第百七十一話 魔剣戦争 その二
「リリーとロゼは、家の中で待機していてくれ!」
俺はいつもの様に、リリーとロゼに待機するようにお願いしたのだけれど…。
「嫌です!皆様も戦うのに、私だけ安全な所に居る事は出来ません!
エルレイさん、私も戦わせてください!」
この様に拒否されてしまった…。
アイロス王国との戦争とは違い、エルフの中には女性も多く参加している。
そんな中で、リリーだけ安全な場所に居る事が気まずいのは分かる。
しかし、リリーは戦いは苦手だし、
以前ソートマス王国軍が罠にかかり大勢の負傷者が出た際には、リリーは心を痛めて倒れるまで治療した事があるからな…。
リリーに無理をさせたくは無いので、出来れば家にいて貰いたいのだけれど…リリーの真剣なまなざしに押され気味だ。
そこで、ルリアに助けを求めるべく視線を向けて見た。
「諦めなさい!」
「はい…」
ルリアにまで言われては、俺も諦めるしか無かった…。
「リリーとロゼは、中央の塔を守っていてくれ」
「はい、頑張ります!」
「承知しました」
リリーも一応魔法での戦闘訓練はやって来たし、ロゼもいるから大丈夫だとは思うが…。
やっぱり、リリーの事が心配だ!
リゼにもリリーを守って貰おう!
そう考えたのだけれど…。
「エルレイ、先に行くわよ!リゼを連れて追いかけて来なさい!」
「う、うん…」
仕方なくリゼを抱き上げて、ルリアを追いかけて上空へと飛んで行った。
「キャローネさんは、戦闘が始まれば僕達の戦いに巻き込まれない様に少し離れていた下さい」
「りょうかーい。でも、キャローネとアルも戦えるよ?」
「キャローネさんが強いのは知っていますが、ソフィアさんとの連絡役に徹して貰えた方が助かります」
「そっか、そうだねー」
塔を守っているエルフ達との連携が上手くいかないと、俺達がエルフの魔法に巻き込まれたりするかもしれないからな。
上空に上がって見ると、遠くにリースレイア王国軍が進軍しているのが見えた。
上空には、今の所敵兵の姿は確認できない。
魔力を温存させるために、直前まで飛んで来ないのだろう。
それとも、先程のルリアの攻撃を受けて、上空では敵わないと思ってくれたのかも?
そうであれば楽でいいが、敵に負傷者が出た訳ではないだろうし、空を飛べる者が二十人だけと言う事は無いはずだ。
敵軍に注視しながら、相手の出方を窺う事にした…。
≪アンドレアルス視点≫
ヒューイットからの情報を得て我が軍は検討を重ね、新魔剣を使用しないことを決定した。
国王陛下と軍務卿からの命令がある以上、戦場には持ち込まなくてはならない。
しかし、新魔剣は後方の補給部隊で厳重に管理し、前線に送らないように厳命してある。
新魔剣を使用し、仮に仲間が化け物にでもなってしまえば、普通に敗北する以上の犠牲が出る事は誰にでも分かる事だ。
国王陛下と軍務卿がその事を理解していないとは思いたくは無いが、財務卿のヒューイットが我らの所に出向いて来た事を考えればそう言う事なのだろう…。
国王陛下が理解していようとしていまいと、命令は下された。
我らはその命令に従い、敵を撃ち滅ぼすのみ!
しかし、不安ないわけではない。
ヒューイットが指摘した通り、我々の戦力でルフトル王国の精霊魔法使い共に勝てる可能性は低い。
その事は戦史が物語っており、いくら魔剣を振るおうとも、一人として倒せた事は無い。
しかし、我々も敗北するために訓練を続けて来た訳ではない!
仲間を信じ、作戦通り事を進める事が出来れば、我々が勝利する事は不可能ではない!
「全軍前進!」
勝利に向けて、進軍を命じた!
国境を越え、ルフトル王国に侵入したが敵の気配はない。
これまでの戦史と同じであるならば、接敵する場所は広大な平原だ。
お互いにとって最適な戦闘場所ではあるが、強力な魔法を持つ敵の方が有利な場所ともいえる。
平原を迂回する道はあるが、進軍するには狭く隊列が縦長になってしまい、数での優位を失う事になる。
作戦計画通り、平原での戦闘を想定し行動に移す。
「アンドレアルス軍団長、斥候部隊からの報告です!
敵魔法使い四名と遭遇し、こちらの攻撃範囲外から攻撃を受け数名が負傷し撤退しました。
なお、前方に防御施設と思われる建造物を確認しましたが、近寄って確認するのは厳しいとの事です!」
「そうか、負傷者の治療を優先させよ!それから、飛空魔剣部隊隊長ヨルゲンを呼べ!」
「はっ!」
やはり、上空で戦うのは厳しいか…。
いいや、空を制する事が出来なくては、こちらの被害が増すばかりだ!
飛空魔剣部隊の活躍に期待するしかない!
それと防衛施設とは、困った事になったな。
侵攻前の報告では、その様な物の報告は一切なかった。
詳細な情報が欲しいが、上空からでは厳しいか…。
そこまで侵攻して目視で確認するしかなさそうだ。
「アンドレ、俺達に何をさせる気だ?」
思考を巡らせていると、飛空魔剣部隊長ヨルゲンが空から目の前に下り立って来た。
この登場の仕方は毎回の事で私は慣れたが、警護の者達が身構えるので止めろと何度も言ったが聞かないので諦めている。
警護の者達を制し、ヨルゲンと話をする。
「斥候が戻って来たのは聞いているな?」
「勿論だぜ。俺達に見てこいと言うのか?」
「いいや、そうではない。予想通り我々の射程外から攻撃して来る。
それを潜り抜けて接近する事は可能か?」
「当然だ!俺達はその為に厳しい訓練を続けて来たのだからな!」
「ならば、戦闘開始後三十分は持たせてくれ!」
「了解したぜ!俺達は選りすぐりの飛空魔剣部隊!三十分と言わず一時間でも戦い続けて見せるぜ!」
「頼もしいな。しかし、無理はするなよ!戦争は今日だけでは無いのだからな!」
「そいつは分からねぇな。俺達は強い奴と戦いたくて仕方がないんだからな!」
ヨルゲンは捨て台詞を吐きながら、飛び去って行った…。
死ぬなよ…。
私は心の中でつぶやき、ヨルゲンを見送った。
それから敵の襲撃が無いまま、無事に敵の防衛施設が見える地点へと辿り着いた。
「作戦計画には無かった事態ではあるが、我々は拠点攻撃の準備は行って来た!
恐れる事は何もない!
我々が大陸最強だと言う事を見せつけてやろうではないか!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」
「ノーリッシュ、パーヴェルの隊で右翼を固め、ボルド、ライッドの隊で左翼を固めよ!
中央は私の隊で切り開く!配置に付け!」
「「「「はっ!」」」」
いよいよ戦いが始まる。
敵の防衛施設を考慮していなかったのは落ち度ではあるが、訓練通り行動出来ればさしたる問題ではない。
過去の戦史では、ルフトル王国の精霊魔法に対して敗北し続けているのは事実だ。
しかし、我々も研究と訓練を重ねて来た自負がある。
必ずや勝利をもたらすと信じている!
「一気に叩き潰すぞ!全軍かかれぇぇぇぇっ!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」
全員魔剣を抜き!一気に攻め込んだ!
ヨルゲンが上空を押さえてくれているまでが勝負だ!
私は戦況を見渡しながら、次々と報告されて来る状況を精査し、的確な指示を与えて行く事に集中して行った。
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