第二百十三話 武闘大会予選 その二

「皆さん、大変長らくお待たせしました。

これより、第一回リアネ闘技場武闘大会を開催いたします!

司会進行は私、キャセラが勤めさせて頂きます」

若い女性が闘技場の舞台に現れ、武闘大会の開催を宣言した。

アドルフから司会進行役の女性を雇った事は聞いていたが、実際に見たのは初めてだ。

風の魔法による拡声効果で、闘技場全体に若い女性の美しい声が響き渡っているな。


「始めに、領主様のご紹介をさせて頂きます。

皆さん、貴賓席をご覧ください。

あのお方が私達の領主様、エルレイ・フォン・アリクレット侯爵様です!」

俺の紹介がされると、観客達から拍手が送られて来た。

俺は立ち上がり、また軽く手を振って観客達に応える。

領主が子供だからと、不満を言っている者は少なそうで安心した…。

一部の者からは、領主が子供!?みたいな驚愕する声も聞こえて来るが、それが普通に反応だと思うし、俺だって上に立つ者が子供だと分かれば同じ反応をするだろう。


「領主様がリアネの街にいらっしゃってからは、私達の住む環境が良くなりました。

リアネの街につながる街道が広く綺麗になりましたし、スラム街も美しい街並みへと変化しました。

そして、この凄く立派なリアネ闘技場も、領主様が作って下さいました。

領主様に感謝の気持ちを拍手でお伝えしましょう!」

観客達から拍手と歓声が巻き起こった。

俺の紹介文はアドルフが考えたに違いないな…。

感謝されるのは嬉しいが、自分の為にやった事なのに感謝されてしまうのは少し罪悪感が湧いて来る。

結果的に、領民の為になっているのは間違い無いのだけれど、それは領主として当然やるべきことなのだからな。

この闘技場だって、俺が出場したくて作ったような物だ。

アドルフに止められて出場できなかったけどな…。


「武闘大会は今日から三日間予選が行われ、五千人の選手たちが本戦に向けて熱い戦いを繰り広げてくれる事でしょう。

本戦では勝利者を予想する賭け事もあります。

予選をしっかりと見て、誰が強者なのか確認しておくのも良いと思います。

また、知り合いの方が出場される方は声援を送って下さい。

ではこれより、予選を開催いたします!」

キャセラが舞台から降り、審判と選手たちが入場して来た。

これから戦いが始まると思えば、俺も興奮して来るな。

観客達も、俺から選手達へと視線が移って行った。

それを機に俺は席に戻って座ると、むすっとして不機嫌な表情を露わにしたヘルミーネが俺を睨んでいた。


「ヘルミーネ、どうかしたのだろうか?」

恐る恐る尋ねて見ると、俺の足を蹴りながら文句を言って来た…。

「エル、どうして私が作った竜の石像をあの者は紹介しなかったのだ!」

「あぁ…」

ヘルミーネは、竜の石像を自慢できなくて拗ねているのか…。

気持ちは良く分かるが、ソートマス王国の王女が作ったなどと言う訳にはいかない。

俺が王女をこき使っていると思われかねないからな…。

さて、どうやって機嫌を直して貰おうかと考えていると、メイドが飲み物とお菓子を持って来てくれた。

「ヘルミーネ様、新作のケーキです。御来客の貴族様にお出ししてもよろしいかのご判断をお願いします」

「うむ、頂くぞ!」

ケーキを出され、ヘルミーネの機嫌は一気によくなってしまった。

ケーキを美味しそうに食べていて、もう既に竜の石像の事は忘れてしまったみたいだな…。

ヘルミーネの機嫌を直してくれたメイドに感謝しつつ、俺もケーキを食べながら観戦する事にした。


≪ラルフ視点≫

自分は両親と死別し、仲間達とスラム街で暮らしていた。

アンナの病気を機に、俺達は領主のエルレイ様に救われ、今までとは天と地ほど離れている環境のリアネ城で生活する事となった。

そこで仕事を与えられ、エルレイ様にお仕えする様にと厳しい指導を受けていた。

中でも、日も上がらぬ暗いうちから行う剣の指導は、何よりも厳しかった…。

毎朝俺達は、殺されるのではないかと思うほど叩きのめされ、魔法によって怪我の治療を受けた。

自分達がある程度剣の扱いにも慣れて来た頃には、真剣を使った指導に変わった。

