第百七十三話 魔剣戦争 その四

≪ヨルゲン視点≫

「子供か?」

「その様に見えます」

「それに、魔剣を使用しているな!」

「はい、恐らく強化系の魔剣ではないかと思われます!」

「ちっ!」

観察を続け、敵の正体が判明した。

子供の魔法使いで、おまけに魔剣を使用して仲間を攻撃して来ている。

しかも、こっちの魔剣を破壊するほどの威力を持った魔剣だ!

俺達、飛空魔剣部隊に支給されている魔法は、遠距離攻撃を主とした魔法剣と呼ばれている魔剣だ。

一方、敵が使用している魔剣は強化剣と呼ばれていて、近接戦闘に特化した魔剣だ。

その二つの魔剣が戦えばどうなるかは、目の前の惨状を見れば明白だ。

貴族達が私腹を肥やすために魔剣の横流ししている噂を聞いた事があるが、この様な形で目にする事になるとはな…。


「一対一では敵わぬ!大勢で取り囲んで一気に潰せ!」

「はっ!あっ!」

「どうした…散開!散開せよ!」

後方にいた敵が、前方で戦っている二人に向けて魔法を放って来ていた!

仲間ごと潰すつもりか!?

数が少ない敵にとっては効率的かもしれないが、それは許されないぜ…。

非情な敵に怒りを覚えつつも、冷静に次の行動を予測する…。

まさか、あの魔法でも二人は生き残れるのか!?

くそっ!


「全部隊、後退せよ!」

後方にいる敵を潰しに行けば背中を狙われるだろう。

かと言って、このままでは延々と魔法攻撃を食らい続けることになる!

ここは一度部隊を下げ、態勢を整えつつ反撃しなくてはならない!

「バーニアンを呼べ!」

副隊長のバーニアンを呼び、指示を与える事にした。


「団長、お呼びでしょうか!」

「おう、指揮権をお前に託すぜ!」

「まさか、お一人で戦うつもりですか!」

「そうだ!多勢でぶつかれば魔法に巻き込まれ、少数で戦えば魔法剣に敗れている現状だ!

だが、俺の魔剣ヴァーミリオンなら勝てる!

それに、俺に指揮が向いて無いのが良く分かったぜ!

前線で戦っている方が性に合う!」

「分かりました。団長の活躍を見守っております!」

「行って来るぜ!」

さてと、実力で部隊長まで上り詰めたはいいが、戦えないのであれば意味が無かったぜ。

俺の相棒魔剣ヴァーミリオンを抜き、敵の元へ突っ込んで行った!


≪エルレイ視点≫

リゼの魔法攻撃と、俺とルリアの魔剣による攻撃で敵の数は三分の一ほど減り、敵が少し下がって行った。

今のうちに、少し乱れた呼吸を一度落ち着かせたい所だ…。

「はぁ、はぁ、ルリア、まだ行けそうか?」

「そ、そうね…少し厳しいかしら?」

もう何人ルリアと二人で倒したかは分からないが、魔剣での近接戦闘は想像以上に疲れる。

まだ空中を飛びながらなので地上で戦っているよりかはましだが、それでも一瞬も気を抜けない真剣勝負の繰り返しだからな…。

何時もは弱音を吐かないルリアも、相当疲れている様子だ。

俺はルリアと自身に治癒魔法を掛け、肉体疲労だけを取り除いた。


「ありがと、楽になったわ!」

「うん、ルリア、もう少し頑張ろう!」

「えぇ、分かっているわ!」

ここで俺達が食い止めないと、下にいるリリー達に被害が行く事になってしまうからな。

「エルレイ、強そうよ!」

「うん、ルリアも気を付けて!」

俺とルリアの呼吸が整った頃、敵が一人急接近して来て、十メートル手前で急停止した!


「俺の名はヨルゲン!貴様らの快進撃もここまでだ!

悪いが死んで貰うぜ!

目覚めよ、ヴァーミリオン!」

ヨルゲンは名乗り上げるなり魔剣を発動させた。

魔剣はヨルゲンの身長ほどの長さがあり、赤黒い炎を纏っていた。

リーチは向こうが長いが、懐に潜り込めれば何とかなりそうだな。


「ルリア、まともに受けるのは止めた方が良さそうだ」

「そうみたいね!」

俺とルリアが相談している最中に、ヨルゲンが俺達の間を割くように剣を振りおろして来た!

