第二百十話 ユーティアの想い その一

兄さん達の出産祝いを終えた後は、再び街道整備に明け暮れていた…。

作業自体は単調になりがちだが、ロゼと会話しながら作業しているので退屈では無い。

最近話した内容はこんな感じだ。


「エルレイ様、アルティナ様とロレーナ様の要望にお応えにはならないのでしょうか?」

「いや、正式に結婚していない状況で応える訳にはいかないよな」

「そうですね…」

アルティナ姉さんとロレーナの要望と言うのは、俺の子供が欲しいと言う事だった。

兄さん達の赤ちゃんを見てから、自分も欲しいと思う気持ちは分からないでもない。

しかしだ…。

貴族の間では、結婚前に子供を作る事は不謹慎だとされている。

それに、子供を作るのであれば、ルリアを優先させてあげたいと言う気持ちが強い。

ルリアの母アベルティアにも、結婚前に子供は作らないようにと注意されている事だし、アルティナ姉さんとロレーナにはもう数年我慢して貰うしかない。


街道整備は、至って順調に進んでいる。

俺とロゼが慣れていると言う事もあるし、作業員が多いと言う事もあるが、一番の要因は軍の警備だろう。

鎧を着ていても、鍛え上げられた体の筋肉は良く目立つ。

そんな軍人が武装して俺達の周囲を守っていれば、誰も近づいてこようとは思わないよな。

しかも、妙に張り切って守ってくれているんだよな…。

アイロス王国との戦争での付き合いもあるし、顔見知りの者もいたりする。

それと、張り切ってくれている理由は、もう一つあるんだけれどな。


「エルレイ様、そろそろ昼食の時間です」

「分かった、迎えに行って来る」

軍人と作業員の昼食は、毎日ラノフェリア公爵家が用意してくれている。

俺は毎日、昼食を取にラノフェリア公爵家に行き、ラノフェリア公爵家のメイド達を連れて現場に戻って来る。

そして、長テーブルを設置し、料理の入った鍋をテーブルに置いて行く。


「昼食のお時間です。皆様並んで取りに来てください」

料理を渡す準備が整うと、メイド達が一人ずつ料理を取り分けて渡してくれる。

ラノフェリア公爵家の料理人が作る料理が美味しいのは当然として、美しいメイドが給仕してくれると言うのが、軍人や作業員が喜ぶ原因でもある。

その結果として、仕事も真面目にやってくれていると言う事だ。

昼食が終わると、軍人と作業員の名残惜しそうな視線を横目に、俺はメイド達をラノフェリア公爵家に送り届け、午後からの作業を再開する。


街道整備が終盤に差し掛かっていた頃、昼食を受け取りに行った際に、ラノフェリア公爵から次の休日にルリアを連れてくるようにと言われた。

俺だけが呼ばれたのなら危険な仕事を依頼されるのかと思うが、ルリアと一緒であるならば安心していいのだろうか?

ルリアにその話をすると、呼ばれた理由は知っていると言う事だった。

「行けば分かるわ!」

ルリアはそう言って、俺に理由を説明してくれなかった…。

気になって仕方がなかったが、ルリアが教えてくれるはずもなく当日を迎える事となった…。


ルリアと共にラノフェリア公爵家を訪れると、いつもの応接室へと通された。

俺とルリアが暫く待っていると、ラノフェリア公爵とユーティア、それにユーティアの母ロゼリアが入室して来た。

ロゼリアとはあまり話した事は無かったが、ユーティアと顔がよく似ているので間違える事は無い。

こうして俺の前に親子で並んでいると、姉妹の様に見えなくもない。

しかし、ユーティアか…。

命を助けて貰ったお礼として、魔法を教える約束をしていたのをすっかり忘れていた。

だからルリアが、行けば分かると言ったのか…覚えていなかった俺が悪いな。

ユーティアがこの場にいる事は分かったけれど、ロゼリアがなぜいるのかが不明だ。

もしかして、ロゼリアにも魔法を教えないといけないのだろうか?

