第百九十話 スラム街正常化作戦 その一
魔法書では失敗した…いいや、アドルフに止められただけで失敗では無かった。
まぁ、今まで通り、魔法を教えたい人が居れば直接教えれば良いだけの事だ。
と言う事でアドルフの許可を貰い、トリステンに魔法を教えにやって来ていた。
「あたいにも、魔法を教えて欲しいのさね!」
トリステンの所に行けばニーナも一緒に居るので、ついでに教えてやる事にした。
二人はお互い魔力切れで気絶した際には支え合い、仲睦まじい姿を見せてくれた。
正直、俺の前でベタベタして貰いたくは無かったが、俺がトリステンとニーナを支える訳にはいかずに見守るしか無かった…。
魔法が使えた事に関しては、二人とも大して驚いてはいなかった…。
「エルレイ様のやる事ですし、今更驚きません」
「あたいは、ロゼとリゼから聞いていたのさね」
まぁ、二人とも無事に魔法が使えるようになったので、いいと言う事にしよう…。
これで、リアネ城の守りが少しでも強化されればいいのだがな。
本来であれば、作った魔法書をトリステンに渡して信頼の置ける部下も魔法使いにして貰いたかったのだが、アドルフにも注意されたのでそれは出来ない。
その代わり、アドルフには信頼の置ける使用人を集めて貰い、俺が直接魔法を覚えさせることになった。
それで、リアネ城の中の防衛はかなり改善されるはずだ。
侵入者を発見した場合、直接戦わずとも、すぐに念話で危険を知らせて貰えるからな。
トリステンには魔法を教えに来ただけではなく、リアネの街の現状を聞いておきたかったんだよな。
一応、報告で問題ないとは伝えられていたが、直接聞けば報告書に書かれていない事も聞けるのが利点だ。
「僕達がリアネの街に行った後、何か変わった事はあったりしたのだろうか?」
「いいえ、特別に何かあったと言う事はありませんが、犯罪が無かったわけでもありません」
「まぁ、そうだろうな…」
犯罪を完全に無くすことは不可能だ。
しかし、減らす事は努力次第で可能となる。
簡単な方法は警備兵の数を増やす事だが、今の所お金に余裕も無い。
お金を賭けずに減らすいい方法は無い物だろうか…。
「そう言えば、スラム街の方は相変わらず危険なままなのか?」
「はい、警備隊には近づかないよう指導しております」
「ニーナはスラム街に詳しいのだろう?どんな危険があるのか教えて貰えないだろうか?」
「そうさね…あたいからすれば危険なやつはいなかったのさね。
だけど、あいつら殺しも盗むも犯すも
だから、何も知らない者が入って行けば、間違いなく殺されるのさね。
でも、そう言うやつらは少数で、殆どの者がお金が無くて仕方なくそこで暮らしている人が多いのさね」
ニーナはしっかりと考えながら話してくれた。
一部の者を除けば、お金も仕事も無い人が入り込んでいると言う事か…。
「そうか、アドルフから孤児院の準備が整いそうだと言う事だったので、近々残っている子供達の保護を行いたいと考えている。
その時は僕も同行するから安心してくれ」
「それは安心できません!」
トリステンはとても驚いた表情を見せていた。
俺が着いて行くとは言え、やはり危険な場所に変わりはないと言う事なのだろう。
それならば、警備隊は着いて来させず、俺とリゼだけで行った方が安全なのかもしれないな…。
「エルレイ様に来て頂かずとも、警備隊だけで保護して参ります!」
「あっ、そっちなのか…」
「当然です!エルレイ様に危険な目に遭わせないために、私達警備隊が居るのですから!」
「まぁ、そうなんだけれど…」
トリステンも俺が強い事は理解しているだろうが、建前的にはそう言わざるを得ないのだろうな…。
「そうか!」
「何かありましたでしょうか?」
「危険だよ危険!」
「危険と言われましても…」
トリステンは俺の発言に疑問を浮かべていた。
俺が治めるリアネの街に、危険な場所があるのがいけないのだ。
そんな場所があるから、俺達も気軽に街に遊びに行く事が出来ないし、老婆の魔法使いが作るお菓子も食べられない。
この機会に、リアネの街からスラム街を無くしてしまおうと考えた。
「スラム街を無くしてしまえば、危険は無くなるよな!」
「そうですが…。
アイロス王国があった時も何度か排除を試みたのですが、また暫くすると元通りになってしまっています。
エルレイ様でも、それは難しいかと思います」
一応、アイロス王国も排除は試みたが、上手くいかなかったと…。
「分かった。子供達の保護を含めて、一度アドルフと相談してみる」
俺はトリステンとニーナに別れを告げて、リアネ城の執務室へと戻って来た。
「いけません!!」
アドルフにトリステンと話した内容を伝え、スラム街を無くしたいと説明したら大声で怒られた…。
「しかしだ。リアネの街にあのような場所があっては、人々は安心して暮らせないだろう?
領主の役目として、スラム街を放置する訳にはいかない!」
「ですが…」
「これは決定事項だ!僕はリアネの街からスラム街を無くす!」
「…承知しました。では、具体的にどの様な方法でなさるのかをご説明くださいませ」
俺が力強く言った事で、アドルフが折れてくれた。
しかし、アドルフもただでは折れてくれないな。
ここで具体策を示せなければ、実行には移させてくれないだろう。
よく考えて話さなくてはならないな。
「まず最初に、スラム街の住人に撤去する
方法は立札を建て、警備隊を使って宣伝してけばいいと思う。
スラム街の住人には、新しく建てた家に住んで貰い、住民登録をして貰う。
住民登録をし、定期的に確認作業をする事で、不当に占拠する住民が増えないようにして行けば、元の状態に戻るような事にはならないだろう。
最後に、住民登録を済ませた者には食料を与え、仕事も斡旋する。
仕事に関しては、リアネの街の清掃を考えているが、他に良い案があればそちらを採用する。
以上だ」
アドルフは俺の説明を聞き、一つずつ質問して来た。
「新しく家を建てると言う事ですが、場所は何処を予定しているのでしょうか?」
「当然スラム街だ。魔法で今ある建物を破壊し、平地を作り出す。
その後で、事前に作って置いた家を、僕の空間収納から取り出して設置すれば、その日に終わるだろう」
「分かりました。住民の確認作業は警備隊に任せるおつもりでしょうか?」
「うん、スラム街が無くなれば犯罪も多少減るだろうし、警備隊の方で出来ないかな?」
「警備隊の方に確認しなければいけませんが、手当てを要求される可能性はあります」
「それは仕方ないかな…」
「仕事に関しては、少々お時間をください」
「うん、誰でも簡単に出来る仕事でなくてはならないし、こちらとしてもお金を払う価値のある仕事でなくては、他の民から不満を言われてしまう。
僕も、もう少し考えてみるよ」
「承知しました。数日以内に草案を用意いたします」
「頼んだ」
ふぅ、何とかアドルフを納得させる事が出来たみたいで安心した。
まだ他に見落とした事が無いか、再度考え直してみる必要はあるな。
犯罪の温床であるスラム街の排除が、そう簡単に行くとも思えない。
犯罪者が何か企む可能性もある。
実行に移す際には街の人に被害が出ない様に、最大限の警戒網を敷く必要があるのかも知れないな…。
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