第百七十七話 エルフの婚約者 その三

「話は変わりますが、エルレイはロレーナに結婚を申し込んだそうですね?」

「はい!その通りです!」

聞かれる事は覚悟していたのだが、いざ聞かれると緊張して体が強張るものだな。

でも、噛まずに堂々と言えたのは良かったと思う。

ここで口ごもったりすれば、セシリア女王からロレーナを嫁には渡せないとか言われそうだ。


「ロレーナの事を幸せにしてあげてください」

「はい、必ず幸せにするとお約束いたします!」

セシリア女王に頼まれなくとも、ロレーナの事は、いや、俺の婚約者全員を幸せにするつもりだ!

その為に、今必死になって努力を続けている所だ。

しかし、セシリア女王と約束した以上、ロレーナを不幸にするようなことは決してできない。

ロレーナを不幸にしてしまう様な事になれば、俺はルフトル王国を敵に回す事になるのだからな。

今もマルギットは、出会った時と同じような感じで俺を睨みつけている。

俺がもしロレーナを泣かせるような事でもあれば、すぐにでも飛んで駆け付けて来て俺の事を殴り飛ばすに違いない。


「ロレーナ、良かったですね」

「は、はい、セ、セシリア女王様、ありがとうなのじゃ!」

ロレーナはセシリア女王に祝福されて涙を流して喜び、カーメラも涙を流しながらロレーナを抱きしめて祝福していた。

その光景を微笑ましく眺めていると、俺の後ろにいたルリアが一歩前に出て来て俺の横に並んだ。


「セシリア女王様にお願したい事があります!」

「何でしょうか?」

セシリア女王は、ルリアが質問しやすい様に優しい笑みを浮かべてくれていた。

「はい、エルレイはソートマス王国では侯爵位を授かっております。

その為、平民を婚約者として迎える事は出来ません。

こちらの都合を押し付ける様で大変申し訳ないのですが、ロレーナをルフトル王国の王女としてエルレイの婚約者に迎え入れさせては頂けませんでしょうか?」

ルリアは頭を下げてセシリア女王にお願いしていた。

俺も慌てて頭を下げた!

そうだよな。

俺が気付いてお願いしなくてはならなかったのに、ルリアには申し訳なく思う。


「構いません。私達の事を知るのは貴方達しか知りませんし、王女にしておいた方がルフトル王国としても都合がいいのかも知れませんね」

「はい、ありがとうございます」

「いいのですよ。では改めまして、ロレーナをルフトル王国の王女としてエルレイに授けます」

「はい、ロレーナ王女様を僕の婚約者として迎え入れさせて頂きます」

「わ、私が、お、お、王女様などとは恐れ多いのじゃ…」

ロレーナは王女と言われて委縮してしまっているが、あくまでソートマス王国で名目上必要な事なだけで、ロレーナを王女としてソートマス国王に紹介したりする事は無いはずだ。

