第百六十五話 エルフとの勝負 その一

ルリアとマルギットが落ち着きを取り戻し、会議が再開される事となった。

「防衛施設の話でしたね。エルレイさんはあった方が良いと考えているのですか?」

「はい、その方が守りやすいかと思います」

「分かりました。エルレイさんが作った橋も見事な物でしたし、作成はお任せしてもよろしいですか?」

「はい、場所を指定して頂ければ、こちらの方で作らせてもらいます」

ワルテと二人でなら話が進むのは早くていいな。

マルギットの表情は変わっていないが、沈黙していて会議に参加しては来ない様子だ。

ルリアも大人しくしてくれているし、このまま会議がすんなり終わる事を願いたい。


「次に魔剣の対処方法についてですが…」

「ちょ、ちょっといいか?」

ワルテが魔剣の話に移ろうとした所で、ロレーナが立ち上がって発言を求めた。

「ロレーナ、どうぞ遠慮なく発言してください」

ワルテが発言の許可を出すと、ロレーナは姿勢を正して話し始めた。


「わ、私達は共に戦うために話し合いをしているはずじゃ。

し、しかし、このままでは共に戦う事は無理だと思う。

そ、そこで、お互いを知り仲良くするために、しょ、勝負をしてはどうかと思うのじゃ!」

「勝負ですか?」

俺は思わず首を傾げてしまった…。

これからリースレイア王国と戦争すると言うのに、仲間同士で勝負事をしている暇など無いはずだ。

でも、ロレーナの言う通り、マルギットと協力して戦うのは無理だと言うのは俺でも分かる。

それならば、マルギットとは別々に戦えば良いだけの話で、無理に協力する必要も無いと思うのだがな…。


「いいわね!勝負しましょう!」

「うむ、望む所だ!」

ですよね…。

ルリアとマルギットが勝負に乗り気になっている。

こうなってしまっては、勝負してはっきりさせた方が良さそうだ。

「分かりました。ロレーナさんの提案に乗り勝負しましょう。

ですが、戦争を控えていますので、危険では無い勝負をお願いします」

「仕方ありません…。ここでは出来ませんので場所を移動します」

ワルテも諦めて会議を一時中断し、勝負をする場所へ移動する事となった。

移動は、何時もの様にキャローネに運んで貰い、広い平原の場所に辿り着いた。


「勝負の判定は私とキャローネで公平に行います。

勝負についてですが、風、地、水、火、それぞれの属性ごとに代表者一名を選出し競い合って貰います。

勝負方法につきましては、風属性はレース、地属性は棒倒し、水属性は氷像作成、火属性はろうそく灯しとなっております」

ここまで着いて来たソフィアさんが勝負方法を説明してくれた。

勝負方法も危険性は少なそうだし問題無いな…。

そこで俺達は集まり、どの勝負に誰が出るかを相談する事にした。

勝負するからには、勝ちたいからな!


「自己紹介の時に教えて貰った通り、マルギットさんは風、ワルテさんは地、カーメラさんが水、ロレーナさんが火だと思う。

そこで、誰がどこに出るか決めたいと思うが、希望するのがあれば言ってくれ」

「私は風よ!あの男に一泡吹かせてあげるわ!」

「うん、火じゃなくていいんだな?」

「えぇ、ろうそく灯しとか私向きでは無いと思うのよ!」

「まぁ、そうだね。ルリアには風を任せるよ!」

「絶対に勝ってやるわ!」

ルリアはマルギットを倒したくて仕方が無いのだろう。

ルリアの得意属性は火なのだが、風も苦手と言う事では無いから大丈夫だろう。


「地属性は…」

「エルレイ様、私にやらせて頂けませんでしょうか?」

「うん、ロゼに任せるよ」

この中で地属性魔法を使えるのは、俺とロゼだけだ。

ロゼは俺と一緒に開拓作業と街道整備を行ったので、魔法の技術はかなり上達していて、安心して任せられるから最初から頼むつもりだった。

控えめなロゼが自分から志願してくれたのは意外だったが、それだけ魔法に自信があると言う証拠だろう。


「エルレイ様、リリー様、水属性は私にやらせて頂けないでしょうか?」

「リリー、良いかな?」

「はい、私は勝負事には向いていませんので、リゼに任せます」

水属性は、リゼが立候補して来た。

リリーは水属性しか使えないが、本人が言っている通り勝負事には向いていないのも事実だ。

それに、勝負内容の氷像作成は、リゼが普段の訓練時に行っている事でもある。

リゼの作り出す氷像はとても良く出来ており、俺とリリーでも敵わないほどだからな。


「では、火属性は僕が出るよ」

「エルレイ、負けたら承知しないわよ!」

「うん、頑張るよ!」

ルリアとリゼも火属性は使えるが、他の属性に出るので俺が出る事にした。

一人が一回しか出られないとは言われていないが、俺も勝負はやって見たいし、勝っていい所を見せておきたいと言う下心もある。

普段格好悪い所ばかり見られているから、たまには良い所を見せないとな!