体に当たれば当然斬り裂かれ血も出る。

だが、指導が終わるまでは傷の手当すらさせて貰えない。


「目を瞑らずにしっかりと相手の動きを追わなくては、本当に死んでしまいますよ!」

「はい!」

指導する執事から繰り出される剣は、体の至る所を斬り裂いて行く。

自分も必死に躱そうとするが、剣は必ず自分の体に当たってしまい、その度に激しい痛みを味わう。

「痛みで動きが鈍くなっていますよ!あからさまに動きが鈍くなれば、そこを集中的に狙われてしまいます。

痛みをこらえ、どんな状態の時でも適切に動けるようになって下さい」

「はい!」

返事はしたが、そんな無茶な事出来る筈も無いと内心思っていた。

しかし、毎日繰り返して行くうちに、それも出来る様になって来た。

「よろしい!よく頑張りました。ラルフはどんな状況下でも実力を発揮できることでしょう。

ですが、ラルフの実力は警備隊員より劣るのは間違いありません。

日々の訓練を怠らない様にしてください」

「ありがとうございます!」

この時、初めて褒められて嬉しくなった。

この日からは、体を傷つけられるような指導は行われない様になり、本格的な剣術を教えて貰えた。


「貴方達には自信を付けて貰うために、エルレイ様が主催なされる武闘大会に参加して頂きます」

アドルフさんに突然言われて、自分達はいきなり荷物を持たされて馬車へと乗り込まされた。

そして今、その武闘大会の舞台に立っている。

これから四十九人の男達と戦い、最後まで残っていれば本戦に進めると言う事だ。

ルールの説明は受けたが、どう戦っていいのか全く見当もつかない。

四十九人倒せばいいのか?

いいや、他の者達も戦うだろうから、そこまで倒す必要はないはずだ。

「試合開始!」

審判から試合開始を告げられ、俺は剣を握りしめて、近くの男に斬り掛かっていった!


≪エルレイ視点≫

「エル!あそこにラルフがいるぞ!」

ヘルミーネがお菓子を口から吹き出しながら、ラルフの居場所を教えてくれた。

「そうだな。予選の一番最初の組に出て来るとは、運が無いな…」

予選はバトルロイヤルで行われ、最後まで舞台の上に立っていた者の勝ちとなる。

最初に行われる戦いは、後続の見本となる事だろう。

馬鹿正直に戦えば、後半疲れて倒される事になってしまう。

俺が出るとすれば、最初は様子を見ながら逃げ回る事に専念して体力の温存を図るだろう。


「エル、試合が始まったぞ!ラルフ負けるなよ!」

ヘルミーネが必死にラルフの応援をしている。

その声がラルフに届いているのかは分からないが、ラルフは最初から近くの相手に斬り掛かっていっていた。

俺の思った通り、戦い始めたラルフには他の者達が遠慮なく攻撃を仕掛けている。

「あぁっ!ラルフが斬られてしまったぞ!」

ヘルミーネの悲痛な叫びが聞こえて来る。

ヘルミーネにとっては、友達とも言える存在だからな。

友達が傷付けば心が痛んでしまう気持ちは良く分かる。

だから俺は、ヘルミーネが心を痛めない様にとラルフの応援をする。


「ヘルミーネ、ラルフはまだ負けていないし、最後まで諦めずに戦うだろう。

だから一緒にラルフの応援をしよう!」

「うむ、ラルフ頑張るのだ!」

俺とヘルミーネの応援が届いたのか、ラルフは幾ら斬りつけられても倒れず戦い続けていた。

バトルロイヤルのルールでは、床に倒れて動かなくなるか、舞台から落ちれば失格だ。

だから、幾ら斬りつけられても倒れなければ失格とはならない。

斬りつけられたと言っても武器の刃は潰してあるし、革装備を着こんでいるので打撲程度だろう。

それでも、鉄の塊で叩きつけられるのだから、痛くないはずはないんだがな…。


「エル!ラルフが勝ったぞ!!」

「うん、凄いな!」

ラルフは結局、半数以上と戦っていたのではないだろうか…。

傷つけられながらも最後まで戦っていた姿は俺とヘルミーネ、そして多くの観客達も興奮を覚えたに違いない。

勝利したラルフには、盛大な歓声が送られていた!

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