第二百十二話 お金の使い道

ユーティアが俺の婚約者としてリアネ城に来てからの事は、かなり大変だった…。

ルリア達がユーティアを連れてリアネ城を案内して来た夜、ユーティアが俺に対して要望書を提出して来たからだ。

要望書の大まかな内容は、リアネ城にお茶会が出来る部屋を用意して欲しいのと、庭園をもう少し手入れして欲しいのと、ユーティアを定期的に王都に送ってほしいのと、王都に別邸を用意して欲しいとの事だった。

どれもユーティアが行っている事に必要な物で、用意してあげたいとは思うがお金が無いよな…。

一応、アドルフに要望書を見せてみたのだが…。


「承知しました。王都の別邸に関しましては少しお時間を頂かないといけませんが、それ以外は直ぐに準備を始めさせます」

アドルフはユーティアが来た時点で、こうなる事を予想していたのかも知れない。

王都への送迎は俺が行わなくてはならないが、それ以外はアドルフが何とかしてくれそうなので、ユーティアも満足してくれる事だろう。

俺の方は、ネレイトに頼まれた街道整備を終え、ルノフェノの領地の開墾作業も終えていた。

そのまま、マデラン兄さんに頼まれていた街道整備に移り、ついでにヴァルト兄さんの所の街道整備も行った。

ここまで休む事無く仕事を続けて来たので、暫くゆっくりと休みたい所だ…。


「エルレイ様、お金に余裕が出来ました」

「それは良かった!」

ラノフェリア公爵家からお金を受け取ったと言う事で、やっと余裕が出来たと喜んだ。

頑張った甲斐があり、心おきなく休む事が出来るな!

そう思ってアドルフに休む事を伝えようとしたのだが、アドルフが先に話しかけて来た。


「エルレイ様、お金の使い道を考えてくださいませ」

「貯蓄しておけばいいんじゃないか?」

いつ何があるか分からないし、貯めて置いて損はないよな?

