第百六十六話 エルフとの勝負 その二
「ルリア、勝利おめでとう!」
リリーが勝負から戻って来たルリアに駆け寄り、ルリアを抱きしめて二人で喜び合っていた。
出だしは勢い余ってコースアウトしていたが、一周過ぎた後の飛行は素晴らしものがあった。
でも、急角度で曲がるような飛び方は、体の方に相当な負担があったはずだ。
ルリアの体に異常があれば、抱き付いているリリーが気付くだろうから俺が何かする必要はないな。
「次は、地属性による棒倒しです。
ルールは、お互いに同じ大きさの棒を十本立てて貰い、離れた場所から相手の棒を一本ずつ倒して行って、先に十本倒した方の勝ちとなります。
棒はこちらに作っている物を参考にし、キャローネが引いている線の向こう側に立ててください。
それと、棒を地面に埋めるのは禁止です」
ソフィアが棒倒しのルールを説明してくれたので、ロゼと相談する事にした。
「ロゼ、ルールを理解したな?」
「はい、棒の立て方が重要になるでしょうか?」
「そうだ。一本ずつ倒して行かなくてはならないので、棒が倒れる時に他の棒に当たらないように気を付けなければならない。
倒し方は魔法を当ててもいいし、穴を掘ってもいいはずだ」
「はい、承知しました!」
「ロゼ、頑張って!」
リゼが応援し、ロゼが勝負に向かって行こうとしている所でルリアとリリーがやって来た。
「ロゼ、想像以上に手ごわいわよ!気合を入れて行って来なさい!」
「ロゼ、頑張って来てください」
「はい!」
ルリアとリリーにも励まされて、ロゼが勝負に向かって行った。
「ルリア、見事な勝利だった」
「ありがと、それよりエルレイとリゼも気を付けなさい!負けたら承知しないわよ!」
「う、うん、頑張るよ」
「はい!」
精霊魔法が優れているのは知っているし、負けるつもりもない。
しかし、勝負は向こう側が熟知している分、俺達は不利な状況だ。
そんな中でもルリアは勝利したし、負けて恥をかかない様に頑張らなくてはな!
でも今は、ロゼの応援に集中しようと思う。
≪ロゼ視点≫
エルレイ様の助言を受けてから、どの様に棒を立てれば良いのかずっと考えていました…。
まとめて立てれば魔法攻撃では倒せませんが、穴を掘れば簡単に倒せてしまいます。
かと言って、離して立てても同じ事です。
「今から私が十数えるうちに、棒を十本線の向こう側に立ててください。
十~九~…」
考えが
棒の大きさは五十センチ程と小さい物なので、線の向こう側に一本作り出して立てました。
残り九本をどの様に立てるかが問題ですが…。
「八~七~」
考えている間に時間が迫って来ています。
離して立てるより、まとめて立てた方が倒すのに時間がかかるのでは無いでしょうか?
私はそう考え、残りの九本を最初に立てた棒を囲う様に立てました。
「六~五~四~二~」
「しまった!」
私はここで重大な間違いに気付いてしまいました!
私の勝負の相手であるワルテ様が、まだ棒を立てていません!
