第二百二十二話 武闘大会本戦 女性部門 その一
晩餐会は無事に終わり、多くの貴族達と顔見知りになれた事はよかったのだろう。
俺の領内の貴族はもちろんだが、ラノフェリア公爵の下にいる貴族達とも多少の交流を持つ必要が出て来る。
街道を繋げた結果として、人や物の行き来が活発になっているし、災害が起きた際には、お互いに協力て行かなくてはならないし、その時の為に平時から交流を持っておく必要がある。
俺としても、見知らぬ誰かを助けたいとは思わないし、相手も同じ気持ちだろう。
正直面倒ではあるが、俺の領内の民達の為にも頑張らなくてはならない事だ。
貴族達と会談していたため、リリーとユーティアがどうなったのかは分からない。
そこで、寝る前に二人に話を聞いて見る事にした。
「リリー、マルティナお嬢様から酷い事を言われなかったか?」
俺の問いに対して、何故そんな事を聞かれたのか分からないとリリーは首を傾げ、くすくすと笑い始めた…。
「…エルレイさん、笑ってごめんなさい。マルティナ姉様はとてもお優しい方でした」
「えっ?そうなのか?」
ルリアと俺には、かなり厳しい言動をしてきたマルティナが優しい?
リリーの事は信じているが、一応確認のためにユーティアに間違いないかと聞いて見た。
「マルティナ姉様はとても優しいです。ただし、その優しさが表に現れにくいのです。
エルレイは、ルリアに対して厳しく当たっているマルティナ姉様を見ていたのでしょう。
マルティナ姉様は、ラノフェリア公爵家の長女としてルリアに厳しく言い聞かせていたのですが、ルリアはあの気性ですからマルティナ姉様の言う事を聞かずに反抗していたのです」
「なるほど…」
ルリアが人から厳しく言われて大人しく従うとは思えない。
ルリアを庇うとすれば、末っ子だから上に負けまいと、あのような性格になったのかもしれない…。
と言う事は、俺に対しての言葉も、ラノフェリア公爵家の婚約者として相応しいように振舞えと言う事なのかもしれない。
俺は侯爵になったが、侯爵に相応しい振る舞いが出来ているとは思わない。
それ以前に、貴族としての基本が出来ていないんだよな…。
使用人達と同じ席で食事をしたりするもの当然駄目なのだろうが、そこは変えたくはない。
貴族として振舞うのと、人を平等に扱うのは違うと思うからな。
しかし、礼儀作法や貴族としての道徳を学び直さなくてはならないのは間違いないな…。
リリーも、ラノフェリア公爵家の一員として認められたとの事だし、俺もマルティナに怒られない様にしていかなくてはと思った…。
武闘大会本戦の朝、俺は使用人達や貴族達を闘技場に空間転移魔法で送り届けていた。
当初の予定では、貴族達にはそれぞれの馬車で向かってもらう事にしていたが、予想以上に街道が混雑していると言う事なので俺が送る事になった。
俺が送った方が早くて安全なのでいいのだが、中には遠慮する貴族もいて困る事もある。
俺の領地の貴族達は一度送っているのでそんな事は無かったのだが、それ以外の貴族が侯爵の俺に送って貰う事を遠慮して来た。
気持ちは分からなくもないが、時間も無い事なので強引に手をつかんで送り届けた。
最後に俺の家族を送り届けたのち、最後の一人を連れにリアネ城へと戻って来た。
「アドルフ、今日はお前も観戦に来てもらうぞ!」
「エルレイ様、それは事前にお断りしたはずです。
私はここにいて全体の指揮をしなくてはなりません」
「いや、その役目はマルコットに任せればいい。マルコット出来るよな?」
「はい、お任せください!」
「ほら、マルコットもこう言っているのだし、一日くらい部下を信頼して任せればいいでは無いか」
「ですが…」
アドルフは困った表情を見せていた…。
アドルフも心の中では観戦に行きたいと思っているはずだ。
何故なら、妻のカリナが本戦に出場して戦うのだからな。
恐らく、次の武闘大会にはより多くの女性が参加すると思うので、メイド達が武闘大会に参加する事は無くなるだろう。
この機会を逃せば、二度とカリナの戦う姿を見れなくなる。
なので、無理やりにでもアドルフを連れて行かなくてはならない。
「時間がもったいないから、行くぞ!」
「あっ、まだ指示が終わっておりません…」
「うるさい!マルコット、皆と協力してアドルフの代わりを立派に勤め上げてくれ!」
「はい、承知しました!」
俺はアドルフの手を握り、執務室から直接闘技場へとやって来た。
