第二百十八話 お出迎え
予選三日目の試合は午前中で終わり、午後からは予選通過者を舞台に上げて発表会を開く事になっている。
本戦では勝者を予想する賭けも行われる。
男性部門の予選では選手の名前は呼ばれておらず、午後の発表会で名前が初めて明かされる。
女性部門は名前を呼んでいたが、歓声で聞き取れなかった者もいるだろう。
午後の発表会で選手の名前と顔を覚えて貰い、明日からの本戦で望みの選手にお金を賭けて貰うと言う事だ。
「アドルフ、配当率はまだでていないのか?」
「はい、闘技場の方で作成中です。急がせた方がよろしいでしょうか?」
「いいや、その必要はない。明日の販売前までに出ればいいのだからな」
賭けの管理は全て闘技場の方で行っていて、アドルフの部下二人を指導役として送っているだけだ。
大きなお金が絡む場所だから、管理はアドルフの部下に任せたかったが人数が足りず、新たに雇った人員だけで行っている。
慣れない作業で手間取っているのだろうし、急がせるのは可哀そうだからな。
午後から俺は、一人でラノフェリア公爵家を訪れていた。
ラノフェリア公爵家の家族全員が、武闘大会の観戦に来てくれるそうだ。
俺はラノフェリア公爵家の使用人達が用意していた大量の荷物を預かり、その後でラノフェリア公爵達をリアネ城へと連れて来た。
「ふむ、立派な城であるな!」
「そうですね」
「ふんっ、ミエリヴァラ・アノス城の様な美しさはありませんわね!」
ラノフェリア公爵一家がリアネ城を見上げて感想を言ってくれる中で、長女マルティナだけが不機嫌そうな表情を浮かべて文句を言っていた。
確かに、ミエリヴィラ・アノス城の方が美しいのは間違いない事だが、俺の前で言う必要は無いだろう。
マルティナはルリアとは仲が悪いし俺も好かれてはいないが、ルノフェノとも和解出来た事だし、マルティナとも仲良く出来るようになれたらいいとは思っている。
なので、俺は笑顔を崩さず、マルティナもリアネ城内へと案内して行った。
城内では、リリーとユーティアがラノフェリア公爵家を出迎え、城内の案内役を行ってくれた。
俺は預かった荷物を取り出し、一緒に連れて来たラノフェリア公爵家の使用人に渡した。
これで俺の役目は終わったと安堵した所で、ラノフェリア公爵が話があると、皆から少し離れた場所に連れて行かれた。
「エルレイ君、すまないが、もう一人迎えに行っては貰えぬか?」
「はい、ルノフェノ様でしょうか?」
ルノフェノはラノフェリア公爵家を出て行っているので、今連れて来た中にはいなかった。
なので、ルノフェノも連れてくるように言われるのかと思ったのだが、違っていたみたいだ。
「ルノフェノは、既にこちらに向かって来ているはずだから、その必要はない」
「では、どなたを迎えに行けばよろしいのでしょうか?」
「うむ、イクセル第二王子だ」
「えっ!?」
俺はラノフェリア公爵の前だと言うのに、驚きの声を上げてしまった…。
「うむ、驚くのは無理はないが、イクセル第二王子とは和解したのだ」
「和解ですか?」
「そうだ、ルフトル王国との和平が成立した事で、イクセル第二王子は王位継承権を放棄したからな」
「そうなのですね…」
あの第二王子が王位継承権を放棄した事に対して、さらに驚愕した。
俺はてっきり、ポメライム公爵と一緒に別の方法で王位を狙っていると思っていたのだが…。
「イクセル第二王子の後ろ盾がいなくなったのでな」
「ポメライム公爵様がですか?」
「うむ、ルフトル王国との戦争の可能性が無くなり、エルレイ君以上の手柄を上げる手段が無くなった。
ラウニスカ王国がこちらに攻め込んでくるのであれば、まだ可能性は残されてはいたが、その可能性はほぼ無い。
よって、ポメライムはイクセル第二王子を捨て、ヴィクトル第一王子に乗り換えた」
「それは、ちょっと可哀想な気もします…」
理由はどうであれ、見捨てるのはどうかと思う。
