第百六十二話 リースレイア王国

≪ディヴァール国王視点≫

「ソートマス王国がルフトル王国への侵攻を中止いたしました」

「それで我が軍の侵攻も取りやめたと?」

「はい、準備期間が短く、物資も満足とは言えません。

現状の軍でルフトル王国に侵攻した場合は敗北する可能性が高く、軍の判断は正しい物かと推察いたします」

「ならば準備に時間を掛ければ、確実に勝利すると言うのであるな?」

「はい、そう確信しております」

「分かった、下がってよし」

「はい、失礼致します」


ヒューイット財務卿からの報告を受け、儂は怒りを我慢するのに必死だった。

今回の侵攻はソートマス王国からの協力要請だったにもかかわらず、向こうが中止したと言うのだからな!

軍を動かすのもただでは無いのだぞ!

ソートマス王国に賠償請求を行うよう指示を出さねば!


「おい、ヒューイットを呼び戻せ!!」

「はっ!」

後は、次の侵攻で確実にルフトル王国を攻め滅ぼせる策を提出させねばな!

ここ数百年、周辺国との争いは絶えなかったが、そう大きな変革起こってはおらなかった。

しかし、ソートマス王国がアイロス王国を滅ぼした事で、周辺国も大きな危機に陥っておる。

特に、ソートマス王国と隣接したラウニスカ王国は危機的状況ともいえる。

ラウニスカ王国がソートマス王国に攻め入ってくれれば話は簡単だったのだが、ラウニスカ王国は亀の如く守りに入りおった。

余程噂の魔法使いが怖いと見える。

我が王国はソートマス王国とは隣接しておらぬが、他の周辺国に囲まれている状況では楽観視してはおれぬ。

我が王国も武力を示し、強国であることを周辺国に知らしめなければ、アイロス王国の二の舞となってしまうのは明白だ。

最悪、ルフトル王国侵攻に失敗したとしても、大打撃を与える事が出来れば我が王国は安泰のはずだ!


「おい、魔剣開発部のガロも呼び出せ!」

「はっ!」

多少無理をしてでも、大幅な戦力強化をさせねば!

儂の大事な子供達の為にも、この国を守らなくてはならぬのだ!


≪ヒューイット視点≫

「国王め!何でも私に言い付けやがって!」

私はヒューイット・イルム・レム・マイネス。リスレイア王国の財務卿を任されているのだが…。

国王は事あるごとに、私に仕事を全部押し付けて来る!

ソートマス王国との共闘の話は軍務卿が持ち込んだもので、そのしりぬぐいを何故私がやらなければならないのだ!

緊急の軍事作戦と言う事で、急遽集めた兵と兵站のお陰で財政はひっ迫しているのに、追加の軍事支出をしろだと!

何処から捻出すればいいのか頭を悩まされる!

いっそのこと、王族の経費を削減してやろうかと思ってしまったほどだ。

しかし、それを行うと国王の周囲を取り巻く屑共から嫌味を言われる事になる…。

「はぁ~」

私は力なく自分の机の席に着いた…。


「仕方ありません。国王陛下の周囲には他にまともな者がおりませんので…」

私の部下が、紅茶の入ったカップを俺の机に置きながら私を慰めてくれた。

部下の気遣いに感謝しながら、紅茶を飲んで気持ちを落ち着かせた…。


「例の件の調査は終わっているのか?」

「はい、こちらが報告書になります」

私は部下に手渡された報告書に目を通して行くが、記された内容はにわかには信じがたい物だった…。

「この報告書に間違いはないのか?」

「はい、私の信頼のおける部下に調べさせましたので間違いございません」

「そうか…」

どうやら内容に間違いはなさそうだ。

アイロス王国との戦争が終わったばかりだと言うのに、経済が急速に回復しているだと!

