第百八十六話 ネレイトの罠 その二

グールで斬りつけ、魔法を撃ち込み、一人ずつ敵を排除していく。

使用人達も敵と戦っている為、高威力の魔法で一気に敵の排除が出来ないのが厳しい。

しかもこいつらは、対人戦が慣れしていて連携も上手い!

後方にいる魔法使いを守る様に剣士が俺の前に出て来て、魔法使いがネレイトが乗っている馬車に容赦なく魔法を撃ち込んでいる。

馬車が何時まで魔法の攻撃に耐えきれるかは不明だが、急いだ方が良さそうだ。

俺は強力な障壁で自分を囲いこみ、飛行魔法で体を少し浮かせて、ネレイトが乗っている馬車まで敵の中を突っ切って進んだ!

敵からの剣を何度も受けながらも、何とか馬車の前まで到着する事が出来た。


「大丈夫ですか!」

「ご心配なく。エルレイ様も気を付けくださいませ!」

使用人が心配で声をかけて見たが、逆に心配されてしまった。

男の使用人は剣を持って戦っているし、メイドも短剣を手に素早い動きで敵を倒している…。

もしかして、俺の助けは必要無かった?

でも、これで魔法を遠慮なく放てるようになったので良しとしよう。

俺は敵に目掛けて一斉に魔法を放ち、容赦なく敵を倒して行った。


「流石エルレイ!大したものだね!」

俺が敵全員を倒した頃、ネレイトが馬車から降りて、倒れている者達を見渡しながら俺の傍までやって来た。

「ネレイト様に怪我はありませんでしたか?」

「うん、家の特製の馬車だから丈夫なんだよね」

結構魔法による攻撃を受けていて傷ついてはいるが、馬車は原形をとどめているし、余程丈夫に作られているのだろう。

「それは良かった。使用人達も無事でしょうか?」

「怪我している者はいないよね?」

「はい、ご心配ありがとうございます。

少々汚れており、お見苦しい点ご容赦お願い致します」

使用人達は倒れている者はおらず、服は血で汚れている。

あれは全部返り血だと言う事なのだろう。

視察に来た段階で護衛がいなかったから、俺が護衛役なのかと思っていたが違っていたらしい…。

俺がいなくとも、あれくらいの敵であれば使用人達だけで殲滅できたのではないかも知れないな…。

俺は改めて、ラノフェリア公爵家の恐ろしさを知る事になった。

もしかして、アドルフ達も強かったりするのだろうか?

帰ったら聞いてみる事にしようと思う。


「エルレイ、悪いんだけれど、こいつらを家に運んで貰えないかな?」

「分かりました」

視察は中止らしく、俺は使用人達がロープで縛りあげた者達を運ぶ事になった。

敵は全員怪我をしているが、死んでいる者はいなかった。

俺も殺さないように注意しながら攻撃したし、使用人達も急所は外していたみたいだ。

こいつらが有益な情報を持っているとは考えにくいが、殺して文句を言われたくはなかったからな。

全員をラノフェリア公爵家に送り届けた後、俺はリアネ城に帰って行った。


それから二日後、襲撃の詳細が分かったと言う事で、俺はラノフェリア公爵家を訪れていた。

案内された部屋では、ラノフェリア公爵とネレイトが出迎えてくれた。

俺と向き合ってソファーに座ったラノフェリア公爵とネレイトは深刻な表情をしていたので、俺も余程の事があったのだと覚悟を決めて話を聞く事にした。


暫く二人は沈黙していて重い空気に包まれていたが、ラノフェリア公爵がやっと口を開いてくれた。

「エルレイ君、今日は重大な話があって来て貰った」

「はい」

ネレイトが襲撃された件だろうけど、そこまで重大な話だったのだろうか?

確かに、ラノフェリア公爵家の跡取りのネレイトが襲撃されたのは重大な事件だとは思うが、わざわざ俺を呼んで話す様な事ではないよな?

もしかして、捕らえた者達が俺に依頼されたとか言ったのか?

仮にそうだったとして、俺にはネレイトの命を狙う理由は無いし、そんな事を考えた事も無い。

そんな見え透いた嘘を信じる様な事は無いだろう。

まぁ、とにかく今は話を聞いてみるしかないのだけれどな。


「この前ネレイトを襲撃させた者と、ここでエルレイ君を襲撃させた者が判明した!」

「それは良かったです!」

ニーナの件が片付いて安心していたお陰で、犯人の事はすっかり頭から抜け去っていた。

でも、犯人が判明したのに二人共が深刻な表情を崩していないと言う事は、犯人を捕まえられなかった?

もしくは、捕まえられない相手だったと言う事なのだろうか?

