第百六十七話 エルフとの勝負 その三
≪リゼ視点≫
勝負はキャローネ様の氷像を作る事になり、私は対戦相手のカーメラ様と一緒にキャローネ様を観察します。
キャローネ様は、可愛らしい姿と明るい表情が印象的です。
ロゼがそうであったように、この勝負ではエルフ側が相当有利な事は明白です。
カーメラ様の表情にも相当な自信が
私もそれなりに自信がありますが、恐らく氷の造形では負けてしまうのではないかと思います。
私が勝つ方法は、キャローネ様をいかに可愛らしく表現するかにかかっている事でしょう!
キャローネ様と言えば、私達がこの場所に来た際にはいつも運んでくださいます。
ですので、精霊の黒猫さんは外せません!
そうですね…黒猫さんと一緒に楽しく飛んでいる姿を氷像にしましょう!
構図も決まり、私は少し離れた場所に移動して氷像の制作に取り掛かりました。
先ずはキャローネ様が両手を広げて気持よさそうに空を飛んでいる姿を思い浮かべながら、魔力を出して氷像を作り上げていきます。
「ふぅ~」
キャローネ様の氷像は完成しました。
次に、キャローネ様が広げている手の上に黒猫さんを作りました。
仕上げに、風をイメージした斜めに流れる様な氷を氷像の下に作り出して土台とし、完成です!
上手く出来たのではないかと思います。
お相手のカーメラ様も氷像が完成しており、そちらの方を確認してみました。
「うっ…」
キャローネ様の可愛らしい姿が見事に表現されており、負けたかもと思わされてしまいました…。
「それでは審査します」
ソフィア様とキャローネ様の審査が始まり、エルレイ様達も二つの氷像を見比べていました…。
結果が分かるまでの時間が非常に長く感じられ、私の心臓は鼓動を増し、負けるかもと言う悪い思考が頭の中を駆け巡っています…。
ソフィア様とキャローネ様が二人で相談し合っていましたが、私とカーメラ様の方に向き直りました。
「結果はキャローネが発表します」
「勝者はー、リゼにけってーい!」
私が勝ったの!?
キャローネ様の発表を一瞬信じられなかったけれど、ルリア様、リリー様、ロゼが笑顔で駆け寄ってくる姿を見て、私が勝ったのだと分かった。
「リゼ、見事な氷像だったわよ!」
「キャローネさんの飛んでいる姿を見事に表現できていました!」
「リゼ、お見事でした!」
「ありがとうございます…あの、エルレイ様は?」
「あの魔法馬鹿は、ずっと氷像に見惚れているわ…」
エルレイ様は、いまだに私が作った氷像を真剣な表情で見て下さっていました。
エルレイ様に私の魔法を認めて貰ったような気がして、凄く嬉しい気持ちになります。
「ほら、いつまで見てるのよ!リゼに声をかけてやりなさい!」
ルリア様がエルレイ様を引っ張って私の元に連れて来てくださいました。
「リゼ、とても美しくて、本当にキャローネが飛んでいると思える氷像だった!」
「ありがとうございます!」
エルレイ様に褒めて頂き、ここまで頑張って来て良かったと思いました。
「エルレイ、リゼも頑張ったのだから、貴方も負けない様に頑張って来なさい!」
「うん、行って来る!」
エルレイ様は自信に満ちた表情で、ロレーナ様との勝負に向かって行きました。
エルレイ様の事ですから何も心配しておりませんし、きっと勝利して来てくれる事でしょう。
私は皆様と共に、エルレイ様を応援する事にしました。
≪エルレイ視点≫
リゼとカーメラの作った氷像を見て驚いてしまった…。
どちらの氷像もとても良く出来ていて、どちらが勝ってもおかしくは無いと思う。
結果はリゼの勝利に終わったが、カーメラの作った氷像も、俺には作り出せないほど繊細に作り上げられていた。
「どうして私の負けなの~?」
カーメラは結果に納得いかないのか、キャローネに説明を求めていた。
「ん-とねー。こっちの方がわたしっぽかったからー」
「えっ!?私の氷像の方が似てるわよ~」
「確かにそうだけどー、、こっちは飛んでいて、カーメラの方は飛んでいないよねー?」
「それだけの理由なの~?」
「そーだよー」
俺から見ても、カーメラの作った氷像の方がキャローネの細かい所も表現で来ていてよく似ていると思う。
しかしリゼが作った氷像は、キャローネが本当に飛んでいる様な感じに見える。
この様な勝負では氷像を作る技術だけではなく、表現力がいかに重要になるのかが良く分かった。
俺が出ていたら、キャローネにいかに似せるかだけを考えて、ただ立っている氷像を作っていただろうな…。
これから行う戦争には関係ない事だが、俺が思っていた魔法を使って楽しく過ごして行く為には必要な事だと思い知らされた。
リアネ城に戻ったら、リゼから氷像作りのコツなどを教わらなくてはな!
