第百九十二話 リアネの街の清掃作業 その三
俺はヘルミーネとロゼをリアネ城に送り届けた後、見本としての家を一軒残し、他の四軒はリアネの街から少し離れた場所にある広大な広場に持って来て設置した。
この広場は、元々アイロス王国軍が訓練場として使用していた場所で、今は使われていない。
近くには兵舎もあり、そちらも同様に使用されておらず放置の状態だ。
この場所を上手く活用できたらいいのだけれど、良い案は思い浮かばないでいた。
今回は、俺達が作った五十軒の家の内外装を行って貰うための場所として使われる。
今思えば、ここを農地にした方が楽でよかったのではと思わなくもない…。
今更だが、まだ農地が必要だと言う事になれば、ここを使用する事を提案してみようと思う。
俺とロゼは五日間掛けて、五十軒の家を完成させた。
ヘルミーネは、五日掛けてもまだ完成には至って無いが、頑張っていると思う。
「ヘルミーネは、最後まで続けるよな?」
「うむ、当然だ!」
「それなら頑張って作り上げてくれ!」
家の形も俺が作った見本からは程遠いが、それでもヘルミーネが一生懸命頑張って作り上げている家だ。
俺も最初から上手く作れなかったし、ヘルミーネの家がどんな不格好だとしても、最後まで作り上げて貰いたかった。
完成したら、内外装も施して貰わなくてはな。
強度の問題で、スラム街に設置して誰かに住んで貰う事は出来ないが、リアネ城の傍にでも設置しておけば、ヘルミーネも喜んでくれるだろう。
「エル!完成したぞ!」
「ヘルミーネ、おめでとう!」
「ヘルミーネ様、おめでとうございます」
あれから三日後、ヘルミーネが作った家が完成した。
見かけは多少不格好だが、室内もきちんと作られていて、内外装を整えれば人が住めるのは間違いない。
早速俺は、ヘルミーネが作った家を広場に持って行って設置した。
今ここでは、五十軒の家の内外装を職人たちが大忙しで整えてくれている。
スラム街への告知は始められていて、一か月後には実施の予定だ。
それまでに完成させるのは大変な作業だと思うが、頑張って貰いたいと思う。
ヘルミーネの作った家は一番最後で良いと伝えてから、リアネ城へと帰って来た。
俺はそのまま警備隊の詰め所に向かい、トリステンを探した。
トリステンはスラム街の方に出掛けていると言う事で留守だったが、トリステンが魔法を使えるようになっているので問題は無いな。
俺は早速トリステンに念話で連絡を取る事にした。
『トリステン、エルレイだが、そちらの状況はどうなっている?』
『エルレイ様、今スラム街に来ておりますが、食事を提供しているお陰で混乱は起きていない模様です。
ですが、期限が迫って来ればどうなるかは分かりません。
それから、ニーナが子供達が連れ去られないか心配しております。
期限前に保護してもよろしいでしょうか?』
『うん、僕もその件で連絡を取ったんだ。
食事を提供する際に来た子供達には、しっかりと説明してから保護する様にしてくれ。
決して無理やり連れて来るような事はしないようにな』
『はい、隊員達にも徹底させます』
スラム街の子供達の事は、ロゼとリゼが心配して相談されていたんだよな。
でも、トリステンとニーナが上手くやってくれるだろうから、報告を待つ事にしよう。
アドルフ達も準備に大忙しの状態で、日頃の業務に加えて毎日忙しく働いてくれている。
一段落ついたら、まとまった休日を与えなくてはならないな。
皆頑張ってくれている事だし、俺も頑張らなくてはならない!
