第百九十九話 ユーティアへの贈り物

ユーティアは優雅に紅茶のカップをソーサーに戻し、美味しかったですよと言うような優しい笑みを浮かべて、巨乳メイドに微笑みかけていた。

その優雅な仕草に俺は見惚れてしまい、これが本当の公爵令嬢なのだと思った。

いや、ルリアの様な態度も公爵令嬢らしいと言えばそうなのかもしれないが、俺のイメージとしてはユーティアの方がしっくりくる。

俺がユーティアに見惚れていたのが気に食わなかったのか、隣に座っているルリアが肘で俺の横腹を突いて来た。

ルリアの方を見ると、早く話せと言わんばかりに睨んで来ているし、ユーティアも話しかけられるのを待っているみたいなので、見惚れていないでお礼を言う事にした。


「ユーティアお嬢様、以前に危険を知らせて頂きました事を非常に感謝しております。

あの知らせが無ければ、僕はここにはいなかったかも知れません。

本当にありがとうございました!」

僕は席を立ち、ユーティアに感謝を込めて頭を下げた。


「頭を上げて座って下さい」

ユーティアの優しい声がかかり、俺は頭を上げて席に着いた。

ユーティアは視線をルリアに移し、少し考えた素振りを見せてからルリアに話しかけた。

「ルリアはこの件に関して、何処まで知っているのですか?」

「エルレイが襲われた事しか教えて貰っていないわ!」

ルリアはユーティアの問いに、少し怒った様子で俺を睨みつけながら答えていた。

まぁ、ルリアだけ犯人の事を知らないので、仲間外れみたいな感じがしているのだろう。

でも、その事は事前に納得して貰ったはずだから、睨まないでほしいな…。


「それなら、私から詳しい話をしない方が良いでしょうし、私もどの様な手段で解決したかは知りません」

「そうなのね?」

「はい」

解決手段を知っているのは、ラノフェリア公爵、ネレイト、ルノフェノだけだしな。

ユーティアがそれを知らないと言う事で、ルリアも少しは落ち着いてくれたみたいだ。


「まぁいいわ!エルレイを助けて貰った事には感謝をするわ!

そのお礼として贈り物をしたいのだけれど、欲しい物はあるのかしら?」

ルリアは直接ユーティアに欲しい物を尋ねていた。

回りくどい言い方をするよりかはましだけれど、その言い方だと遠慮してしまうのではないかと思ってしまう。

俺がそう言われたら、お礼は結構ですと言ってしまいそうな気がする…。

ユーティアは、ルリアから贈り物をと言われてから右手を頬に当てて首を傾げ、少し俯き加減で真剣に考えているみたいだ。

まぁ、妹のルリアから言われたのだから、遠慮する事は無いか。

俺も兄さん達から言われたら、真剣に欲しい物を考えていたに違いない。


「ゆっくり考えていいわよ」

ルリアはそう言って、紅茶とお菓子を食べ始めた。

「あら、美味しいわね…」

ルリアが美味しそうにお菓子を食べていたので、俺もお菓子に手を伸ばそうとした所で、ユーティアから声が掛った。


「ルリア、何でもいいのかしら?」

「えぇ、でも、あまりお金は無いから高いのは無理よ!」

「はい、お金は掛からない物です」

「そう?ユーティア姉さんは、何が欲しいのかしら?」

ルリアがそう尋ねた後、ユーティアは俺に顔を向けて優しく微笑んでから欲しい物を言ってくれた。

「物とは違いますが、魔法を教えて貰いたいのです」

「そんな事ならおっ…」

「エルレイ!ちょっと来なさい!」

魔法を教えるくらいお安い御用だと言おうとしたら、ルリアに口を手でふさがれた上に腕を掴まれて強引に立たされて、部屋の隅へと連れて行かれた…。


「ルリア、ちょっと腕が痛い…」

「そんなのすぐ治療出来るでしょ!

それより、ユーティア姉さんの言った意味が分かっているの!?」

ルリアに強引に引っ張られた腕が傷むが、治療すればすぐに傷みは取れる。

しかし、今はルリアとの会話に集中しなくてはならない。

意味と言われても、魔法を教える以上の意味があると言うのだろうか?

