第百九十一話 スラム街正常化作戦 その二
「草案が出来上がりました」
「ありがとう」
数日後、執務室にて書類のサインが終わったのを見計らって、アドルフがスラム街正常化作戦と題した草案を提出して来た。
仰々しい題名だが、間違ってはいないか…。
早速内容に目を通して行く。
・スラム街の住人に、この区画を整理し新な居住区の作成する事を周知徹底させる。
周知方法は立て札をスラム街を囲う様に複数立て、警備隊による宣伝を実施日前日まで毎日行う。
立札を立てた後、スラム街の住人の協力を得やすくする為、毎朝夕の二回食事の提供を行う。
食事の提供も警備隊の方で行って貰い、その事はすでに警備隊には了承済です。
・家の建築に関して。
期間を短くする為、家の建築はエルレイ様にお願い致します。
外装内装の工事は職人を手配済みです。
家の間取りは、居間、台所、寝室が二部屋、トイレとなります。
家の戸数は、スラム街の広さから計算して五十戸必要です。
・家の設置場所と道路の作成は、付属の図面を参照してください。
・家の設置場所からの新たな下水路の作成と井戸を四か所新設は、付属の図面を参照してください。
・住民登録は徹底させ、以後不当占拠させない様に定期的な確認作業は不可欠な物となります。
当面の確認作業は警備隊に行って貰いますが、新たな部署の作成が急務かと考えております。
新たに作り出す部署の案としましては、リアネの街の全住人の住民登録台帳の作成と住民の確認作業を主要な業務とし、必要であれば税の徴収なども行って貰います。
それと、市場の管理を行う事も可能になります。
・住民の仕事に関して。
当面は、リアネの街の清掃作業とゴミの収集作業を行って貰う。
その後は、臨時の仕事を振り分けることも検討。
賃金に関しましては、リアネの街で生活していける最低限を予定しており、臨時の仕事をして貰う事で、普通の生活を行える程度にはしていきたいと考えております。
・作戦当日の警備及び、子供達の保護について。
……。
草案には様々な事が細かく記載されていて、この後の数ページ続いていた…。
俺は簡単に考えていたが、結構大変な事だと言うのが分かり、草案をまとめてくれた皆には感謝しか無いな。
「アドルフ、ご苦労だった。
これに怪我や病気の者の治療を行うと付け加えてくれ。
その他は、このまま進めてくれて問題無い」
「承知しました。エルレイ様には家の作成をお願いします」
「分かった。明日から取り掛かる事にするよ」
アドルフと草案の作成に協力してくれた使用人達を労い、俺は自室に戻って皆に報告する事にした。
「エル!子供達の保護をしてくれるのだな!」
「流石私のエルレイ!」
スラム街の事を報告し終えると、一番喜んでいたのはヘルミーネとアルティナ姉さんだった。
エリオット達の教育を任せていたから、気にしていたのだろうな。
ラウラも安心したような表情を見せているし、実行に移せる事になったのは本当に良かったと思える。
「当日は、私達も行けるのよね?」
「うん、ルリアとロレーナには古い建物の破壊と炎で消毒を行って貰いたい」
「分かったわ!」
「わ、私とソルに任せるのじゃ」
ルリアは破壊する事に関しては問題は無いし、ロレーナの精霊魔法の制御は俺との勝負の時に見せて貰ったので、周囲を巻き込んだりする事は無いだろうから安心して任せられる。
「リリーには、怪我人や病人の治療をして貰いたい」
「はい、分かりました」
リリーの治療に関しては言う事は何も無いが、頑張り過ぎて倒れない様に注意しておく必要はある。
「ヘルミーネとアルティナ姉さんは、エリオット達を連れて子供達の保護に協力してやって貰いたい」
「うむ、置いて行かれるのかと心配していたぞ!」
「それくらいなら、お姉ちゃんにも出来るわね」