氷像を見ながら思考を巡らせていたら、ルリアから怒られてしまった…。
リゼを褒めてやるのを疎かにしていたのだから怒られて当然だし、殴られずに済んでよかったと思う。
「最後は、火属性によるろうそく灯しです」
ソフィアさんに呼ばれて、俺はロレーナの横に並んだ。
「ろうそくの数は十本、離れた台の上にすでに置き終えておりますが、ろうそくは固定されておりません。
ろうそくに対して火の魔法をこの線の所から飛ばしてもらい、一本ずつ灯して貰います。
火の魔法はどれを使用しても構いませんが、ろうそくの上で停止させてはいけません。
倒れたろうそくは一本と数えず、最終的に多くのろうそくを早く灯した方の勝ちとなります」
ソフィアの説明でルールは理解できた。
ろうそくを倒さず、早く全部灯した方の勝ちと言う事だな。
今までの勝負を見て来た限り、ロレーナがろうそくを倒す様な事は無いと考えた方が良いだろう。
俺が勝利するには、ロレーナより先に全部のろうそくを灯さなくてはならない。
意外に厳しい戦いになりそうだが、頑張らなくてはな!
「始めてください!」
俺とロレーナの勝負が開始された!
ローソクが置かれている台までの距離は十五メートルほどあり、そこまで火の魔法を真っすぐ飛ばしてろうそくを灯さなくてはならない。
俺は炎の矢を作り出し、ろうそくの五センチほど上を通過する様に飛ばした!
「駄目か…」
ろうそくは倒れなかったが、火が灯る事も無かった。
しかし、ろうそくを倒さなければ何度も挑戦できるので問題は無い。
俺は再び炎の矢を作り出し、先程より二センチほど下を狙って飛ばした!
「よし!」
ろうそくが少し揺れたが、ろうそくを倒さず灯す事が出来た!
一方ロレーナの方のろうそくは、まだ一本も灯ってはいない。
と言うより、ロレーナの炎の魔法はゆっくりと飛んで行っている状況だ。
あまりにも飛ぶ速度が遅いせいで、少し吹いている風に流されている?
ロレーナの少女の様な見た目通り、歳が若くてまだ魔法が未熟なのかも知れないな…。
楽に勝てそうかもしれないが、手を抜く様な事はしない!
自分の魔法に集中しなくてはな!
俺は二本目、三本目と順調に灯して行き、六本目を灯そうとした所でろうそくを倒してしまった…。
少し炎の矢の制御を失敗してしまったな。
ろうそくを倒さない様に炎の矢の速度を落としているお陰で、少しの風でも影響を受けてしまう。
それが今回でてしまい、ろうそくに近づきすぎてしまった。
でも、まだ倒したのは一本だけだし、より集中して残りのろうそくを灯して行く事にした。
結果的に、俺は九本のろうそくを無事に灯す事に成功した。
俺が灯し終えた所で、ロレーナの方はまだ五本しか灯していない。
俺の勝ちだな!
俺は勝利を確信し、胸をなでおろした…。
負けたらルリアから何を言われるか…いや、殴られるかと心配していたんだよな。
そうならずに済んで本当に良かった。
そう思い、ルリア達の方に振り向いて見たのだが…。
あれ?
ルリア、怒ってないか?
リリー、ロゼ、リゼも喜んではいない?
あ…。
俺はロレーナの方を振り向いてみると、まだ競技を続けていた…。
そうだ…早く多くのろうそくを灯した方の勝利で時間制限はなかった。
つまり、ロレーナが一本も倒す事無くろうそくを灯せば、ロレーナの勝利となる。
慎重に慎重にろうそくを灯し、全部のろうそくを相手より少しだけ早く灯せばよかったのだ。
それなのに俺は早く灯す事に気を取られて、ろうそくを一本倒してしまった。
その時点で俺の負けは決まっていたも同然と言う事だ…。
「ふぅ~、ソルよくやった!」
「「わん!」」
ロレーナはゆっくりと時間をかけて、全てのろうそくを倒さず灯す事に成功していた。
「ロレーナの勝利です!」
ソフィアがロレーナの勝利を宣言して、俺の敗北が決まった…。
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