第二百十五話 武闘大会予選 その四
≪フリスト視点≫
「僕…負けてしまいました…」
治療を受けた後、皆の所に戻り結果を報告しました。
「最後の一人に負けたのなら仕方がない。よく頑張った!」
「そうっす!だから泣くのを止めるっす!」
「フリストは、この中で誰よりも頭がいい!
そっちを伸ばした方がエルレイ様の役に立てると、アドルフさんも言ってただろう!
だから泣くな!」
「フリスト、賢い!」
「でも…でも…勝ちたかったです…」
皆に慰められると余計に悔しくなり、涙が止まりません…。
でも、いつまでも泣いてばかりでは皆に余計に気を使わせてしまいます。
僕は腕で涙を拭い、皆に笑って見せました。
「皆、ありがとうございます!」
「気にするな。仲間だからな!」
「そうっす!」
「そうだぞ!フリストの分まで俺が頑張るから応援してくれ!」
「フリスト、偉い!次、俺の番!」
「オスカル、頑張って来てください!」
「行って来る!」
オスカルは、僕の頭を撫でてから闘技場に向かって行きました。
オスカルは僕達の中で一番力が強いので、きっと勝ってくれると思います!
≪エルレイ視点≫
「あぁっ!フリストが負けてしまったぞ…」
フリストが最後の一人に負けてしまった直後、ヘルミーネが悲鳴を上げていた。
フリストは倒れたまま運ばれて行ったので、ヘルミーネも心配している。
お腹を蹴られただけだから、一時的に呼吸困難に陥ったのだろう。
でも、一つ間違えれば死ぬ危険はあった…。
蹴りの前の一撃も、容赦なく首を狙ったものだったからな。
「エル!あれは反則では無いのか!?」
「フリストに当たっていれば反則負けだけれど、フリストの技量を見越しての一撃だったと思うので、ギリギリ反則では無いかな?」
「しかし、あいつは危険だぞ!本戦でラルフに当たれば同じような事をするのではないのか?」
「そうなるかも知れないな…」
「やはり、反則負けにするべきだ!」
ヘルミーネの目に間違いはなく、あの選手は危険な行為を続けるのは間違いないだろう。
安全な武闘大会を目指す以上、ヘルミーネの言う通り反則負けにした方が良いが、それを判断するのは俺では無く、現場にいる審判の判断に任せるしかない。
審判は警備隊員の中から選ばれているので、判断を間違える事は少ないと思う。
危険な攻撃が技量の劣るものに行われていたら、審判は反則負けにしただろう。
それに、今までバトルロイヤルを勝ち抜いた者に、あの攻撃を躱せない者はいないと思う。
だから心配しない様にと、興奮しているヘルミーネを落ち着かせながら説得した。
≪オスカル視点≫
俺、皆の中で一番力が強い。
でも、一番頭が悪い。
頭のいいフリスト、俺、羨ましく思う。
お城に連れて来られてから、一番エルレイ様の役に立っているの、フリスト。
力だけの俺、役に立ってない。
だから、武闘大会で勝って、役に立つ。
両手に剣を一本ずつ握りしめ、闘技場の舞台に立つ。
「二刀流とはすげーな!」
「やばそうだ、お前あっちに行け!」
「おれもいやだぜ!」
俺から皆離れていく。
俺、そんなに器用ではない。
二本持っているのは、力任せに振るうのに丁度いいから。
「オスカルは不器用過ぎて、剣で戦うのには向いていません。
どうしても戦う必要が出て来た場合は、相手をつかんで離さないようにするか、近くにある物を振り回して近寄らせないようにしてください」
アドルフさん、俺にそう教えてくれた。
だから剣二本で、近寄らせない。
皆離れてくれた。
これでいい。
試合始まっても、誰も近づいて来ない。
最後まで残れそう。
「オスカルーーー!頑張ってーーーー!!」
アンナの声聞こえ、声の聞こえた方を向くと、アンナ達が俺を応援してくれていた。
俺、頑張る!
走り出し、立っている者に力任せに剣を振るう。
俺の剣、防がれるが、防がれても、力で相手を吹き飛ばす。
何人か吹き飛ばして行った。
ガキーン!
