第二百話 エリオット
≪エリオット視点≫
「これからはアンナと二人で生きていきな!」
俺は幼い頃、アンナと共に娼婦の母親から捨てられた。
別に珍しい事ではないし、捨てられる事は周囲の子供達が捨てられているのを見ていたので分かっていた。
だから、捨てられて悲しいと言う気持ちは無く、自分の番が回って来たのか、くらいにしか思っていなかった。
それに、俺にしがみついて泣いているアンナの事を思えば、悲しんでいる暇はない。
「お兄ちゃん、お腹空いたよ…」
「うん、何か食べるものを見つけよう」
一応母親から少額のお金は貰ったけれど、これは何かの時の為に取って置かなくてはならない。
アンナに食べ物を見つけると言ったけれど、何処に行けば食べ物があるのかなんて知るはずもない。
だからまず、仲間を見つける所から始めた。
俺が暮らしていた娼館から少し離れた区画に、俺達の様に住む場所もお金も無い者達が集まる場所がある。
捨てられたらそこに行って仲間を探すようにと、先に捨てられた子供が戻ってきて教えてくれた。
「お兄ちゃん、怖い…」
「アンナは俺が守るから心配しなくていい!」
その場所は、昼間だと言うのに薄暗く不気味に感じた。
匂いも酷くて、アンナは俺を掴んでいない方の手で鼻をつまんでいる。
いつ、何処から、何かが襲って来るような気がして怖いが、恐怖心を押さえて奥に進んで行った…。
「おい、そっちは危ない!」
突然物陰から現れた人影が、俺とアンナを細い路地に引っ張り込んだ。
「だれだ!?」
「おいおい、俺の事もう忘れたのかよ?」
「あっ、久しぶり…」
その人は、俺にここに来るようにと教えてくれた奴だった。
「おう、俺達のねぐらに案内するぜ。着いて来な」
「うん」
連れられて行った場所には五人の子供達がいて、俺とアンナの事を受け入れてくれた。
「いいか!絶対盗みはするなよ!捕まれば見せしめに腕を斬り落とされるからな!」
「うん、分かった」
腕を斬り落とされたくはないので、盗みはしない様にしないといけない。
それから、食べ物の集め方を教わって行った。
この時間に行けば食堂の裏で余った食べ物を貰えるとか、下水路を通って街の外に出てから、食べられる草や木の実を集める事とか、様々な方法を教わった。
満足に食べられる事はあまり無かったが、アンナと二人で食べる分は何とか集める事が出来た。
俺達の様な子供達の集団は、この場所に幾つかあり、集める場所もある程度決まっていた。
たまに、他所の子供が横取りに来た事もあったが、その時は奪わせないために喧嘩となる。
幸いにも、俺達の所には喧嘩が強い者が多く居たので、奪われる様な事は無かった。
「元気でな!」
俺とアンナを仲間にしてくれた奴は、そう言って抜けて行った。
大人になればここを出て行き、外での仕事を探して独り立ちするのがここの決まりだ。
また戻ってくる奴もいるが、子供達の仲間には入らず、一人で生活するらしい。
俺もそろそろ出て行く為の準備をしなくてはならないが、アンナを置いてはいけないので、二人で生活して行けるだけのお金を貰える仕事を見つけなければならない。
そんな時、アンナが病気にかかってしまい、寝込んだままになってしまった。
病気に効くと教えて貰った薬草を集めてアンナに食べさせたが、効果は無かった…。
お金があれば、街にいる魔法使いに頼んで治療して貰えるが、お金はすでに無くなっていた。
日に日に元気が無くなっていくアンナに、仲間も心配してくれて色々な食べ物を持って来てくれるが、アンナは食べ物をあまり食べられなくなっていた。
「美味しい果物を食べさせれば元気になると思うっす」
仲間の言葉を信じ、街の外に果物を探しに行ったが、取り尽くしているので見付かるはずもない…。
そこで俺は意を決し、市場から果物を盗んで来る事にした。
捕まればマリーの様に腕を斬り落とされてしまうが、捕まらなければいいのだ。
皆の反対を押し切り、俺は一人で市場へと向かって行った。
市場には沢山の食べ物が売られていて、その匂いを嗅ぐだけで俺の空腹のお腹が鳴って来る…。
俺はお腹を押さえて我慢し、目的の果物が売られている所に急ぐ。
「あった!」
果物が山積みにされていて、甘い匂いが漂って来る。
直ぐに持って帰ってアンナに食べさせてやりたいが、盗むのであれば沢山持って行きたい。
俺が暫く様子を見ていると、おじさんがお客に売るために袋に果物を詰め込んでいるのを見た。
あれだ!
