第二百十九話 晩餐会 その一

おもむきのある城だ!」

「お褒めに預かり光栄です」

イクセル第二王子はリアネ城をしみじみと眺め、その造形の一つ一つを褒めてくれていた。

俺は城の作りに関しての知識は無いが、イクセル第二王子はよく勉強しているのが分かる。

遊んでばかりいる印象だったが、王子として意外としっかりしている所があるのだと感心した。


イクセル第二王子と共に城内に入ると、イクセル第二王子はヘルミーネが作った石像を見入っていた。

「素晴らしい石像だ!あれは、ソートマス王国の国旗に描かれている竜か?」

「はい、その通りでございます」

「そうか!細かい所まで良く作られていて…これは本当に素晴らしい!」

イクセル第二王子は見る角度を変えながら、玄関に飾られている竜の石像を事細かく見ていた。

暫く見て満足したのか、俺の方に向き直って少し興奮気味に話しかけて来た、


「アリクレット、私は女性であろうと芸術品であろうと、美しいものには目が無い。

あの竜の石像を私に譲ってくれ!」

「申し訳ございませんが、お譲りする事は出来ません」

あの石像はヘルミーネが作ったものなので、王子と言えども譲る訳にはいかない。

なので、はっきりと断ったのだが、イクセル第二王子はうんうんと頷きながら俺の肩に手を回して来て、耳元で囁いて来た…。

「玄関の一番目立つ場所に飾ってあるのだから、アリクレットのお気に入りだと言う事だな。

あの素晴らしい竜の石像を手放したくないと言う気持ちも分かる。

私もただで譲れと言っているのではない。

竜の石像に匹敵するだけの物を用意しよう。

アリクレットはどんなものが望みだ?言って見ろ」

「望みと言われましても、あの石像の所有者は僕ではありません。

ヘルミーネ王女様がお作りになられた物ですので、交渉をするのであればヘルミーネ王女様にお願します」

「なんと!ヘルミーネがこれを作ったと言うのか!?

