第百六十八話 ルフトル王国防衛準備

「この馬鹿!」

「ごめんなさい…」

ロレーナに敗北して戻ると、ルリアから怒られてしまった…。

魔法では誰にも負けない自信があったのだが、自惚れていたと言う事なのだろう。

反省し、気持ちを切り替えて行かなくてはならないが、もうしばらくは落ち込んだ気持から立ち直れそうにはないな…。


「でも、よく頑張っていたと思うわよ…」

「私もそう思います!」

「えっ?」

何故かルリアとリリーが慰めてくれた…。

リリーが慰めてくれるのは分かるが、ルリアからそんな言葉を掛けて貰えるとは思ってもいなかったから、少し驚いてしまった。

殴られると覚悟していたのだがな…。

でも、そのおかげで幾分気持ちが楽になったな…。

改めて敗北した事を皆に謝罪と感謝を伝えていると、ソフィア達がこちらにやって来た。


「エルレイさん、勝負は二対二の引き分けとなりました。

この結果を持って、私達とエルレイさん達の実力が同じであると判断してもよろしいですね?」

「は、はい!」

そうだった。

勝ち負けはどうでもよく…いや、俺個人としては良くないが、それはひとまず置いておこう…。

元々はルリアとマルギットの喧嘩が原因で、この勝負が行われたのだ。

引き分けになった事は、逆に良かったのかも知れないな。


「ルリアもいいよな?」

「えぇ、問題無いわ!」

「マルギットも納得しましたよね?」

「俺は敗北したからな…」

「と言う事で、改めて話し合いを再開する事にしましょう」

ルリアとマルギットも納得し、俺達はエルフのお城に戻って会議を再開する事となった。


「リースレイア王国軍の数はおよそ一万人。

後方支援部隊を除き、ほとんどが魔剣を装備しています。

一方私達の戦力ですが、二百名程度となっております」

「随分少ないのね?」

ワルテの説明を聞き、ルリアが疑問を投げかけていた。

エルフの街で見かけた人達は結構多かったので、戦う人も多いだろうと思っていたからな。


「はい、私達の使う精霊魔法ですが、戦いに向いている精霊と言うのは少ないのです」

「そうなのね…でも、私達がいれば敵が何人いようとも関係無いわ!

そうよね!エルレイ!」

「うん!」

エルフの使う精霊魔法は強力だが、どうやら一種類の精霊魔法しか使えないみたいだし、そう言う物なのかも知れない。

普通の軍隊であれば、二百人もいれば十分対処出来ていたはずだろう。

しかし、今回は魔法を吸収すると言う魔剣の存在がある。

一万人がその魔剣を所持しているのだとしたら、魔法だけでは勝ち目のない戦いとなるだろう。

だから、その戦いに備えておかなくてはならない!


「魔剣の対抗手段を考えて来ましたので、それを戦う人に教えてください」

俺は皆に対抗手段を教え、敵が攻めて来るまでに訓練して貰う事にした。

そこで昼食となり、午後から魔剣の対抗手段を実践してみせる事となった。

勝負した場所へとキャローネに運んで貰うと、多くのエルフ達が待ち構えていた。

マルギットと同じように、俺達の事を好意的に見て無いエルフ達も結構いるな…。

エルフ達にしてみれば、自分達より劣ると思っている人に教わるのは面白くないと言う気持ちは良く分かる。

しかも俺の見た目は子供だし、無理もない事だ…。


「皆聞け!この者達は我らと同等の力を持っている!その事は勝負をして確認済みだ!

