第百七十六話 エルフの婚約者 その二

ルリアの拳を受けて俺は後ろに倒れ込んでしまった…。

「くっ、い、痛い…」

久しぶりに食らったルリアの拳は、めちゃくちゃ痛かった…。

ルリアは倒れている俺前まで来て仁王立ちし、腕組みをして上から睨みつけてきた。

「ふんっ!それで、なぜあのような事を言ったのか説明しなさい!」

「はい…」

怒っているルリアに、正しく説明しなくてはならないが…。

色々と飾り立てて話すより、俺の素直な気持ちを伝えた方が良いだろう。

また殴られるかもしれないが、ルリアに嘘は付けないからな。


「ロレーナの事が気になったからだ!」

「そう…好きになったのでは無いのね?」

「あ、いや、好き…なのかな?」

「はぁ、分かったわ!」

ルリアは大きなため息を吐き、呆れた表情をしていた。

「この馬鹿!」

「ぐはっ!」

俺はルリアの大きく振りかぶった足に蹴り飛ばされ、ゴロゴロと転がっていく事になってしまった…。

「大丈夫か?」

エルフ達から心配する声を掛けられつつ、俺は大丈夫だと言って立ち上がった。


「ルリアさん済みません。私がエルレイを唆したのです。

責められるのであれば私を責めてください」

俺が立ち上がると、ワルテがルリアに謝罪している所だった。

しかし、それはルリアを更に怒らせるだけだと思い、俺は慌ててルリアの前に駆け寄って行った!

「ルリア、俺が決めて告白した事だから、ワルテさんは関係ないぞ!」

「えぇ、分かっているわ!悪いのは全てエルレイよ!」

これはまた殴られる!

そう思ったのだけれど…。


「ま、待つのじゃ!」

ロレーナが俺とルリアの間に入って来た事で、ひとまず殴られずに済んだ…。

「ル、ルリアは私がエルレイと、い、い、一緒になるのに反対か?」

ロレーナは顔を真っ赤にしてルリアに聞き、ルリアそれを受けて少し困惑した表情を浮かべていた…。

「反対ではないのだけれど、エルフは長寿だと聞いたわよ?」

「う、うむ、しかし私はハーフエルフで寿命は短いのじゃ…」

「そう…でも、エルレイはどうしようもなくスケベで、多くの婚約者がいるわよ!

それでもいいのかしら?」

「う、うむ、私も母のように人族と、け、け、け、結婚したいと思っていたのじゃ!」

「分かったわ!リリーもいいわよね?」

「はい、ロレーナさん、これからよろしくお願いします」

「よ、よろしく頼むのじゃ」

何故か俺を除け者にした状態で、ロレーナがルリアとリリーに受け入れられていた…。

俺も改めてロレーナに声を掛けようとしたのだけれど、エルフ達がロレーナを取り囲んで祝福していた。


「ロレーナおめでとう!」

「結婚おめでとう!」

「み、みんな、ありがとうなのじゃ…」

エルフ達はワルテと同じように、ロレーナの事を心配していたのだと言う事が良く分かった。

ロレーナの結婚が決まったと言う事で、祝勝会はさらに盛り上がり、朝まで騒ぎ続けたとの事だった…。

俺達は途中で抜け出して寝てしまい、その日はロレーナと会話する事も出来なかった…。


翌朝、俺達は朝食を頂いた後、セシリア女王の元へとやって来ていた。

そこにはセシリア女王の他に、マルギット、ワルテ、カーメラ、ロレーナの姿もあり、ロレーナとは昨夜以来の再開となった。

ロレーナと視線が合い、ロレーナは恥ずかしそうに俯いてしまった…。

改めでじっくりとロレーナを見ると、エルフ独特の美しくも愛らしい顔立ちをしていて可愛いな!

胸は控えめだが、それはそれで良いものだ!

俺は大きいのも小さいのも愛せる!

などと、馬鹿な事を考えていたのが表情に出たのか、セシリア女王に笑われる事になってしまった…。

そうだ、俺は今セシリア女王の前にいる!