ヘルミーネに、こんな素晴らしい才能があった事には驚きだ!」

イクセル第二王子は信じられないと言った表情を見せていたが、次の瞬間、俺の肩に回していた手に力を込めながら命令して来た。


「ではアリクレット、ヘルミーネの所に案内してくれ!」

「はい、承知しました…」

拒絶するなと言わんばかりに力を込められて肩が痛いが、そんな事をせずとも案内くらいするのにな。

そして、イクセル第二王子をヘルミーネの居る所に案内して来たのだが…。


「断る!」

イクセル第二王子が挨拶もそこそこに、ヘルミーネに石像を譲ってくれとお願いしたのだが、ヘルミーネは一刀両断の元断った。

まぁ、そうなるだろうなとは予想していたが、イクセル第二王子は全く諦める事無くヘルミーネの説得に当たっていた。

「妹よ、どうしても駄目なのか?」

「駄目だ!あれは私が初めて作った物でお気に入りなのだ!」

「そうか…では、新たに作って貰う事は出来ないか?」

「それも駄目だ!次はお父様とお母様に贈る物を作る予定だ!」

「その後でも構わないぞ!」

「…私も忙しいので、いつになるか分からない。それでもいいなら作ってやらなくもない」

「勿論だとも!妹よ感謝するぞ!」

「うむ、どの様な物を作ればいいか、後日絵でも送ってくれ」

「分かった!」

ヘルミーネが後日と言ったにもかかわらず、イクセル第二王子は使用人に紙とペンを持って来させて、その場でヘルミーネに要望を伝えていた。

ヘルミーネも、作った石像を褒められて求められれば、内心嬉しくて仕方ないのだろう。

しかし、今までイクセル第二王子との仲はあまり良くなかったみたいだし、年齢も離れているので対応に困っているだけだと思う。

これを期に、二人の仲が良くなる事を願っている。


俺はイクセル第二王子をヘルミーネに任せ、執務室へと戻って来た。

今リアネ城には多くの貴族達が訪れており、その対応に追われている状況で、執務室内にいる使用人達も忙しそうにしている。

俺が自分の席に座ると、アドルフがやって来てこの後の予定を知らせてくれた。


「エルレイ様、晩餐会の準備は既に整っております」

「そうか…」

昨日までは、来客には個別に夕食をして貰っていたが、今夜は晩餐会を開く事になっている。

晩餐会では俺が挨拶をしなくてはいけないので、その事を考えると今から気が重くなって来るな…。

挨拶はアドルフ達が用意してくれた文を読むだけでいいのだが、覚えるのが大変だ…。


「武闘大会の本戦出場者の名簿と対戦表が出来上がりました」

俺の前に男性部門と女性部門の出場者名簿が置かれ、俺はそれを手に取って目を通した。

俺は女性部門の出場者の方を見て、ルリアの名前があるのを見て安心した。

他に見知った名前は、メイド長カリナとトリステンの妻ニーナだな。

カリナとニーナはルリアとは反対の方になり、決勝まで勝ち上がらないと当たる事は無いみたいだな。

その三人以外にも強者はいるだろうし、ルリアが勝ち残れるかは分からない。


「女性部門ではルーティア、カリナ、ニーナの三人が身内だな」

「はい、申し訳ございません…」

俺が女性部門の出場者の名を上げると、何故かアドルフが謝罪して来た。

本戦に出場したメイドが、カリナだけだったから謝罪したのか?

「まぁ、カリナ以外本戦に出場できなくて残念に思うが、僕が無理を言ってお願いした事なので、怒らないでやってくれ」

「いいえ、その逆でございます」

「えっ?」

「その…メイド達には本戦に勝ち進まないように指示を出していたのですが、私の妻が命令を無視してして本戦に勝ち残りました」

アドルフは、カリナが勝ち残った事に対して謝罪しているみたいだ…。

「何故そのような指示を?」

「はい、指示を出さないと全員勝ち残ってしまいます」

「そうなんだ…」

カリナ達メイドは、ある程度戦えるとは聞いていたが、指示を出さなくてはならないほど強いのか?

と言う事は、本戦に勝ち残ったカリナが優勝してしまうとでも?

「でも、辞退させる訳にはいかないし、本戦で手を抜くような真似はさせるなよ!」

「承知しております」

本戦では賭けが始まるので、不正をさせる訳にはいかない。

その事はアドルフも十分理解しているだろうが、カリナに対して優勝しない様にと指示を出しかねない。

現に、本戦に出場しないように指示を出していたくらいだからな。

念の為、カリナにも手を抜かない様に念話で伝えておいた方が良いか?

いや、そこまでする必要はないだろうし、俺がアドルフを信用していないと思われたくも無い。


「エルレイ様、そろそろ準備のお時間です」

「もうそんな時間か…」

執務室で仕事をしていると、ロゼが呼びに来てくれた。

晩餐会が始まるまではまだ時間があるが、着替えなくてはならない。

ロゼと共に自室に戻ると、リリー達は既に美しいドレスに着替えていた。

俺は、テーブルの席に座って寛いでいるリリー達の元へ向かおうとしたが、ロゼに着替えが先ですと言われて奥に連れて行かれてしまった…。

婚約者の美しい姿を愛でるくらい許して貰いたかったが、時間が無いのは確かだ。

ロゼとリゼが慣れた手つきで俺の裸にし、用意していた服に着替えさせていく。

今日は紺色の服だが、刺繍が派手だ…。

下地が紺だから、余計に金銀の刺繍がやけに目立つな。

でも、晩餐会の主役は俺だし、仕方のない事だと諦めた。


「エルレイ様、とても美しいです!」

「美しいとか言われてもな…」

リゼが着替え終わった俺を褒めてくれているのだろうが、せめて格好いいと言って欲しかったと思う。

「いいえリゼ、私は可愛らしいと思います!」

「ロゼもか…」

二人の感想は置いといて、鏡に映った自分の姿を改めて確認した。

領胸には、それぞれ金と銀の花が刺繍されていて、服は確かに美しい。

しかし、普通過ぎる俺の顔には似合ってない様に思えるて来るな…。


着替え終わったのでリリー達の所に行き、ドレス姿を褒めてあげようと思ったのだが…。

「エルレイ、今日は一段と可愛い!」

「アルティナ姉さん、ドレスが皺になってしまいますよ…」

「そんな事はどうでもいいのよ!」

アルティナ姉さんは、ドレスが皺になるのも気にせずに俺を抱きしめて来た。

アルティナ姉さんに抱きしめられると心が落ち着くので、暫くこうしていたいとは思うが、時間まり無いのも事実。

「アルティナ姉さん、時間が無いので終わってからお願いします」

「そうね…」

アルティナ姉さんが俺から離れると、メイド達が一斉にアルティナ姉さんを取り囲んで、ドレスや髪の乱れを手直ししていた…。

俺は皆のドレス姿を褒めながら、晩餐会までの時間を過ごして行った。

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