もしそんな機会があっても、俺が全面的に支えてあげれば良いだけの話だな。


セシリア女王から正式にロレーナを婚約者として貰い受け、セシリア女王に改めて感謝を述べてから退出した。

さて、やっと帰れるかと思ったのだが、マルギットが仁王立ちして俺達の行方を阻んでいた。

「エルレイ!ロレーナを不幸にしたら、俺がお前を殺しに行くぞ!」

「うん、ロレーナを不幸にはしないが、万が一そのような事になったら遠慮無く来てくれて構わない」

「ふんっ、必ず行くからな!忘れるなよ!」

「はいはい、そのくらいにしておきましょうね~」

「こら、カーメラよせ!よしてくれ!」

カーメラは、容赦なくマルギットを氷像にして黙らせてしまった…。

そしてカーメラは、俺の傍に寄って来て耳打ちして来た。

「ロレーナを大切にしないと、あのようにするわよ~」

「はい、大切にします!」

「おねがいね~」

カーメラは笑顔で俺を脅してから離れて行った…。

俺としても氷像になるのは勘弁願いたい…。

「エルレイ、頼みます」

「はい!」

ワルテは俺の肩を叩いて、一言だけ言って去って行った。

俺の事を信頼してロレーナを託してくれたのだろう。

その信頼を裏切らない様にしなくてはいけない。


昨日告白してから、やっとロレーナと向き合う事が出来た。

「ロレーナ、これからよろしく」

「う、うむ、よろしく頼むのじゃ…」

ロレーナは俺が差し出した手を、しっかりと握りしめてくれた。

「僕達はこれから帰る事になるのだけれど、ロレーナも着いて来てくれますか?」

「と、当然じゃ!しかし、準備もまだ終わっていないし、は、母にも報告したいのじゃが…」

ロレーナは申し訳なさそうにしながら尋ねて来た。

そうだな、ロレーナの母親に会って挨拶して行かないといけない。

父親は…ロレーナの年齢を考えれば恐らく亡くなっているのだろう。

お墓があれば、そこに挨拶に行く事も考えないといけないな。

「うん、僕もロレーナの母上に挨拶してもいいのかな?」

「も、勿論じゃ!早速母の所に行きたいのじゃが良いだろうか?」

「僕は構いません」

ロレーナとの話がまとまり、ロレーナの母親に会いに行く事になったのだけれど…。


「エルレイ、先に買い物に行くわよ!」

「えっ!?」

「ロレーナさんも行きましょう」

「ど、何処に行くのじゃ!?」

ルリアは俺の手を強引に引っ張り、リリーはロレーナの手を引いて街に買い物に行く事になってしまった…。

ルリアはキャローネにお願いして俺達を街へと運んで貰い、本当にエルフの街に来てしまった…。

そして、ルリアに連れられてきたお店は木工細工の店だった。

なるほど、確かに先に買い物に来ないといけなかった場所だ。

でも、母親に挨拶してからの方が良いのではと思ったが、ここまで来た事だしな…。

それに、ロレーナもソワソワしながら期待しているみたいだ。


「エルレイ、早く選んであげなさいよ!」

「うん」

俺はカウンターに展示されている指輪を眺め、その中から一番木目が美しい指輪を選び購入した。


「ロレーナ、受け取って貰えるかな?」

「も、も、勿論じゃ!」

俺はロレーナの前に跪き、ロレーナの手を取って指輪をはめてあげた。

「ロレーナ、君を幸せにすると誓う!」

「わ、わ、私も、エ、エルレイを幸せにするからな!」

ロレーナは顔を真っ赤にさせながらも、俺の目を真っすぐ見て誓ってくれた。

俺の顔も恥ずかしさのあまり真っ赤だったのだろう。

ここは木工細工の店内で、店員とお客もいた中での告白だったし、周囲からも祝福を貰ったからな…。

キスまで要求されたが、ルリア達にもまだしていないし、人前では恥ずかしくて出来る筈もないよな。

俺は皆を連れて、お店から逃げる様な感じで出て行った…。


そこから、またキャローネに運んで貰い、ロレーナの母親が住んでいる家へとやって来た。

「町から離れて住んでいるだね?」

「う、うむ、母は静かな所が好みなのじゃ…」

俺の問いに応えたロレーナの表情は、何処か寂しそうにしていた…。

そして、ロレーナの母親が住んでいるという家は、町より少し離れた森の傍にぽつんと一軒だけ建っていた。

木造の家の周囲には花壇が多くあり、手入れが行き届いていて様々な花が美しく咲き誇っていた。

玄関まで花壇の間を歩いて行くと、花のいい香りが漂って来て気分が落ち着いた…。


「た、ただいまなのじゃ」

ロレーナは玄関の扉を開けて家の中に声を掛けると、家の中からどたどたと走ってくる音が聞こえて来た。

「ロレーナちゃん、お帰りなさい!」

家の中から勢いよく出て来た女性は、ロレーナを思いっ切り抱きしめていた。

「きょ、今日は母に紹介したい人を連れて来たのじゃ」

「話は聞いているわよ!ロレーナちゃんがついに結婚したんだってね!

お母さん嬉しい!」

ロレーナの母親はさらにロレーナを抱きしめ、頬ずりしていた…。

俺はいつ話しかけて良い物かと迷っていると、ロレーナの母親と目が合ってしまった。

その目は獲物を見つけたかのように光って見えた…。


「君がロレーナの夫なのね!」

「はい、エルレイと申し…ます…」

俺が自己紹介をしている途中で、ロレーナの母親は俺の所に駆け寄りそのまま抱きしめて来た…。

「私はカミーユよ!エルレイは私の息子になるのよね!嬉しい!」

俺はロレーナと同じく、抱きしめられたまま頬ずりされていた…。

ロレーナの母親は、ロレーナをそのまま大人にしたような美しい女性だ。

エルフと言う事で、母親と言うよりお姉さんと言った方が正しい感じの若々しい姿をしている。

そのお姉さんに抱きしめられて頬ずりされれば、嬉しいに決まっている!

「は、母!エ、エルレイとはまだ私も抱擁していないのじゃ!」

ロレーナから引き剥がされ、幸せな時間は終わってしまった…。

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