それに、いきなりお金の使い道とか言われても、考えつくはずもない…。

「はい、貯蓄する分は別にしております。

エルレイ様がこのお金を使い、民達の生活を豊かにしなくてはなりません」

「あ~そうだね…」

俺がお金を貯め込んでいては、経済が回らないか…。

俺は無い知恵を絞り、真剣に考えてみた…。


「今警備隊にやらせている、住民登録と管理の部署を新たに作るという案があったよな?」

「はい、そちらの準備はほぼ整っておりますので、エルレイ様のサインを頂き次第、人員の募集に移りたいと思います」

「そうか…では、孤児院の人員の増強は?」

「そちらは既に募集をしており、そろい次第他の街から孤児の受け入れを始めたいと思っております」

「うん、その時は僕も協力は惜しまないから、遠慮なく言ってくれ」

「はい、よろしくお願いします」

他の街にもスラム街はあるだろうし、出来る限り犯罪の温床となるような場所は排除しておきたい。

しかし、今俺が言った件の予算は既に確保してあるのだろうし、何処にお金を使えば良いのか思い付かないな…。

「アドルフ、二、三日考えさせてくれ」

「承知しました」

結局その場では思い浮かばず、暫く考えさせて貰う事にした。


そしてその日の夜、ルリア達に相談してみる事にした。

「お金の使い道ね…」

「難しいです…」

ルリアは腕を組んで考え始め、リリーはロゼに相談していた。


「お菓子!お菓子を作る店を増やしてはどうだ!」

「お姉ちゃんは、新しいドレスとアクセサリーも欲しいわね!」

ヘルミーネとアルティナ姉さんは欲望に正直だ。

しかし、お菓子の店は別として、俺達が贅沢してお金を使う事も間違いではない。

やり過ぎてはいけないが、アルティナ姉さんなら自制は効くだろうから問題は無いな。


「そうですね。パーティーを開くのはいかがでしょうか?」

ユーティアの提案に、ルリアとヘルミーネが嫌そうな表情を見せていた。

どちらかと言えば、俺もパーティーを開くのは嫌だが、将来的には行わないといけないのだろうな…。

でも今は、俺の領地の貴族達はまだ忙しいだろうし、それ以外の貴族達には知り合いが少ないので開く必要はないな。


「ロレーナは、何かいい案が無いだろうか?」

俺は黙っていたロレーナに声をかけて見た。

「な、何も無いぞ!わ、私はこれ以上の贅沢は望まないのじゃ!」

「そうか…」

贅沢する方法を聞いたわけでは無かったのだが、皆の意見がそっちの方向に行っていたためロレーナは遠慮したのだろう。

まぁ、ロレーナにしてみれば、ここでの生活自体が贅沢になるのだろうからな。


「エルレイ、闘技場を作るのはどうかしら?」

今まで考えていたルリアが、闘技場と言う案を出して来た。

中々いい案だとは思うが、どれだけお金がかかるのか見当がつかないよな…。

「ルリア、闘技場と言うと、ミスクール帝国にあるような物でしょうか?」

「そうよ!」

「あれは、殺し合いをさせていると言う話を聞いた事があります…」

ミスクール帝国にも闘技場があるのか…。

リリーはルリアの案に対して、不快感をあらわにしていた。

俺も殺し合いをさせるような闘技場は反対だが、安全に戦えるようなルールを作ればいいのかも知れないな。

闘技場で思い付いたが、競馬場を作るのも良いかも知れない。

どちらにしても、予算と相談だな…。

「ルリアの案は一応検討してみる。

リリー、仮に闘技場を作ったとしても、殺し合いなどはさせるつもりは無いから安心してくれ」

「はい、エルレイさん、お願いします」

「エルレイ、頼んだわよ!」

リリーは安心し、ルリアは力強く俺に頼んで来た。

ルリアは闘技場で戦いたいのだろうし、俺も積極的に戦いたい!

これは闘技場を作るしかないな!

俺は早速皆の意見をまとめて、翌日アドルフに相談する事にした。


「ルリア達から、こんな意見を聞いて来たのだけれど、予算内で出来そうかな?」

「はい、奥様方のドレスや装飾品に関しましては、後日商人を呼び付けて置きます。

お菓子のお店に関しては難しいかと…ですが、デザート専門の料理人を雇う事は検討いたします。

それから、パーティーを行う事は可能ですが準備に時間がかかりますので、事前に日程を知らせて頂けるますようお願い致します。

闘技場の建設に関しましては、私共に知識が御座いませんので、調べる時間をくださいませ」

「うん、パーティーの件に関しては直ぐに行う予定はないし、呼ぶ相手もいないから今は出来るかどうかの確認だけだ。

他の件は、アドルフが出来そうだと思ったら行ってくれ」

「承知しました」


俺が頼んでから数日後、アドルフから闘技場建設の草案を手渡された。

「こんなに大きなものになるのか?」

「はい、エルレイ様のご威光を示すためには、この規模でなければなりません」

草案に書かれていた予想図は、何万人も収容できそうな大きさだった…。

流石にこの規模では作るのにお金がかかり過ぎるのではと思ったが…アドルフは俺が作る事を前提としているみたいだった。

作れと言われれば作るが、実際の闘技場なんて見た事が無いから、どんな風に作ればいいかなんてわかるはずもない。

イメージとしては何となくあるが、出来れば大まかな設計図なんかあれば助かるな。

俺としては、もう少し小さな闘技場を考えていたのだが、どうせ作るのであれば大きな方が良いのかも知れないな。


「アドルフ、この草案を元に進めてくれて構わないが、お金は大丈夫なのだろうな?

闘技場を作って終わりではなく、闘技場を維持運営していくだけでも、相当なお金がかかるのだぞ?」

「はい、こちらがその試算となっており、十分運営して行けると考えております」

「それならいいが、アドルフ達の仕事が増えるのでは無いのか?」

「それは致し方ありませんが、増員の目処も付いております」

「エリオット達の事か?」

「はい、彼らは思っていた以上に優秀です。ヘルミーネ様とアルティナ様の教えが良かったのだと思われます」

俺は執務室に新しく置かれた机の方を見ると、エリオット達男の子が必死になって書類と向き合っている姿を見た…。

この前まで文字も読めなかったのに、アドルフ達と一緒に仕事が出来ている事はとてもすごいと思う。

アンナ達女の子の方はメイドとして頑張って貰っている。

この様子なら正式採用も近そうだが、無理をさせない様にと、アドルフには注意しておかなくてはいけないな…。

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