第二百十四話 武闘大会予選 その三
≪ラルフ視点≫
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
体のあちこちが痛いが、何とか最後まで立って戦うことが出来た。
これも、毎朝厳しい指導をして貰えたおかげだ。
「ラルフ、格好良かったわよー!!」
エレンの声が聞こえたので振り向いて見ると、エレン、アンナ、マリーが応援に駆けつけてくれていた。
戦いを見られていたのかと思うと少し恥ずかしくなったが、応援してくれていた事は嬉しく、手を上げて応えた。
俺は舞台の上から降りて闘技場から出ようとした所で、係員に呼び止められて治療室へと連れて行かれた。
そこで魔法で治療を受け、体の痛みは無くなった。
毎日魔法で治療を受けているが、本当に魔法は便利な物だとつくづく思う。
そう言えば、自分も正式採用されれば魔法を教えて貰えると、エルレイ様に言われている。
武闘大会で上位に入ることが出来れば、正式採用されるかもしれない。
頑張って上を目指そうと思う。
闘技場から出て、多くの選手達が集まっている場所へと向かって行き、仲間達を探した…。
「ラルフ、ここだ!」
なかなか探すことが出来ずに迷っていると、エリオットが手上げて居場所を教えてくれたので助かった。
「どうだった?」
「何とか勝ち残れた!」
「さすがラルフだ!」
「凄いっす!」
「ラルフは僕達の誇りです!」
「凄い」
仲間達は、自分が勝ち残れた事をとても喜んでくれたので頑張ってよかった。
「それで、どんな感じに戦えばいいのか教えてくれ!」
「分かった」
自分が戦った時の様子を事細かに説明したのだが…。
「そんな戦い方が出来るのは、ラルフだけっす」
「そうだな。俺達には難しいぞ」
「僕にもできません…」
「無理」
「そうか?皆も痛みに耐える指導を受けただろう?あれと同じだと思えば簡単だぞ!」
「いや、あれに耐えられたのはラルフだけだから…」
「そうっす!痛みを無視して動くとか無理っす!」
「僕も出来ませんでした…」
「うん」
皆も合格を貰っていたのかと思っていたのだが、どうやら違っていたらしい…。
「次は僕の番です」
「フリスト、ラルフと同じような戦い方はしなくていいからな!」
「そうっす。最初は逃げ回った方がいいっす!」
「頑張れ」
「フリスト、舞台の端に立つと落とされるから注意した方が良い」
「分かりました。行ってきます」
フリストは大人しく、戦うのを苦手としていたから心配だ。
しかし、フリストも自分と同じように指導を受けて来たのだから、きっと勝ち残ってくれると信じて帰ってくるのを待つことにした。
≪エレン視点≫
「あー!ラルフがまた斬られた!!うちはもう見てられない!」
うちは思わず顔を両手で覆ってしまった!
だってそうでしょう!
大好きなラルフが傷つけられているのをこれ以上見てはいられなかったし、ラルフが傷付くくたびに、うちの心が酷く傷んだの!
「エレン、ラルフが頑張っているのだから、最後まで見てあげないと駄目だよ!」
「そうだけど…」
アンナに手を剥がされ、ラルフの姿を再び見せられたの…。
「あぁ…また…」
ラルフが傷付くたびに胸が痛みつづけるの…。
でも、でも、アンナの言う通り、うちがしっかり見ていてあげないと駄目なのは分かるの…。
「うっ…」
泣きそうに…ううん、涙がこぼれ落ちてラルフの姿がぼやけて来たの…。
「マリーが涙を拭いてあげるから、エレンはしっかり前を向いていて」
「うん、ありがとう…」
マリーがうちの涙を横から拭ってくれたお陰で、ラルフの戦っている姿がはっきりと見えたの…。
「ラルフ、頑張れー!!」
うちは心の痛みを打ち消すように、出来るだけ大きな声を出してラルフを応援しつづけたの。
「エレン、ラルフが勝ったよ!」
「うん、うん、良かったの…」
うちの目からは再び大粒の涙がこぼれ落ち、マリーが優しく拭ってくれた。
「ラルフに声をかけてあげて!」
「うん」
うちは大きく息を吸い込み、今日一番大きな声でラルフに声を掛けたの。
ラルフはうちに気付いてくれて手を振ってくれたの。
「怪我は大きく無いみたいだし、魔法ですぐに治療して貰えるはずよ!」
「うん、安心したの…」
ラルフの元気な姿を見て、うちの胸の痛みはスーッと無くなって行ったの。
うちが魔法を使えれば、ラルフの傷を治してあげられるのに…。
カリナさんから、武闘大会が終わった後に正式採用の試験を行うと言われているの。
それに合格できればエルレイ様から魔法を教えて貰えるので、何としても試験に合格してラルフの怪我を治せる魔法を教えて貰わないといけないの!。
うちはそう決心し、試験に向けて今まで以上に頑張って行こうと思ったの。
≪フリスト視点≫
僕は仲間の中で一番弱いです…。
孤児だった頃からそれは変わっていません。
皆は僕が一番年下だから仕方が無いと言ってくれるけれど、僕はそうは思いません。
だって、エルレイ様は僕より年下なのに凄く強いから、年齢を言い訳には出来ません。
僕はもっと頑張って強く成らないといけません!
