第二百十三話 闘技場建設 その一

アドルフ達の優秀さには、頭の下がる思いだ…。

いいや、ラノフェリア公爵家の情報収集能力が素晴らしいと言った方が良いのだろうか?

執務室の俺の机の上には、ミスクール帝国にあると言う闘技場の大まかな図面や競技内容など、詳細な情報をまとめた資料が置かれていた。

俺はそれを手に取り目を通して行く…。

ミスクール帝国の闘技場は、やはり人と人、もしくは人と動物を戦わせて殺し合わせているのだな。

俺が作る闘技場ではそんな事はさせたくはないので、安全に戦えるルール作りが必須となって来る。

毎月一、二回開催されているみたいだが、いきなりそんな回数行うのは無理だろう。

管理費を回収するためには、それなりに開催して行かなくてはならないだろうけれど、そこはアドルフ達と相談だな。

まずやらないといけないのは闘技場建設だ。

ミスクール帝国の闘技場の図面を基に、アドルフの部下達が図面の作成中だ。

それが出来次第、俺は闘技場建設に移るつもりでいる。

それまでの間は、いつも通りの訓練と仕事を行っていくだけだ。


ユーティアとメイドのエルミーヌは、リリーが魔法を使える様に教えてくれたのだけれど…。

「魔法は念話が使える程度で構いません。

それに、私が急に魔法が使えるようになったと知れ渡れば、エルレイが困るでしょう?」

ユーティアの言う通りなのだが、魔法を使いたくて俺の婚約者になったのでは無かったのだろうか?

『エルレイ、お茶会が終わりましたので、王都まで迎えに来てください』

この様に、念話が使える事で、俺に容赦なく呼び出しの連絡が来るんだけれどさ…。

待たされることが無いので、迎えに行くのは一瞬で済むから楽なのだが…。

これでは、送迎の足として使うために婚約者になったのでは?思ってしまう。

でも、俺と一緒に眠った時は耳元で「愛しています」と言って、抱きしめてくれたんだよな…。

それで良いかと思ってしまうあたり、俺は女に弱いと言う事を再認識させられた。

ユーティアとは、まだまだお互いの事を良く知らないし、結婚するまで仲を深めていければいいかと思った。


「エルレイ様、闘技場の図面が完成いたしました」

アドルフが自信に満ち溢れた表情で図面を差し出して来た。

アドルフがそんな表情をする事は珍しいので、余程いい出来栄えなのだろうと図面に目を落としたのだが…。

闘技場の客席には屋根も付けられていて、急な雨でも観客が濡れない配慮がなされている。

これを作るのは大変だろうが、炎天下の元で観戦するよりかはましだな。

「アドルフ、この竜はなんだ?」

その屋根の上に、今にも炎を吐き出しそうな感じで大きな口を開けている竜が乗っていた…。

「はい、それはソートマス王国の国旗に描かれている竜です。

その竜の下で、剣技を競い合うのが相応しいかと思いました」

「なるほど…」

ソートマス王国の国旗には、大きな剣に竜が絡みついているからな。

しかし、この竜を作れる自信はないな…。

リゼが得意とする氷像制作でさえ俺は上手く作れないのに、石像とか無理に決まっている!

