第百七十五話 エルフの婚約者 その一

リースレイア王国軍は撤退して行ってくれた。

「あっさり引いて行ったわね!」

「うん、助かったよ」

これ以上戦闘が継続されずに済んで、ほっと胸をなでおろした…。

ルリアが幾ら強いからとは言え、相手は大人の男性だ。

一つ間違えれば怪我をしていてもおかしくはなかった。

実際に俺が不覚を取ったばかりに、ルリアに魔剣を振るわれる事になったからな…。

あの時は胆が冷える思いだったし、俺も頭に血が上ってしまった。

空中での近接戦闘の技術を鍛えなおさなくてはいけないな!


俺達はキャロリーネと共に地上に下り、リリー達と合流をした。

リリーとロゼも無事だったし、エルフ達にも負傷者がいないと言う事なので本当に良かったと思う。

「エルレイ、見事な戦いぶりだったそうだな!」

「マルギットさん達も、無事に撃退したみたいで素晴らしいです!」

マルギットは俺の肩を叩きつつ、お互いの健闘を称えあった。

「しかしな、敵が魔力を吸収する魔剣を使用していなかった様なのだ」

マルギットが困った表情をしながら小声で話しかけて来たので、俺も小声で対応した。

「セシリア女王様から頂いた情報に間違いがあったのでしょうか?」

「それは無いと断言できる!だが、帰ってからセシリア女王様にお尋ねしてみるしかあるまい」

マルギットは俺の意見に自信に満ちた表情で反論して来た。

余程セシリア女王を信頼しているのだろうし、俺もセシリア女王が嘘を言ったとは思ってはいない。

「だとしたら、僕が教えた事は無駄でしたね…」

「そんな事は無いぞ!今後魔法が効かない相手が出てこないとも限らない。

今回の事は、その時の為の練習になったと思えば決して無駄では無いぞ!」

「お気遣い、ありがとうございます」

俺が戦った上空でも、魔法を吸収する魔剣が使用された形跡はなかった。

マルギットが言う通り、何かしら使用できない理由があったのか、それとも…今は考える時ではないな。


俺とロゼで作った壁と塔は、また敵が攻めて来る事を考慮してそのまま残す事となった。

エルフ達の精霊魔法であれば、壊す事は簡単にできるだろうしな。

敵が完全に撤退して行った事を確認し、俺達も帰る事となった。

魔力も余っていたし、帰りは俺が全員を空間転移魔法で送り届ける事にした。

「素晴らしい魔法だ!感謝する!」

優れた精霊魔法を使うエルフ達に褒められて恥ずかしかったが、褒められれば嬉しく思う。

特に美しいエルフの女性達に褒められれば、表情が緩んでも仕方のない事だと思う…。


「何ニヤニヤしてるのよ!」

「ルリア、痛いよ…」

「ふんっ!」

ルリアに思いっ切り足を踏みつけられたが、嫉妬してくれているのだと思うと可愛く思えるな。

全員を結界前に送り届け、俺達はリアネ城に帰ろうかとしていると、ソフィアから一泊して行くようにと勧められた。

「今日はゆっくり休んで頂いて、明日、セシリア女王様と会談をお願いします」

「分かりました」

と言う事で、俺達はエルフのお城に泊めて貰う事となった。


「勝利を祝して乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」

その日の夕食は広間での祝勝会となっていて、俺達もそこに参加させて貰い、美味しい料理を頂く事となった、

エルフ達はお酒を手にして楽しそうに談笑している。

俺もエルフの所で作られているお酒が気になり、飲もうとしたがリゼに止められてしまった…。

「エルレイ様はこちらのお飲み物にしてください」

「うん、ありがとう…」

俺の体はまだ子供で、お酒が体に良くない事は理解している。

しかし、しかしだ!

味見するくらいいいとは思わないだろうか!