失礼のないように気を引き締めて、セシリア女王に視線を向けた。


「エルレイ、それから皆さんも、昨日は私達の為に戦って下さり感謝します。

お陰で今回も守り抜く事が出来ました。

戦い方も教えて頂き、今後は私達だけで対応できると確信いたしました。

エルレイには感謝の印として、ソートマス王国との和平条約の締結を進めて行く事をお約束します」

「ありがとうございます!」

これで俺の役目はやっと終り、ソートマス王国はルフトル王国と言う最強の同盟国を得る事となった。

これでソートマス王国に隣接しているのはラウニスカ王国のみとなり、かなり危険が少なくなったと言えるだろう。

ラウニスカ王国はリリーの祖国でもあり、ロゼ、リゼ、ニーナが能力を得た国でもある。

危険な国ではあるが、ラノフェリア公爵とアドルフから知らされた情報によると、今の所こちらに攻め込んでくる気配は全くないとの事だ。

完全に安心できるわけでは無いが、当分は戦争が無く平和に過ごせる事だろう。

暫くゆっくりと過ごしたい所だな…。


「魔法を吸収する魔剣に関してですが、リースレイア王国軍は意図して使用しなかった様です」

「もしかして、僕の作戦が漏れていたと言う事でしょうか?」

戦いが終わった後、その可能性が高いのではないかと考えていた。

エルフから漏れたとは考えていなくて、アイロス王国との戦争でゴーレムを大きな玉を落として倒した事が知られているのではないかと思ったからだ。

リースレイア王国とアイロス王国の位置は少し離れているが、情報を集めるくらいの事はしているだろうし、戦争の事ならなおさら調べるに決まっている。


「いいえ、違います」

だが、セシリア女王の答えは違っていた。

「そこでグールに質問します。魔剣に関して私達に隠している事がありますよね?」

「グール、そうなのか?嘘偽りなく答えろ!」

俺はグールを懐から取り出し、セシリア女王の質問に答える様に言った。


「俺様、聞かれなかったから言わなかっただけで、隠してはいねーぜ!」

「そうか、では改めて聞く。魔力を吸収する魔剣はどの様な物なのかと」

「分かった答えるぜ。以前話した通り、吸収限界を超えると破裂して壊れる。

その際周囲にいた者は、魔剣に吸収された穢れた魔力に侵される事になり、魔物になるぜ!」

「はぁ!魔物だと!?」

俺はセシリア女王の前だと言うのに大声を上げてしまった!

俺だけではないな。ルリアとリリー、マルギット達も声を上げて驚愕していた!

「それは本当の事なのか?」

「俺様の記憶の中にある物と、その魔剣に使われている魔石が同じ物ならそうだぜ!」

「そうか、、もう少し詳しく説明してくれ!」

「仕方ねーな。クロームウェルの目的は魔物の排除で、それを成し得る為に魔物がどの様にして生まれて来るのかを調べていたんだぜ。

調べた結果、動物に穢れた魔力が蓄積される事で魔物へと変貌する事が分かったんだぜ。

そして、その穢れた魔力がどの様にして発生するのかを突き止めた際に発見したのが腐魔石ふませきと呼ばれる石だ。

今回使用された魔石が、腐魔石である可能性が高いと言う事だ!」

「えっ!?つまりその魔物を生み出す腐魔石と呼ばれる石が、この大陸に存在すると言う事なのか?」

「恐らくそうだと思うぜ!そして、魔物が今も生まれている可能性はゼロではないぜ!」

…。

グールの説明を聞き、集まっていた者達は言葉を失ってしまっていた。

魔物がこの大陸にいるとは信じられないと、皆思った事だろう。


「グール、間違いないのですね?」

「間違いねーな。現に今も魔剣は作り出されているんだろ?

つまり、魔物を倒して魔石を手に入れている証拠じゃねーか!」

「てっきり発掘した魔石を使っている物だと思っていましたが、そうですね。そう考えるのが自然なのかも知れません」

セシリア女王もグールに再度確認し、認識を改めていたみたいだ。

「皆さん、私が調べなおして見ますので、この事はひとまず秘密にしておいてください。

魔物がこの大陸にいると知れば、人々が混乱するのは間違い無いでしょうから」

「はい、分かりました…」

魔物がいたとしても、今の俺なら十分戦えると思う。

しかし、英雄がこの大陸から魔物を排除して二千年が経ち、人々は魔物と戦う術を失っているはずだ。

一度魔物が暴れ出せば、多くの人命が失われる事になるだろう。

しかし、今の俺にはどうする事も出来ないので、セシリア女王からの情報を待つしかないな…。

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