第二百九話 甥っ子と姪っ子
街道整備の休日に、俺はルリア達を連れて父の屋敷に来ていた。
皆を連れて訪れるのは初めての事だが、ロレーナ以外は落ち着いている。
ロレーナは、今もしきりに服の乱れが無いか、ロゼに確認して貰っているな…。
婚約者の両親に会うのだから気持ちは分からないでもないが、全くおかしい所は無いので落ち着いて貰いたいものだ。
「エルレイ様、奥方様方、ようこそお越しくださいました」
「ジアール、久しぶり。元気そうで何よりだ」
父の屋敷の玄関で、年老いた執事のジアールに出迎えられた。
年老いたと言っても背筋はまっすぐ伸びているし、顔色もよく元気そうだ。
ジアールにはい、つまでも元気でいて貰いたいと思う。
ジアールに案内して貰って通された部屋に入ると、赤ちゃんを抱いている母の姿と、その赤ちゃんを覗き込んでいる父の姿があった。
母は幸せそうな表情をしているし、父も普段は俺達に絶対見せない笑顔を見せていて幸せそうだ。
マデラン兄さんとセシル姉さんは赤ちゃんを両親に任せて、ソファーに座って寛いでいた。
俺達が入室して来た事に気が付くと、二人は立ち上がって俺達の前まで来てくれた。
「エルレイ、よく来てくれた!」
「マデラン兄さん、セシル姉さん、出産おめでとうございます」
「エルレイ君、ありがとう」
今日父の屋敷を訪れたのは、出産祝いの為だ。
赤ちゃんの名前はロルフと言い、元気な男の子だ。
ルリア達は挨拶を終えると、早速母の元に行って赤ちゃんを見せて貰っている。
俺も甥っ子を見たいが、マデラン兄さんとの話が先だな。
今はまだ父が治める領地なのだが、マデラン兄さんに早く継がせるために、仕事はマデラン兄さんに任せているそうだ。
父の今の表情を見るに、初孫を可愛がりたいと言うのが理由なのかもしれない…。
俺はマデラン兄さんと供にソファーに座り、メイドが淹れてくれた紅茶を飲みながら話をする事となった。
「エルレイは派手にやっている様だな?」
「派手と言うか…僕がやった方が早かったと言うだけの事です…」
マデラン兄さんの言っている事は、この前俺がスラム街を無くした件についてだ。
あの事業を普通にやろうとすれば、他の場所にスラム街の住民を移してから、スラム街の解体作業を行い、その後に家を建てる必要がある。
一、二年はかかるだろうし、お金もそれなりにかかるだろう。
お金が無い今の状況では、実行する事は厳しい。
「こっちもエルレイにお願いしたい所だが、余裕が無い状況でね…」
「はい、僕の所も厳しいのは変わりありません。
それに、孤児院の方も試行錯誤の段階で、大人数を受け入れられる状況ではありません」
「そうか、暫くは食糧支援し、犯罪を起こさせないよう努力しておくよ」
「よろしくお願いします」
アドルフに調べさせたが、大きな街にはそれなりの孤児達が存在し、犯罪に巻き込まれたり犯罪に手を染めてしまう孤児もいるそうだ。
何とか保護してあげたい所だが、現状俺にもマデラン兄さんの所にも余裕が無く、暫くは様子を見るほかない…。
「エルレイが街道整備してくれたお陰で、人も増え始めている。
それとは逆に、街道から離れた場所にある村などからは、少しずつ人が出て行っていると言う話も聞く。
出来れば、細かい道も整備しなおして貰えると助かるのだが、どうだろう?」
「そうですね…今の街道整備が終われば時間が空くでしょうから、整備計画書を提出しておいて貰えれば、うちの使用人達が何とかしてくれると思います」
「助かるよ!」
確かに、街道整備は大きな通りしか行っておらず、そこから離れた村へと続く道は未整備のままだ。
そうなれば当然、便利な土地に移り住もうと考える者が増えるのは当然の事だな。
マデラン兄さんの頼みだし、なんとか時間を作って行いたいと思う。
マデラン兄さんとの話を続けていると、ロルフを抱いたアルティナ姉さんが俺達の所にやって来た。
「エルレイ見て!ロルフはセシル姉さんに似ていると思わない?」
アルティナ姉さんは俺の隣に座り、ロルフの顔を見せて来た。
正直赤ちゃんの顔は丸くて、どちらに似ているのか判断に苦しむ…。
「そうだね。全体としてはセシル姉さんに似ていると思うけれど、目はマデラン兄さんに似てないかな?」
「エルレイもそう思うか!」
「う、うん…」
マデラン兄さんは、目が似ていると言われてとても喜んでいる様子だ。
アルティナ姉さんは、そうかなぁ?と首を傾げながら皆の所に戻って行った…。
親としては、子供が似ていると言われれば嬉しい事なのだろうな。
普通の顔の俺としては、俺の子供が出来たら母親に似て欲しいと思う…。
マデラン兄さんとも話も終わり、俺もロルフを抱かせて貰う事になったのだが…。
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「エルレイ、抱き方がなっていないわよ!」
俺が抱いたとたん、ロルフは大声で泣き出してしまった…。
ルリアから抱き方が悪いと指摘されて抱えなおしたが、それでも泣き止んでくれなかった…。
「私に任せるのだ!」
ロルフをヘルミーネに渡し、ヘルミーネが少しあやすと、ロルフはピタッと泣き止んでしまった…。
「ふふん、どうだ?」
ヘルミーネの勝ち誇った態度には少しむかついたが、ロルフが泣き止んだのは事実だ。
ここは大人しく敗北を認めるしかない…。
ロルフは男の子だし、男の俺に抱かれるのを嫌っただけなのかもしれないな。
俺がロルフの立場だったら、きっとそう考えるに違いない!