「アドルフは仕事の事は考えず、カリナの応援に集中してやってくれ」
「…畏まりました」
アドルフは観念したのか、俺の家族たちが座る席の後ろに控えた。
出来れば最前線に座らせて観戦させてやりたいが、それは無理だしアドルフも決して座らないだろう。
俺も家族の所に座り、観戦する事にした。
ラノフェリア公爵とイクセル第二王子とは別の部屋になるので、気を遣わずゆっくりと観戦できるのが良い。
「エルレイさん、いよいよですね」
「うん、ルリアの試合をしっかりと見てあげないとな」
「はい!」
闘技場の舞台では、今日参加する女性選手全員が集まっており、大会進行役のキャセラによって一人ずつ紹介されていた。
皆兜はまだかぶっていないので、ルリアの姿を探す…。
「エル、右奥にいるのがルリアではないか?」
「そうだな。髪を黒色にして束ねているので、なかなか見つけられなかった。ヘルミーネは目が良いのだな」
ヘルミーネの頭を撫でつつ、ルリアの姿を確認する。
ルリアは正体がばれない様に気を使っているのか、貴賓席の方を見ようとはしないな…。
それでも気になるのか、チラッとこちらに視線を向けてくれた。
一瞬だけだが目が合ったような気がする、
ルリアが一生懸命戦えるように応援したいが、主催者の俺が特定の誰かを応援することは出来ない。
だから、念話で一言だけ伝える事にした。
『ルリア、悔いの残らない戦いをな』
『えぇ、分かっているわ!』
ルリアから、自信に満ちた返事が返って来た。
安心して試合を観戦しなくてはならないが、その時になれば心配しながら観戦するのだろうなとは思う…。
≪ルリア視点≫
本戦の朝を迎え、私達は朝食を取りに食堂へとやって来たわ。
食堂は、多くの女性達で賑わっていたわ。
と言うのも、選手たちは武闘大会が終わる翌日まで宿泊施設を使う事が出来るわ。
本戦に出場できなかった選手も、数多く残っていると言う事よ。
そして、本戦に出場できなかった女性選手は、舞台の傍で観戦する事も可能だわ。
人数が多い男性選手は、全員が観戦する事は出来ないけれど、一部の人達は観戦できると言う事らしいわ。
勿論、お金を払えば観客席に行く事も可能だし、お金を賭ける事も出来るそうよ。
舞台傍で観戦する選手は、お金を賭ける事が出来ないので、観客席に行く選手も多いみたいね。
私達は食事を受け取り、席に座って食べ始めたわ。
「ルーティア、いよいよ本戦ですので、お互い頑張りましょう」
「えぇ、カリナとは決勝まで当たらないのが残念だけれど、そこに来るまで楽しみにしているわ」
「はい、ですが、私の所には強敵がいますので、どうなるかは分かりません」
カリナは視線をニーナが座ってる席に移したので、私もそちらを見ると、ニーナが食事をしながらカリナを睨みつけていたわ。
「そうね。ニーナはカリナの事を意識しているみたいね…」
「はい、お互い戦うスタイルが同じですので、勝てるかは戦って見ない事には分かりません」
「私は二人と戦いたかったのだけれど、こればかりはどうしようもないわね」
「そうですね…」
ニーナは、予選の時から食堂ではよく見かけていたわ。
でも、私の名前と髪の色が違うからか、一度も話しかけては来なかったのよね。
仲良く話して戦いにくくなるより、この方が良かったのかも知れないわね。
ニーナが、予選で戦っているのを何度か見る機会があったわ。
ナイフを手にして、素早い動きで相手を翻弄しながら、急所に一撃を当てると言う物だったわ。
カリナも同じ戦い方をするのだけれど、ニーナの方がより鋭さを持った攻撃に見えたわ。
流石、元暗殺者と言った所よね。
急所に一撃と言っても、実際に突き刺す訳ではなく、相手に当たった所で止めるのだけれどね。
後は、相手が降参するか、審判が勝利を言い渡してくれるのを待つだけでいいわ。
私としては、相手を叩きのめして勝利を得たいので、あまりやりたくはない手段だわ。
でも、ナイフでそれをやるのは大変だから、仕方ない事なのだけれどね。
私は、私のスタイルで戦うのみよ。
今日は私の家族も観戦に来るので、無様な戦いは見せられないわ。
その為にも、しっかりと食事を摂って置かなくてはいけないわね。
カリナ以外のメイド達は、相変わらずデザート中心の食事を摂っているので少し恨めしく思いつつ、カリナが選んだ食事を食べて行く事にしたわ…。
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