第百九十七話 ルノフェノの結婚式 その一

「エルレイ・フォン・アリクレット侯爵様、もう二度とあのような事は致しません。

誠に申し訳ございませんでした!」

ラノフェリア公爵家を訪れていた俺は、ラノフェリア公爵、ネレイト、ルノフェノの三人に頭を下げられ困惑していた。

「頭をお上げください!ルノフェノ様の件はこの前の戦いで終わったはずです!」

俺の中ではもう終わった事だと思っていたのに、こうして再度頭を下げられてはこちらの方が困ってしまう。

何とか三人に頭を上げて貰い、ソファーに座って貰った。


「エルレイ君、ルノフェノはラノフェリア公爵家を出てウィルハート男爵となった。

今回来て貰ったのは、その報告の為だ」

「そうだったのですね…」

そんな事の為にわざわざ呼ばれたのか…。

まぁ、ラノフェリア公爵としては、ルノフェノの処遇を俺に報告しなくてはならないと言う事は理解出来る。

理解は出来るが、俺自身の気持ちとしては、念話で連絡してくれるだけで済んだ事ではないかと思ってしまう。

文句を言う事は出来ないし、用事が済んだであればさっさと帰らせて貰いたいと思う。


「エルレイ、僕からの用事があるんだけれどいいかな?」

「はい…何でしょうか?」

それだけでは無かったみたいで、ネレイトがいつもの笑みを浮かべながら俺に話しかけて来た。

あの笑顔は、俺に頼みごとをする時の物ではないかと思ったが、断る事は出来ないんだよな…。

仕方なく話を聞いてみる事にした。


「この前スラム街を正常化した話は聞いたよ。流石エルレイだね!」

「ありがとうございます」

「エルレイが魔法で行ったとは言え、お金が沢山かかったよね?」

「はい…」

家の内外装に食事の提供と、結構お金がかかったことは事実だ。

俺の我儘で始めた事だったが、予想以上にお金がかかってしまい、アドルフ達に迷惑を掛ける事になってしまった。

それに加えて、まだ正式に決まってはいないが、新たな部署の作成をしなくてはならなく、そちらにもお金がかかる…。

お金の事を思い出し、それが表情に出てしまったみたいだ。

ネレイトがニヤリと笑い、話を続けた。


「エルレイの所はお金に困っているよね?」

「そう…ですね…」

「そこで、短期に稼げる仕事を受けてくれないかと思ってね!」

「内容によりますが…」

やはり俺に何か頼みごとをしたいみたいだ。

お金に困っている所に付け込まれた感じは否めないが、短期で稼げると言う響きに心を揺れ動かされていた。

「これを見てくれないかな」

「拝見させて頂きます」

ネレイトは、用意しておいた資料の束を俺の前に差し出して来たので、それを受け取り読み始めた。


資料の内容は、ソートマス王都から俺の領地までの街道整備と、ルノフェノが治める領地の開墾作業の二つだった。

開墾作業は楽だが、街道整備には時間がかかるぞ。

何処が短期なのかと問い詰めたいが、街道整備を普通にやろうとすれば、数年はかかってしまう事になるだろう。

それに比べれば短期なのかもしれないが、数か月拘束されるかと思うとちょっと気が重くなって来た…。

しかし、俺の我儘でお金を使ってしまったからには、自ら稼がないといけないだろう。


「分かりました、やらせて頂きたいと思います」

「そうか!うん、助かるよ!支払いは資料に書いてある通り、一括では払えないから、数年に分けて支払う事になるからね」

「はい、分かりました」

資料には、もの凄い金額が書いてあり、一瞬喜んだものの、分割払いと書いてあって少しがっかりした…。

それでも、お金が入って来る事には変わりない!

出来るだけ早く仕事にとりかかろう!


