第百六十一話 魔剣エリザベート

リアネ城に帰って来て直ぐに、俺とルリアは魔法の訓練場へとやって来た。

理由はラノフェリア公爵から頂いた魔剣を使ってみる為だ。

その魔剣はルリアに取られてしまい、俺は見ているだけになっているのだけどな…。

ルリアは魔剣を抜き、教えられた通り魔剣に魔力を注ぎ込んでいた。


「炎の魔剣よ!我が命に従い敵を焼き尽くす炎を身にまとえ!」

ルリアが魔剣の発動に必要な呪文を唱えると、剣の刀身に炎が宿った!

「炎の魔剣よ!我が命に従い敵を炎を燃やし尽くせ!」

次の呪文を唱えると、その炎が的に向けて飛んで行き的を燃え上がらせた!


「使えないわね…」

「そうだな…」

ラノフェリア公爵から頂いた魔剣は非常に弱かった…。

魔剣から飛んで行った炎は初級魔法に毛が生えた程度だったし、呪文が長すぎて剣で戦いながら使えないよな…。

念のため、グールにも聞いて見る事にした。


「グール、魔剣とはこんな物なのか?」

「もっと強力なはずだぜ!俺様が知っている魔剣は、少なくとも中級魔法以上の威力の魔法が撃ち出せたはずだ!」

「そうなのか?」

「ちょっと俺様にその魔剣を良く見せてくれ!」

「はい、あげるわ!」

ルリアは魔剣に興味が無くなったのか、俺に投げ渡して来た…。

俺は魔剣を受け止め、グールに添えた。


「これで良いのか?」

「おう、少し魔法を使うぜ!魔剣よ!俺様の前に全てをさらけ出せ!」

グールが俺の許可なく魔法を発動させると、魔剣の柄に埋め込まれていた宝石が赤い光を放ち、その宝石から放射されるように図形が浮かび上がって来た。

「魔法陣か?」

「そうだぜ!マスターは物知りだな!」

「魔法陣って何よ?私にも詳しく教えなさい!」

思わず魔法陣と口走ってしまい、ルリアにジト目で睨まれてしまった…。

この世界の魔法は、魔法を使う際に魔法陣が出る事が無いからな…。

誤魔化してグールに説明させよう。


「僕も図形を本で見たことがあるだけで、どんなものなのかは詳しく知らない。グール説明してくれ!」

「マスター了解したぜ!

魔法陣ってのは、魔法を発動するために必要な工程がえがかれたものだ」

「私達が魔法を発動する際には出ないのは何故?」

「それは、クロームウェルが魔法を作り替える際に、不要な魔法陣を排除したらしいぜ。

それまでの魔法は魔法陣を魔力を使って描き、そこに発動に必要な魔力をさらに注ぎ込んで魔法が完成していた。

つまり、魔法陣を描く魔力を無くす事で魔力の使用量を抑えたわけだ!」

「ふーん、それなのに魔剣にはその魔法陣が描かれているの?」

「魔剣自体が呪文を唱えることが出来ねーから、魔法陣を魔石に書き込み、魔力を流す事で魔法を発動できるようにしているつー事だ!」

「でもこの魔剣、起動の呪文が必要だったわよ!」

「起動の呪文がねーと無秩序に暴発するだろ?でもこの魔剣はわざと長い呪文が描かれているし、魔法も弱いのが書き込まれてるぜ」

「なるほど、敵に強い魔剣を使わせない様にわざと弱くしているって事だな?」

「そういう事だと思うぜ!俺様ならこの魔剣を強力な魔剣に変える事だって可能だぜ!」

グールの説明で魔法陣の事は良く分かった。

更にグールは、この魔剣の強化が出来る様な事を言っているが、ラノフェリア公爵がわざわざ用意してくれた魔剣を勝手にいじるのは良く無いだろうと思ったのだがな…。


「すぐにやりなさい!」

ルリアがグールに魔剣の強化を行う様に命令した。

まぁ、ルリアの為に魔剣の強化を行ったと説明すれば、ラノフェリア公爵も納得してくれるだろう。

どんな強化が出来るのか俺も興味が無いわけではないし、ルリアの使える武器が増える事は良い事だと思う。

「グール、僕からもお願いするよ」

「さーてどーしよーかねー。俺様悪いことしてねーのに誰かさんに燃やされたからなー。

俺様に謝罪があってもいいんじゃねーか?」

グールはここぞとばかり、ルリアに対してやり返そうとしていた…。

しかし、相手が悪すぎだ。

ルリアは全身から魔力を放出させ、今にも暴発しそうなほど怒りに満ちている!

俺は巻き込まれない様にグールを地面に放り投げ、障壁で身を守った!