どちらにしても犯人が自由のままだと、また暗殺者を送りこまれる危険があり、油断できないな…。


「エルレイ君、今から犯人をここに連れて来させる。

エルレイ君の好きなように処分してくれて構わない!」

「はい…」

どうやら犯人は捕まっていたみたいで、ラノフェリア公爵がベルを鳴らして執事を呼び、犯人を連れてくるよう命令していた。

しかし、処分しろと言われても、そこまで恨みを持っている訳ではないんだよな…。

俺を直接襲ったニーナはトリステンの妻として、今はリアネ城の警護をしてくれている。

依頼した犯人を許せない気持ちが無い事も無いが、今となっては一発殴ればスッキリするくらいの気持ちだな。

やがて執事に連れられて、後ろ手に縛られ猿ぐつわを噛まされた犯人が、俺達の横に連れられて来て床に座らせられた。


「えっ、この人が?」

連れて来られて犯人は、良く知る人物だった…。

「エルレイ君とネレイトを殺害するように指示を出した者だ!殺しても構わない!」

ラノフェリア公爵が怒鳴りつけるような声を発していた。

実際に犯人に向けて怒鳴りつけていたのだろう。

犯人は殺意のこもった目で俺を睨みつけていて、未だに俺を殺したいと思っているのは間違いない様だ。

しかし、ルリアとリリーの兄であるルノフェノを、俺が殺せるはずもない…。

犯人は、ラノフェリア公爵家の次男ルノフェノだった。

俺は最初に会った時から、ルノフェノから嫌われている事は態度を見て分かってはいた。

しかしそれは、俺が男爵家三男だったから下に見られているだけなのだと思っていたし、ルノフェノに対して殺意を抱かれる様な事をしていないとは思う。

理由くらいは聞いておいた方が良いだろうな…。


「すみません、少し話を聞きたいので、猿ぐつわを取って貰えませんか?」

「取ってやれ」

ラノフェリア公爵が執事に指示を出し、ルノフェノの猿ぐつわを解いてくれた。


「私は貴様なんかに話す事は何も無い!」

ルノフェノは猿ぐつわが取れると、俺に向けて言い放って来た。

「聞きたい事があるのだけれど、話さないと言うのであればこちらにも考えがある」

俺は胸元からナイフ状のグールを取り出し、ルノフェノに向けた。

「私をいくら刺そうとも貴様になんか屈しはしない!」

「別に刺すつもりはない。ちょっと記憶を見させて貰うだけだ。

グール、ルノフェノの記憶を読み取ってくれ!」

「マスター、了解したぜ!

俺様の名はグール!ちょーっと頭の中を覗かせて貰うぜ!」

「なっ!?よせ!やめろ!」

「僕の質問に答えてくれるなら、グールを使わずに済むんだけど?」

「わ、分かった。話す!」

ルノフェノは記憶を読まれたくはなかったのか、素直に質問に答えてくれるみたいだ。

まぁ、グールに記憶を読み取る能力なんて無いが、グールなら俺に合わせてくれると信じていた。


「なぜ僕を殺そうと思ったのですか?」

「ふん!そんなの貴様が気に入らなかったからに決まっている!」

「それだけ?」

ルノフェノはそれ以上応えなかった…。

俺はそんなくだらない理由で暗殺者を仕向けられたと?

さっきまでは一発殴るだけでよかったが、それでは気がすまなくなって来たな。

「ネレイト様を狙ったのは?」

「あの時も貴様を殺すよう命じていた!」

「そうなんだ…」

てっきりネレイトを狙ったものだと思ったのだけれど、俺狙いだったのか…。

でも、敵の動きは明らかにネレイトを狙ったものだったのだけれどな。


「ルノフェノの言っている事に間違いはない。

ルノフェノが依頼した先で、狙いがネレイトに変更されたのだ!」

「なるほど…」

ラノフェリア公爵が補足してくれた事で理解できた。

貴族のする事だから、間に何人も人を入れて、大本に辿り着かない様にしているのだろう。

その途中で、命令がすり替えられたと言う事か。

どちらにしても、ルノフェノが俺を殺そうとしていたのには間違いない様だ。

さて、ルノフェノの処分をどうするか決めないといけないんだよな。

一発殴るのは確定として、もう少し厳しい処分を与えないと、ラノフェリア公爵がルノフェノを殺すよう命じる可能性もある。

甘い考えかも知れないが、父親に息子を殺させるような事はさせたくはない。

仮に、そう言う処分を下させてしまえば、今後のラノフェリア公爵家との付き合いが悪くなる可能性もある。

よく考えて、処分を下さなくてはならないな…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る