第二百十五話 闘技場建設 その三
「エル、どうだ!迫力があるだろう!」
「うん、今にも襲い掛かって来そうな感じがするな!」
ヘルミーネの作った竜の石像は、試作品に負けないくらい迫力のある出来栄えだった!
まだ出来ているのは頭だけだが、それでも素晴らしい出来だと言える!
ヘルミーネに、こんな才能があるとは思っても見なかった。
これなら、石像を作っていくだけで食べていけるだろう。
残念な事に、王女のヘルミーネには、そんな商売をさせられないと言う事だな…。
精々、王族への贈り物か、リアネ城の飾りとして展示するくらいにしか使えない。
非常に勿体ない才能ではあるが、ヘルミーネを金稼ぎの道具にしたと国王に知られれば、俺が処罰されてしまうからな。
ヘルミーネが作業に戻って行った所で、俺はラウラに近づいて行き小声で話しかけた。
「ヘルミーネは無理をしてないか?」
「はい…」
ラウラは俺の問いに対して、少し困ったような表情を
やはり、ヘルミーネは無理をしていると言う事なのだろう…。
ヘルミーネがラウラの言う事を聞かないのは、ミエリヴァラ・アノス城で初めて会った時から分かっていた事だ。
まぁ、楽しそうに作業をしているヘルミーネを止める役目は、ラウラでは荷が重かったと言う事だな。
そこで俺は、その役目を近くで魔法の訓練をしている、ルリアにお願いしてみる事にした。
「ルリア、ちょっといいか?」
「何よ?」
ルリアは訓練の邪魔をされて、少し怒ったような口調で返事をして来た。
訓練の邪魔をした事は悪いとは思うが、怒るような事でもないと思うのだがな…。
まぁ、これ以上怒られない為にも、さっさと用件を話してしまう事にしよう。
「ヘルミーネの事だが、あまり無理をしないで、適度に休むようにルリアから言ってくれないか?」
「はぁ~」
ルリアは大きく息を吐き、俺を睨みつけながら言葉を続けた。
「エルレイ、いい加減甘やかすのは止めなさい!ヘルミーネが好きでやっているのよ!
魔力切れで倒れたとしても少し休めば元気になるのだし、リリーも傍にいるから好きなようにさせなさい!」
「う、うん…」
ルリアの剣幕に押され、思わず頷いてしまった…。
ルリアの言っている事は正しいが…一応あれでも王女なのだから、倒れられては俺が困るのだがな…。
「分かったのなら、エルレイもさっさと自分の仕事に行きなさいよね!」
ルリアはもう話す事は無いと背を向け、魔法の訓練を始めてしまった…。
仕方がない…俺も自分の仕事に戻っていく事にした。
「アドルフ、頼まれていた件の作業は全て終わったぞ」
「エルレイ様、ありがとうございます」
アドルフとのやり取りは、何度目になるのだろうか…。
アドルフはにこやかな笑みを浮かべつつ、次の要件を俺に伝えて来た。
「エルレイ様、闘技場のルールの
「ルールか…」
詳細はアドルフ達が決めるのであろうが、土台となる部分は俺が決めないといけないのか…。
しかし、俺だけでは考えつかない事もあるし、トリステンも呼んで一緒に考えて貰う事にした。
リアネ城の会議室には、呼び出したトリステンには当然のごとくニーナが着いて来ており、アドルフも気にした様子も見せずに二人を席に座らせた。
縦長のテーブルの席には俺、トリステン、ニーナ、アドルフが座り、背後の机の席に書記が一人座っているだけだ。
広い会議場に五人しかいないのは寂しく思う。
今度からは会議場を狭い部屋に移して貰った方が、落ち着けていいのかも知れない…。
「皆様に本日集まって頂いたのは、エルレイ様が建設された闘技場が後二か月ほどで完成し、その後に開催される武闘大会のルール作りを行って頂く為です。
今後はこの会議を定期的に開催していき、武闘大会に必要と思われる様々な事案を話し合って行きたいと思っております」
アドルフの挨拶で会議が始まり、アドルフが資料としてミスクール帝国のルールを手渡してくれた。
この資料には俺は目を通しているので、トリステンが読むのを待つ事となった。
ニーナはまだ文字が完全に読めないみたいで、トリステンが声に出して読み上げている。
二人は体を寄せ合い、仲の良い所を見せつけて来る…。
目に毒だと思い、俺も資料に目を落としておさらいをしておく事にした。
ミスクール帝国で行われている武闘大会は、武闘大会と言っていい物かは疑問が残る。