この者達が今から魔剣の対抗手段を教えてくれる!しっかり見て良く覚えてくれ!」

しかし、マルギットがエルフ達に言ってくれたお陰で、俺達を見る目が変わってくれた。

「マルギットさん、ありがとう」

「ふん、良いから早く実践してみせろ!」

「分かりました」

マルギットにお礼を言ってから、エルフ達の前で説明と実践を行った。


魔法を吸収する魔剣の対抗策は、色々考えては見たのだけれど、やはり石等の硬い物を飛ばして倒す事しか思いつかなかった。

銃とか大砲とかがあれば良かったのだが、そんな物はこの世界に無いし、作り出す時間もお金も無かったからな…。

安価で効果の高い物となれば、そこら中にある石や土になってしまうんだよな。


それとは別に、水属性魔法なら水を作り出して、それを凍らせて撃ち出せば吸収はされる事は無い。

これは、俺が戦争で苦労したアイアニル砦から回収した魔法を吸収する破片で試したので間違いはない。

しかし、氷の魔法だと吸収されてしまう。

水を作り出す魔法だけ、錬金術の様な感じなんだよな…。

この辺りを突き詰めていけば面白そうなのだが、俺には新しい魔法を作り出せないと言う制限があるんだよな。

原因はグールを作り出した英雄クロームウェルがやり過ぎたせいだと思うが、女神クローリスには感謝をしているので贅沢を言うつもりはない。


地属性魔法なら、穴を掘ったり土を盛り上げたりする事で、倒せなくとも行動の阻害は可能だ。

穴に落ちる間抜けがいたなら埋めてやればいいしな…。


火属性魔法だけは、有効な対抗手段を見つけることは出来なかった。

遠くで爆発させて爆風で吹き飛ばすとかも考えたが、それならいっそのこと魔剣に限界まで吸収させて破壊を試みた方がましだという結論に達した。

魔剣の吸収量が未定の状態だから、その作戦を取るのは最終手段だと考えている。


俺が手本を見せて、エルフ達にやって貰う事になったのだが…。

「エルレイさん、私達の使う精霊魔法と言うのは魔法その物であって、魔力を変換して魔法にしているのでは無いのです」

「そうなのですね…」

ワルテの説明によると。俺が実践した魔力を使って石を飛ばす方法は出来ないと言う事だった。

マルギットの様な風の精霊は風で飛ばす事が出来たが、その他の精霊では飛ばす事が出来ないみたいだ。

少ない戦力が、さらに減ってしまった…。

俺達で頑張るしかなさそうだが、その為に来たんだしな。


この後はグールを使い、エルフ達に実際に魔法が撃って貰って、吸収されるのを体験して貰った。

セシリア女王が警鐘を鳴らしたとしても、本当に魔法が吸収される物なのか疑問に思っているエルフもいただろう。

「その魔剣に限界は存在しないのか?」

「俺様に、そんなちんけなものは存在しねーぜ!」

俺に向けて魔法を撃ち込んでいたマルギットが、少しだけ悔しそうな表情を見せながら聞いて来て、それに対してグールが俺の許可なく返答した…。

「今の声は…」

「この魔剣グールは、話す事が出来るのです…」

「そうだぜ、俺様は特別だからな!てめーらの魔法なんざいくらでも吸収してやるぜ!」

グールの暴言により、マルギットの表情が怒りに満ちていっている…。

「マルギットさん、申し訳ありません!」

俺はマルギットが爆発する前に謝罪し、グールを黙らせた…。

「ま、魔剣に関しては理解した。石を飛ばす訓練を続けさせよう!」

マルギットは怒りを抑えてくれて、他のエルフの指導に向かって行ってくれた。

せっかくマルギットとも仲良くなれたのに、グールのせいで危うく仲違いをするところだった。

グールとの約束通り話す時間は作っているのに、勝手に話すのであればそれを止める事も考えないといけないな…。

グールの事はとりあえず後にして、俺もエルフ達の指導をする事にした…。


そして翌日はエルフの結界の外に出て、防衛拠点を作成する場所へとやって来た。

結界の外でもキャローネに運んで貰って助かったが、皆着いて来てしまったんだよな…。

着いて来てしまったのは仕方がないので、ルリア達の休憩場所として家を出しておいた。

「リゼ、家の事は任せる。キャローネさん達にも飲み物を出してやってくれ」

「承知しました」


俺はロゼを連れて、防衛拠点を作成する事にした。

「ロゼは堀を任せた」

「はい」

ロゼに堀を任せて、俺は壁の作成に取り掛かった。

エレマー砦を守る時に作った壁だが、今回の敵は魔剣を所持しており、全員が魔法使いだと想定してより丈夫に作らなくてはならない。

壁の高さも五メートルと高くした。

その分魔力は多く必要になるが、俺の魔力はあの時とは比べ物にならないくらい増えているからな。

それにグールに蓄えている魔力もあるし、魔力切れになる事はまずないだろう。

ロゼと二人で黙々と作業を続け、約一キロほどの立ち塞がる壁を作り上げた。

内側には、皆が攻撃出来る塔を五十メートル間隔で作っている。

壁の横は塞いでないのですり抜けられるが、落とし穴を掘って置いた。

壁に近づかれる前に追い返す事を目的としているし、もし押し込まれる様な事になるのであれば、一度撤退を考えた方が良いだろう。

リースレイア王国との戦争がどうなるかはその場になって見ないと分からないが、俺もエルフ達もここで無理する必要は全く無い。

攻め込まれたとしても、結界に侵入されなければ構わないのだろうからな。

しかし、ルフトル王国民に被害が出るのは間違いないだろうから、出来る限りここで食い止めなければならないな!

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