第百九十八話 ルノフェノの結婚式 その二

新郎新婦が入場し、ラノフェリア公爵の挨拶で結婚式が始まった。

ラノフェリア公爵の挨拶は近況の報告から入り、ルノフェノがラノフェリア公爵家から出て、男爵となる経緯の説明となった。

当然、俺を暗殺しようとした内容は含まれていない。

男爵になったのはルノフェノの意志によるもので、これからウィルハート家を大きくしていきたいと言う事だった。

集まった貴族達は、俺の様に出世するのだろうと期待しているみたいだ。

まぁ、俺の出世はラノフェリア公爵が仕組んだものだし、ルノフェノも同じ様に出世する可能性は否定できない。

しかし、俺が許したとはいえ、ラノフェリア公爵がルノフェノの手伝いをするとは思えない。

そこは、ルノフェノの努力次第と言う事になるのだろうな。


新郎新婦のダンスが披露され、食事と飲み物が振舞われていた。

ネレイトの結婚式と同様に、俺は食事にありつけずにダンスを踊る事となった。


「ロレーナ、僕と踊って頂けませんか?」

「よ、喜んでお願いするのじゃ」

俺は恥ずかしがるロレーナの手を取り、ロレーナと楽しくダンスを踊る事にした。

ロレーナは緊張しているのか、少し動きが硬いな。

緊張を和らげてやるために、ロレーナを引き寄せて密着させた。


「ロレーナ、周りは気にしなくていいから僕だけを見ていてくれ」

「わ、分かったのじゃ。し、し、しかし…か、か、顔が近い…」

「うん、こうしていれば、他の人を見なくて済むよね」

「う、うむ…」

ロレーナの顔は目の前にあって、もう少し近づければキスできるほどだ。

ロレーナの赤く染まった可愛い顔を間近に見れて、とても幸せに思う。

ロレーナとのダンスは、厳しい練習のお陰で上手に踊れているし、ラウラの指導を受けて良かったと思う。


ロレーナとのダンスを終え、ルリア達ともダンスを楽しんだ。

ルリアは顔を近づけるなと注意して来たが、リリーとアルティナ姉さんとはロレーナと同じように顔を近づけて踊る事となった。

こうなる事は予想していたが、流石に周囲の視線が気になり恥ずかしい思いをした…。

ヘルミーネは俺より身長が低いため、顔を近づけて踊る事は無かった。

と言うより、ヘルミーネはダンスを楽しむ方に集中していたし、相変わらずヘルミーネのダンスは上手で周囲からも感嘆の声が聞こえて来ていた。

ラウラの指導の賜物だなと思い、厳しいが俺もまた指導して貰おうと思った…。


婚約者とのダンスが終わると、待ち構えていた女性達とのダンスとなる。

ネレイトの結婚式の際にはユーティアとも踊り、そこで危険を知らせてくれたんだよな…。

今回、ユーティアとは踊る事無く終えたので、襲われる事は無いのだろう。

そう言えば、ユーティアにまだお礼をしていないんだよな…。

ルリアがお礼をしてくれているはずだが、それとは別に俺もお礼をした方が良いだろう。

俺はルリアの傍に行き、ユーティアにどんなお礼をすればいいか聞いてみる事にした。


「ルリア、ユーティアに贈り物をしてくれたのだろう?」

「いえ、まだしてないわよ?」

「えっ!?」

「だって、あれが解決してからって言ってたわよね?」

「あーうん、そう…だったね…」

そんな事を言ってたような気がする。

ユーティアが、俺の命が狙われていると知らせてくれた事は、ラノフェリア公爵にも秘密にしていた。

だから、ユーティアに対してのお礼も、犯人が見つかるまで行えなかったんだよな。

その犯人は見つかって無事解決したのだけれど、その事をルリアには伝えていなかった。

と言うより、犯人はルリアの兄ルノフェノだったとは言えないよな…。


「ちょっと、こっちにいらっしゃい!」

俺はルリアに手を引っ張られて、結婚式場の外へと連れだされてしまった。

ルリアは俺の手を引いたまま廊下を歩き、使用人に休憩するからと言って空き部屋に案内させた。

ルリアは部屋に入ると使用人を追い出し、俺と二人っきりにさせた。

