第二百十六話 武闘大会予選 その五
≪エルレイ視点≫
午後もゆっくりと観戦したかったが、来客の対応に追われる事になってしまった…。
午前中にリアネ城に到着した貴族達が、武闘大会見たさに駆けつけて来たからな。
なので、貴族達も短い挨拶を交わした後は、観戦に集中してくれるので長話をしなくて済むのは良いのだが…。
「エルレイ様、ハーゼ男爵様がいらっしゃいました」
次々と押し寄せて来るので、観戦できない状態が二時間ほど続いてしまった…。
やっと観戦できると席に着いたのだが…。
「エ、エルレイ、ルリアの試合は終わってしまったのじゃ…」
「そ、そうか…それは残念だな…。それでルリア、いや、ルーティアは勝ったのか?」
「一瞬で終わってしまい面白くなかったぞ!」
「予選だから仕方ないよな…」
ヘルミーネとロレーナは、途中から挨拶を抜け出し観戦に戻っていた。
まぁ、今日は子爵と男爵しか来ていなかったから、王女の二人がいると相手もかなり気を使っていたんだよな。
二人がいなくなった後の挨拶は円滑に進んでいたから結果的には良かったが、明日からはリリーを連れてきた方がいい様な気がした。
ルリアの試合が見れなかったことは非常に残念だが、余程強い相手と当たらない限り苦戦はしないだろうとは思っていた。
明日もルリアの試合を見られないかもしれないが、本戦は見られるはずなので、ルリアが本戦に出られるように願うしかない。
≪ルリア視点≫
「ルーティア、そろそろ試合みたいですよ」
「その様ね」
係員から私の名前を呼ばれ、闘技場へと入って行ったわ。
カリナも舞台の入り口まで付いて来てくれて、そこから見守ってくれているわ。
私の番が来るまで、舞台の傍で待つ事になったわ。
女性部門は、一対一の試合を予選の三日間の間に五試合行う事になっているわ。
五勝すれば問題なく本戦には出られるけれど、カリナの話では四勝でも本戦には出られるそうよ。
私は優勝を目指しているので、予選と言えども負ける気は無いわ!
それに、エルレイの前で無様な姿を見せられないわ!
私はエルレイの姿を探すために、貴賓席を見上げたわ。
ヘルミーネとロレーナの姿を見つけたけれど、エルレイはいないわね…。
貴賓席の下の階には多くの貴族が観戦に来ていたから、エルレイは挨拶をして回っているのでしょうね。
ロレーナが手を振ってくれたので、思わず手を上げそうになったわ…。
今の私は平民のルーティアなのだから、貴賓席に座るロレーナには申し訳ないけれど、応えてあげることは出来ないのよね。
『ロレーナ、今の私は念話でしか応えられないけれど、頑張って戦うから見ていて頂戴ね』
『き、気にしなくていいのじゃ。ヘルミーネと一緒に応援しているから頑張ってくれなのじゃ』
『ありがとう』
ロレーナの声を聞き、落ち着いて来たわ。
私の名前が呼ばれ、舞台へと上がったわ。
「あんたがあたいの相手かい!悪いけれど勝たせてもらうよ!」
私の初戦の相手は、大きな棍棒を担いだ恰幅の良い女性だったわ。
棍棒には布が巻かれていて、当たってもそこまで痛くは無いと思うけれど、当たれば吹き飛ばされる事は間違いないわね。
舞台から落ちれば負けてしまうので、棍棒に当たらない様に注意しながら戦うしかないわ。
「試合開始!」
「どぉりゃぁぁぁぁぁぁ!」
恰幅の良い女性は、その体に似合わず素早い動きで私との間合いを詰めて来たわ。
でも、棍棒を大きく振り上げた状態では、胴体ががら空きよ…。
私は横一線剣を振りぬき、恰幅の良い女性の胴体に撃ち込んでやったわ!