ヘルミーネはリアネ城に置いて行った方が安心出来るのだけれど、絶対着いてい来ると言うに決まっているからな。
アルティナ姉さんには申し訳ないが、ヘルミーネの子守りをお願いした。
「ロゼ、リゼ、ラウラは、話し合って誰に着くか決めてくれ」
「「「承知しました」」」
戦場なら俺が決める所だけれど、リアネの街の護衛だし、彼女達に任せて見る事にした。
すると、意外な結果となった。
ルリアとロレーナに着くのがラウラになり、リリーに着くのがリゼになり、ヘルミーネとアルティナ姉さんに着くのがロゼとなった。
リゼは建物の破壊が出来るので、ルリアの所に着くと思ったのだがな…。
「エルレイ様、私も治療魔法を上達させなければなりませんので」
言われてみればその通りだな。
リゼには攻撃に特化して貰っていたが、治癒魔法も大事だ。
治癒魔法の上達は、実際に使った方が早かったりする。
スラム街は不衛生だったから、病人の数が多いのは予想される。
出来る限り、リゼに治癒魔法を使わせるようにしようと思う。
「当日は警備隊の警護もいる筈だから、ラウラは無理しなくてもいいからな」
「はい、お気遣いありがとうございます」
ラウラも魔法は上達して来ていて、自分の身を守るくらいの事は出来るだろう。
しかし、前回俺とスラム街に行った時は怯えていたし、ルリアとロレーナの傍が一番危険な場所になるので、後でルリアに気を掛けてあげる様に言っておいた方が良いだろう。
「ロゼ、ヘルミーネが暴走しないように注意して見ていてくれ」
「畏まりました」
ロゼには安心して任せられるな。
ロゼには、いつもリリーの傍に居て貰う事が多く前に出る事は無いが、戦闘が苦手と言う事は無い。
それに、俺と一緒に開墾作業や道路整備など行っているので、地属性魔法はかなり上達していて、壁などを出して二人を守るのには適している。
攻撃も同じ様に地属性魔法を使って、襲撃者を倒す事など容易に出来てしまうだろう。
翌日からは、ロゼとヘルミーネを連れて、道路整備の際に石畳を作った山へとやって来ていた。
「エル、ここで家を作るのか!楽しみだな!」
「うん、遊びでは無いので真面目に作るんだぞ!」
「うむ、分かっておる!」
最初はロゼと二人で来る予定にしていたが、ヘルミーネも連れて行けと駄々をこねられ、仕方なく連れて来たのだが…。
やはり、単に外出したかっただけなのだろうな…。
ヘルミーネがリアネ城の外に出られる機会は限りなく少ない。
今は、休日にどこかに連れて行く事にはなっているが、スラム街の件が終わるまで休日は取れないだろう…。
ヘルミーネの気分転換にはもってこいだが、邪魔はしないで貰いたいと思う…。
「僕が基本となる家を作る」
俺はアドルフから渡された図面を見ながら、土を固めて家の形にしていく。
家は二軒作った経験があるので、二時間ほどで作り上げる事が出来た。
今回の家はルリア達が過ごす訳ではないので、強度はそこまで必要では無い。
勿論、少々の衝撃で壊れる事は無いが、上級魔法を受ければ壊れてしまう程度だろう。
数を作らなくてはならないので、ある程度妥協しなくてはならない。
「エル!凄いではないか!」
ヘルミーネは早速俺が作った家の中に入り、構造を確かめていた。
「これと同じ家を作ってくれ」
「うむ、任せておけ!」
「承知しました」
ヘルミーネとロゼは早速家の作成に取り掛かった。
ロゼは順調に、俺が作った家と同じ物を作っていた。
ヘルミーネは、まだ土を集めて固めている段階だ。
今回は、良い魔法の訓練になるのは間違いない。
この日は、俺が三軒、ロゼが一軒の家を作り上げて終わった。
ヘルミーネは家の完成には程遠いが、それでもヘルミーネなりに頑張って作っているので、終わる頃に一軒作り上げる事が出来れば良いと思う。
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