そんな事を考えていると、ラノフェリア公爵が表情を硬くし、いつにない厳しい視線を俺に向けながら口を開いた。


「エルレイ君、あの時はユーティアが事前に情報を知らせたらしいな」

「はい、ユーティアお嬢様から事前に情報を頂けなければ、危ない所でした」

「そうか、ユーティアにはロゼリアから受け継いだ私とは全く違う情報網があり、そこであの事を知り得たそうだ。

私には知らせて貰えず、未然に防げなかった事は非常に残念だが、確信が得られなかったそうなので勘弁して貰いたい」

「いいえ、危険を知らせて貰えただけで十分でした」

あの時教えて貰えなかったのならば、ニーナの夜襲に対処出来ていたとは思えない。

グールが気付いたとしても、能力を使われれば俺の反応速度では着いて行く事が出来ない。

リゼでも、先に能力を使われれば殺されてしまうと言う事だったからな。


「その件で、ユーティアに魔法を教えて貰えると言う事で良いのだな?」

「はい、ユーティアお嬢様とお約束致しました」

「ルリアも納得しているのだな?」

「はい、お父様」

ラノフェリア公爵は、何故かルリアに確認していた…。

その為にルリアを呼んだのだろうか?

いまいちルリアを呼んだ理由が分からないが、何かしらの意図があるのは間違いないだろう…。

そして、ラノフェリア公爵の次の言葉で理由が分かった。


「エルレイ君、ユーティアを君の婚約者とする。ルリアとリリー同様に大事にしてやってくれ」

理由は分かったが、なぜユーティアまで俺の婚約者になったのだ?

ルリアの話では、ユーティアには婚約者がいると言う事だったはずだが…。

ルリアが嘘を言うはずはないし、何かの間違いだろうかと思って確認してみる事にした。


「あの…失礼ですが、ユーティアお嬢様には別の婚約者がいると言う話をお聞きしましたが…」

「うむ、そちらとは既に話を付けておるから、心配する事は無いぞ」

「は、はい…」

ルリアの話に間違いは無かったみたいで、別の婚約者がいたらしい…。

そちらは断り、俺と婚約するとか意味が分からない。

ラノフェリア公爵家から、ルリアとリリーの二人も婚約者としてもらっている。

その上に、ユーティアまで俺の婚約者にするとか、俺はラノフェリア公爵から信用されていない?

そんな事は無いはずだろう。

それなら、ルノフェノの件での謝罪のため?

それもすでに片付いている問題だ。

俺は助けを求めるべく、ルリアに顔を向けたら、ルリアはプイッと横を向いてしまった…。

ラノフェリア公爵には納得していると言ったのに、全く納得していないのでは無いのか?

うーむ困った…。

俺は正面を向きユーティアを見ると、ニコッと微笑んでくれた。

ユーティアの方は、俺の婚約者になる事に納得しているみたいだ。

それならば、俺の方としては断る必要はない。

と言うより、断れないと言った方が正確だな。

ルリアに怒られるかもしれないが、ここは男らしくユーティアを婚約者として迎え入れようと思う。


「ラノフェリア公爵様、ユーティアお嬢様を大切にする事をお約束します」

「うむ、頼んだぞ」

「エルレイさん、ユーティアは大人しい子ですが、どうかよろしくお願いします」

こうして俺は、ユーティアを婚約者として迎える事になった…。


婚約者が増えた事は嬉しいが、そろそろ収拾がつかない数になって来たような気がする…。

婚約者が六人に、ロゼ、リゼ、ラウラにも、エルフの町で買った指輪を渡している。

そう言えば、ユーティアにも巨乳のメイドがいて、今もユーティアの背後に立っている。

その巨乳メイドも一緒に着いて来る事になれば十人か…。

貴族の中には、二桁の妻を持つ者がいない訳ではない。

しかし、ラノフェリア公爵でさえ四人なのに、十人はいささか多過ぎな気もする。

この辺りで止めておかないと、将来大変な事になりそうで、ちょっと怖くなって来た。

問題が起きないように、俺は婚約者同士の仲を良くして行こうと心に決めた!

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