第二百十四話 闘技場建設 その二

「エル!完成したぞ!」

「えっ!?」

ヘルミーネが作っている竜の石像が、早くも完成したと言われて見に来てみたのだが…。

「ヘルミーネ、これは凄いじゃないか!」

「そうだろう、そうだろう!」

竜の石像は確かに完成していて、その完成度の高さに驚いてしまった!

これなら問題無く闘技場に飾るには相応しい石像だ。

ただし、完成した竜の石像は一メートルの高さで、闘技場の屋根の上に置くには小さすぎるのだがな。

これは試作品として作ったそうで、これを基に大きな竜の石像を作るそうだ。


「ヘルミーネ、これは不要になったら、リアネ城の玄関に飾る事にしよう!」

「いいのか!?」

ヘルミーネは、自分が作った竜の石像をリアネ城に飾っていいと言われ、とても喜んでいた。

「勿論だとも!それとも国王陛下への贈り物にでもするか?」

「むむむ…」

しかし、俺が国王への贈り物にしてはと提案したら、ヘルミーネは悩んで見たり笑顔になったりとクルクルと表情が変化していた。

おそらく、竜の石像を贈った時の事を考えているのだろう…。

そしてヘルミーネは結論が出たのか、ぽんっと手を叩いた。

「エル、これはリアネ城に飾るぞ!父上に贈る石像は別に作る事にする!」

「分かった。国王陛下もヘルミーネが作った石像なら喜んでくださると思うぞ。

ただし、大きさはこれくらいにしておかないと、飾って貰えないからな」

「うむ、分かっておる!」

ヘルミーネは張り切って、竜の石像作りに向かって行った。


「ラウラ、大きな石像を作るには大量の魔力が必要となる。

まだ数か月の余裕があるからヘルミーネには無理をさせず、適度に休ませるようにしてくれ」

「はい、承知しました」

山の上には、ヘルミーネが作業を始めた時から家を設置している。

リゼが家の管理はしてくれているし、飲み物や食べ物も作ってくれている。

ラウラが近くで見ていてくれているから心配は不要だろうが、ヘルミーネが倒れる様な事が無いようにして貰いたい。


俺の方の作業は順調に進んでいて、選手達の控室と一般の観客席はほぼ完成した。

これから作るのは貴族用の席で、個室を作って行かなくてはいけないので面倒な作業だ。

個室と言っても、普通の家と大差ない。

貴族に食事を提供するためのキッチンを作り、休息するための部屋も必要となる。

俺は不要だと思ったのだが、アドルフに小さなお子様を連れてくる方がいるのではないかと言われたからな。

確かに、マデラン兄さんとヴァルト兄さんが子供を連れて来る事もあるだろうし、俺の領地に来た男爵達の所にも赤ちゃんが産まれ始めている。

子供には無理をさせられないので、休憩室は必要と言う事になった。


水回りを先に作ってしまい、後はそこにロゼが作ってくれた部屋を設置していく。

貴族用の観客席の一角だけは、五階建てのビルの様になってしまったが、安全面を考えるとこうならざるを得ない。

当然入り口も別に作る予定だ。

アドルフは、リアネの街から闘技場迄の道も別に作る必要があると言っていたが、俺はそこまでする必要は無いと思っている。

しかし、混雑が予想される場合は、新たな道を作らなくてはならないだろう。


最後に屋根の部分を作るのだが、これが思いのほか苦戦する事になってしまった…。

最初は単純に、柱に石板を乗せて固定すれば大丈夫だろうと思っていたのだが、石板が自重に耐え切れずに折れてしまった。

その影響で観客席の一部が壊れてしまい、修復作業を行わなくてはならなくなった。

その反省を生かし、別の場所に柱を建てて試す事にした。

確か、体育館の天井の骨格は…薄れつつある記憶の中から構造を思い出しつつ、土を固めて作り出して行く。

何度も何度も試行錯誤を重ね、やっと壊れない屋根の下地が完成した。


「エルレイ様、おめでとうございます」

「ロゼ、ありがとう。でも、この上にヘルミーネが作っている竜の石像を乗せないといけないんだよな」

「はい、今からでも柱の数を増やした方が良いのかも知れません」

「そうだな。見た目は悪くなってしまうが、壊れれば元も子もない。

柱を増やす事にしよう!」

せっかく作った観客席に、無理やり穴を開けて柱の数を増やして行った。

その後に、地上で作った屋根を乗せて固定して行った…。


「完成だな!」

「はい、素晴らしい出来だと思います!」

ロゼを抱きかかえて飛びあがり、二人で上空から完成したばかりの闘技場を見て回った。

ロゼと二人で二か月強かかったが、完成した闘技場を見て感動してしまった。

戦争以外で巨大な建造物を作ったのは初めての事で、ここに来てくれた皆が楽しんで貰えるような、そんな闘技場にしていきたいと思った。


完成と言ったが、これから内装工事を行って貰わなくてはならない。

むしろ、これからが大変な作業になるのは間違いないだろう。

俺のやれることは終わったので、これからは闘技場で戦うために、剣術の腕を磨いておかなくてはならないな!


「エルレイ様、闘技場が開催されると混雑が予想されます。

街道の拡張作業をお願い致します」

「わ、分かった…」

アドルフに完成した事を伝えると、追加の仕事を言い渡されてしまった…。

確かに、闘技場に観戦客が来る事を考えると、街道の拡張は必要だろう。

やっと一仕事終えたばかりのロゼには申し訳ないが、街道整備の手伝いをして貰う事にした。


「アドルフ、頼んでおいた井戸水を汲み上げる装置は完成しそうなのか?」

「はい、試作品が出来上がって来ておりました。

まだ改良の余地はありそうですが、闘技場完成までには間に合わせるそうです」

「それは良かった」

アドルフに頼んでいた井戸の水を汲み上げる装置だが、案は俺が出して街の鍛冶屋に作らせている物だ。

井戸から水を汲み上げる原理は分かっているが、金属の加工が俺には出来ない。

なので、俺が原理を下手糞な絵で描いて説明したのだが、上手く伝わったみたいで良かった…。

闘技場で使う水を、俺が毎回補充する暇は無いからな。

それが完成すれば、リアネの街からソートマス王国に広がっていき、井戸から水を汲み上げるのが楽になるはずだ。

グールを作った英雄クロームウェルの時代は、魔道具で水を供給していたみたいだ。

グールに言わせれば、俺も魔道具を作り出す事は可能らしいが、肝心の材料となる魔石が手に入らないんだよな…。

ミスクール帝国では今でも魔石が手に入るそうだが、かなり高いらしいし数が限られているとも聞く。

魔石を運良く買えたとしても、高価な魔石を水を出す魔道具にするのは勿体ない気もする。

手動だが、安価に作れる装置が出来れば問題は解決するので良しとしよう。


「アドルフ、街道の拡張が終わったぞ…」

「エルレイ様、ありがとうございます。次はですね…」

「次!まだ次があるのか!?」

「はい!」

アドルフは笑顔で俺に資料を手渡して来た…。

いい加減、剣術の訓練をしたいのだが、アドルフはまだ俺を自由にさせてはくれないらしい…。

次の作業は、店舗用の建物とトイレ施設の建設に、馬車を止める為の場所の整備…。

その他にも、闘技場の周辺整備が事細かく書き込まれていた。

確かに必要な物ばかりではあるし、俺が作らないとお金の節約にはならない…。

俺はため息を吐きたくなるのをぐっと我慢し、アドルフの指示に従い作業を進めて行く事にした…。

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