武器は刃の付いた物を使用し、相手が倒れるまで戦わせるのだからな…。
当然死ぬ者が多いし、観客もそれを見にやって来る。
戦う者同士が血を吹き出しながら死力を尽くして戦う姿は、凄く興奮を覚える事だろう。
俺はそんな物は見たくないし、観客に見せたくはない。
でも、どんなルールを作ろうとも武器を持って戦わせる以上、流血までは防げないだろう。
怪我は魔法で治療出来るし、出場者を死なせない様なルールにして行かなくてはならない。
トリステンが声に出して読んでいたお陰で、資料を読み終えた事が分かった。
俺も資料から顔を上げて、話し始める事にした。
「僕の考えとしては、参加者を死なない様にさせたいと思っている。
しかし、死なせないからと言って、鎧の着用を強制するのもどうかと思う。
参加者には、出来る限り実力を発揮させられる様に気を付けてあげないと、つまらない戦いとなるだろう。
その辺りを含めて、どんなルールにした方が良いのか意見を聞かせてくれ」
俺の話を受けて、トリステンが話し始めてくれた。
「死なせないようにする為には、刃を潰した武器を使用させるのが一番いいと思います。
それから、武器はこちら側で用意した方が安全性が高まるでしょう。
わざと相手を殺せるような武器を持ち込む輩がいないとも限りません。
鎧に関しては、持参させていいのではないかと思います。
理由としては、参加者の体型に合わせた鎧を用意するのには無理がありますし、使い慣れた鎧の方が戦いやすいでしょう。
ですが、重装備を装着した者と、軽装備を装着した者とでは防御力に差が出てしまい、公平性に欠けるかも知れません。
その辺りは話し合って決めていく必要があるかと思います」
トリステンからは、かなり有用な意見が出されて来た。
やはり、軍に所属していた者の意見は重要だな。
アドルフも感心しながら聞いているし、ルール作りはトリステンを中心として考えて貰おうと思う。
「ルールとは関係ないですが、闘技場の警備の方はどうなるのでしょうか?
うちで引き受けるには人数が足りず、かなり厳しいのですが…」
「はい、警備隊員の増員を考えております。
仮に増員が間に合わなかった場合については、開催時期だけ近くの街から借り受けるつもりにしております」
「出来れば増員を急いでほしい。今でも街の警備はギリギリですから」
「承知しました。予算に余裕が出ておりますので、早急に対処致します」
アドルフが警備隊員の増員を言ってくれた事で、トリステンは安堵の表情を見せていた。
今まで、ギリギリの人数で警備してくれていたのかと思うと申し訳なく思うな…。
しかし、予算に余裕が出来た事で、それも解消されて行く事だろう。
「あたいも意見を言っていいのさね?」
「はい、ニーナさん、勿論でございます」
話しが一段落した所で、遠慮がちにニーナが意見を言ってくれた。
「武闘大会には、あたいも出場したいのさね!」
「ニ、ニーナ!」
ニーナが出場したいと言うと、トリステンが慌ててニーナを止めようとしていた。
トリステンの気持ちは分からないでもない。
だが、女性の参加者がいた方が盛り上がるだろうし、ルリアも出る気満々だしな…。
「警備に問題が無ければ、ニーナが参加するのには問題は無い。
ただし、能力を使う事は禁止だぞ?」
「それは分かっているのさね!トリステン、出場しても良いのさね?」
ニーナが上目遣いでトリステンにお願いしていた…。
あれにはトリステンも勝てないだろう?と思ったのだが、意外にも首を縦に振らなかった。
「駄目だ!ニーナが強い事は知っているが、男とは戦わせられない!」
「それでしたら、女性部門を作るのはいかがでしょうか?」
「それは良いな」
アドルフと俺がニーナの援護をした事に対して、トリステンが渋い表情を見せていた。
トリステンには悪いが、俺としてもルリアを男性と戦わせたくは無いからな。
ルリアは男性と戦いたがるだろうが、そこは俺が何とか説得するしかない。
「分かりました。女性部門であれば、ニーナの参加を認めます」
「トリステン、ありがとうさね!」
ニーナはトリステンの手を握りしめて喜び、トリステンは苦笑いをしていた。
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