もしかして、無詠唱の事を言っているのか?

それでも、命の恩人であるユーティアに教えるのはやぶさかではない。

他の人に教えない様にと言う条件は付けなければならないが、情報を漏らさない様にと、普段から無口を貫いているユーティアなら信用出来ると思う。


「うん、多分…。ユーティアお嬢様は口が堅いし、ルリアのお姉さんなのだから問題無いだろう?」

「はぁ~」

俺の答えに、ルリアは大きくため息を吐いていた…。

「何も分かっていない事が分かったわ…。

エルレイ、私が話をするから暫く黙っていて頂戴!いいわね!」

「う、うん…」

ルリアは、何が分かっていないと言いたかったのだろうか?

もしかして、魔法を教えてはいけなかった?

確かに、俺が他人を魔法使いに出来る事は伏せておかなければならない。

しかし、相手はルリアの姉だし、俺が他人を魔法使いに出来る事は知っていた。

まぁ、ラノフェリア公爵家の者であれば、それくらいの情報を持っていても不思議ではない。

それに、早い段階で俺が襲われる事を察知していたユーティアなら、尚更の事だな。

ルリアは、もう一度俺に黙っておくようにと釘を刺し、ユーティアが待つ席へと戻って行った。


「ユーティア姉さん、別の物にして貰う事は?」

「それ以外はありません」

「駄目だと言ったら?」

「そうですね…別の方向から頼んでみます」

「はぁ~」

ルリアとユーティアの攻防が続くのかと思われたが、ユーティアの勝利で決着がついたようだ。

ルリアはまた大きなため息を吐き、じろりと俺の事を睨みつけて来た。

そんなにユーティアに魔法を教えたくはなかったのだろうか?

ラノフェリア公爵家の中で魔法が使えるのは、ルリアとリリーだけだ。

ルリアは魔法を使えると言う優位性を失いたくなかった?

いいや、ルリアがそんな小さなことにこだわるとは思えない。

そもそも、ルリアは攻撃力と言う点においては、俺を凌駕りょうがする魔法使いだ。

それに加えて、スラム街の件で魔法の制御力も上がって来ている。

火属性と風属性においては、俺以上の魔法使いだと言っていいだろう。

そのルリアが、ユーティアに対してそんな感情を表すとは思えない。


「それで、何日程かかるのかしら?」

「そうですね…色々と準備をしないといけませんので、一ヶ月ほどです」

「分かったわ。お父様の方は大丈夫なの?」

「はい、そちらの許可は既に得ています」

「はぁ~、最初からそのつもりだったのね…」

「はい、ルリア達が来なければ、押しかけるつもりでした」

「事前に分かっただけ良いと思う事にしておくわ…」

「ルリア、これからよろしくお願いします」

「えぇ、こちらこそよろしくね。

エルレイ、帰るわよ!」

「う、うん…。ユーティアお嬢様、失礼致します」

「はい、ごきげんよう」

ルリアとユーティアの間で話がまとまり、俺とルリアは帰る事となった。

話しを聞いていた限りでは、ユーティアは最初から魔法を教えて貰うつもりだったみたいだな。

一か月後に、俺の所に来て魔法の訓練をするらしい…。

しかしその頃は、ネレイトから頼まれた街道整備をしていて、ユーティアに魔法を教えてあげる事は出来なそうだ。

でも、妹のリリーに頼めばいい事だな。

リリーはラノフェリア公爵家の養女となったとは言え、ルリア以外の家族との交流は殆どない。

これを期に、リリーとユーティアが仲良くなってくれればいいと思う。


ルノフェノの結婚式から数日後、俺はロゼを連れて、ネレイトから頼まれていた街道整備に着手した。

また大量のレンガ作りからで面倒な作業が続くが、お金の為だから頑張らなくてはいけない。

ロゼもかなり上達して来た事だし、今回はかなり早く終わらせる事が出来るかもしれない。

ロゼに無理をさせないように気を付けながら、出来る限り早く終わらせてしまおうと思った…。

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