部屋に若い男女が二人きりで休息に入ったと言う事を、使用人に邪推されないか心配だが、ルリアの雰囲気を思えばそんな事にはならないと分かってくれると思いたい…。

ルリアは無言のままテーブルの席に座り、俺も正面に座った。


「エルレイ、犯人が分かったのね?」

「う、うん、もう解決したんだ…」

ルリアは真剣な表情で睨みながら問いただして来たので、思わず解決したと言ってしまった…。

犯人の名前は言えないので、そう言うしか無かったのだが…。

「そう、犯人の名前を教えなさい!」

ルリアは、それでも犯人の名前を聞いて来た。

答えなければ殴って来そうだけれど、例え殴られたとしても教える訳にはいかない。

「ごめん、教える事は出来ない!ただし、僕が犯人に対して罰を与えたし、僕の気も晴れて解決はしている!

だから、これ以上聞かないでくれると助かる!」

俺は頭を下げてルリアに頼み込んだ。

頭を下げているから、ルリアの表情を窺う事は出来ないが、ルリアの少し荒い呼吸音だけが聞こえて来る。


「はぁ~、分かったわよ!聞かないでおいてあげるわ!」

「ルリア、ありがとう」

俺は頭を上げると、ルリアは呆れたような表情をしていた。

聡明なルリアならば、犯人が誰かは想像できているのだろう。

俺が名前を言えないという時点で、かなり絞られるだろうからな…。

想像できたとしても、俺が言わなければ確定しない。

ルリアには、忘れて貰うのが一番いいと思う。


「ユーティアへの贈り物だったわね!」

ルリアは気持ちを切り替える為か、無理に笑顔を浮かべてくれていた。

だから、俺もルリアに合わせて笑顔を作り、話を続けた。

「うん、贈り物も大事だけれど、直接会ってお礼が言いたい」

「そうね。じゃぁ結婚式の後にでも一緒にお礼を言いに行きましょう!」

「うん、あーでも、贈り物の用意が出来ないんだけれど?」

「その時に、何が欲しいか聞いて、後で贈ればいいと思うわ!」

「分かった、そうしよう」

ルリアもそうだけれど、公爵令嬢に贈って喜ばれる物って分からないんだよな。

欲しい物は、ラノフェリア公爵が買い与えるだろうからな。


俺とルリアは結婚式場へと戻り、皆の所に行って結婚式が終わるまで食事を楽しんだ。

ルノフェノの結婚式は、来客達から大いに祝福されて無事に終わった。

俺達はラノフェリア公爵家には宿泊せず、リアネ城へと帰る事になっていた。

あの事件は解決したし、また俺が襲われる様な事にはならないと思うが、念の為だな。

ラノフェリア公爵家としても、また俺が襲われる様な事態になれば、信用にかかわって来る。

俺としても、ラノフェリア公爵家に迷惑かけたくは無いからな。

皆を送り届けた後、俺とルリアはユーティアにお礼を言う為にラノフェリア公爵家に戻って来た。


「アリクレット侯爵様とルリアお嬢様がお見えになりました」

ユーティアの部屋の前で使用人が声を掛けると部屋の中から扉が開き、若い巨乳メイドが出迎えてくれた。

「どうぞ、お入りくださいませ」

俺はラウラより大きな胸に見惚れつつ、部屋の中に入って行った…。

ユーティアの部屋はルリアの部屋とは違い、高そうな調度品で飾られていて、超豪華な応接室と言った感じだろうか…。

来客をもてなすのには良い部屋なのかもしれないが、自室としては落ち着けない様な気がする。

その豪華な調度品の輝きに負けていないほど微笑を浮かべたユーティアが、俺とルリアを迎えてくれた。


「ごきげんよう」

「こんにちは」

「ユーティア姉さん、疲れている所にお邪魔して悪かったわね」

「いいえ、構いません。座って話しましょう」

ユーティアと挨拶を交わし、テーブルの席に着いた。

ユーティアの声を聴いたのは二度目だが、ルリアの言ってた通り自室では普通に話すのだな…。

巨乳メイドが紅茶とお菓子を出してくれたので、それを一口飲んでから話し始める事となった。

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