第二百一話 アンナ

私はこのまま死ぬのかな…。

病気になってから食べ物は食べられないし、体が思うように動かない…。

それなのに咳だけは止まらなくて、痛くて苦しい…。

皆が色々お世話をしてくれて嬉しいけど、笑顔を見せてあげる事は出来ない…。

体に力がほとんど入らなくなって、いよいよかと思った時、キラキラと光る髪をした女の子に手を握られ、体の痛みと息苦しさが嘘のように消えて行った…。

女神様が私を迎えに来てくれたんだ…。

そう思ったのだけれど、違っていた。

私の病気は本当に治り、別の女性に抱きかかえられて他の場所に連れて行かれる事になった。

痛みと息苦しさが無くなったので、急に眠くなってそれからの事は覚えていない。


次に目が覚めたのは、とても柔らかなベッドの中だった。

それに良い香りもして来る。

天井には綺麗な絵が描かれていて、私がいた世界とは違った場所に来たのではないかと思った…。


「目が覚めたようですね。体は起こせますか?」

「うん…」

声をかけてくれたのは、また知らない別の女の人で、私の体を起こすのを手伝ってくれた。

「お水です」

「ありがとう…」

私は差し出されたお水をゆっくりと飲んだ…。

乾いた喉に水が入って行くと気持ちよく、私は生きているんだと思った。

「食事を食べられそうですか?」

女の人は、私から空になったコップを受け取りながら優しい声で聞いて来た。

食事と言われて、私はとてもお腹が空いている事に気が付いた…。

今までは痛みと苦しさで食欲もわかなかったけれど、それが無くなったからなのか、ものすごく食べたい気持ちがわいて来た。

「うん…食べたいです…」

「分かりました。すぐにお持ち致します」


女の人は部屋を出て行き、私は一人部屋に残された。

部屋を見渡すと、私が寝ているベッド以外にテーブルと椅子が置かれていて、テーブルの上には花の咲いた植木鉢が置かれていた。

良い香りはあの花からして来ているんだ。

花の香りを吸い込んでいると、とても落ち着く気がする…。

窓からは日も差していて、部屋がとても明るくなっていた。

私が住んでいた場所の窓は板で打ち付けられていて、明かりは隙間から微かに入って来るだけだった。

常に薄暗くて気分も優れなかったけれど、明るいお日様の光を見ていると私の心も明るくなっていくみたい。


「お待たせしました」

女の人がカートを引いて、部屋に入って来た。

カートの上には白い器が一つ置いてあり、そこからとてもいい匂いが漂って来ていた…。

くぅ~。

その匂いを嗅いだだけでお腹が鳴り、少し恥ずかしくなった…。

女の人はカートと椅子をベッドの脇に持って来て椅子に座り、カートから器を取ってスプーンで少しかき混ぜていた。

そしてスプーンで器の中の料理をすくい、ふ~ふ~と息を吹きかけて冷ましてから、私の口元に持って来てくれました。


「もう熱くありませんので、口を開けてください」

「うん…」

私が口を開けると、女の人はスプーンを私の口に入れてくれました。

その途端、甘くて優しい味が口の中いっぱいに広がりました。

「食べられそうですか?」

私は口を閉じたまま、頷いて返事をしました。

「それは良かったです」

女の人は優しそうに微笑んで、またスプーンを私の口の前に差し出してくれました。


「うっ、うっ、ご、ごめんなさい…」

「半分も食べられたのですから、気にしなくていいのですよ。

さぁ、また寝てゆっくりと体を休めてください」

美味しい食事だったけれど、器の半分ほどしか食べられなかった。

女の人は涙をぬぐってくれた後、私の体をベッドに寝かせてくれた。

ちょっとだけ体を起こしただけなのに、私は疲れ果ててすぐに眠ってしまった…。


そんな日々が数日続き、食事も用意された分はきっちり食べられるようになった。

「今日は少し歩いて見ましょうか」

「うん…」

