第二百十七話 武闘大会予選 その六

≪マリー視点≫

今日もエルレイ様と手を繋ぎ、闘技場へとやって来た。

手を繋いでいる時間は短かったけれど、今もエルレイ様の手の温もりが残ってる。

マリーはエルレイ様と手を繋いでいた右手を胸に当て、左手で右手を覆ってエルレイ様の温もりを逃さない様に体に閉じ込めた。

胸が温かくなり、とても幸せを感じる…。


「マリー、いつまでそうしてるのよ!」

「あっ…」

エレンがマリーの左腕をつかみ、戦いの舞台が見える席まで引っ張って行かれた…。

折角エルレイ様との幸せな気分に浸れていたのに…。

でも、仲間の応援はしないといけない。

マリーは右手が無かったから、皆にはいっぱい、いっぱい、迷惑をかけた。

だから、皆にはマリーの出来る範囲でお礼をしたい。

でも、マリーが皆にしてあげられる事はあまりないので、頑張って応援しないと!


「昨日は、ラルフ、フリスト、オスカルが戦ったから、残りはエリオットとトーマね」

「うん、お兄ちゃん勝てるかなぁ?」

「どうだろう?エリオットはアンナの事になると凄いけれど、それ以外はぱっとしないのよね…」

「マリーもそう思う…」

「そうかな?」

アンナは首をかしげているけれど、皆はエリオットがアンナを一番大切にしている事を知ってる。

エリオットはアンナが関係していない事だと、何をやっても普通以下。

アンナが関係している事だと、何でも出来てしまう。


「エリオットは、そろそろアンナから離れるべきよね!」

「リアネ城に来てから、お兄ちゃんとは離れていると思うけど?」

「そういう意味じゃないのよ。エリオットも好きな女の子を見つけないといけないって事よ!」

「あーそうだね。でも、マリー以外に女の子はいないよ?」

「そうなのよね…」

エレンとアンナがエリオットの話で盛り上がっていたのに、いつのまにかマリーの恋人の話になっていた。


「マリーはエリオット、トーマ、フリストの誰が好きなの?」

「マリーは…エルレイ様が大好き…」

アンナがマリーの好きな人を聞いて来たから、エルレイ様と答えたのだけれど…。

アンナとエレンは二人そろって首を横に振り、真剣な表情でマリーを説得して来た。


「いい!エルレイ様は私達を救って食事と仕事を与えてくれた恩人だけれど、私達とは住む世界が違うの!」

「いくらマリーが好きでも、結婚は出来ないよ!

だからね、三人の中から誰かを選んで好きになった方が良いよ!」

「でも…マリーはエルレイ様が好き…」

「「諦めなよ」」

二人が言っている事は分かるけれど、マリーが好きなのはエルレイ様だけ。

エリオット、トーマ、フリストの事は好きだけど、エルレイ様とは違った好きだとおもう。

エルレイ様の事を考えていると胸が熱くなって来て、とても幸せな気分になる。

三人の事を考えても、そうはならない。


「マリーは、エルレイ様以外を好きになる事は無いと思う。

結婚できなくてもリアネ城で働ければ、ずっと一緒にいられるからいい!」

「「はぁ~」」

二人はがっくりと頭を下げ、大きなため息を吐いていた。

誰が何を言おうと、この気持ちが変わる事は無いと思う。

エルレイ様から頂いた右手を優しく撫でていると、エレンが優しく話しかけて来た。


「マリー、私達が正式採用されるまで黙ってようと思ったけれど、マリーの気持ちが変わらないのであれば教えてあげるよ。

ラウラさんに聞いた話だけれど、エルレイ様とずっと一緒にいられる方法はあるのよ!」

「本当!エレン、教えて!!」

エルレイ様とずっと一緒にいられると聞き、私はとても嬉しくなってエレンの手を握ってお願いをした。

「エレン、その方法はマリーには難しいと思うよ…」

アンナも知っているの?知らなかったのはマリーだけなの?

今はその事はどうでもよくて、早く方法を教えてほしくて無意識のうちにエレンの手を強く握りしめていた。


「マリー、痛いわよ…」

「ごめんなさい…」

握りしめた手から力を抜き、エレンの目を見つめると、エレンもマリーの目を真っすぐ見つめて来た。

「正式採用されるのは必須よ!その後でアルティナ様かロレーナ様お付きのメイドになるのよ!」

「分かった。マリーはお付きを目指す!」

「マリー、分ってるの?お付きのメイドは一番優れていないといけないし、アルティナ様とロレーナ様に好かれていなくてはならないんだよ?」

「そのくらい、マリーも教わったから知ってる!」

アンナが心配して声を掛けてくれたのだけど、私は大声を出して反論してしまった…。

「アンナ、大声を出してごめんなさい…」

「ううん、気にしなくていいよ」

アンナに謝ると、アンナは私を優しく抱きしめてくれた。

「マリーがお付きになれるように私も手伝うから、一緒に頑張ろうね」

「うん!」

「私も手伝うわよ!」

「エレンもありがとう」

マリーはメイドとして、アンナとエレンより優れていないのは知ってる。

右手を使えなかった時間が長すぎて、何をするにも二人から遅れてしまう。

正式採用の試験は、武闘大会が終わってからだと言われたので試験までの時間は短いけれど、一生懸命頑張ろうと思う。


「さぁ、戦いが始まるみたいね。エリオットとトーマを見つけて応援するよ!」

「そうしましょう!」

「うん!」

エルレイ様の傍にいるために、マリーがしなくてはならない事は分かったし、エリオットとトーマの応援に集中する事にした。


≪エリオット視点≫

俺の戦う番がやって来た。

皆から情報を教えて貰っているので、少しは有利なのかもしれない。

「誰かと組むのがいいっす!」

トーマは見知らぬ人と組んで戦ったようだが、それが出来るのは誰にでも好かれるトーマだからだと思う。

でも、せっかくトーマが教えてくれた情報だし、俺も試しに声を掛けてみる事にした。


「あの、ちょっといいですか?」

「ああん?なんだガキ!」

近くにいた人に声を掛けたのだけれど、思いっきり睨まれてしまい、ちょっと怖い…。

でも一度声を掛けたのだし、強そうな人だから組めたらいいと思い、話をつづけた。

「俺と一緒に戦いませんか?」

「ああん?てめーみてーな弱そうなのと組んだら、俺様が損するじゃねーか!

他所に行きな!」

「あ、はい、すみません…」

俺はしっしっと、追い払われてしまった。

今のやり取りを見ていた人達が、俺を追い払った人に俺と同じように声を掛けていた。

どうやら俺は、誰とも組めないのかもしれない…。


「真ん中にいると囲まれるので、舞台の端にいた方が良いと思います」

フリストからの助言を思い出し周囲を見てみると、半数くらいの人が舞台の端に立っていた。

落とされる危険は高くなるけれど、囲まれるよりましなのかな?

俺は空いている場所を探し、舞台の端に立った。

後ろには下がれないが、背中を気にしなくていいのは助かる。


試合が始まると、舞台の中の方にいた人達が、一斉に舞台の端にいた人達に襲い掛かった!

当然俺の所にも襲い掛かって来たのだが、一人では無く二人組が襲って来た!

俺は一人目の剣を受け止めたが、二人目の剣は体に当たってしまった!

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

俺はあっという間に舞台の外に落ち、失格となってしまった…。


「お兄ちゃんの馬鹿ぁぁぁぁっ!」

あぁ…舞台の下に落ちた俺に、アンナの声が突き刺さって来た…。

アンナにいい所を見せられず落ち込んでしまい、俺はアンナの顔を見ることが出来ず、そのまま闘技場から逃げるように立ち去って行った…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る