リゼに文句を言っても仕方ないので、受け取った飲み物で我慢する事にした…。


「エルレイ、飲んでいるか?」

「いえ、僕はまだ飲めませんので…」

俺達が食事をしていると、マルギット、ワルテ、カーメラ、ロレーナが俺達の席にやって来た。

「わははっ、それもそうだな!」

マルギットはすでに出来上がっており、かなり上機嫌で今日の戦いの事を勝手に話し始めていた…。

俺はマルギットの話に適当に相槌を打ちつつ食事を再開しようとしていたら、今度はワルテが俺の隣に来て話しかけられた。


「エルレイ、少し真面目な話をしてもいいですか?」

「はい、僕は酔っていませんので大丈夫です」

「そうですね」

ワルテは上機嫌のマルギットを見て少し笑いながら俺の肩に手を回し、皆に聞こえない様な小声で話しかけて来た。

「エルレイは多くの嫁を持っているんですよね?」

「はい、まだ婚約者の段階ではありますが…」

どうしてそんな事を聞くのかと疑問に思ったが、次の言葉でその理由が分かった。

「エルレイは、エルフの嫁が欲しいとは思いませんか?」

「えっ!?いや、そ、それは…」

俺は思わず動揺してしまった…。

勿論エルフの嫁が貰えるなら、喜んで頂きたいと思う!

しかし、エルフとは寿命が異なるので、不幸にしてしまうのも間違いないだろう。

そんな事はワルテも承知のはず。

その上で俺に嫁を進めて来ると言う事は、何かしら理由があるのかも知れない。


「実はな、一人だけハーフエルフが居て、その娘が誰とも結婚出来ずに不憫なのです。

勿論、私たちエルフはハーフエルフを差別して結婚しないと言う事ではないのです!

多くの男性がその娘に求婚したのですが、寿命を理由に断られていてまして…。

それで、エルレイであれば寿命の差はそこまで無いのではないかと思ったからです」

「それでも、僕の方が早く死ぬことになると思いますが…」

俺の問いにワルテは頷いて応えてくれた。

「それは避けられぬ事実ですが、そんな事を言っていては一生結婚出来ません。

だからエルレイ、どうか貰ってはいただけませんか?」

ワルテは真剣な目で俺を真っすぐ見てお願いして来た。

俺としては、これ以上嫁が増えれば収拾がつかなくなるのは分かっているが、エルフの嫁は欲しい!

後は、相手の気持ちだけだな。


「えーっと、結婚ともなると僕と相手の気持ち、更に僕は多くの婚約者がいますので、婚約者同士の相性の問題もあるので難しいかと…」

「それは問題無いです。その娘はエルレイの事を気に入っていますし、エルレイも嫌いではないはずです。

それに、エルレイの婚約者との仲も良いと思います」

ワルテの視線は、ルリアとリリーを相手に楽しそうに会話しているロレーナに向けられていた。

なるほど…。

俺もロレーナの事は嫌いではないが…。

そこで俺はロレーナとの事を思い出して見た。

ロレーナとは勝負に負けた事が印象的だ。

後は、訓練の最中に皆に声をかけて励ましているのを見かけたくらいで、そこまで接点があった訳では無い。

しかし、俺の頭を撫でてくれた時の、少し恥ずかしがっている笑顔が可愛かったな…。

でもワルテが言う様に、ロレーナが俺を気に入っているのか?

ロレーナはああ見えて百歳を超えていると言う事だし、子供姿の俺に恋愛感情を持つ事は無いのかも知れないが…。


「私から話を持って行きましょうか?」

「いいえ、僕から申し込んだ方が良いでしょう」

どうせ断られる事だろうし、ここはニーナに告白したトリステンを見習い、男らしく俺からロレーナに申し込んでみる事にした。

俺は席を立ち、ロレーナの前へと進み出た。


「エルレイ、何か用事かしら?」

「うん、ロレーナにちょっと話があってね」

「そう、いいわよ」

ロレーナとの会話を邪魔してしまい、ルリアに少し嫌そうな顔で見られたが素直に譲ってくれた。

「わ、私にか?」

ロレーナは急に俺に話しかけられて少し驚いていたが、体を俺の方に向けて話を聞いてくれる姿勢を取ってくれた。


「ロレーナ、僕と結婚を前提としたお付き合いして頂けませんか?」

「えっ?えっ!えっ!?」

ロレーナは俺の言った事を理解できなかったのか、いや、理解できたからこそ凄く動揺していた。

「エルレイ!何を言っているのよ!」

ルリアは立ち上がり、今にも殴りつけそうな勢いで俺の事を睨んでいた。

まぁ、婚約者の前で告白すれば当然そうなるよな…。


「許さんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

ルリアから殴られるのを覚悟したその時、マルギットが大声を上げながらこぶしを握り締めて殴りかかって来た!

「はい、そこまでよ~」

殴られる衝撃に耐えようと身構えたのだが、マルギットの拳が俺に届く前にカーメラによってマルギットが氷像へと変わっていた…。

マルギットは無事なのかと心配した所に、ルリアの拳が見事に俺の顔面を捕らえていた…。

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