今後は、女の子だけを抱く事にしようと思った。
父の屋敷で昼食を頂き、その後はヴァルト兄さんの屋敷にやって来ていた。
ヴァルト兄さんとイアンナ姉さんの間にも、赤ちゃんが産まれているからな。
産まれたのはヴァルト兄さんの赤ちゃんの方が早かったのだが、俺の都合がつかなくお祝いに訪れるのが遅くなってしまった。
「エルレイ、よく来てくれたな!」
「ヴァルト兄さん、お久しぶりです」
ヴァルト兄さんの屋敷を訪れると、ヴァルト兄さんが早速俺の頭を撫でまわして来た。
相変わらずの愛情表現だが、俺も頭を撫でられると何となく安心出来る。
髪は大いに乱れてしまうが、それはロゼが元通りにしてくれるので問題は無い。
「エルレイ君、久しぶり!」
「イアンナ姉さん、お久しぶりです」
ヴァルト兄さんに続いて、赤ちゃんを抱いたイアンナ姉さんも俺の所に来てくれた。
ヴァルト兄さんはイアンナ姉さんの肩に手を回して抱きよせ、赤ちゃんを紹介してくれた。
「俺の娘アンジェルだ。可愛いだろ!」
「うん、イアンナ姉さんによく似て可愛いですね」
「そうだろう、そうだろう!」
ヴァルト兄さんはとても喜び、アンジェルの顔を笑顔で見ていた。
娘の顔が自分に似ていなくて良かったと安堵しているのだろう。
俺だって同じ気持ちになるに決まっている。
「エルレイ君、新しい子が増えているみたいね?」
「はい、彼女はルフトル王国の王女でロレーナと言います」
「よ、よ、よろしく頼むのじゃ」
俺がロレーナを紹介すると、ロレーナも慌てて挨拶をしてくれた。
一方、紹介してくれと言ったイアンナ姉さんとヴァルト兄さんは固まってしまっていた…。
一国の王女が目の前にいれば、こうなってしまうのは理解出来る。
しかし、ヘルミーネもいるのだし、そこまで緊張する事は無いと思うのだがな…。
「「王女様とは知らず、大変失礼いたしました!」」
ヴァルト兄さんとイアンナ姉さんは、慌てて片膝をついて頭を下げていた。
「あ、い、いや…」
頭を下げられたロレーナは、どうすればいいのかと困惑していた。
ロレーナは、本当の王女では無いから気持ちは分かるが、俺の婚約者としてその立場が変わる事は無いのだから、そろそろ慣れて欲しいと思う。
「二人共畏まらなくていいよ。ロレーナはそんなこと気にしないから、普通に接して貰えないかな」
「そ、そ、その通りじゃ!」
ヴァルト兄さんとイアンナ姉さんは立ち上がり、ロレーナと挨拶を交わしていた。
「ロレーナさん、アンジェルを抱いて貰えませんか?」
「わ、わかったのじゃ」
二人は王女様に抱いて貰ったと喜んでいたが、それを見て不満に思っているのが約一名…。
「私も抱いてやろう!」
ヘルミーネがロレーナからアンジェルを受け取ると、アンジェルは笑顔で笑っていた。
やはり、ヘルミーネは赤ちゃんをあやすのが上手の様だ。
その後、俺もアンジェルを抱かせて貰ったが、ロルフと同様に大泣きされてしまう事になった…。
「エルは駄目だな!」
「ヘルミーネ、頼む…」
ヘルミーネが抱くと、やはりアンジェルは泣き止んでくれた…。
抱き方が悪いのかは分からないが、俺は赤ちゃんには嫌われてしまうようだ…。
「エルレイ、俺が抱いても泣かれてしまうから気にするな…」
ヴァルト兄さんも俺と同じみたいで、二人で少し落ち込んでしまう事になった…。
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