を見た訳では無かったけれど、カリナとニーナ以外に敵はいないと思っていたわ。

でも、ホルフィーナからは強者の気迫を感じるわね…。

予選では、猫を被っていたと言う事なのかもしれないわ。

そう言えば、シンシアが剣術の優れている選手がいたと言っていたわね。

ホルフィーナがそうなのか、食後に確認しておこうと思うわ。


「お先に失礼するわ」

「はい、後ほどお会いしましょう」

ホルフィーナと別れ、戦いの準備をしに自室へと戻って行ったわ。

メイド達に防具を着せてもらい、剣を腰に差して準備が整ったわ。

結局最後まで、一人で防具を着こむ事が出来なかったわね…。

次は無いかも知れないけれど、日頃から服も自分出来るようにした方が良いかしら?

駄目ね…ロゼとリゼが許してくれそうにないわ…。

でも、リリーの身に起きた様な事が、絶対にないとは言い切れないのよね…。

エルレイにも、お父様にも、敵が多いわ…。

ロゼとリゼを説得して、少しでも一人で出来る様になっていこうかと思ったわ。


私とカリナは、選手紹介が行われる舞台へと上がって行ったわ。

昨日も行ったのに今日も行うとは、面倒な事だわ…。

でも、お金を賭けて貰うのには必要な事なのよね…。

他のメイドから聞いた話だけれど、私とカリナとニーナの一回戦目の配当率は1.1倍だそうよ。

つまり、私とカリナとニーナに賭けてもあまり儲からないと言う事よね。

予選で五勝したのが私達三人だけだと言う事だったので、この配当率になったと言う事らしいわ。

私には関係ない事だから、試合に集中しなくてはいけないわね。

でもその前に、貴賓席の方を見ておいた方が良いわね…。

エルレイ達は当然来ているし、お父様達の姿も確認出来たわ。

エルレイから念話で励まされた後、リリー、アルティナ、ヘルミーネ、ロレーナからも同じように念話で励まされたわ…。

ユーティア姉様は、まだ無詠唱が使えないので念話を送っては来なかったけれど、両手を胸の前で握り合わせている姿を見れば、心配してくれているのは良く分かったわ。

皆の励ましに応えるためにも、頑張って戦わなくてはならないわ!


私達は一度舞台から降り、戦う二名だけが舞台に残って本戦が始まったわ!

本戦に残った者同士の戦いだから、予選の時よりまともな戦いになっているし、激しいわね。

死に物狂いで相手を攻撃している姿を見れば、私でも少し怖くなって来たわ…。

しかし、戦争の時よりかは穏やかよね。

私は二度死にかけているわ。

一度目はゴーレムに叩き落され、二度目は魔剣で斬り殺される所だったわ。

その時に比べれば、大したことでは無いわね。

私の気持ちは落ち着きを取り戻し、冷静に試合を見ることが出来たわ。


「ルーティア、次はあなたの番です」

「えぇ、行って来るわ」

「行ってらっしゃい」

カリナが笑顔で送り出してくれたわ。

私が負けるなんて、思ってもいないのでしょうね。

私も負けるとは思ってはいないのだけれど、油断は出来ないわ。

私は兜をかぶり、気を引き締めて舞台に上がって行ったわ。


「ルーティア選手対ホルフィーナ選手の戦いです!

ルーティア選手は予選で無敗を誇っており、注目選手の一人です!

対するホルフィーナ選手は、予選では惜しくも一敗をしてしまいましたが、正当な剣術の使い手です!

どちらが勝ってもおかしくは無い注目の一戦です!」

私とホルフィーナの紹介が終わり、試合が始まったわ!

舞台は予選の時とは違いかなり広いので、場外に落ちる心配は無いわね。

私とホルフィーナは正面に剣を構え、お互いに斬りかかる機を窺っているわ…。

さて、私から攻撃を仕掛けてみるわ!


キン、キン、キン!

お互いの剣がぶつかり合い、火花を飛ばしているわ。

思った通り、正当な流れの剣術を使うみたいね。

でも、ソートマス王国の剣士が使う剣術とは少し違うみたいだわ。

ここは元々アイロス王国だったのだから、アイロス王国の剣術と言う事かも知れないわね。

ホルフィーナは、アンジェリカといい勝負が出来そうなくらい、真っすぐな剣術だわ。

余程いい剣士に師事を受けたのでしょうね。

だからこそ、ホルフィーナの剣筋は読みやすく、反撃する事も容易いわ!

ドスッ!

鈍い音を立てて、私の剣がホルフィーナの体に当たったわ。

でも、当たっただけよね…。

致命傷にはならないし、大した痛手を与えた訳では無いわ。

私の腕力では、皮の鎧の上から倒せるほどの痛手を負わせることは難しいわね…。

ホルフィーナも、その事は今の一撃で理解したはずよ。

防御を少し甘めにして、私を攻撃する事に集中して来たわ!


「せい!やぁ!はっ!」

ホルフィーナの防御を犠牲にした正しい攻撃が、私に次々と襲い掛かって来たわ。

おかげで、私は暫く防戦に集中せざるを得なくなったわ。

ホルフィーナに勝つのは簡単な事よ。

エルレイが私と初めて戦った時の様な事を、私が行えばいい事だわ。

でも、それを行うと卑怯だとののしられるのは間違いないわね…。

お父様たちが見ている前で、その様なことは出来ないわ。

私は切り替えて、ホルフィーナの剣を受け流す事に集中し、体力の温存をはかっていく事にしたわ…。


ホルフィーナは連撃を止め、息を整えるために私との距離を離そうとしたわ!

「そうはさせないわよ!」

私はホルフィーナとの間合いを詰め、ホルフィーナに休みを与えないような攻撃を仕掛けて行ったわ!

「くっ…」

今度は、ホルフィーナが防戦一方な状況に持ち込めたわ。

私もここで倒し切れなかったら、体力が無くなり負けが決まってしまうでしょうね。

ホルフィーナは息を切らせながらも、私の攻撃をよく防いでいるわ。

こうなってしまえば、お互いの体力が無くなった方が負けになるわ。

私の息も徐々に上がって来て、苦しくなって来たわ…。

それは、ホルフィーナも同じはずよ!

ホルフィーナも最後の足搔きとして、私に上段から力のこもった一撃を振り下ろして来たわ!


「それを待っていたのよ!」

「なんですって!?」

私はホルフィーナが振り下ろして来た剣の根本付近をめがけて、下から剣を振り上げたわ!

キンッ!

ホルフィーナの剣は甲高い音を立てながら、宙に舞い上がって行ったわ!

この技はアンジェリカから教わったもので、振り下ろされてくる剣の威力を逆手に取ったものよ。

私も教わる際にアンジェリカからやられたのだけれど、手が痺れて剣を手放してしまったわ。

この技は後の試合で使えなくなったのだけれど、ホルフィーナの実力に対して使わざるをえなかったのよね…。


「そこまで!」

「ふぅ~」

私の勝利が決まり、ホルフィーナはその場で座り込んでしまったわ…。

「いい勝負だったわよ!」

私は座り込んでいるホルフィーナに手を差し伸べたわ。

「完敗です…」

ホルフィーナは私の手を取り、二人で舞台を下りて行ったわ…。

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