俺とルリアは咄嗟に反対側に回避し、ヨルゲンを挟み込む様な感じになった。

「おるぁぁぁぁ!」

「くっ!」

ヨルゲンは振り下ろした剣を力で強引に軌道を捻じ曲げ、俺に向けて横なぎで振って来た。

俺はヨルゲンの魔剣をグールで受け止めたが、そのまま吹き飛ばされる事となってしまった。

空中では足による踏ん張りがきかないので、事前に準備しておかないと簡単に吹き飛ばされてしまう。


「しまった!ルリア危ない!」

ヨルゲンの狙いは俺では無く、最初からルリアを狙っていたみたいだ!

ヨルゲンは俺を横なぎした勢いのまま回転し、威力の乗った剣をルリアに向けて振りぬいた!

「悪く思うなよ!」

「貴方もね!」

キンッ!

甲高い音が響き渡り、ヨルゲンの剣が根元から斬り飛ばされていた!

「なんだと!」

「あら、驚いている暇はないわよ!」

ルリアが意地が悪そうな笑みを浮かべて、ヨルゲンに忠告していた。

ドスッ!

「まったく、女の子を狙うとは許せないな!」

「うっ、ぐっ、き、貴様!」

俺はヨルゲンの隙だらけの背中に、容赦なくグールを突き刺した!

「マスター、こいつの魔力は全て頂いたぜ!」

「よくやった!」

グールに魔力を吸い取られたヨルゲンは意識を失い地上へと墜落して行ったが、仲間が救助に向かっているな…。

ルリアを狙う様な非道な奴には更なる鉄槌をと思ったが…。

ふぅ~、落ち着いて冷静になれ…。

一度ルリアを失いかけているので、ルリアの危機で頭に血が上り過ぎたみたいだ。

先ずはルリアの無事を確認しよう。


「ルリア、怪我はないか?」

「大丈夫よ!それよりまだ戦いは終わっていないわ!」

「う、うん、怪我していないのならいいんだ」

ルリアから、余計な心配はするなと睨まれてしまった…。

ルリアの言う通りまだ終わったわけではないので、気を引き締めなおして敵軍の様子を見た。


「少し距離を取ったみたいだな」

「そうね。魔法を撃ち込むにはいい距離だけど、どうするの?」

「そうだな…」

今までの戦闘で、魔力を吸収する魔剣を使用したようには思えなかった。

と言う事は、地上の戦力の方に集中して装備させているのかも知れない。

「ルリア、一度地上の状況を確認してみよう」

「分かったわ。その方が良さそうね」

俺とルリアは、キャローネとリゼがいる場所まで後退していった。


「キャローネ、地上の状況はどうなっている?」

「ん-っと、一度押し込まれたみたいだけれど、追い返したみたいだよ。

だから、だいじょうぶー」

「それは良かった…」

一応ここからも地上の状況は見る事が出来、キャローネの説明通り敵軍が後退しているのが見えた。

「それでー、無理に追いかけないで欲しいんだってー」

「分かった」

エルフ側としては、必要以上の恨みを買いたくは無いのだろう。

俺としても、必要以上に戦いたい訳ではないからな。

俺とルリアは、上空にいる敵軍が再度攻めて来ないか様子を見る事にした…。


≪バーニアン視点≫

団長が敵に斬り込んで行った時は、勝利を確信していたのですが…。

まさか、あの団長が一瞬で倒されるとは夢にも思いませんでした。

私は即座に団長の救出を指示し、部隊に下がるよう命じました!


魔剣ヴァーミリオンを破壊出来る魔剣があるとは…。

各軍団長や部隊長には特別な魔剣が支給されていて、団長のヴァーミリオンは、その中でも三本の指に入る程強力な魔剣でした。

魔剣の威力を極限まで上げたヴァーミリオンは、斬れないものは何もないと言われた魔剣だったはず。

それが、敵の持つ魔剣に真っ二つにされてしまうとは…。

周囲の仲間達は驚愕し、恐怖しています。

これはいけません!


「皆落ち着いて態勢を整えなさい!敵の魔力はもう枯渇しています!」

私は仲間に檄を飛ばして、何とか落ち着かせました。

敵も少し下がってくれましたし、本当に魔力が枯渇したのかも知れません。

「副団長!アンドレアルス軍団長からの指令です!

戦線を維持しつつ後退せよ!との事です!」

「了解したと伝えてください」

「はっ!」

「ゆっくりと落ち着いて下がってください!決して敵に背中を見せない様に!」

団長が敗北した敵に敵う者は、ここには誰一人としていません。

ですので、敵が攻めてきたら、私が盾となって仲間の撤退する時間を稼がなくてはなりません!

私は敵の動向を注視しつつ、部隊を無事に撤退させていきました。

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