僕は毎朝の訓練を人一倍頑張り、その成果をこの武闘大会で示す時が来ました!
闘技場の舞台に上がった大勢の大人たちの中で、僕は頭二つ分くらい背が低いです。
周りにいる大人たちは僕の事を見てニヤニヤと笑っていて、僕は完全になめられています。
「いいカモがいるじゃねーか」
「弱い者いじめか?」
「そのガキは放置してていいだろう」
「じゃ、俺がそのガキは頂くぜ!」
僕はどうやら、真っ先に狙われるみたいです。
ラルフは全員打ちのめしたみたいだけれど、僕には無理だとおいます。
ううん、やらなければいけません!
その為に努力して来たのですから!
試合開始と共に、周囲の大人達が僕に襲い掛かって来ました!
こういう時はどうしたらいいのでしたっけ?
「大勢と戦う時は、出来る限り一対一の状況を作れる様に動くのが肝要です」
そうでした。
アドルフさんを、僕達全員で取り囲んだのに、一太刀も与える事が出来なかった事を思い出します。
あの時のアドルフさんの動きを頭の中で再現しながら、僕の体を動かして行きます。
目の前の相手の懐に潜り込みながら、剣を持っていない方へ体をすり抜けるように動かします。
そうする事で、目の前の相手が僕の盾となり、全ての攻撃を受けてくれます。
「うぎゃぁぁぁぁ!」
目の前の男はボコボコに斬られ、倒されていました。
この調子で行けば、僕も勝ち残れる事が出来ます!
この後も相手を利用しながら、何とか勝ち残れて行きました。
僕が実際に倒したのは三人しかいないけれど、後は勝手に他の人と斬り合って倒れて行ってくれました。
「はぁ、はぁ、はぁ…あと一人です…」
気が付けば、舞台の上に立っているのは僕ともう一人だけでした。
あの人を倒せば、ラルフと同じように勝ち残る事が出来ます。
「っ!」
目が合った瞬間、寒気が襲って来ました!
あれはとても危険な人です!
孤児だった頃に何度か出会った事のある人達の目です!
今まで軽快に動いていた僕の体が強張るのを感じます…。
これではいけないと思いつつも、体が動いてはくれません。
僕の呼吸も、これまで戦って来た事で酷く乱れています。
一度呼吸を整えなおしたいですが、相手がそれを許してはくれません!
「なかなか強いなガキ!どこでその技術を教えて貰った?」
「あなたに教える道理はありません!」
「そりゃそうだ!」
「っ!」
相手の鋭い一撃が僕を襲ってきました!
確実に急所を狙った一撃で、まともに当たれば死んでしまうのは間違いありません!
ルールでは急所を狙った攻撃でも、当てなければ失格にはなりませんが、寸止めするつもりはなかったと思います。
僕が避ける事を前提とした一撃なのは、間違いありません!
「甘いな!」
「ぐはっ!」
僕が一撃をかわした所に、相手の蹴りがお腹に突き刺さっていました!
僕は一時的に呼吸が出来なくなり、その場に前のめりに倒れ込みました…。
「審判、俺の勝ちでいいだろ?」
「そこまで!」
僕は負けてしまいました…。
「ひゅー、ひゅー」
僕は痛みを堪えながら必死に呼吸をしたのですけど、体に力が入らず起き上がれませんでした。
僕は救助に来た人に抱え上げられ、そのまま舞台から運ばれて行く事になりました。
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