「うっ、ぐっ…ぐぇぇぇぇぇぇ…」
恰幅の良い女性はその場でうずくまり、口から食べたものを吐き出していたわ…。
昼食をお腹いっぱい食べたのでしょうね。
吐き出す量が尋常では無いわ…。
私は舞台の端まで下がり、審判に視線を送ったわ。
「しょ、勝負あり!」
審判も吐き続けている女性には近寄りたくは無いのでしょうけれど、容体を確認しに行っていたわ。
匂いも漂って来た事だし、私はさっさと舞台を下りてカリナの所に戻って行ったわ。
「ルーティア、お見事でした!」
「あんな相手に勝っても嬉しくも無いわ」
「そう…ですね。次は強い相手に恵まれる様に願っています」
「私もそう願いたいわ!カリナはこの後よね、ここで待っているわ!」
「はい、ですが…もう少し時間が掛かりそうですけれど…」
「そうね。私のせいでもあるから気にしないで待つことにするわ」
「すみません…」
舞台上では、恰幅の良い女性が吐き出した物の清掃作業が行われているわ。
あれが終わらなければ次の試合を行えないし、次に戦う人たちに対して申し訳なく思ったわ…。
この日は一試合のみで、二日目と三日目に二試合ずつ戦ったわ。
結果として私は五戦全勝で終えることが出来たのだけれど、私と戦った五人とも大した腕では無かったので当然の結果よね。
アンジェリカ程の腕があれば、私といい勝負が出来たと思うのだけれど…。
アンジェリカにも出場するようにと要請はしたのだけれど、妊娠していると言う事で断られたわ。
アンジェリカは、出場できない事を非常に残念がっていたのだけれど、子供が産まれて落ち着いたら是非とも参加したいと言っていたわね。
その時まで武闘大会が続いているように、私も今回頑張って武闘大会を盛り上げ、観客が今後も来てくれるようにしなくてはならないわね!
私は無事に予選を通過し、カリナとニーナも予選を通過したわ。
他に強そうな女性は何人かはいたけれど、私達の敵ではなさそうに思えたわ。
そう言えば、カリナ以外のメイド達は、わざと負けるのに苦労したと愚痴をこぼしていたわ。
武闘大会がリアネの街で初めて開催されたのだから、出場選手層に幅があったのは仕方のない事よね。
次からは強い人が来てくれることを、願わずにはいられないわ…。
≪トーマ視点≫
「今日はおれとエリオットの番っす」
「そうだな、お互い頑張ろう!」
一日目は、おれとエリオットの出番は無かったっすけど、二日目に順番が回ってきたっす。
一日目を終えてラルフだけが勝ち残り、オスカルとフリストは負けたっす。
五十人と戦って最後の一人にならないといけないっすから、かなり大変なのは間違いないっす。
おれはラルフの様に強くないっすから、勝ち抜けられるか微妙っす。
でも、負けるとアドルフさんにしごかれそうっすから、全力で勝ちに行こうと思うっす!
エリオットより先におれが呼ばれ、戦いの舞台に向かって行ったっす。
「みんな強そうっすね…」
「そりゃーな、坊主みたいにひょろっとしている奴は直ぐ狙われるぞ!」
「やっぱそうっすかね?」
「そうさ!」
おれの独り言に、隣にいた体格のいいおじさんが笑顔で答えてくれたっす。
良い人みたいっすから、おれもおじさんに笑顔をみせたっす。
「いい笑顔だな!よし、おじさんと組まねーか?」
「いいんっすか?」
「いいって事よ!その代わりおじさんの背中を守ってくれよな?」
「了解っす!任されたっす!」
おれはおじさんに気に入られたみたいで、一緒に戦う事になったっす。
舞台に上がり、戦いが始まったっす!
「想像以上に怖いっすね…」
「油断するんじゃねーぞ!」
「はいっす!」
おじさんが言った通り、おれは常に誰からか攻撃を受け続けることになったっす。
でも、アドルフさんの様な強い人はいないっすね…。
「坊主、なかなかやるじゃねーか!」
「おじさんも強いっすね!」
「まぁな、これしか取り柄が無いからよっと!」
おじさんはおれと気軽に話ながら、近寄って来た相手を叩き斬っていたっす。
「ふぅ~、だいぶ減って来たな!」
「残り八人っすね」
「違うぞ、坊主を入れて九人だ!」
「そうっすけど、おじさんは最後までおれを攻撃しないっすよね?」
「ん?どうしてそう言える?」
「おじさん、いい人っすからね!」
「わははははは、では、最後の一人になるまで協力するとするか!」
「了解っす!」
おじさんは約束通り、最後までおれと協力してくれたっす。
「さて坊主、正々堂々勝負だ!」
「望むとこっす!」
おじさんとの長い真剣勝負の末、おれはギリギリ勝つ事が出来たっす!
「おじさん、手を抜いたっすよね?」
「そんな事は無いぞ!坊主の最後の一撃は見事なものだったぞ!」
おじさんはそう言ってるっすけれど、おじさんが力を抜いてくれなかったら、倒れていたのは俺の方だったっすね。
最後の一撃はおれの首を
そうなれば、おじさんの反則負けっすから、勝負としてはおれの勝ちっすけれど、実戦だとおれは死んでいたっす…。
「坊主名前は?」
「トーマっす!」
「トーマか、おじさんの名前はデイモンドだ。また戦えるのを期待しているぜ!」
「デイモンドさん、協力ありがとうっす!」
デイモンドおじさんは、俺に背中を向けながら手を振りながら去って行ったっす。
勝ち残る事は出来たっすけど、おじさんのお陰っすね。
おれはおじさんに感謝しながら、皆の所に戻って行ったっす。
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