家の建築が終わったので、今度はルリアとロレーナとラウラを連れて山へとやって来た。
「ここなら遠慮なくやれそうね!」
「でも今回は、周囲に被害を出さないようにするのが目的なのを忘れないでくれ」
「分かっているわ!」
「わ、私とソルは、そう言うのが得意じゃ!」
ルリア達にやって貰うのは、建物の破壊の訓練だ。
当日は、建物を素早く粉々に破壊して貰う必要がある。
しかし、スラム街の周囲にも普通の建物があるので、巻き込まない様に気を付けなければならない。
ルリアは破壊するのは得意だが、周囲に影響を及ぼさないのは苦手だからな。
俺も威力重視で訓練してきたため、同じように苦手ではある。
しかし、今回はルリアに任せ、俺は整地や下水路の作成に当たらなければならないので、ルリア達が壊す建物に似た物を作り続けるだけだな。
先ずは壊れやすい壁を周囲に建て、その中に壊す建物を作っていく。
「周囲の壁を壊さないように気をつけながら、中の建物を壊して行ってくれ」
「分かったわ!エルレイは次々と建てて行きなさい!」
「うん!」
ルリア、ロレーナ、ラウラの三人は、それぞれの魔法を駆使して、俺が作った建物を気持ちよさそうに壊して行っている。
壊すために作った建物だが、次々と壊されて行く様子を見ていると、ちょっと悔しくなるな…。
でも、強固に作り過ぎれば練習にならないし、出来る限り壊されるのを見ない様にしながら作り続けて行った…。
数日間は俺の作成速度の方が上回っていたが、徐々に追い付かれるようになり、ロゼを連れて来て俺と一緒に建物を作って貰う事にした。
ヘルミーネも連れて来た方が楽になるのだが、ヘルミーネは絶対壊されない様に強固に作るはずだ。
それに、ヘルミーネにはエリオット達の教育もある。
ラウラがここに来ているので、ヘルミーネを連れて来るとアルティナ姉さんだけになってしまうからな。
ルリアは一人で建物を粉々にして、周囲にも被害を出さないように出来ていた。
ロレーナとラウラは、二人で協力し合って破壊している。
ロレーナの精霊ソルは強力で優秀だが、火だけしか扱えないのが欠点で、ラウラが風属性魔法で補ってあげている感じだな。
ロレーナとソルが、建物の複数個所で小さな爆発を起こして建物を崩壊させていて、ラウラが建物の破片や土煙を周囲に拡散させない様に風を使って守っている。
あれなら、魔力の少ないラウラでも十分に役立つし、いい連携だ。
ラウラは見ているだけしか出来ないと勝手に思い込んでいたので、ラウラには申し訳なく思う。
俺達の準備は整い、後は当日に訓練通りの成果を出すだけとなった…。
≪トリステン視点≫
エルレイ様からスラム街を無くすと言う話を聞いた時は、いくらエルレイ様でもそんな事は不可能だと思っていた。
しかし、その不可能を可能にしてきたのがエルレイ様だったな…。
アドルフから、スラム街正常化作戦書が届けられた時は驚愕したが、内容を読んで行くにつれて実行可能だと言う事を理解した。
しかし、エルレイ様以外には出来ない事だな、と呆れてしまった…。
そして、警備隊の方でスラム街の周囲に立札を立て、食事の提供を始める事になった。
その日は警備隊総出でスラム街に行き、妨害して来る者がいないか警戒に当たった。
当然俺とニーナも警備に当たっている。
ニーナは元々、このスラムの孤児だったと言う事なので、思い入れが深い。
特に孤児達には気を掛けていて、保護する準備が整ったと知らせると、直ぐに孤児たちを保護する様にと言って来た。
ニーナの話によると、孤児達を攫い、他国に売り飛ばす奴がいると言う事らしい。
俺はこの国で生まれ育っていたが、そう言った話は聞いた事も無かった。
しかし、ニーナは攫われて売り飛ばされたのは事実だし、ニーナを信じて隊員にも注意するよう話をした。
特に門の警備に当たる者には、子供達を隠して運び出す馬車がいないか確認を徹底させた。
食事の提供を始めてみたが、最初は警戒して誰も食事を貰いには来てくれなかった。
まぁ、警備隊がこれだけいれば、食事を餌に捕らえられてしまうと考えるは当然の事だろう。
だから、食事を置いているテーブルから警備隊の人数を減らしてみると、ぽつぽつと食事を貰いに来る者が現れた。
その際に、スラム街の撤去し新たな住居を与えることを説明して行った。
夕食の提供の時は、かなりの人数が訪れて来て、説明を聞いた者達からは本当に住居が貰えるのかと言う不安の声も聞かれ、俺は約束は守ると必死に説明し続ける事となった。
ニーナの方は、食事を貰いに来た子供達に保護を受け入れる様にと説得を試みていたみたいだが、上手くいかなかった様だ。
親に捨てられ、自分と仲間しか信じられない場所にいたのだから、ニーナを信じて保護を受けろと言うのが無理な話だ。
しかし、毎日根気良く説得を続ければ子供達も信じてくれると、落ち込んだニーナを励ました。
そして数日後、ニーナの説得に応じた子供達が現れ、その子供達が保護された先での生活を他の仲間に話した事で、一気に保護を受け入れる子供が増えてくれた。
ニーナは自分の事のように喜び、、保護した施設にも足を運んで様子を見に行っていた。
「トリステン、施設で病気は治して貰って見たいだけど、失われた手足は治せなかったみたいなのさね。
エルレイ様に治療して貰える様に、頼んでほしいのさね!」
「分かった。俺から言っておいてやろう」
「ありがとうさね!」
ニーナは俺に抱き付いて喜んでくれていた。
エルレイ様は多忙だが優しいので、子供達の治療は優先して行ってくれるはずだ。
俺は戻り次第、エルレイ様にお願してみる事にした。
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