俺が甘いだけなのかもしれないが、ポメライム公爵をより嫌いになった事は間違いない。
「可哀そうか…。しかし、私とて同じ状況であれば、そうせざるを得ない。
ポメライムも私同様に多くの貴族を従えていて、その者達を不幸にする訳にはいかん。
エルレイ君も上に立つ立場なのだから、時と場合によっては感情より優先しなくてはならない事があるのは知って置かなくてはならないぞ!」
「はい…分かりました…」
「うむ、エルレイ君が大人になるまでは私とネレイトで支えて行くからな」
確かにラノフェリア公爵の言うう通りなのだが、俺には
上に立つなんて、俺には荷が重すぎるんだよな。
でも、そうなって行かなくてはならない立場ではあるし、この立場を捨てる事も出来ない。
大人になるまで数年の猶予はあるので、それまでに心を強くしていく他ないな…。
「イクセル第二王子だが、王位継承を放棄する代わとして一生遊んで暮らせる生活を望み、それが受け入れられた。
その様な理由で、イクセル第二王子は比較的自由に行動する事が許されている」
一生遊んで暮らせるのか…。
ここに転生して来た直後は、魔法を使って楽しく生きて行けたらと思っていたので、遊んで暮らせると言うのであれば羨ましく思っただろう。
今となっては、婚約者達に不自由のない生活を行って貰うために頑張ろうと思っている。
何しろ、数年後には夢のハーレム生活が待っているのだ!
その為に今苦労していると思えば、やる気も湧いて来る!
おっと、ラノフェリア公爵の前で妄想していては、表情が不味い事になる。
気を引き締めなおして、行動に移る事にした。
「分かりました。では今からイクセル第二王子様をお迎えに行って参ります」
「うむ、手配は既に済ませておる」
「はい、ありがとうございます」
ラノフェリア公爵と別れ、俺は王都のラノフェリア公爵家別邸へとやって来た。
ラノフェリア公爵の言葉通り、すぐさま用意された馬車でお城に向かい、イクセル第二王子の部屋へと通された。
「来たか!」
「大変お待たせいたしました」
イクセル第二王子は、俺が入室した途端に笑顔で近づいて来てくれた。
俺はてっきり、イクセル第二王子に味方しなかった事に対して、文句の一つも言われるかと覚悟をしていたのだがな。
王位継承を放棄した事で、そんな事はどうでもよくなったのかも知れない。
まぁ、俺からそんな事を聞いて怒らせては面倒なので、さっさと連れて行く事にしよう。
「お一人でしょうか?」
「そうだが、あぁ、私の世話をする者は連れて行くぞ!」
「いいえ、ご家族はご一緒では無いのかと…」
「家族だと?家族を連れて行けば私が自由に楽しめないではないか!いいからさっさと行くぞ!」
「はい、承知しました」
イクセル第二王子の家族とは会った事は無いが、深く追求しない方が身のためだな…。
俺はイクセル第二王子を連れてお城を出て馬車に乗り込み、近衛騎士に護衛されながらラノフェリア公爵家別邸へとやって来た。
そこから空間転移魔法を使い、イクセル第二王子をリアネ城へと連れて来た。
「話には聞いていたが、これはとても便利な魔法だな!
今後も使わせて貰おう!」
「忙しくない時でしたら…」
イクセル第二王子に空間転移魔法を気に入られてしまい、俺は今後便利な足代わりにされる事が決定したみたいだ…。
断る事は出来たのだろうが、ポメライム公爵に見捨てられた話を聞いていたので、同情してしまった感はある。
そうだ、これを期に、ミエリヴァラ・アノス城にも俺の転移先を作って貰えないかと頼んでみると、イクセル第二王子は快く引き受けてくれた。
直接お城に行けなくて不便に思っていたんだよな。
転移先を作って貰えれば、国王に呼ばれた時や、イクセル第二王子を迎えに行く時も楽になるからな。
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