「儂に力任せは通用せんぞ!」
俺の剣、受け止められた!
いくら力を込めても、相手はびくともしない。
もう一本の剣も叩きつけると、ひらりと躱され間合いを離された。
「ふぅ、片手で儂と互角とは恐れ入ったぞ。
だがそれだけだ。
剣術は未熟のようだな!
儂が剣とは何かを教えて進ぜよう!」
そこから、相手の連撃が始まった。
俺、二本の剣を必死に振り回したが、効果は無い。
アドルフさんと同じ…。
「そらそらそら!」
俺の体に剣が当たり、痛い…。
俺、ラルフの様に痛みを我慢できない。
徐々に動けない様になり、膝を付いた…。
「降参」
「うむ、潔し!」
俺、舞台を下り、治療を受け、仲間の元に戻った。
「負けた」
「そうか…」
「えーと、僕と同じです」
「運が無かったな…」
「ちょっ!オスカルが負けるとか、どんな強い奴だったっすか!?」
「とても強かった。アドルフさんと同じくらい」
「それやばいっす!誰も勝てないっすから、気にしない方が良いっす!」
トーマ、いつも明るくて皆を元気にしてくれる。
今も、俺、元気づけようと笑顔を向けてくれる。
「トーマ、感謝!」
戦い負けて、お役に立てなかった。
でも、気持ちはすっきりしている。
アドルフさんの言った通り、俺、戦い向いてない。
力だけはある。
俺、役に立てること、アドルフさんに教えて貰おうと思った。
≪アンナ視点≫
「あーん、オスカルが負けちゃったよ!」
私の大好きなオスカルが負けて、悲しくなっちゃった。
「よしよし…」
「マリー、ありがとう」
マリーが私を抱きしめて優しく慰めてくれた。
マリーは本当に優しくていい子。
「オスカルは情けないよね、あんなのに負けるなんてね!」
「オスカルは情けなくないもん!」
エレンがオスカルに文句を言うから、言い返してやった。
エレンはマリーと違ってちょっと意地悪…。
でも本当は、エレンもオスカルの心配しているんだよね…。
エレンも、オスカルの姿が見えなくなるまで目で追いかけていたからね。
私達はどんな事があっても、最後まで仲の良い仲間だと思うよ。
私が病気になった時も、皆から色々優しくして貰ったからね。
「後は、お兄ちゃんとトーマだけだね」
「勝ち残ったのがラルフだけだと可哀想だから、二人にも頑張って貰わないとね」
「トーマはちょっと心配だけど…エリオットはきっと勝ってくれるよ」
「二人が出てきたら皆で応援しようね」
「うん」
「マリーも応援する」
お兄ちゃんとトーマに勝って貰うために、三人で応援してあげようと約束した。
≪エルレイ視点≫
「エルレイ様、昼食の用意が整いました」
「ありがとう」
気が付けばいつの間にか昼になっており、ロゼから昼食だと言われ、後ろの部屋に入って昼食を頂く事にした。
「むっ、ロゼとラウラは一緒に食べないのか?」
ヘルミーネが、ロゼとラウラが席につかない事を不思議そうにしていた。
本来であれば、メイドのロゼとラウラは一緒の席に座って食事をする事は無いのだが、ヘルミーネもリアネ城で毎日一緒の席に座って食べる習慣に慣れたと言う事なのだろう。
それはとても喜ばしい事で、俺も一緒の席で昼食を食べたいのだが、武闘大会開催中は来客があるのでそれは出来ない。
「ヘルミーネ、僕も残念に思うけれど、武闘大会中は人目があるからそれは出来ないんだよ」
「むっ、そうであったな…」
ヘルミーネがラウラと一緒に食事が出来ないのを理解し、一瞬表情を曇らせたが、直ぐに笑顔素見せて昼食を食べ始めた。
「い、色々大変なのじゃな…」
「うん、貴族って周囲の目を気にしないといけないので大変なんだ…。
ロレーナ、ロゼとラウラも裏でちゃんと食べるから、僕達も頂こう」
「う、うん、頂きますのじゃ」
三人で食べる昼食は少し寂しい気もしたけれど、午前中に行われた戦いの話で盛り上がりながら、楽しく昼食を頂いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます