第百七十二話 魔剣戦争 その三

「エルレイ、来たわよ!」

「少し数が多いな…」

「そうね…」

リースレイア王国軍の数は一万と聞いていたが、飛行魔法を使える部隊の数は不明だった。

その飛行魔法部隊が四、五百名程度飛び上がって来た…。

流石に、俺達だけでは対処が難しい数だがどうするか…。


「応援を呼んだ方がいいー?」

キャローネが心配そうに声をかけて来てくれた。

マルギット達、風の精霊を使えるエルフ達に来て貰えば楽にはなるが、それだと塔に残された他の精霊使い達が逃げる手段を失ってしまう。

そうならない様に、俺達だけで空の守りをやる事になっていたのだからな。

いつもは、マルギット達が他の精霊使いを運びつつ、上空から攻撃を仕掛けていたらしい。

しかし今回は、魔法を吸収する魔剣があるのでその方法が取れない。


「いや、キャローネ、すまないがリゼを預かって貰えないだろうか?」

「いいよー。アル、お願いねー」

「エルレイ様!?」

キャローネは、俺が抱きかかえているリゼをすんなり受け取ってくれた。

リゼは突然の事に驚き、俺から離れる際には悲しみの表情をしていたが、俺もリゼの温もりが無くなってもの凄く寂しい!

しかし、リゼを抱きかかえていたままではグールを使えないからな…。


「リゼ、キャローネを守ってやってくれ!」

「…はい、承知しました。エルレイ様、ルリア様、どうか無理をなさらぬようお願いします!」

「うん、約束する」

「頑張って来るわね!」

俺とルリアはキャロから離れて少し前に出た。


「ルリア、一発でかいのを当てた後に斬り込んで行こう!」

「分かったわ。背中は任せたわよ!」

「うん、任せてくれ!」

五百人の敵に突っ込んで行くのは無謀かもしれないが、一方的に魔法を撃ち込まれるよりかはましだ。

「俺様の出番だな!」

「うん、グール頼む!」

俺はナイフ状のグールを取り出し、剣に変化させた!

ルリアも魔剣エリザベートを抜いて構えていた!

「エルレイ、行くわよ!」

「うん、僕が壁になるから後に続いて来てくれ!」


ルリアが五メートルほどの大きな火球を作り出し、敵の中心に向けて撃ち出した!

これだけ大きな魔法であれば、魔剣の吸収限界を超えるだろう。

もし、越えなかったとしても、俺とルリアが接敵するまで視界を遮ってくれればそれでいい!

俺は火球の後ろに隠れる様にしながら追いかけ、ルリアも俺の後ろに追随して来てくれている。

「グール、任せたぞ!」

「了解マスター!」

俺はグールを盾にして、ルリアの火球の爆発に備えた!


ドォーンッ!

お腹に響く大きな音と衝撃波を周囲にまき散らしながら、ルリアの火球が爆発した!

爆発の衝撃に巻き込まれた敵は大きく吹き飛ばされており、中には墜落して行く者達も多く見られた。

敵は混乱状態に陥り、逃げ惑う者達もいる。

「ルリア、行くよ!」

「エリザベート!」

ルリアは魔剣を発動させ、俺と共に混乱している敵の中に斬り込んで行った!


「ヒャッハーッ!俺様の名はグール!俺様が最強の魔剣であると魂に刻み込んでやるぜ!」

俺がグールを振るうと、グールは相手の魔剣ごと敵を斬り裂いて行く!

初めてまともに対人戦でグールを使用したが、あまりの強さに落ちて行く敵に同情してしまいそうになるが、これは戦争でやらなければこちらがやられてしまう!

ルリアのエリザベートも、同じように魔剣ごと斬り裂いているな…。

相手の魔剣が脆いのか、それともこっちの魔剣が強力なのかは分からないが、今のうちに出来るだけ数を減らさなくてはならない。

俺とルリアは高速で飛び回りながら、遠慮なくグールを振るい続けて行った。

十数人斬り落とした所で敵の混乱が収まりつつあり、陣形を整え始めたな…。


「エルレイ、囲まれると不味いわよ!」

「そうだな、リゼに牽制して貰おう!」

俺達を囲もうとしているのであれば、固まっている所に外から魔法を撃ち込んで貰えば、いい的になる事だろう。

ルリアが最初に撃った魔法が吸収されなかった事だし、もしかしたら空を飛んで来ている敵は持っていないのかも知れない。

持っていたとしても、グールが言ってた吸収限界を超えていたのだと思う。


『リゼ、俺達がいる場所に特大の魔法を撃ち込んでくれ!』

『えっ!?よろしいのでしょうか?』

俺が頼むと、念話でもリゼの動揺している感じが伝わって来た。

リゼの魔法も、ルリアに劣らないほどの威力がある。

訓練中も俺に撃ち込んできてはいたが、手加減された魔法だった。

しかし、今回は手加減なしの魔法を撃ち込んで貰う事になり、俺も直撃すれば無事では済まされないので、リゼが動揺するのも良く分かる。

『グールがいるから構わない。それと、敵がそっちに向かって来たら助けに行くから知らせてくれ!』

『承知しました!』

それでも、グールと言う強力な魔剣があるし、俺も障壁で守っているから魔法による攻撃は殆ど効かない状況だ。

リゼにその事を伝えると、動揺が消えた元気のいい返事が返って来た。


「ルリア、リゼに魔法を撃ち込ませるから、俺の傍から離れないようにしてくれ!」

「分かったわ!」

俺がルリアに注意を促した途端、リゼがいる場所からルリアが撃った物より大きな火球が俺に向けて飛ばされて来た!

リゼも魔法を撃ちたくて仕方が無かったと言うのは分かるが、明らかにやり過ぎだ…。

ルリアもリゼの魔法を見て、俺を盾にしようと後ろに隠れたほどだからな…。

俺達を取り囲もうとしていた敵は、慌てて逃げ出そうとしているがもう遅い。


ドゴォーンッ!

巨大な爆発に巻き込まれて、多くの敵が落ちて行った…。

「リゼの姉貴は容赦ねーな!」

グールもあまりの威力に引いている…。

「エルレイ、ぼーっとしてないで行くわよ!」

「うん!」

俺とルリアは爆発の混乱に乗じて、再び敵に斬り掛かっていった!


≪ヨルゲン視点≫

アンドレアルスから指示を与えられた後、部隊に戻り仲間達に伝えた。

「アンドレから俺達に与えられた任務は、本隊が攻め落とすまでの時間稼ぎだぜ!」

「何ですかそれは?」

「団長、冗談ですよね?」

「敵を目の前にして時間稼ぎとかありえない!」

仲間達から次々と不満の声が噴出して来た。

その事に俺は安堵し、言葉を続けた。


「お前達が時間稼ぎなど、ちんけな任務で満足するとは思っていない!

敵を叩き潰しに行くぞ!」

「「「「「おぉっ!」」」」」

「よし!相手は強力な精霊魔法使いだが、近づけばこっちのものだ!

バーニアンの部隊の魔法障壁を盾にして、一点突破で敵に近づく!

その後は各小隊ごとに各個撃破しろ!」

「「「「「はっ!」」」」」

「出陣だ!」

俺達は呪文を唱え、上空へと飛び立って行った。


「前方に敵影を確認!」

「あぁ、見えるな…」

上空に上がり、各小隊ごとに隊列を組んで戦闘態勢を整えたのだが、敵の数が四人しかおらず仲間達も落胆している様子だ。

精霊魔法使いの数は少ないとは聞いていたが、四人だけとはずいぶん舐められたものだ。

地上の防衛拠点の方には、かなりの数の敵がいるのが見えると言うのにな…。


「お前達、気を抜くな!敵が少数であろうと俺達は任務を遂行するのみ!

さっさと片付けて、地上の仲間を手伝う事にするぞ!」

仲間に気合を入れて、交戦開始の命令を下そうとした時、敵から巨大な魔法が飛んで来るのが見えた。


「散開!緊急回避しろ!」

見た事も無いような巨大な魔法を魔法障壁で防げるとは思わず、散開を命じた!

次の瞬間、巨大な魔法が爆発し、逃げ切れなかった仲間が負傷し落ちて行く!

「リック、ナタンの隊は負傷者の救出に向かえ!

その他の隊は散開し、各自敵との間合いを詰めろ!」

「団長!敵が斬り込んで来ています!」

「なに!」

命令を下している最中に報告を受け、目を凝らして見ると、二人が仲間に斬り掛かっているのが見えた。


「取り囲み!叩き潰せ!」

俺は命令を下しながら敵を観察する事にした。

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