無理だと決めつけるのは良くない事だが、誰からも見られる竜の石像を俺が作ったとしたら、皆から笑いものにされてしまう。

「アドルフ、竜を作らないと言う選択肢は?」

「ありえません!」

「そ、そうか…」

ありえないとまで言われれば、作るしかないな…。

ロゼに作れるか聞いてみるしかないな。


「私では作る事は出来ません」

そうだよな…。

ロゼには当然拒否されてしまった。

ロゼの魔法技術があれば、竜を作る事は可能だと思う。

しかし、闘技場の上に堂々と飾り付けられる竜ともなれば、話が変わって来る。

理由は俺とは多少違うだろうが、似たような物だな。


「それならば、私が作ってやろう!」

ロゼとの会話を聞いていたヘルミーネが、胸を張って竜の石像を作ると言い出して来た。

ヘルミーネの魔法技術と魔力があれば、作る事は可能だろう。

しかし、この絵に様に格好いい竜を作れるかは疑問が残る。

でも、俺も自信が無いからヘルミーネに作らせてみるのも良いのかも知れない。

「途中で止めたりしないよな?」

「当然だ!家も最後まで作ったであろう!」

「そうだな、では竜の石像はヘルミーネに任せるよ」

「うむ、期待して待っておれ!」

あまり期待は出来ないが、ヘルミーネがやる気を見せているのだから頑張って貰いたいと思う。


「ルリア、すまないが、ヘルミーネに付き合って貰えないか?」

「場所はあの山なのでしょ?」

「うん、誰も来れない場所だとは思うけれど、魔法使いだと飛んで来れるから気を付けておいてくれ」

「分かったわ。あの場所だと私も遠慮なく訓練で来ていいわ!」

「ほどほどにね…」

ルリアにヘルミーネの護衛を任せる事にしたら、アルティナ姉さんとユーティア以外はヘルミーネに付き合う事となった。

アルティナ姉さんは、基本的に屋外に行く事が好きではないんだよな。

ユーティアはお茶会とかパーティーに出席するのが忙しいみたいだし、最近ではアルティナ姉さんもユーティアに着いて行く事もある。

ルリアとヘルミーネは、社交界の場が嫌いらしく行きたがらない。

リリーは少し違って、過去の事から目立ちたくは無いと言う理由で参加しないみたいだ。

ロレーナは、元々貴族とは関係ない生活を送っていたからな…。

リアネ城でもお茶会を開ける準備が整うみたいだし、アルティナ姉さんにはユーティアと共にそっちの方で頑張って貰いたいと思う。


俺はロゼと共に、闘技場建設現場へとやって来た。

場所は、以前アイロス王国軍が訓練に使っていた所で、今は使われていない兵舎もある。

兵舎は、参加する選手が寝泊まりするのに使う予定だ。

多少の改築は必要だが、最初から作るよりかは安上がりになるからな。


先ずは中心を決めて、そこに高さ一メートルほどの円柱を建てた。

この円柱に用意してきたロープを結び付け、反対側に付いている棒で地面に円を描いて行く。

この円内が実際に戦う場所となり、外側に観客席を作っていく。

ロゼと協力して、客席側に直径五十センチ、深さ二十メートルほどの穴を幾つも掘っていく。

この穴は建物を支える柱を埋める為のもので、この地域は地震が少ないので、硬い岩盤まで掘り進める必要はないだろう。

穴を掘り終えたら長い円柱の柱を作り、穴に突き刺してく。

一日目は、柱を建て終えた所で終了となった。


「ロゼ、大丈夫か?」

「はい、少し休めば何とか…」

ロゼに魔力を使わせ過ぎてしまった…。

俺はロゼを抱き上げて飛びあがり、木陰に連れて行きロゼを休ませる事にした。

遠慮するロゼを無理やり寝かせて膝枕をしてあげた。

ロゼの頭を撫でつつ、少しずつ俺の魔力を与えて行った…。

夕暮れまではもうしばらく時間がある…。

ロゼの魔力量では、あの作業を一日続けるの厳しく、無理をさせたと反省をした。

硬い柱を作る作業には大量の魔力が必要だったし、明日からはロゼにもう少し楽な作業を与える事にしようと思った。


翌日からは、柱の周りに観客席を作っていく作業に取り掛かった。

魔力を大量に必要とする作業は俺が行い、魔力をそこまで必要としない作業をロゼに任せる事にした。

ロゼは珍しく不満気な表情を見せていたが、昨日魔力切れで倒れたので渋々ながらも了承してくれた。

闘技場建設は家とは違いとても複雑で大変だが、アドルフ達が分かりやすい様に図面を書いてくれたので、俺でも何とか作って行けている。

ロゼも俺との分担作業に慣れて来た事だし、このまま進めば意外と早く完成すると思うので頑張って行きたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る