女の人はエイリエッタさんと言って、私の看病をずっとしてくれた優しい人。

エイリエッタさんは、私に新しい靴を履かせてくれた。

「痛くはありませんか?」

「うん、大丈夫」

エイリエッタさんは私を支えてくれながら、部屋の外に連れ出してくれた。


「うわぁ…」

目の前に広がる綺麗な光景に、目を奪われてしまった。

「綺麗でしょ?」

「うん、とても綺麗…」

エイリエッタさんは、自慢げに私に色々説明してくれた。

ここは、私達が何時も遠くから見上げていたお城で、私達を助けてくれたエルレイ様と言う貴族様の住むお城なんだそうです。

エルレイ様はとてもお優しく素晴らしいお方なのだと言う事を、歩いている間ずっと話してくれた。


歩けるようになった私は、すぐに元気だった頃のように戻る事が出来た。

「もう大丈夫ですね。お兄さん達の所に行きましょう」

「うん!」

私はエイリエッタさんに連れられて、お兄ちゃん達がいる場所へと連れて行って貰った。


「アンナ!もう大丈夫なのか!?」

「うん、お兄ちゃん心配かけてごめんね…」

「そんなこと気にしなくていい。アンナが元気になってくれたのであればそれが一番嬉しい!」

お兄ちゃんは、私の元気な姿を見てとても喜んでくれた。

お兄ちゃんには、今までずっと心配ばかりかけていたから、喜んでくれた事が嬉しかった。

他の皆も、私の元気な姿を見て喜んでくれたし、看病してくれたエイリエッタさんには感謝しかない。

そしてその夜、私はエレンとマリーと一緒の部屋で寝る事になった。

寝る前に、エレンが私にこれからの事を話してくれた。


「アンナ、明日からは死に物狂いで頑張らないと、食事が食べられないのよ!」

「うん、助けて貰ったお礼をするんだよね?」

「そうなのよ!食事を食べさせて貰う代わりに、うちらに仕事が与えられたのよ!」

「仕事?」

「仕事よ!とても大変で分からない事があったら、うちらも協力するから遠慮なく聞いて来るのよ!」

「うん、ありがとう」

美味しい食事を食べさせて貰えるならどんな事も頑張れるし、エイリエッタさんに恩を返さないといけないから、頑張らないといけない。


そして翌日、私は仕事に取り掛かる事になった。

「アンナの教育は、私が皆様に追いつけるように責任を持って教えさせて頂きます」

「うむ、ラウラ頼んだぞ!」

皆は私が寝ている間にも仕事をしていて、随分と進んでいるみたいで、私だけがラウラさんから直接仕事を教えて貰う事になった。

「姿勢を正して、ペンの持ち方はこのようにしてください」

「うん」

「返事は、はいです!」

「はい…」

「私が書いた文字と同じように書いてください」

仕事と言うのは文字を書く事だった。

これが仕事になるのか私には分からないけれど、皆もやっているので私も頑張って文字を書く…。

「出来ました…」

「では、次の文字はこれです」

「はい…」

ラウラさんはエイリエッタさんと同じ服を着ているのに、とても厳しいです…。

だけど、皆に追いつくためには必要な事だと言うのは分かった。

仕事は大変だけれど、食事は今までに食べた事が無いくらい美味しく、一日三回もお腹いっぱいになるまで食べさせて貰えます!

今までは、一日に一回しか食べられず、お腹いっぱいになった事もなかった…。

それに比べれば、ここは夢のような場所です。

仕事が大変なくらいどうって事ありません。


「アンナは物覚えがよろしく、教え買いがあります」

「はい、ありがとう」

「ありがとうございます。です」

「ありがとうございます」

ラウラさんは厳しいけれど、このまま頑張って行ければ皆に追いつける日も近いそうです。

私はラウラさんの教えを真剣に聞き、仕事を頑張って行こうと思った。

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