ソフィアさんに出場者を伝え、勝負が開始される事となった。

「まず最初は、風属性によるレースを行います」

平原にはいつのまにか、いくつもの高い棒が建てられており、ソフィアさんがその間を飛んで行くのだと説明してくれた。

高い棒には二種類あり、少し短い棒がインコースで長い棒がアウトコース側となり、その間を飛びぬけて行き、三周して順位を競うと言う物らしい。


「ルリア、コースを覚える為に、最初の二周は相手の後ろを飛んで様子を見てくれ」

「嫌よ!完膚なきまで叩きのめしてやるわ!」

ルリアに助言をしてみたが聞き入れては貰えず、ルリアは張り切って飛び立って行った…。

まぁ、ルリアが負けるとは思ってはいないが、あまり無理はしないで貰いたいものだ…。

「メル、行くぞ!」

マルギットの方も気合入れて飛び出して行ったし、相当自信がありそうな感じだ。

普段からこの様な訓練をしているのだろうし、ルリアが負ける事もありうるのかも知れないな。


「エルレイさん、ルリアは勝てますよね?」

「うん、頭に血が上っていなければ勝つとは思うけれど…」

「そうですね…」

俺とリリーは一抹の不安を覚えながら、勝負の開始を待つ事となった…。


≪ルリア視点≫

「準備はいーい?」

キャローネの問いに頷いて応えたわ。

私達の事を馬鹿にしたマルギットの事は許せないわ!

キャローネの精霊魔法は見せて貰っていて、とても素晴らしい魔法だと言うのは理解しているわ。

エルレイも絶賛していたし、私達も真似できないか挑戦して失敗に終わっているわ。

でもそれは、複数人を同時に飛ばせないかと言う事に限定したものであって、私達の魔法自体が精霊魔法に劣っているとは思えないのよね。

呪文を唱えていた頃なら圧倒的に劣っていたのは事実だけれど、エルレイが考え出した魔法は決して負けてはいないわ!

エルレイの名誉の為にも負けられないのよ!

私は気持ちを落ち着かせて、目の前の勝負に集中したわ!


「ではー、かいしー!」

「メル、全力で飛べ!」

キャローネの合図で勝負が始まり、マルギットに先行を許してしまったわ!

エルレイの助言通り、マルギットの後ろを着いて行けばコースは覚えられるけれど…。

ううん、そんな事は許されないわ!

私はラノフェリア公爵家に生まれてから、誰にも負けないように常に努力を重ねて来たわ!

そして、エルレイの婚約者になった後もその事は変わっていない!

エルレイの婚約者として負けることは許されないのよ!

私は速度を速め、マルギットを一気に抜き去ってやったわ!


「馬鹿め!早過ぎだ!」

「あっ!」

一つ目の棒の間を通過した後、次の棒の間の方向に曲がるには速度が出過ぎていて、曲がるために速度を落としたせいで抜き返されてしまったわ…。

悔しいけれど、我慢してコースを覚える事に専念するしかないようね…。

でも一周だけよ!この一周回る間に何としてもコースを覚えるのよ!

私はマルギットの後ろを追いかけながら、コースを覚える事に集中して行ったわ!

よし覚えたわ!

私は再び加速し、マルギットを追い越したわ!


「二度も同じ事をやるつもりか?」

「それはどうかしらね!」

私は前方に風の壁を作り出し、それに衝突する事で急激に方向を変えることに成功したわ!

「くっ!」

上手く曲がれはしたのだけれど、慣れない事をしたせいで体に負担がかかってしまったわ…。

けれど、コツは掴んだわ!

後ろを振り向いてみると、驚愕したマルギットが目に映ったわ!

でも、驚くのはまだ早いわよ!

私はさらに加速し、覚えたコースを飛びぬけて行ったわ!


「随分と遅かったわね?」

「くっ…」

マルギットより半周早く周り終えて待ち構えていると、悔しさに満ちた表情のマルギットがやっと戻って来たわ。

私としてはもう少し離したつもりだったのだけれど、マルギットも頑張ったと言う事よね。

「これで私達の魔法が劣っていない事を理解できたかしら?」

「いやまだだ…俺は敗北したが、他の仲間が必ずや勝利してくれる!」

「ふんっ、私の家族も負けないわよ!」

マルギットが仲間を信じている様に、私も家族を信じているわ!

でも、エルレイの相手が可愛らしい少女なのが気にかかるわね…。

エルレイは女の子に甘いから、手を抜いたりしなければいいのだけれど…。

ちょっとエルレイに気合を入れた方が良さそうな気がして来たわ。

私は、勝利を喜んでいる家族の所に戻って行く事にしたわ…。

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