「エルレイ、やる気になっている所申し訳ないんだけれど、作業員の手配と警備兵の手配がまだなんだよね」

「そうなのですね」

今回はネレイトからの依頼と言う事で、俺の領地から作業員と警備隊員を連れて行く事は出来ない。

まぁ、俺が仕事を受けると分かってからしか、雇えないのは分かる。

「それと、近いうちにルノフェノの結婚式があるから、作業はそれが終わってからお願いするよ」

「分かりました」

そうか…。

ルノフェノとの問題は解決したし、俺としても結婚式には参加しない訳にはいかない。

お金は入って来るが、お祝い金やドレス代にお金が飛んで行く事になりそうだ…。

結婚式とは別に、マデラン兄さんとヴァルト兄さんの所に、子供が産まれそうなんだよな。

そちらのお祝いにもお金がかかる事になるだろう。

このタイミングで仕事を得られた事は、良かったと言う事にしておこう…。


ラノフェリア公爵家から戻り、皆にルノフェノの結婚式に参加する事を伝えた。

ルリア達はドレスを選んだり、新たに作ったりと忙しそうにしていた。

特にロレーナは、ドレスなど持っていなかったし、着た事も無かったので大変そうにしていた。

その上に、礼儀作法とダンスの練習などをやらされていて少し可哀そうに思えたが、ロレーナはルフトル王国の王女と言う事になっているので、恥をかかない為にも頑張って貰いたい。

そう言う俺も、ダンスの練習をラウラから厳しく指導されていた…。


「エルレイ様、そこはもっと女性を支えてあげてください!」

「う、うん…」

普段優しいラウラからは想像できないほど、厳しい指導が続いていた。

「どうだ、ラウラは恐ろしいであろう?」

「そ、そうだね…」

ヘルミーネが、普段どれだけラウラから厳しい指導を受けているかが分かり、ラウラから逃げ出したくなる気持ちも理解できた…。


そんな慌ただしい日々が続き、結婚式当日を迎える事になった。

俺は、五人の婚約者のドレス姿を見て感動を覚えていた!

ドレス姿は見慣れていると思っていたが、そんな事は無かったと思い知らされたな…。


「今日は、どうしてみんなお揃いのドレスにしたんだ?」

「これはロレーナが選んだのよ。初めて着るドレスだから、皆とお揃いが良いと言ってね!」

「なるほど、良い事だと思うよ」

そうか、ロレーナの為に皆が気を利かせてくれたのだな。

皆が着ているドレスは、ロレーナの髪の色に合わせたライトグリーンとなっていて、胸元には小さな花飾りが幾つもあり、草原の中にある美しい花畑の様になっていた。

「みんな美しくて綺麗だよ!」

一人ずつじっくりと見て感想を述べたい所だが、残念な事に時間が無い。

俺達は急いでラノフェリア公爵家へと空間転移魔法で移動した。


執事に案内されて、結婚式を執り行うホールへと向かうと、既に多くの来客が訪れていた。

とは言え、ネレイトの結婚式の時より数は少なめだろうか…。

俺達はルノフェノにお祝いの言葉を伝え、その後は貴族との挨拶が続きうんざりさせられる…。

でも、貴族が興味深く挨拶していたのは俺では無く、ルフトル王国の王女ロレーナの方だ。

ルフトル王国は謎に包まれた国であり、その国の王女が来ているともなれば気になるのは当然だ。

ルフトル王国の謎を知りたいのか、それとも何らかの繋がりを得て利益を得ようと考えているのかは分からないが、ヘルミーネがロレーナの隣に居てくれるお陰で、挨拶以上の話をして来ないのが幸いだな。

ルリアがその辺りを察して、ヘルミーネにロレーナの傍に居てあげる様にと言ってくれたお陰だ。

俺は貴族のあれこれには疎いので、ルリアがいてくれて本当に助かっているな…。


「よ、よ、よ、よろしく頼むのじゃ!」

ロレーナは慣れない挨拶に普段より多く噛みながらも、堂々とした態度は崩さないでいてくれた。

威厳ある王女としての態度は、ヘルミーネが直接指導していたので不安があったのだけれど、問題は無さそうだな。

そして挨拶が一通り終わり休憩できるかと思ったが、結婚式が始まろうとしていた…。

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