袋をお客に渡す機会を狙って素早く飛び出し、おじさんの手から袋を奪い取る事に成功した!
「あっ、こら!まてぇ!
泥棒だ!誰かそいつを捕まえてくれぇ!」
おじさんが大声を上げながら追いかけて来るが、逃げ足には自信がある!
このまま市場を抜けて路地に入り込めれば、後は簡単に逃げられる!
もう少しで市場を抜けると思った所で、突然体が軽くなったかと思ったら、足が地面から浮いて逃げられなくなった…。
どうにか逃れようと暴れたが、足が浮いててはどうにも出来なかった。
俺は腕を斬り落とされる事になるだろうが、それよりも、アンナに果物を届けられない悔しさで胸がいっぱいになった!
果物は奪い取られ、牢屋に放り込まれる事になりそうだったが、何とか説得して最悪な事態は免れた…。
しかし、アンナの所に案内しなくてはいけなくなり、どこかで逃げ出そうかと考えたが縛られていて無理だった…。
それに、アンナの治療をしてくれると言うし、アンナの病気が治り元気になってくれさえすれば、俺の腕が斬り落とされようとも、このまま牢屋に入れられようとも良いと思った。
アンナの病気が治ったのかは分からないが、苦しく無いと言っているので治ったのだろう。
しかし、アンナは果物を少しだけしか食べてくれず、元気にはなってくれなかった…。
弱ったアンナをこのままにしておけば危険だと言われ、俺はアンナと共に着いて行く事にした。
仲間は反対したけれど、結局全員着いて来てくれる事になった。
俺達は馬車に乗せられお城へと連れて来られた…。
遠くから眺める事しか出来なかった場所だ…。
俺達は呆然とお城を見上げていると知らない男性達が来て、俺達は男と女に分けられて風呂に連れて行かれた。
「先ずは体を綺麗にして頂きます!」
俺達は強引に裸にされて、全身くまなく洗われた…。
体を洗ったのは何時ぶりだろう…。
夏になれば、街の外の河原で水浴びはしていたくらいで、相当汚れていたのは自覚している。
しかし、体を洗う余裕すらない場所にいたのだから仕方がない。
かなり擦られて体がひりひりと痛むけど、お風呂から上がると良い匂いがする液体を全身に塗られると、その痛みは無くなった。
体がすっきりして、生まれ変わったように気分が良い。
「お食事です。いくらでもありますので、慌てずに食べてください」
「うおぉぉぉぉぉぉっ!」
慌てるなと言われたが、こんなに美味しそうな料理を目の前に沢山並べられたら、慌てない方がおかしい!
俺達は目の前の食事を競い合う様に食べ始めた!
産まれて初めてこんな美味しい料理をお腹いっぱい食べる事が出来た…。
皆も涙を流しながら食べていたな…。
アンナに、この美味しい食事を食べさせてあげられない事が残念だ…。
アンナは別の場所で安静にさせているらしく、会う事は出来ない。
しかし、アンナを抱きかかえてくれた女の人が、責任をもって元気にすると言ってくれたのので、それを信じたい。
そして、数日後にはアンナが元気になり、俺達と合流する事が出来て安心した。
アンナと俺達を助けてくれた皆には、どんな事をしても恩返しをしたいと思った。
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