戦費を両国とも大幅に消費したのは間違いないはずで、回復するには数年から数十年かかってもおかしくはない。

しかし、急速に回復している要因は街道整備にあるのか…。

街道整備と言えば国家を上げての一大事業で数年はかかり、資金にも相当な余裕が無いと出来ないはず。

それを支配したてのアイロス王国側を数か月で終えたのだと言うのだから、信じろと言うのが無理がある。

街道が出来たおかげで、耳の速い周辺国の商人達が入って来ていると言う事だ。

我が王国からも、大店の商会が足を運んでいるとの事だ。


「羨ましい事だな…」

「全くです。ソートマス王国に移住したくなりますな…」

「気持ちは分かるが、そう言う言葉はつつしんでおけ!」

「はい、失言を撤回いたします!」

私は部下の声を遮るように叱責をし、周囲を目で見渡した…。

私達の周囲には他にも多くの部下達が働いているが、今の部下の発言は聞こえてはいなかったのか、こちらを注視している者はいないな…。

私は胸をなでおろしつつ、部下に手招きをして近くに寄らせて耳打ちした。


「移住は出来そうなのか?」

「はい、詳しく探らせておりますが、まだいい働き口が存在しておりません」

「そうか、調査費用は私が持つので継続して調査させろ!」

「承知しました!」

出来る事なら、こんな国一刻も早く出て行きたいと日頃から部下とたくらんではいた。

しかし、私と部下にも家族がおり、家族が安全に暮らせて仕事がある場所でなくてはならない。

その様な理想的な場所はそうそう見つからないと諦めかけていたが、希望が見えて来たのかも知れない。

だが、今は目の前の仕事に集中しなくてはならない。


「軍からは兵士増員要請と、魔剣開発部からは新魔剣の増産費用の請求が来ております」

「増員はこの前募集を掛けていた以上のは無理だと伝えろ。

新魔剣の増産費用は、貴族達から臨時徴収で何とかしのげ」

「どちらからも恨まれそうですが…」

「私の事などいくらでも恨んでもらって結構だとも加えておけ!」

財務卿になった時から恨まれるのは覚悟している!

私は部下に指示を出した後、新魔剣の効果を確認するために魔剣開発部へと向かって行った。


「財務卿がお越しとは、なにごと?」

魔剣開発部に足を運ぶと、嫌そうな表情を隠そうともしない魔剣開発部部長ガロが出迎えた。

「新魔剣の効果を教えて貰いに来た!」

「財務卿が、なんで?」

「言いたい事は分かる。本来であれば軍務卿の仕事だが、彼は仕事が忙しい!」

「あー、貴族のご機嫌取りと…財務卿も大変だぁ」

ガロは魔剣開発部部長なだけあって頭は良い方で、私の言いたい事を直ぐに理解してくれて助かる。

「それでどうなのだ?」

「はっきり言って、欠陥品?」

「何故疑問形なんだ…」

「まぁ、見て貰った方が早いかな、こっち」

ガロが魔剣の実験場へと案内してくれた。


「始めて」

ガロの指示で、的に装着された新魔剣に魔法が次々と撃ち込まれて行き、その魔法が新魔剣に吸収されて消えていっていた。

「凄いのではないのか?」

「ここまでは…始まる」

魔法を吸収した新魔剣が白く輝いたかと思うと、パンと大きな破裂音と共に粉々に砕け、周囲に白い煙を吐き出していた。

「限界を超えると壊れる」

「欠陥品だな…」

「限界を超えない様に、吸収した魔力を放出するよう設定した。

それでも、一度に大量の魔力を吸収すると壊れる」

「そうか、所持者にどれほどの被害が与えられるのか?」

「ん-、試してない」

「試してないだと?」

「財務卿があの魔剣を持ってくれれば実験できる」

「なるほど、理解した…」

破裂すると分かっている魔剣を持ちたがる者などいる筈もない。

「だが、あの新魔剣がルフトル王国との戦いの鍵となると、国王は思っているのだぞ?」

「実験の許可を貰える?」

「分かった。国王と軍務卿に申請しておく。それと量産も進めておいてくれ」

「了解」


実験の許可はあっさりと下り、私も実験に立ち会う事になった。

縛り付けた罪人の手には新魔剣が括りつけられており、万が一にも手放せない状況にされていた。

「始めて」

ガロの指示で罪人に向けて魔法が撃ち込まれているが、新魔剣に吸い込まれて罪人は無傷だ。

ここまでは想定通りで、罪人も無事だった事に安堵している。

しかし次の瞬間、魔剣が白く輝いて弾け飛び、罪人が白い煙に包まれて見えなくなってしまった。


「うおぇぉがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

白い煙の中から、罪人の悲鳴とも怒声とも言えない声が聞こえて来た。

「何が起こっている?」

「分からない、良い事ではなさそう?」

罪人の声が収まって来たのと同時に、白い煙も晴れて来た。


「何だあれは…」

「危険そう、全員戦闘準備!」

縛られていた罪人のローブは千切れて散らばっており、罪人らしき化け物がそこには立っていた。

頭には二本の歪な形をした角が生え、口は大きく裂けて長い牙がはみ出していた。

全身は黒く変色しており、筋肉が異常な盛り上がりを見せていた。

目は赤黒く光っていて、こちらを睨みつけていた。


「うへへへへ、最高の気分だぜぇ、てめーら全員食い殺してやる!」

化け物が大声で叫び、こちらに向けて走り込んで来ようとした!

「放て!」

しかし、こちらの魔剣による総攻撃で化け物の体はズタズタに裂かれて倒れ込んだ…。

「死んだのか?」

「確認中」

ガロの部下達が化け物を囲み、魔剣を突き立てて確認していた。


「結局あれは何だったのだ?」

「予想で話すと、魔石に貯められた魔力が一気に人に流れ込んで化け物に変化させた?」

「すぐに量産を中止し、新魔剣を回収しろ!それとこの事は絶対に口外させるなよ!」

「了解」

ガロとその部下達にきつく口止めをし、私は国王の所に報告に向かって行った。

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