「まだ燃え足りなかったみたいね!」

「ま、待て!待ってくれ!や、やる、直ぐにやるから!なっ!」

「当然やって貰うわ!でもその前に燃え尽きなさい!!」

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

周囲の土が溶けだすほどの高温の炎でグールは燃やし尽くされていた…。

高魔力で動かないグールの場所だけを燃焼させているからな。

俺でもあれを直撃させられれば無事では済まない…。

早々にグールを投げ捨てていなければ、ルリアは俺ごと燃やしたに違いない!

命拾いしたと胸をなでおろし、グールに水を掛けて冷やした後拾い上げた。


「マスター、俺様を見捨てるとはひでーぜ」

「グール、早い所魔剣を強化しないとまた燃やされるぞ?」

ルリアは腕組みをして、こちらを睨みつけて来ている。

まるで俺が睨まれているみたいなので、早くグールにはルリアの機嫌を直してもらうべく、魔剣の強化を行わせなければ!

「わ、分かったぜ…。ル、ルリア様、この魔剣をどの様に強くすればいいんだ?」

「そうね。しょぼい炎の魔法は要らないから、どんな物も斬れる魔剣に出来ないかしら?」

「それならば簡単だぜ!後はこの魔剣の名前を決めてくれ!その名前を起動に使うぜ!」

「分かったわ。うーん…」

ルリアは魔剣の名前を真剣に考え始めた。

俺はその間にグールにこっそり注文を付ける事にした。


「グール、その魔剣にルリアの防御も追加できないか?」

「それくらいなら何とかなるぜ、だが、色々付けると魔力の消費量が多くなるがいいか?」

「構わないだろう。ルリアの魔力量も相当増えているからな」

「そーだな。俺様を無駄に燃やすだけの魔力が有り余ってて困るぜ…」


「グール、エリザベートに決めたわ!」

俺とグールがこそこそ相談している間に魔剣の名前が決まったみたいだ。

「エリザベート、了解したぜ!マスター、地面に俺様と魔剣を並べておいてくれ!」

グールに言われた通り、二つの魔剣を並べて地面に置いて離れた。


グールの魔力が魔剣に注ぎ込まれ、魔剣からはまた魔法陣が浮かび上がって来た。

魔法陣の中にある模様が色々変わって行っているのが分かるが、俺には全く理解が出来ない。

しかし、あの模様の組み換えで魔法が作り上げられて行く事は分かる。

俺も魔法陣を自由に作れる事が出来れば、また違った魔法や魔剣を作り出す事が出来るのかも知れない…。

後でグールに、魔法陣の事を詳しく聞いて見ようと思った。


「完成したぜ!」

浮かび上がっていた魔法陣が魔剣の宝石に吸い込まれて行くように消えて、魔剣の強化が終わったみたいだ。

「グール、ありがと!」

「どう致しましてだぜ!効果を発動させるときはそいつの名前を呼び、終わらせるときは鞘に納めるといいぜ!」

ルリアはグールにお礼を言って魔剣を拾い上げ、鞘から抜いた。


「エリザベート!」

ルリアが魔剣掲げて名前を声高に叫ぶと、魔剣は赤い輝きを放っていた!

「なかなかいい感じね!」

ルリアも気に入った様子で、魔剣を振って感触を確かめていた。

「エルレイ、試し切りをしたいから壁を出して頂戴!」

「うん、良いけど、剣で斬るのは無理じゃないのか?」

魔剣を強化したからと言って、魔法で作り出した土壁を斬れるほどは無いだろうと思いつつ、ルリアの要望通り出してあげた。

もし斬れなかった場合は、確実に手首を痛めるのは間違いない。

何時でもルリアの治療が出来るように準備をしつつ、見届ける事にした。


「はっ!」

ルリアの気合のこもった一閃が、俺の作り出した土壁を切り倒した…。

「エルレイ、次はもっと固いのを出しなさい!」

「う、うん…」

ルリアは俺が作り出した土壁を次々に斬り倒して行った…。

「グール、貴方にしては良くやったわ!」

「当然だ、もっと褒めてくれてもいいんだぜ!」

ルリアは魔剣を相当気に入った様子で、グールを褒めるくらい超ご機嫌だ…。

逆に俺は、かなり魔力を込めて作った土壁が斬り倒されて落ち込んでいる…。

グールに強くし過ぎだと文句を言いたくもなるが、ルリアの機嫌を損ねる必要は全く無いな。

ルリアの機嫌がいいうちにお願いをしておこう。


「ルリア、ラノフェリア公爵様には魔剣のお礼の手紙でも出しておいてくれ」

「えぇ、お父様には感謝を伝えておくわ!」

ラノフェリア公爵の思惑とは少し違った事になってしまったが、結果的にルリアがラノフェリア公爵から頂いた魔剣を気に入ったと知れば、ラノフェリア公爵はとても喜んでくれる事だろう。

俺としても、魔剣の起動方法が分かった事は良かったし、皆にも伝えておこうと思った。

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