ワルテ様が私を見て申し訳なさそうな表情を見せながらも、私が立てた棒の裏に隠すように十本の棒を立てました…。
「一~そこまで!お互い十本の棒が立ちましたので、これより早く倒した方の勝利です。
では、始めてください!」
棒を倒す作業に入ったのですが、勝負は棒を立てた段階でついていました。
私も何とか奥の棒を穴を掘って倒しましたが、焦って二本倒してしまい敗北しました…。
あぁ…皆様に何とお詫びすればいいのでしょう…。
私が出しゃばらずにエルレイ様にお任せしていれば、このような結果にはならなかったのでしょうに…。
幾ら嘆いても私が敗北した結果は変わりません。
私は皆様の所に戻り、謝罪する事にしました。
≪エルレイ視点≫
「あっ、そう来たか…」
俺も自分の棒を立てる事だけを考えてしまい、相手が立てる棒の事までは考えていなかったな…。
ロゼは相当落ち込んでいるし、皆に責めないように言っておいた方が良さそうだ。
「ルリア、ロゼが負けたのは僕の助言が足りなかったせいだから、ロゼを責めないでやってくれ」
「そんな事は分かっているわ!エルレイはちゃんと慰めてやるのよ!」
「うん、上手く慰められるかは分からないけれど…」
俺が慰めるより、リリーが慰めた方が良さそうな気もするんだがな…。
「皆様、申し訳ございませんでした!」
ロゼは暗い表情をして戻って来るなり、頭を下げて謝罪した。
「ロゼ、僕の助言が足りなかった。謝るのは僕の方だから頭を上げてくれ。
それに、まだ勝負は終わっていない。
次はリゼがきっと勝ってくれるだろうから、ロゼも一緒に応援しよう!」
「はい、ロゼの仇は必ず取って来ます!」
リゼが声を掛けた所でロゼは頭を上げ、リゼと視線を交わしていた。
「ロゼ、一緒にリゼの応援をしましょう」
「はい…」
リリーがロゼに寄り添うと、ロゼの暗い表情も少しずつ明るくなって来た。
やはり俺なんかより、リリーが声を掛けた方が効果は高かったな…。
そんな事より、リゼの勝負が始まるのでそっちに集中しよう。
「次は、水属性による氷像作りです。
制限時間は十分で、キャローネの氷像を作って貰います。
審査は私とキャローネで行い、よりキャローネに似ている方の勝利とします。
では、始めてください」
リゼとロレーナは、モデルのキャローネをじっくりと観察し始めた。
氷像作りは、如何に細部まできめ細かく再現できるかが勝負の鍵だろう。
キャローネをよく観察し、頭の中でキャローネの像を鮮明に作り出して、それを魔法で再現して氷像を作っていく。
ここで重要なのは、魔力を精密に制御できるかで、制御が疎かになると細かい部分を再現できなくなる。
訓練の際にリゼが最初に作り始めた後、俺も真似して作って見たのだが上手く作れなかった。
俺とルリアは、魔力の出力を上げるのは得意だが、細かい制御が苦手なんだよな…。
とにかく今は、リゼがロゼの為にも勝つ事を願うしかない!
≪リゼ視点≫
「す~はぁ~」
深呼吸をし、気持ちを落ち着かせて集中する…。
ロゼの敗北を取り返すためにも、私が頑張らなくてはならない!
もし私も敗北する事になれば、エルレイ様が勝利したとしても二勝二敗になってしまいます。
そうなれば、エルフとの協力も上手く行かずに、エルレイ様のお役目にも支障が出かねません。
絶対に負けられない勝負なのです!
氷像作りですが、私が魔法訓練の合間に始めた事で、最初は遊びのつもりでした…。
エルレイ様の可愛らしい姿を想像しながら作ったのですが、単なる氷の塊が出来ただけでした。
それから何度も練習を重ねて、ようやくエルレイ様に見えるような氷像が出来上がりました。
「これ、エルレイなのかしら?」
「はい、まだ似ておりませんが…」
その氷像をルリア様に見つかってしまい、訓練中に遊んでいたのを怒られてしまうかと思いました。
「そう、これはなかなか良さそうだわ!リゼ、もっと訓練を積んで美しい氷像を作れるようになりなさい!」
「はい、承知しました!」
ルリア様が仰るには、氷像は貴族のパーティー等で披露するととても喜ばれるはずだと言う事でした。
私はエルレイ様に喜んでもらえればそれでよかったのですが、私が氷像を披露する事でエルレイ様の評判が上がるのでしたらとても喜ばしい事です。
ルリア様の許可も頂けましたし、その日からは氷像作りに集中することが出来ました。
そしてついに、エルレイ様の可愛らしい氷像を作り上げることが出来て、エルレイ様に見て頂きました。
「これは…ちょっと美化しすぎじゃないか?」
「いいえ、そんな事はございません!」
「そうね、とてもよく出来ているわ!」
「エルレイさんにそっくりです」
私の作った氷像はエルレイ様には不評でしたが、他の皆様には好評でした。
ですが、エルレイ様から氷像を作った事は褒めて頂けましたので、とても嬉しかったです。
このような場で、その訓練の成果を見せる事になるとは思っていませんでしたが、全力で頑張ります。
「す~はぁ~」
私はもう一度深呼吸をし、勝負へと向かって行きました。
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